荒野に轟くねじり金棒の凪払い(仮)   作:刀馬鹿

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ご無沙汰しております
生きてますよ~

そしていつも通りあまり進みませんごめんなさい

今年度やばい状況になったから死にそうなんですけどねw
まずいなぁ、人手が足りないからマジで倒れるかもしれない
人間関係は何とか大丈夫そうなんですが……めんどくせぇw
死なないことを願っていてくださいw



お礼騒動

劉備に酒を飲ませて一夜野宿し、帰ったら色んな意味で怒られた。

それについては当たり前なので何も問題はない。

しかし意外にも、大変だったのは呂蒙の事情聴取だった。

呂蒙には正直に、素人娘に酒を飲ませたこと、飲ませた理由は説明した。

本来は言い訳にもならないのが本当のところだろう。

以前の商家の娘に対する感覚で接しているが、ここに派遣された呉の軍の総大将は呂蒙だ。

俺など比べものにならないほどの権力と権限を有している。

というよりも正式に呉に入ってない俺は、呉の将の中では最下位の存在と言っていい。

何せ未だに客将のままなのだから、権限がつくわけもないのだ。

ゆえに呂蒙は権力的に考えれば、俺を断罪するなど簡単にできるのである。

それをしないのは呂蒙の引け目というか、恩人に対するやりにくさはあるのかもしれない。

 

苦労かけるなぁ……

 

また、呂蒙だけでなく蜀にも面子というものがある。

いくら互いに公式の場ではないとはいえ、酔いつぶされてしまったのはあまり醜聞がよろしくない。

ゆえに、あまり大事にしてしまうとよくないので、俺は休日、素人娘は休憩中だったので、王としてではなく、一私人として飲んだということにはしてもらった形になっている。

流石に相手が他国の王故に、どうしても対外的に無理があるのだが……俺の功績的にあまり締め付けるのは難しいという事もあるのだろう。

そうして結構大事になりそうでならなかった今回の事件だが……少し気になったのが、けっこう呂蒙がしつこく質問してきたことだった。

 

「本当に、本当に二人で飲んだだけなんですか?」

「あぁ」

「……本当ですか?」

「俺がお前に対して、こんな下らないことで嘘つくわけないだろ」

 

色々と隠していることはあるし、嘘を言っているところもある。

だが人としての仁義は弁えなければならないので、「嘘は方便」程度の嘘しか吐かないと、俺自身誓っていた。

 

まぁ、最悪の場合は、嘘を吐くことになるのだろうが

 

元の世界に帰るために必要な、ひどすぎない嘘であれば、俺は躊躇うことなく嘘を吐くだろう。

だがそれでも今はその時ではない。

その時までは誠実でいたいとは思っていた。

 

「……では、孫策様にも報告しなければならないのでお聞きしますが、どうしてお酒を劉備様に振る舞ったのですか?」

 

おぉ……呂蒙がたくましくなっている

 

悪い大人……というよりも悪い男のような思考だが、今までの呂蒙であれば、俺が信頼しているというような事を言えば、それに照れて引き下がっていた。

しかし今回は事が事であるということもあるのだろうが、それでも引き下がらずに俺に説明を要求してきている。

それに嬉しく思いつつも、俺としてはこれ以上言えることがなかった。

何せ本当に他意がないのだから。

 

お礼以外の感情はないからなぁ

 

これも一応説明したのだが、俺が今までけちけちして酒を他の連中にほとんど飲まさなかったことが仇となった。

そして言われて俺も気づいたことだったのだが、俺が酒を飲ませた事があるのが、素人娘だけだったのだ。

詫びの意味で飲ませたことはあるが、それでもかなり渋って飲ませている。

本当にお礼として、俺が快く飲ませたのが初めてだったと、呂蒙が驚いていたようだった。

俺自身再認識して飲ませたのがほぼ初めてだと知って、自分でもびっくりしたので仕方ないことだと思われた。

 

生産量が少ないし、飲ませても度数が高いから大体直ぐにダウンするからもったいなくってなぁ

 

俺としてはまだまだ酒も微妙なのだが、それでも衝撃的な事件だったことは間違いない。

俺の酒がうまいことに代わりはないので、けっこう重く受け止められてしまった。

 

まぁ今後も出し渋るだろうけど

 

それほどまでに、素人娘の言葉は俺の心を動かしてくれた。

本当に見事と言う他なかった。

俺が思わず俺に酒を飲んで欲しいと……いや、正しくは、劉備と酒が飲みたいと思ったのだろう。

故に出したのだ。

一献を交わした。

それを踏まえれば、他が重く捉えるのも無理はない。

だからこそ、俺は嘘を言わずに真剣に答えた。

俺がきちんと本気で言っているのが分かったからか、呂蒙も納得してくれた。

ただやはり報告はするようで……当たり前だが……呉に帰ったときが本当に面倒になりそうだった。

 

 

 

そしてそんな事件があった次の日。

ミドリボンに土木工事をお願いされたのだが、素人娘との一件があったので詫びも兼ねてものごっつ頑張って現場の仕事をすると、日が暮れ始める前に仕事を終わらせることが出来た。

そのため少し時間が出来たのでどうしたものかと街を歩いていると……街中で見知った気配を見つけて首をかしげた。

 

呂蒙?

 

一人で歩いている呂蒙の気配を捉えたのだ。

 

どうしてこう……呉の連中は、自分がある程度重要な人物だってことがわからないのかね?

 

呂蒙はまだ見習いでしかないと本人が思っているので、ある程度はしょうがないのかも知れない。

だがそれでももはや将として召し上げられている存在が、昼間で蜀の王都とはいえ一人で出歩くなと言いたいのだが……それでも本人としては無理があるということだろう。

しかも今は腐っても呉の派遣軍の総大将だ。

相当上の立場のはずなのだが、本人がそれをまるで理解していない。

何せ呂蒙は自分自身を卑下するというか、自己評価がかなり低い傾向にある。

 

まぁ……性格だからある程度はしょうがないけど

 

前にも呂蒙の師匠に同じようなことをしたなぁ……と内心で溜息混じりに俺は呂蒙に近寄って、思わず足を止めた。

 

……なんだあの荷物?

 

てっきり師匠である褐色知的眼鏡と同じように、本でも抱えているのかと思ったのだが……後ろから見ても全然違った。

特大の布袋を両手一杯に持っていた。

 

……こいつけっこう力あるよな

 

細身の体だというのに、呂蒙は何故か普通に怪力レベルの筋力を有していた。

親である助は普通の身体能力しか有していないので、母親に似ているのだろうか? と、そんな益体もないことを考えて後ろから近づいて、違和感を覚えた。

 

甘い香り?

 

ほのかに香ってきた匂いを嗅いで、俺はその袋の中身が何なのかを悟った。

 

……ごま団子?

 

ごまの餡を白玉粉と水とごま油を混ぜた生地で包んで、生地の周りを白ごまか黒ごまでまぶして上げる菓子の一種だ。

甘い物はこの時代、かなり貴重な物だ。

そもそも食料自体が貴重な上に、まだ生産が安定していないゆえに貴重である砂糖を使っているのだ。

この時代においては、かなりの高級品と言っていい。

甘い物が好きなのは知っていたが、これほど買い込むほど好きだったのか? と半ば呆れそうになって、その考えを改めた。

 

……匂いが薄い?

 

正しくは、荷物の量に比して香りが少ない。

両手で持つほどの荷物を持っているのは間違いないが、その袋から漂ってくる匂いが量に比例していない。

そうなると袋の中身の大半は、別の荷物を持っていることになる。

 

……まぁだからといって何も問題はないのだが

 

両手一杯のごま団子を買い込んでいたとしても、それを奪う気はない。

流石に大量のごま団子という甘味を一度に食べようとしているのならば、体に悪いので止めるが……自身が飢えを経験しており、栄養失調で亡くなってしまった刀村の住人達の事も知っている呂蒙が、そんなことをするとは思えない。

助手ということもあって、呂蒙にはある程度俺が知りうる医学知識も伝えているからだ。

色々無駄なことを考えたが呂蒙のことだから大量に本を買い込んで、休憩時に食べるためのごま団子を買った、というのが荷物の正体だろう。

 

それはともかくとして、呉の総大将がいくら同盟国とはいえ、街中に一人で大荷物を抱えてってのはまずいな

 

そのため俺は警戒をさせるためにも呂蒙に音もなく近寄って、手を伸ばせば体に届く距離まで近寄って、声を上げる。

 

「こら、呂蒙」

「ひゃ!?」

 

普通に声を掛けただけだが、隠業している俺が忍び寄ったのだ。

能力を使わなくとも俺の本業の一つは暗殺者。

武将ならばともかく、軍師ないし文官である呂蒙が気づかなくても無理はない。

警戒心を植え付けるためにあえて忍び寄り驚かせたのだが、両手の荷物を上に放り投げるほど驚くのは、ちょっと予想外だった。

 

「やれやれ」

 

荷物が何かは知らないが、地面に落ちては中の物が駄目になる可能性がある。

そのため普通に荷物を持つために飛び上がって受け止めた。

その時……

 

グニ

 

ん?

 

本でも入っているのかと思ったが、中の物が変形する感覚が手に返ってきた。

返ってきた感触と、持ったことによって香ってきた匂いを嗅いで、荷物が本ではないことが分かった。

 

……麦?

 

ほとんど匂いがしないが、間違いなく麦粉の匂いを嗅いだ。

返ってきた感触と匂いで麦粉なのは間違いないと確信したのだが……俺は内心で首を傾げた。

そしてもう一つの袋から匂ってきたのは、甘い香りだった。

 

こっちは粉砂糖? 

 

調理前故にあまり匂いは強烈ではないが、砂糖なのは間違いないようだった。

そしてそれを認識しつつ地面に着地して、呂蒙を軽く睨み付ける。

 

「何故護衛もつけずに出歩いている」

「えっと……それは……」

 

匂いで変な物ではないのは分かっているし、こいつがそもそも変な事やら悪いことをしない奴だというのは重々承知してる。

そのため護衛もつけずに出歩いていることを怒るつもりだったのだが、どうも少し様子がおかしい気がした。

 

焦っている?

 

怒られているのである意味で焦るのはわからんでもないのだが……こいつが焦っていることの対象が違うような気がした。

というよりも……俺が手にした荷物を気にしている様子だった。

焦り方から荷物の中身を気にしている感じ。

しかし先ほど香ってきた匂いに、不審な感じはなかった。

流石にこの時代の麻薬などの違法薬物がどのような物か俺は知らないが……それでもこいつの性格上、そんなものに手を出すとは思わない。

 

……聞くべきか?

 

とも思ったのだが、流石に袋の中身まで聞くのはマナー違反だろう。

これが麻薬などだった場合は……厳罰でも甘いくらいの処罰をしなければならないが、そんなことはないと断言できる程度には、こいつのことを知っているつもりだった。

 

「全く大荷物があるなら俺に一声掛ければ、いくらでも荷物持ちをするんだが」

「え、えっと……刀月様にそれをお願いするのは申し訳ないですので……」

「お前は、また変な遠慮を……」

 

ふむ、声の感じから言って俺に隠したい感じか

 

何となく秘密にしたいのだと言うことが分かったので、俺は特段聞くことはしなかった。

ただ、荷物の中身を聞かないにしても荷物持ちがいてもいいだろう。

護衛もかねて俺は荷物を持つことにした。

 

「んで、どこに持っていけばいいんだ?」

「え、でも……刀月様はお疲れでは」

 

俺の予定をこいつが知らないはずがない。

俺が工事上がりなので気を遣っているのだろうが、その程度で疲れるほど俺は柔ではなかった。

 

「変な遠慮をしなくていい。むしろこれでお前が襲われたりする方が面倒だし、俺が嫌だよ」

 

まぁその辺の賊程度であれば返り討ちには出来るだろうが……

 

商家の娘として生まれた呂蒙。

そんな父親の助に、この時代としてはかなり高等で高額な教育を受けさせられている。

故にこそ知略の基礎が出来ていると言っていいだろう。

また、言い方はひどいが「女」という性別を利用し、取引相手の劣情を測るためきわどい格好をしているのが、呂蒙の奇妙な服装の始まりだ。

利用しているが、それだけではなく、自衛ための武術も学ばせている。

力が強いこともあって呂蒙は、一般兵では勝つのが難しいくらいの強さを有していたりする。

しかしそれもそれなりの実力者と多対一では難しいだろう。

 

「ですが、私程度に刀月様の時間を……」

「呂蒙、俺よりもお前の方が遙かに重要人物だぞ? そこらの自覚を持て」

 

呉の総大将。

そう言えばなんか軽く聞こえるが、こいつは蜀に派遣されている呉の最高責任者だ。

しかもその責任は、「呉」そのものの責任という重圧を持っている。

 

……改めて思うと、すげーな

 

暗殺者故に、基本単独行動な俺。

自分の世界で暗殺を行う場合、数人の協力者はいるが、基本的に気の力でそこそこ無双出来た事もあって、戦闘に陥った際に援護してもらったことはない。

全ての責任は自分だけなのが普通だった。

それに対して時代が違うとはいえ、呂蒙は百人の人間のトップ。

それだけだと軽く思えるが、実際は「呉」の名代としてこの場にいる。

つまり、こいつの言動は呉の意志と言っていい。

 

その責任の重さは……想像を絶する。

 

考えることも出来なかった。

 

またなんかごほうびあげようか

 

「それはそうかも知れませんが……ですが刀月様がよくご存じの通り、私は元々ただの商家の娘で」

 

それもある意味でこいつの不運というか……面倒なところでもあった。

他の呉の文官の将は基本的にそこそこいい家を出ている。

こいつはこの時代から見てもそれなりにいいところの出なのだが、いかんせん他の文官の将は格が違うレベルの家柄だ。

卑下してしまうのも無理はない。

が、逆に考えれば商家の出ながら、呉軍師にして将に一代でのし上がったこいつは……凄まじい才能の裏付けと言っていい。

 

努力も凄いしてたしな

 

家柄などで卑下するのは悪いところだが、増長しないという意味ではいい効果と言っていい。

それが無くても責任者なのは変わりないので、俺は袋を片手で持って右手を自由にして、呂蒙の額に超弱くデコピンした。

 

「あう!?」

「商家でも何でも、お前が一番偉いんだから命令すればいいんだよ。だいぶ前に言ったことあるだろ? もっと堂々と指示出してくれていいんだぞ?」

 

いつだったか忘れたが、繁栄のための作戦ならば俺が断る理由はないのだ。

今とその時ではだいぶ状況が異なるが……護衛をかねての荷物運びで断る理由など一つもない。

故に立場のこともあるので、俺はこのまま護衛もかねて荷物運びをすることにした。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

俺が引かないのがわかったのと、工事程度で俺が疲れないことは呂蒙が一番よく知っているので、二人で歩くこととなった。

場所が違うとはいえ、人が多い城下町を。

それとなく……懐かしく思えてしまった。

 

「なんだか懐かしいな」

「? 何がですか?」

「いや、こうしてお前と二人で歩くことがだ」

 

一瞬キョトンとする呂蒙だったが、直ぐに俺が言いたいことを分かってくれたようだ。

荷物を持つ俺と一緒に歩く呂蒙の姿は、正に二人で行商をするときそのものだった。

背負子を使っていないが、街中で出歩くときは使わなかったことも多いので、あまり関係がない。

呂蒙を背負うために作った背負子は、最近では工事現場に出向く際に蜀の兵士を運搬するのに使っているが、最初の利用者は呂蒙だ。

 

アレにはずいぶん助けられているな

 

思えば遠くにきたものだ……そう思えてしまうほどに、それなりの時間と何よりも日々の濃さがあるものだった。

このへんてこな三国志の世界に来て、すでに数年の月日が流れている。

勉強をほとんどしてなかった故の弊害と、性別が変わっていることで、今後この三国がどうなっていくのかはわからない。

 

道化眼鏡と道化ガキもいることだしな

 

俺が完全に敵対している存在。

五胡との国境での戦闘以来いまだに動きがないわけだが、このまま俺がいなくなるまで何もしてこないということはないだろう。

 

あの二人もいるし

 

貂蝉と卑弥呼。

歴史的な美女ということくらいしか俺は知らないが……この二人も未だに謎な存在だ。

外史……この世界が平行世界であると教えてくれた、異様な存在。

戦えば勝つのは俺だが、それでも平行世界の概念を知っている時点で普通ではなく、俺を使者と呼んでいた。

故にこそ、この世界ですべきことがあるのだと分かっている。

 

未だ色々分からないことだらけだな

 

敵の所在、目的。

使者と言ってくる意味。

俺の肉親の二人組。

日々の忙しさでなかなか自由に動くことが出来ておらずやきもきするが、それでもどうにもならないので流れに身を任せるしかなかった。

 

まぁあっちがちょっかいをそのうちしてくるだろうが

 

使者というのが気になるが、文字としては「使わされた者」であることになる。

以前の二つの世界から鑑みても、俺が何かをするために「使わさせられた」というのは間違いない。

その目的が道化眼鏡と道化ガキなのも分かるのだが、仕掛けられた策略、そして明らかにこの世界においても異質な存在であるために、殺すことは間違いなかった。

 

まぁ今は、そんな気分ではないが……

 

考えることもやらなければいけないこともある。

それでも今は……そんな気分になれなかった。

 

「村の連中は元気にしてるかね? 助がいるから問題ないとは思うのだが」

「一応手紙のやりとりはしておりますので、問題ないとは思います」

 

助は呂蒙の親だ。

気にならないわけがないが、三国志時代に電話なんぞあるわけもない。

俺が動かなければ情報のやりとりの最速は早馬だ。

蜀のこの街から呉までは二十日以上かかる。

そして呉からしたら刀村の連中の情報なんぞ、重要であるわけがない。

故に手紙は出せているが、二ヶ月程度かかる定期連絡でしかやりとりが出来なかった。

 

「加工品の製造はうまくいっているのでしょうか?」

「それは大丈夫だ。たまに様子を見に行っている」

「……流石です、刀月様」

 

通常であればそんな与太話信じるわけがないが、こいつだけは俺の言葉を疑わなかった。

何せ呂蒙だけだ。

俺が超常の力を用いているのを知っている上に、体験しているのは。

確認したことはないが、恐らく俺が超能力のような力を用いているのは、聡い呂蒙ならば気づいているだろう。

少々危うい会話だが、大概の奴は与太話と思うだろう。

 

探ってる奴もいないみたいだから大丈夫かな

 

「父様が他の村人達が寂しがっていると、手紙に書いていましたよ」

「あ~流石に顔を出すのはちょっとな」

 

呂蒙を除けば、俺の能力を多少なりとも知っているのは助だが、それでも会うのは避けていた。

呂蒙と助を信じていないわけではないが、俺が帰ってきたことを文でやり取りされると、俺の行軍速度を予測される恐れがあるからだ。

別段二人に知られても問題はないと思うのだが……必要以上に情報を与えるのは避けていた。

が、会わないだけで、加工状況を確認して問題がありそうな場合は、助言をしたためた木簡を助の家に置いて行っているので、俺が忍び込んでいるのは知っているはずだった。

 

「この時期は鰺がおいしい時期ですよね」

「俺も久しぶりに刺身が食いたいわ」

「魚を生で食べるって言うのは……初めての時はびっくりしました」

 

しばし呂蒙と二人でたわいのない会話を楽しむ。

初心……というと少し違うが、俺が荷物を持ち呂蒙と並んで歩いていると、刀村のために走り回っていた日々を思い出してしまうには十分だった。

俺の足りない頭を補ってくれている呂蒙に、感謝してもしきれなかった。

 

先日の素人娘との……劉備とのやりとりに影響を受けたのかも知れない。

 

何となく……本当に何となくなんとなしに、俺は言葉を口にしていた。

 

 

 

「いつもありがとうな」

 

 

 

ただそれだけだった。

 

お礼を言っただけだった。

 

しかしそこは時代の違いというか、感覚の違いをもう少し理解すべきだった。

 

というのを、俺は反省することになる。

 

 

 

「どうしたのですか? 突然?」

「いや……まぁ、今回の件でもだいぶ迷惑かけただろうしな」

 

城壁昇り、相手の王を酔わせて寝落ちさせる。

正直……よく斬首命令が下らなかったなと思うしかない。

また、今とは違った村の生活を思い出して、懐かしむ気持ちが……そんな言葉を紡がせていた。

 

「それは、そうかもしれませんが……それでも、私が刀月様に受けた恩義に比べれば!」

「? ……呂蒙?」

 

何故か、声を荒げ始めてしまった呂蒙に、俺は思わず面食らってしまった。

 

「今の私があるのは間違いなく刀月様のおかげです。もし、あのとき刀月様が刀村にいなければ、私も父も間違いなくもう生きていないはずです」

「いやまぁ、そうだとは思うが」

 

刀村……になる前だったが、ともかく俺が住んでいたあの場所に、三人野郎の次に流れ着いてきたのが助の一家。

あの近辺では俺が住んでいたあの場所以外に集落などはなく、たどり着いた時点で飢餓に近い状態だった助一家と格の護衛隊達は、俺がいなければ魚を捕ることも出来ずに飢え死んでいたことは、想像に難くない。

 

「それだけではなく、刀月様は生きるための仕事も与えてくださり、私は……本当に感謝しているのです!」

「いや、どうした?」

「なのに私は……刀月様のお役に立てず!」

「落ち着け!」

 

荷物を再度片手で持って、俺は右手で呂蒙の肩を掴んで強引に言葉を発するのを止めさせて、俺の方に体を向けさせた。

 

肩がむき出しなんだよな

 

なかなか刺激が強い格好をしている。

が、今はそんなことよりもこいつの様子が気になった。

何か思い詰めているような様子だった。

故に、普段はなるべく直接的な接触をしないようにしているのを無視して、強引に話を止める。

 

「どうした?」

「そ、それは……」

 

命を助けたことも、仕事を与えたこともその通りなのだが、なんというか今のこいつの言動は凄い追い詰められているような感じに見受けられた。

そこまで切羽詰まるような状況ではないはずだというのに。

時代が時代なので、日が昇り、日が暮れたら眠るのが一般市民の生活。

日も傾き空が赤らんできた時間とはいえ、周りに人がいないわけがない。

ましてやここは首都だ。

夜になっても商いなんかは他に比べればしているのだ。

当然……耳目を集めないわけがなかった。

 

「わ、私は……ただ……」

 

瞬時に思考を巡らせるが、今のところ大きな問題は起きていなかったはずだ。

俺が起こしたのが大きな問題だが、それはすでに問題ないと太鼓判をもらっている。

ならば何故、こいつがこんなに追い詰められているような感じになっているのか?

 

ふむ……まぁ久しぶりに少し話すか

 

よく分からない状況だが、放置していい問題であるわけもない。

呉の総大将という事もそうだが、それ以上に呂蒙に悩みなどがあるのなら放っておく訳にはいかない。

 

近々休みでなんか作るか?

 

とりあえず、呉の総大将と有名人……自分で言うのもなんだが……が街中の道ばたでこんな姿を見せるのはよろしいことはない。

時代的に、姿絵程度でしか人相を知れないとはいえ俺は土木工事に頻繁に従事しており、呂蒙もそれなりに名は知られている。

ともかく城に戻るのがいいだろう。

 

「まだうまく言語化できないならとりあえずそれでいい。ともかく城に戻ろう」

「……はい」

 

周りに注目されていることに気づいて、呂蒙も小さい言葉と共に頷いてくれた。

しかしそこからは落ち込んだように、下を向いたままになってしまった。

どうやら本格的に何か悩んでいるような様子だった。

 

といっても……何となく想像はつくが……

 

俺が五胡の連中に対してへまをしたこと、牢屋で捕まった案件、蜀の王との裁定、先日の酒を飲ませたこと等々。

考えさせられるというか考えさせてしまうことが多すぎた。

特に五胡の連中でへまをして捕まっていた牢屋にて、俺はこいつと尾行娘にお願い事をしてしまった。

それが重くのしかかっているのかも知れない。

 

そこらをケアするか

 

ケアをすること自体は全く問題ないのだが、どのようにしてケアをするのかを考える。

といっても俺の場合餌付けか整体くらいしか選択肢はなく、呂蒙が相手であれば前者しか方法がなかった。

 

でも何でか知らないが、呂蒙が材料買ってるんだよな……?

 

ごま団子かはまだ確定ではないが、麦粉と砂糖を買い込んだならば何かしらの菓子を作ろうとしているのは想像に難くない。

ならばそれを無碍にするのもアレなので、俺は料理を作るべきだろう。

そう思った。

 

後出しとはちょっと違うが……まぁ他の連中にも礼をかねて食事会でも開こうかね

 

給金はそれなりに得ているので金はそこまで問題ではない。

休暇……丸一日仕事を休ませるわけにはいかないから、夜だけにはなるだろうがその分豪華にするつもりだった。

呉の援軍の要人はそれぞれそれなりの役職に就いているので難しいかも知れないが、詫びをするのならば全員にしなければならない。

 

しかしそうなると……蜀の連中も何人かは誘わなければまずいだろうな

 

同盟したといっても俺達は他国の人間。

それがいくら詫びのための食事会といっても、夜に一同に集まって食事会をしていて……疑いの目を向けられないわけがない。

そうなると監視の意味合いも含めて誰かしらを呼ぶしかないだろう。

 

……俺を怪しんでる連中呼ぶかなぁ

 

元気娘とメガネ帽子が、あからさまに俺を不気味な目で見つめていた。

そいつらを呼ぶと言うのは警戒心を更に抱かせる結果になるのだが……素人娘のような好感度が高い奴を呼んでもあまり意味がない。

監視という意味では、俺を警戒している人間を呼ぶのがいいだろう。

 

毒を盛ると考えられるかも知れないが……まぁそこらは別にどうでもいいや……

 

毒なんぞ使わなくても俺が武将すらも殺すことが出来るのは、ほとんどの奴が知っている。

そのため俺が主催の食事会に誘うのは、ある意味でその辺を考えなくて楽ではあった。

 

酒は出さないから……酒好きの連中は呼ばなくていいか

 

俺の食事会に和服もどきなどを誘うと、酒とうるさそうなので最初から除いておくこととした。

しかし酒でなく食事でも俺に対して食べたいと言ってくる連中は多い……ちみっこや義勇軍からの連中等々……だろうから、そっちのケアもかねると別の日に食事会を開かなければならないだろう。

 

 

 

と……思っていたのだが……

 

 

 

~~数日後~~

 

 

 

どうしてこうなったのか?

 

俺の頭の中は疑問符で一杯だった。

色々と最近大変だったこともあり、俺自身ストレスが溜まっていたのは間違いないだろう。

また色々あったこともあって、周りに対するケアが十分でなかったことも間違いない。

だがしかし……

 

「きょ、今日は刀月様に私たちの料理を振る舞いたいと、お、思います!」

「なのです!」

 

そんなことを気合い十分に宣言されていて、俺は何が何だか分からなかった。

呂蒙と尾行娘がエプロンを着ているという、なかなかお目にかかれない姿がある意味で眩しかったのは事実だが……それとは別の意味で俺は眼を細めるしかなかった。

 

「えっと……まずはお肉を」

「亞莎! お肉の切り方が違うのです!」

 

何故か連れられた調理室についてイスに腰掛けた俺に対して、二人はばたばたと調理を始める。

何故か二人で料理を振る舞ってくれるようだ。

何を作るのかは謎だし、そもそも何故料理を振る舞ってくれるのかも謎だが……どうやら本当にまずいことはないようなのでとりあえず見守ることとした。

 

まぁこいつらなら毒を盛るようなことはしないだろ

 

世は戦国というべき混迷を極める三国志時代。

権力者を亡き者にする方法の一つに、毒殺があるので本来食事もかなりを使わなければならないのだが、こいつらがそんなことはしないだろうという信頼はあった。

 

仮に盛られたとしても大概の毒は俺には効かないので、問題がないというのも大きいが……

 

そうしてしばし二人の四苦八苦しながら調理する姿を眺めていた。

しばらくして出来たのが、肉野菜炒めだった。

しかも驚いたことに……デザートまであった。

 

形は不格好だが……問題なさそうだな

 

デザートはごま団子だった。

先日呂蒙が買い込んでいた物を使用して制作されて物だろう。

肉野菜炒めに、飯にごま団子のデザート。

時代を鑑みればかなり豪華な食事である。

 

ほうほう……それなりにうまそうな匂いはしているな

 

肉野菜炒めの味付けは、この時代としてはオーソドックスな魚醬だと匂いで分かる。

肉は豚肉だが、それなりに上等な物を使っているようだ。

野菜も取れたばかりの物を使ったのか、炒めたにもかかわらずみずみずしさが残っている。

無論それなりに研鑽している俺からしたらまだまだな点は多いのだが、もっとも重要視すべき点はしっかりと二人は守っていた。

 

それは、食べてもらう相手に対する気遣いと思いだ。

 

料理人としてもそれなりな俺相手に料理を振る舞うという状況。

技量で俺に勝てるわけがない。

ならばそんな相手に対して、どうすればおいしい料理を食べてもらうことが出来るのか?

それを考えた結果が取れたての食材を振る舞うということだろう。

 

「そ、その、刀月様からすれば未熟にもほどがあるのですが!」

「是非、食べて欲しいのです!」

 

二人とも料理が不慣れながらに精一杯やってくれたのだ。

ならば心してもらうのが礼儀だろう。

 

「では失礼して、いただきます」

 

手を合わせて、食物と作ってくれた人に感謝を込めて礼をする。

そして口にして……忘れていていたことを思い出した。

 

そう言えば人が作った料理食うの久しぶりだな

 

正しくは食べてはいる。

といっても大人数に振る舞うために大量に作られた料理……この時代、キチンと食えるのは凄くありがたいことなのだが……を食べている。

しかし、俺のために作られた料理は、本当に久しぶりだった。

とてもおいしい料理をいただいて、心から感謝しつつ料理を平らげる。

 

「ごちそうさまでした」

 

ごちそうさまとは「馳走」という言葉が入る。

相手に振る舞うために馬に乗って食材を求めて走り回る様のことをいう。

二人が振る舞ってくれたのは間違いなくご馳走だろう。

おいしい料理だった故に俺は満足してそう言った。

その様子に二人が喜ぶのだが……俺は素直に疑問を口にする。

 

「それで、何でいきなり料理を振る舞ってくれたんだ?」

 

わからないので聞くしかない。

そして聞かれた二人はばつが悪そうに、少しおどおどし始める。

俺が酒を飲ませたことが起因しているのはわかりきっているのだが、理由は分からない。

どうやって二人から聞き出そうと考えていると、意外なところから答えが返ってきた。

 

「二人からの礼らしいの」

 

背後……調理場の入り口からそんな声が届く。

そこにいたのはちんちくりんこと袁術と、その側近である甘やかし短髪こと張勲だった。

 

「礼?」

 

そう言われても分からなかったが、ちんちくりんがさらに付け足してくる。

 

「お主が劉備に酒を飲ませた事がお礼だとわかって、自分たちが今までの恩義を返せてないからとおもうたみたいじゃの」

「え、袁術様!?」

「それは言わないで欲しいのです!」

 

と、呂蒙と尾行娘が慌てるが後の祭り。

ここまで言われて俺も分からないわけがなかった。

 

まぁ……確かに礼を振る舞ったことはなかったか……

 

正しくは礼はもちろんしている。

何せ俺も未熟な一人の男。

戦闘やら土木工事の力仕事などはいくらでも出来るが、内政はからっきしだ。

その辺は全て呂蒙とノブにほとんど任せていた。

故に、お礼はしているのだが……恩義という言葉で少し分かった。

 

呂蒙は本当に、気にしなくていいのになぁ

 

刀村の連中は、全て俺が命を救ったところから始まる。

俺としては労働力が手に入ってそれなりに良かったのだが……やはり時代の違い。

命の恩人というのは、それなりに重いようだ。

 

奪われたために

 

餓死するか……

 

同じく人から奪うか……

 

この二つの選択肢しかないこの時代では。

 

あげくに仕事を与えて生きる意味を与えた上に、俺の料理だ。

恩義に感じるのは当然だと考えられた。

 

それは俺も分かっていたから……けっこうこき使ったんだがな……

 

そこらはやはり生まれた時代の違いの感覚が、まだまだ分かっていなかったのだろう。

そう思うのだが……今更でもあった。

 

この状況に陥った時点で、俺が甘かったか……

 

恩義は労働で返せ。

それが俺が刀村にいたときに、よくいっていた言葉だ。

働かざる者食うべからずの精神のため、こき使ったものだった。

というよりも、俺がこき使う以上に、村人達は必死になって働いた。

それも当然だった。

命の恩人な上に、熊や虎などの猛獣に襲われても俺が瞬殺し、盗賊崩れが来ても返り討ちどころか労働力として引き込む始末。

しかもキチンと働ければ食うに困らないうえに、多少なりとも娯楽を行うことが出来た村だ。

必死になって働けば働くほど、いい思いができたのだ。

働かないわけがない。

 

それで満足してたんだが、少しそこらのケアも必要か……

 

ごま団子も好物を自分で作って食べるためではなく、俺に振る舞うために用意してくれた物だろう。

先日の買い込んだ量を考えれば、かなり練習したのが見て取れた。

 

悪いことしたなぁ……

 

自分の失策に少し小さく溜息を吐いてしまった。

それにめざとく気づいた呂蒙に俺が気づき、俺は咳払いをして改めて呂蒙に向き直った。

 

「すまなかった呂蒙。俺としては村にいたときから言っていたとおり、労働で返してもらったつもりでいたから、気にしないで欲しかったのだが……きちんといっていなかったな」

「い!? いえ!? 刀月様が謝られることなど!?」

「そうかもしれんが、似たような経験があるのにもかかわらず、うまくできなかったのは大いに反省すべきだろう」

 

職業、暗殺者。

恨みも買うこともしばしばで……苦い記憶のある村もある。

その記憶と経験があるというのに、なかなかどうして情けない失敗をしていて、反省すべきだった。

 

尾行娘でそれなりに思い出していたというのにな……

 

あの子によく似ていて驚いたというのに。

どうしても嫌な記憶の方が多い上に、俺を諭してくれたこともあったので、進んで思い出したいことではないのも事実だったゆえに、無意識のうちに思い出さないようにしていたのかもしれない。

未熟な自分に内心で苦笑するしかなかった。

 

「なんじゃ刀月? お主、前にも村をつくったようなことがあったのかえ?」

「報告では刀村なるものの運営をしていたとは聞いていますが、他にも村長だった経験があるのですか?」

 

ちんちくりんと甘やかし短髪からそんな疑問を投げかけられる。

俺としてはなかなか思い出したくない記憶なのだが……自分から話しておいてこれで終わらせるのは、良くないことだろう。

仕方がないので、俺は少しの間、俺の昔話をすることになった。

 

といっても……一番最後の結末はぼかして話すことになったが。

 

まぁほかにも武器とかでぼかすことになるのだが……

 

銃はどうしても理解が出来ないだろう。

弩が感覚的に近いだろうが、連射が出来ないのでなんともいえないところだ。

そうして話をしていて……俺が最後のぼかしたところについて、ちんちくりん以外は気づいたようだった。

最後に村を再建し終えて村を出た、とあっけらかんとしてしまったのが良くなかったのかもしれない。

 

まぁ暗い話をすることはあるまい

 

そうしてこの場はお開きとなったが……俺はその足でミドリボンの元へと足を運ぶことにした。

 

 

 

「宴会、ですか?」

「えぇ。費用は私が持ちますので」

 

軽い打ち合わせをしているだけだったので、直ぐにミドリボンに話をすることが出来たのは幸運だった。

何せミドリボンは、諸葛孔明その人だ。

有能とか言うレベルではない存在であるため、軍だけでなく政治の中心人物とも言える存在だ。

政務に忙しいはずなので、すぐに面会できるとは思っていなかった。

 

まぁ、一応俺も同盟国のお偉いさんだからか……

 

客将だが、それでも呉の中ではそれなりに偉い部類に入る。

というか、実際に将の肩書きを持つ奴の次に偉い……便宜行はだが……のだから、それなりに気を遣ってくれたのかも知れない。

 

まぁそこらは考えない

 

面倒ごとは面倒なので考えないことにした。

面倒事など考えないで済むなら、考えないに越したことはないのだ。

そして、宴会も面倒なので正直やりたくなかったのだが……俺のへまを自分自身で清算しようと思ったのだ。

 

魏とも決戦が近いようだしな

 

ここ最近蜀で魏との衝突はほとんど起こっていない。

それは呉でも同じようで、ほとんど衝突らしい衝突はないようだった。

まさに嵐の前の静けさというものなのだろう。

そんな状況で俺が起こした軍紀違反で蜀との関係性……正しくは俺を警戒している蜀の将の連中……が悪化したままなのはまずいと考えた。

最初は料理の礼もかねて、呂蒙や尾行娘だけにして、食事会でも催そうと思ったのだが……呉の連中だけを集めて宴会するのは他国の中心部で不可能だと思い直したのだ。

 

主要人物が食事会など……密会以外の何物でもないだろ……

 

そうなると蜀の連中も呼ぶ必要性が出てくる。

こちらの無実を証明してもらわなければならないからだ。

面倒ではなさそうな蜀の人間……酒飲ませろとかもっと食わせろとか言う心配がない妖艶寡婦とか……だけ招待することも考えたのだが、絶対に他の連中から不平不満が出てくるのが容易に想像できたのだ。

 

ちみっことか絶対食べたいって言ってくるだろうしな……

 

義勇軍時代の飯を劇的に変化した俺の腕前を、ちみっこはよく知っている。

また蜀に来てからもそれなりに日数が経ったこともあって、料理は何度も振る舞ったことがある。

そんなこともしているのに、のけ者にしたら後々面倒になるのは、火を見るよりも明らか。

また俺のことを警戒している連中に対して少しでも心証を良くしたい状況で、食事会に最初から招待しないのは、より関係性を悪くするだけだ。

よって……俺の費用持ちで宴会をすることを考えたのだ。

 

めんどくさいが……まぁしょうがない

 

金はかなりあるし、高級食材なんかは俺が用意してしまえば安く抑えることが出来る。

先日、話にも出たので刺身も出せば、物珍しさにおもしろい事になるだろう。

 

……いや、流石に生はまずいか

 

鮮度的には俺が運搬するつもりなので問題ないのだが……この内地で生魚を出せば流石にまずいことになる気がした。

と、思ったが呂蒙に食べさせるのは問題ないので、二人分くらいは用意することにした。

呂蒙しか食べないだろうが、その場合特別感も出るので呂蒙に対してのケアとしては一石二鳥だろう。

 

全員出席は出来ないだろうが……まぁそこは流石に勘弁してもらおう

 

将が一堂に会するのは流石に難しいだろうから、日数を決めて参加可能者のみ参加とさせてもらう事になる。

公平を期すために複数日開催になったら、俺の財布がまずいからだ。

 

 

 

と、思っていたのだが……

 

 

 

「……宴会」

 

ブツブツと……俺の言葉を聞いてからミドリボンが小声で何か考え事をし始める。

それがやけに嫌な予感がするので止めたかったのだが……相手は蜀の表向き政務の№2で、実質的な№1。

止める術などあるはずもなかった。

 

「……どれほどの規模の物を考えていますか?」

「? そうですね。金はそれなりにあるのでそこそこの物を考えています」

「具体的には?」

 

確かにそこそこではわかりづらかったし、他国の人間に言うのも良くないことだ。

探りを入れてきているようなので、俺はある程度素直に話すことにした。

 

「……そうですね、条件によります」

「条件、ですか?」

「えぇ。休みを幾日かいただけるのならば、私が食材をそこらからかき集めます」

 

俺が食材をかき集める。

それだけでミドリボンは理解してくれたようだった。

驚いたように口を開けている。

俺の食材集めが凄いのは、呉でも言われていた。

時期にもよるが蜂蜜が絶対に出てきたので、それだけで相当な高価さと希少さがある。

他にも肉類も俺は相当量一人で仕入れることが出来るのだ。

 

熊など……申し訳ないが俺の前では赤子以下でしかない

 

命をありがたくいただくので乱獲はしないが、それでも害獣と成ってしまっているのは相当数狩ってきた。

気配で本当にかなりの数を狩ることが可能。

希少な野菜などの食物も同様だ。

その俺が「そこら中からかき集める」と言っているのだから、規模が凄まじいのは理解できるのだろう。

 

「分かりました。では費用はこちらでも出しますし、休日……というよりも食材集めのお仕事をお願いしますので、食材を集めてください。そして、合計で4日分の食材の用意をお願いできますか?」

 

その言葉に……俺は目を丸くしたが、直ぐに顔をしかめることとなった。

 

「……4日分ですか?」

「はい。もしもっと必要なら日数を伸ばしてもいいので、一般へ――」

「そこから先は待ってくれます!?」

 

他国の重鎮の言葉を思わず遮ってしまった。

しかし、それも無理からぬ事だと私は言いたい。

「一般へ」言いかけた言葉……これはどう考えても一般兵だ。

一般兵にも食べさせることが出来るように……と言いたかったのだろう。

 

士気を考えれば当然だが……きついって……

 

確かに言いたいことは分かる。

いくら上下関係があると言っても、あまりにも格差があってはやる気をなくす。

だから少しでも食べさせられたらと言うのだろうが……そうなると本当に途方もない準備が必要になる。

しかし……ミドリボンはそれを許してはくれなかった。

 

「準備が大変なのは理解できます。ですが、どうかお願いできませんか?」

「……あまりにも贔屓がよくないのは分かりますが、準備がけっこう面倒なのですが」

「……これはまだ一部の将にしか明かしていませんが、刀月さんなら問題ないでしょう」

 

もう嫌な予感しかない台詞だな……

 

「近々、北に赴いてもらっている軍で、主立った部隊はこちらに戻ってきてもらう予定なんです」

「主立った部隊ですか?」

「はい。特に将である厳顔様、魏延様を呼び戻します」

 

申し訳ないがわからんのだが……

 

俺の知識は以下略。

しかし話の腰を折るわけにもいかない。

とりあえずしょうがないので、黙って聞くことにした。

だが、わざわざあの諸葛孔明が名指しで呼び出す武将だ。

普通に考えて弱いわけがないのはわかった。

 

「南蛮に配置していた将もすでに成都にいるので、これで蜀の武将全てがそろうことになります」

 

流石にこれを言われて俺も分からない訳がない。

将が全て揃うとなれば、それは全面戦争の準備に他ならない。

正直な話、全ての武将を集めると各方面の防御的には良くないのだろうが、相手は魏。

細作の報告ではかなりの軍の規模になっているはず。

ならば、少しでも差を埋めるために、質を上げるしかないと言うことだろう。

 

「……なるほど、つまり」

 

俺が理解したのを、ミドリボンも分かったのだろう。

一度小さく頷いた。

まだ外に漏れるのを恐れているのか言葉にはしなかったが、俺の考えは間違っていないだろう。

 

「そのため、決起……とは違うかも知れませんが、こちらの不和を少しでもなくしたいのです」

 

……それ言われたら何もいえん

 

当然だが、魏との決戦は呉にも無関係ではない。

というよりも間違いなく、魏VS呉蜀同盟軍という構図になる。

そして、この構図の一大決戦において……「俺の知識は以下略」な俺でも、知っている決戦があった。

 

ついにくるか、赤壁の戦いが

 

と、名前は知っているが、具体的な内容はそこまで詳しくない。

とりあえず決戦の部隊が大河であること。

そして船での軍事やらに不慣れな魏が、黄蓋の火攻めと、不慣れな操船を補うために船同士を鎖で繋いでいた失策によって大敗する……という内容だったはず。

 

俺も仕事があるから頑張らないといけないな……

 

そしてそんな決戦の状況で……呉と蜀の将の間で、疑心暗鬼とまでは言わないまでも、関係が悪化したままなのは避けたいのは、素人でも分かることである。

そのため、食事会でも開いてそれを改善して欲しいと、ミドリボンから嫌味もかねて命令してきているのだろう。

 

いやはや、そのとおりだが意地が悪いね

 

恐らくミドリボンに嫌味なつもりはないだろうが、それでも軍略として言わずにはいられない。

そんな状況というわけだ。

詳しくは知らないが、赤壁の戦いは互いの兵数にかなりの差があったと、歴史の知識で認識している。

なおさら不和を放置するわけにはいかないのだろう。

 

「承知しました、諸葛亮様。ただ、流石に上下で同じ質の物を相当量用意するのは難しいので、差別化で対応させていただきますが、それはよろしいですね?」

 

流石に軍全ての人間に最上級の物を振る舞うのは、予算以上に俺の労力的に無理がある。

というよりも純粋に人手が足りない。

かといって俺以外の人間に、熊やら猪を狩るために狩猟に行かせて怪我でもしたら、本末転倒である。

それならばどうすべきか? 答えは簡単だ。

メニューを変えて提供して、別の料理を食わせるしかない。

 

うまい正肉の部位は上の連中で食べて、残ったモツと骨で出汁取って、大量にラーメンでも作って一般兵に……だがそうなると特別感がないか?

 

上の連中には肉の高級部位を食わせ、下の物には残った部位を活用した大量生産メニューを出す。

もちろんどちらも出すメニューは完全に分ける。

そうすれば、下の連中も、上の連中が食べてない料理を食べるという、一種の優越感を得ることが出来る。

これで誤魔化すしかないだろう。

 

「それはもちろん心得ています。予算は……そうですね、これくらいでどうでしょうか?」

 

そう言いながら木簡に書かれた数字を見て、俺は目を見開いた。

 

「マジ?」

「まじ? どういう意味ですか?」

「いや失礼……。分かりました」

 

思わず素が出た口調になってしまった。

しかしそれも無理からぬことだと俺は思った。

何せ……予算がとんでもない額を記載されたのだから。

 

呉と蜀で予算の考え方が少し違うだろうが……俺の半年の給金と同額って……

 

すさまじい額に少々驚いてしまった俺だった。

ちなみに俺は、自分の世界ではそれなりに金持ちではある。

暗殺業で、かなりの報酬が入るからだ。

また最近行っていない刀鍛冶でもそれなりのお得意様がいるので、その人からかなりの額をもらうこともしばしばだ。

そんな俺を、時代が違うとはいえ驚かせるというのは、さすがは国の政務を担う重鎮の金銭感覚だ。

 

文字通り、スケールが違うか……

 

個人の財布と、国の財布。

これも時代が違えど……比べるべくもない。

 

……しょうがない、切り札出すか

 

料理にこれだけの金が使えるのであれば、俺としても気合を入れたい。

そして気合を入れるということは……俺自身も楽しめるものにしたい。

ならば、俺が食べたいもの、飲みたいものを用意する必要性がある。

 

そうなると……根回しがいるか……

 

飲みたいものを用意するのであれば、まずそれを取り寄せなければならない。

そうなると、それを上に報告しないのは不義理になる。

 

……海行くし、しょうがない

 

食べたいものは魚だ。

ならばどうせ海に行くことになるので、通り道といえば通り道。

面倒ごとはまとめて片づけるに限るだろう。

 

「なら諸葛亮様。仕事のついでに私を呉に書状を出すという形で、帰還させてもらえませんか?」

「呉にですか?」

「えぇ。呉の都には刀村の連中がおりまして。そこに結構貴重な食材がありますから」

 

褐色知的眼鏡に流通は制限されているが、生産と加工、貯蔵はある程度自由に行わせてもらっている。

ゆえに、刀村が移住した一画には、加工所があったりする。

そこに……俺が愛してやまない調味料を、多々作らせていたりする。

そのことについて、噂だけでなく細作も蜀が入れていないはずがないので、ミドリボンが知らないはずがない。

その食料がどのようなものなのかを把握するのは、悪いことではないだろう。

そして呉に帰るのならば、この前の罰を受けたことについても、本人が報告するのが道理だ。

 

呂蒙にやらせたらかわいそうだしな

 

また食材集めとして仕事の時間が取れるといっても、その間何もほかの仕事をしないのはもったいない。

特に大決戦が始まるのならばそのたぐいの仕事もするべきだろう。

ましてや呉に戻れば制裁が待っているのは間違いない。

それらの問題も片づけておかなければ、後々面倒になるのは間違いなかった。

 

「……確かに、一度呉に戻ってもらっていいかもしれません」

「命令違反を本人が報告するというのは少々問題かもしれませんが、こちらも早めに終わらせて損はないでしょう」

 

蜀の裁定が終えている以上、呉としても沙汰を下す必要性はあるが、蜀よりも重い罪を科すわけにはいかない。

なぜなら問題を起こされた側がすでに許しているのだ。

それを否定するようなことをするのであれば、それは蜀の裁定を否定するととらえることもできる。

同盟状態でそんなことをするわけにはいかないだろう。

それでも本国が罰を下さないままというのはよろしくない。

 

まぁそれでも怒られて……仕合させられて、酒飲ませろって言われるだろうな

 

 責はともかくとして、刀を使っての仕合、酒をふるまう……この二つは呉ではしていない。

面倒ごとになるのは間違いなさそうだった。

 

面倒ごとだからそれが罰ってことにしてくれないかね~

 

なるわけもないそんなことを考えてしまった。

 

「それもそうですね。わかりました、文を書きます。桃香様と内容を考えますので、明日まで待ってもらえますか。また呂蒙さんにも文をしたためてもらうようにお願いしますので、数日後に出発でよろしいですか?」

「承知しました。こちらも準備しておきます」

 

俺も工事現場の調整とかが必要になってくるので暇ではない。

そして……荷物のことも考えなければならない。

 

持ってきたいけど……さすがに積載量がなぁ

 

荷物は置いておきたくないのだが、しかしそれでは持ち運べる荷物が減る。

今回の主目的は宴会のための食材集め。

荷物を持っていくと持ち運ぶ量が減る。

また長期間空けて置くのも、黒幕二人組からしたらチャンスでしかない。

 

逆に隙を見せて誘う手もあるが……現段階では悪手か……

 

現在の俺の蜀での立場は微妙な状況だ。

その状況で敵に何か妨害をされては、こちらがまずいことになりかねない。

そう考えたのだが……尾行娘が操られた事実がある。

あれほど俺のそばにいた尾行娘が操られた以上、時間はあまり関係ないと考えていいかもしれない。

 

そして、俺自身一手遅れていることもあって……少々博打に出てみることにした。

 

あえて……隙をさらしてみるか

 

五胡に近づいた俺と尾行娘を操ってきた。

そしてそれと同時に、五胡と隣接した砦に攻めてくる。

タイミングだけを考えれば、やりやすかったのが間違いなく大きな理由だろうが……それまで何もしてこなかったことがどうしても引っかかる。

相手に余力がないのを確認するのは、ある意味でいいかもしれない。

 

まぁそうやって……少し俺が前向きというか前進していると考えないと、怒られに帰るっていう事実で気が滅入るからね~

 

しかも怒られるだけならまだいいのだが……大いに仕合をさせられるのがわかりきっているので面倒なことこの上なかった。

 

 

 

そのあと軽くミドリボンと打ち合わせをして、日程調整を行った。

そして次の日に正式に、俺が呉に帰るという伝達が呂蒙に行われた。

その時……俺は呂蒙に「守」と彫った木の板を手渡した。

 

「刀月様、これは?」

「一応……周泰が操られたことを踏まえて念のためな」

 

急だったこともあって、さすがに鉄を鍛えている余裕はなかったので、以前に作っていた木刀を一本つぶして、手のひらサイズの木札を用意したのだ。

一日に満たない時間しかなかったたため、「護符」としての効力はあまりないが……それでも俺がこの世界に来て、義勇軍として従軍していた時に作成した木刀を素材として利用している。

この世界に来てからかなりの荒事には巻き込まれた。

何せ黄巾の乱の時代だ。

荒事がないわけがない。

そんな時代に刀が抜けなかった俺は、木刀やらでしのいでいたのだ。

そして拠点となる刀村を手に入れたときに、作成したのがねじり金棒だ。

それからはねじり金棒が相棒として定着していたが、自身の鍛錬の時や、防衛隊の連中をしごくときに木刀は使用していたので、気そのものはそれなりに込めているし使用している。

ゆえに……この世界において最も気が通しやすいのは木刀だった。

 

「とりあえず肌身離さず持っていろ。それこそ、入浴の時もだ」

「入浴の時も……ですか?」

 

なかなかセンシティブというか……セクハラみたいな発言をしている気がしないでもない。

呂蒙もさすがに風呂の時までもっていけというのは、驚いているというか恥ずかしいようだ。

しかし……それで撤回するわけにはいかない。

 

「そうだ。これはお前を守るために必要なものだ。この意味が分かるな?」

 

ここまで言えば呂蒙は馬鹿ではない。

すぐに俺の思いに気づいてくれた。

 

「承知しました。刀月様」

「……大丈夫だとは思うのだが、もしもの場合は逃げてくれ」

 

なかなか無茶なことを言っているのはわかっている。

呂蒙は蜀にいる呉の最高責任者だ。

その最高責任者が逃げるなど、蜀どころか呉に対する最大の裏切り以外の何物でもない。

それがわかっているが……それでも俺はこいつが嫌な目に合うのは、考えたくなかった。

 

「……それは、さすがに」

 

むろん呂蒙もそれが難しいというか、できないのはわかっているので、戸惑ってしまった。

俺としても、思わず出てしまった言葉なので本心ではない。

 

いや、こいつが嫌な目にあってほしくないのは本当だが……

 

「すまん、何でもない。気にしないでくれ」

「いえ。そういっていただけて、う……うれしいです……」

 

顔を伏せていうものだから、普通では聞こえなかっただろう。

しかしそこは俺の肉体的スペック。

普通に聞こえてきた。

困ってはいるが、嘘ではないようなので、一安心なのだが……顔を真っ赤にされて俯かれては、何か別の意味で不安になってしまう。

さらに言えば……俺たち二人の様子をこっそりと見ている存在がいるのが気配で分かって、ちょっと辟易した。

 

……尾行娘か

 

辟易しているのは見張られていることではなく、隠れてみている存在がなんか慌てている感じが、気配から感じられるからだ。

少々俺がセンチメンタルというか……ここ数日呂蒙のことで思い出すことがあったのもあって少々変になってしまっていて、変なことを口走ったのがよくなかった。

尾行娘は間違いなく三国を見渡してもトップレベルの腕前を持つ細作だ。

当然耳もいいから、今の会話も聞かれただろう。

油断して能力を使っていなかったのも俺のミスだった。

 

……めんどくさい

 

面倒ごとはしたくないというのに、面倒ごとが増えていく。

挙句に俺は自分がしたこととは言え、これから面倒ごとを片づけにいかなければならない。

本当に面倒だった。

その前に片づけることがあるのも事実。

そのため、俺はもう一つ用意したお守りを渡すために、尾行娘を呼ぶ。

 

「そこにいるのはわかっている。出てこい周泰」

「「!?」」

 

目の前の呂蒙と、隠れている尾行娘が驚くのが分かった。

しかし呂蒙に渡したとき、そして読唇術で俺と呂蒙の会話は把握している……気配の位置的に俺たちの唇が見える位置にいる……ために驚いているので気配が駄々洩れだったのだ。

俺が見抜けないわけがなかった。

 

「叱責するつもりはない、おまえにも同じものを渡すから出てこい」

 

呂蒙に渡したお守りは呂蒙だけでなく、尾行娘の分も用意していた。

というよりも、現在最も注意すべきは尾行娘なのだ。

何せ敵に一度術をかけて操られている。

敵は術師として、俺とは比べ物にならない巧者だ。

まだ時限式の術が仕掛けられている可能性もある。

それがないとしても後遺症というか……悪影響がないとも言い切れない。

ゆえに、本来は尾行娘だけに渡すだけでいいのだが……どうしても呂蒙には渡しておきたかったのだ。

 

一番付き合い長いからなぁ……

 

そんなことを考えていると、観念した尾行娘がこちらにバツが悪そうに歩いてきた。

本当に尾行娘がいたことに驚いた呂蒙だったが、武将でも気づくのが難しい尾行娘の隠形を呂蒙が感じるのは無理からぬことだ。

 

「なんで隠れていたのかは……まぁ想像に難くないというか、なんとなく理由はわかってるから気にしなくていい」

「ご、ごめんなさいなのです」

 

肩を落としてとぼとぼと……なんというか実に落ち込んでいるのがよくわかるものだった。

そんな尾行娘に俺を見張っていたことについては、咎める気がないことは明言しておく。

呂蒙はなぜ尾行娘が俺を見ていたのかはすぐにはわからないだろうが……聡い呂蒙であるのだから、言わなくてもそのうち察するだろう。

 

「呂蒙から話は聞いたか?」

「はい。刀月様が数日後に呉に戻られると」

「ゆえに念のためにおまえにもこれを渡しておく」

 

そういって尾行娘に同じお守りを渡してどんなものであるか、そして常に持っていてほしい旨を伝えた。

 

「大丈夫だとは思うが、これは敵を用心してだ。そして常に気を張ってなくていいが、警戒を完全に解くことだけはしないように」

「わ、わかりました」

「特にお前は細作だ。あまり気を張りすぎていると蜀の人間に誤解を与えかねない。ゆえに呂蒙よりもそれを心がけてくれ」

 

一応一目がある場所なので明言はしなかったが、なかなかきわどいことをいっている自覚はあった。

それは蜀に対してでもあったが……この二人に対してもまずい気がしないでもなかった。

 

……なんか自分が二人の美女に粉かけてるクズ野郎に思えてきてしまう構図だなぁ、おい

 

はたから見れば、見目麗しい未成年……俺目線……の美少女二人に同じ贈り物を送る成人済みの男。

犯罪臭しかしない図柄だった。

 

俺もいろいろと毒されてるなぁ……

 

そしてそんな性欲的なことを考えてしまうのは、余裕があるというべきか……もしくは時代的なものに影響されていると考えるべきか、実にくだらないことだった。

しかしそれは俺からしたらくだらないものであるのであって、この時代、この世界に生きるこいつらにはあまり関係がないことだった。

 

そこらも解決しないとまずいか……

 

あまり考えたくないし、面倒なことなのだが、放置するのもまずい問題ではあった。

ほかの連中はまだ放置してもいいと思える連中なのだが、この二人はちょっとそれができそうになかった。

中途半端な自分を呪うしかないのだが……まだそこらの結論が俺もまだ出せていないのが本音ではあった。

 

 

 

育てるのも大事だが……それ以上に大事なのは生き様じゃろう。己の子に自らを貫く強さを見せる。それも一つの責任の取り方じゃと、儂は思うぞ

 

 

 

なかなか自分でも結論が出せないのが本音だった。

結論というよりも、納得できる考えがまだ浮かんでいないというべきなのだろう。

それでも、帰る以上俺がまぐわうことはないのだが……その後のことを考えると少し面倒だった。

 

あ~~~~~酒飲んで寝たい……

 

眠くなるほどに酔って寝たいと、自己逃避してしまいたくなる気分だった。

そんな実に情けない考えのまま、俺は久しぶりに呉に帰還することと相成ったのだった。

 

 

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