荒野に轟くねじり金棒の凪払い(仮)   作:刀馬鹿

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今回ほとんど話が進まないのであしからず



行商と能力の秘密に恩返し

「わ、私も……刀月様の行商に連れて行ってくれませんか!?」

 

その言葉に、俺は内心で頭を抱えるしかなかった。

理由は至極簡単だ。

 

能力が使えなくなる……

 

これは最大にして最悪の問題点だ。

死活問題そのもの。

俺の行商は能力に依存するところが大きい。

霞皮による腐食という発酵。

雷による禁止漁法に電磁投射による移動手段。

風翔の力による船の操舵に、風力操作による加速減速。

風雲の羽衣による安全、安心な輸送。

しかしこれらは全て当然超常の力であり、普通の人間からしたらあまりにも異常な力だ。

この能力を使用したところを見られた場合、二つの可能性が考えられる。

 

 

 

現人神とか言われて崇め敬われ奉られるか

 

 

 

妖術使いとして排斥されるか

 

 

 

このどちらかになるのは目に見えている。

恐らくそれなりに恩義を感じている村人達なので……排斥されることはないだろうが、崇め奉られても困るだけだ。

 

排斥されても俺は全員ぶっ飛ばすことも出来るしな……

 

またそれを抜きにしても能力が使えなくなるということは、それだけ俺の行商能力が下がることを意味する。

まだ農耕等を行って一年も経ってないため、今の村人達の食い扶持を得るには、そのほとんどをほかからの売買で成り立たせている。

それが出来なくなれば待つのは「死」という事実。

もしくは元黄巾党達が暴れ出してしまうかもしれない。

それは避けなければならなかった。

そしてここまで目をかけたというか……面倒を見た村人達をこの村から放逐するのも後味が悪すぎる。

 

しかし……魅力的な提案であることも事実

 

一概に呂蒙の提案を一蹴できないのは当然、俺の知略のなさだ。

それなりに知識があるとはいえ俺はやはりで剣術家で料理人で……鍛造士なのだ。

治世や、商売、取引などは正直得意ではない。

駆け引きこそ勝負にもあるためそれなりに出来るが、元の知識が薄い。

またこの時代のことについても疎い。

恐らく何度か行商でも失敗しているだろう。

だまされたわけではなく、また余裕があるため別段大きな失敗になり得ていないが、下手をすれば死活問題にもなりかねない。

故に、俺を補佐してくれる人材がいればそれに越したことはないのだが……能力が使えなくなるのはあまりにも問題だった。

 

「う~~~~~~ぬ」

 

俺がうなってしまうのも仕方ないことだろう。

とりあえず意見を求めたくて、俺は父親である助へと目線を向けた。

すると満面の笑みで……助は首を縦に振った。

 

「是非、娘の亞莎を連れて行ってください。親分……いえ、刀月様」

「いや、ちょっと待て」

 

助が「娘」という部分を強調して言ってきたので、俺は嫌な予感がしたので、助を立たせて壁際まで連れて行った。

そしてひそひそと……本人を目の前にして内緒話をするという、実に間抜けな状態になってしまった。

だがそれでもどうしても問わねばならないことがあった。

 

「どういうつもりだ?」

「どうもこうも。亞莎を連れて行ってあげてほしいと言っているだけですが」

「確かにその通りだがな……お前、親としてそれでいいのか?」

「と、言いますと?」

 

わかっているのにはぐらかしてるなこいつ……

 

年上の商人ということを再認識した瞬間だった。

それにイラッとしつつ、俺は努めて冷静に言葉を続けた。

俺から言わなければ話が進まないとわかったからだ。

 

「おまえなぁ。いくらそれなりに恩義があるとはいえ、若い男一人の行商に、自分の大切な愛娘を一人で同行させるとか……それでいいのか? 俺だって若い男だぞ一応」

 

若い男に若い女。

これが二人だけで出かけると言うことは、そういう事が起きても不思議ではない。

それがわからないわけではないだろうに、助は呂蒙の同行を俺に願っている。

 

「それはもちろん存じています。しかし刀月様なら別段変なことはせんでしょう。正直に申し上げるとあなたがそんなことをするとは思ってないのです」

「ほう?」

 

確信しているというように断言した助に、俺は特に何も言わずに黙って、話を続けさせた。

 

「この村にも若い娘はそれなりにおります。刀月様より若い娘も、刀月様より少し年上の娘も。子持ちの女もおりますが、夫を亡くしている女もいます。刀月様はその全てに対して劣情した目を向けておられません」

「ふむ」

 

助のいうとおり、俺の村にもそれなりに若い女はいた。

何とか黄巾党に襲われずに逃げ延びてきた女達だ。

逃げ延びてきたため、あまり体力もなかったが、しかし回復してからは働いてもらった。

というよりも、働きもしない奴を養う余裕はこの村にはない。

 

「娘の中には衰弱し、あなたの治療を受けた者も大勢います。その中には当然、あなたに好意を抱いている娘もおります。純粋に慕っている者、村長の妻の地位をねらう者等々、理由や目的は様々ですが。そんな娘に閨に来いと言えば……恐らく拒む者はそういないでしょう」

「まぁ否定はしないな」

 

実際老若男女、様々な連中を治療した。

命を救われただけでなく、飯に住居、さらに仕事まで与えられたら恩義を感じるだけでなく、好意を向けてくるのもある意味で当然だろう。

また俺が独り身ということもあり、妻になればおいしい思いが出来るという思考に行き着くのは、それこそ必然と言える。

 

だが……助けられなかった奴もいるしなぁ

 

といっても救えなかった奴もいたので、俺も歯がゆい思いをしたものだった。

俺は自身が万能の超人であると思ってはいない。

修行の成果のため、かなりの力量を誇っており、また医療についてもそれなりに知識はあるが、それはあくまで俺自身のためであり、他人のためのものではない。

救えなく歯がゆい思いをしたのは事実だが、良くも悪くも他人でしかないため、割り切ることが出来た。

それでも目の前で死なれるのは、後味が悪いものだった。

未熟故に仕方がないと、割り切ることが出来なかった。

助はそれを正確に見抜き……さらに言葉を続ける。

 

「助かった者もいれば、治療が間に合わず、助からなかった者も大勢いました。ですがあなたはそんな者も丁重に葬ってくださった。自らが生きることすら難しい今の乱世において、死者をあそこまで丁重に葬ることが出来るのは、貴族などの本当に余裕がある者だけです」

「……」

 

俺は衛生面も考えて……死者は火に葬して弔った。

最初は反発もあったしやりたくはなかった……というか火葬しているのは現代でも日本くらいだ……が、土葬では正直墓を作るのにスペースを作る必要があり、そんな余裕はなかったのだ。

土葬のためのスペースを作るのにも労力がいるからだ。

かといってただ埋めるだけではあまりにも不憫だったので、俺が出来る最上の弔い方が火葬だったのだ。

ある意味で驚きだっただろう。

薪を使って火を興し、人を燃して弔うのだから。

この時代は薪も貴重品と言っていい。

そして遺骨と灰を海に帰すという考え方が響いた。

労力こそあまり割かなかったが、それでも火で弔ったというのがありがたかったようで、後々は誰も火葬に対して文句は言わなくなっていた。

 

……まぁ薪は見た目半分以下も使ってないのだが

 

こっそり紫炎の力を使って弔ったので、正直薪もそこまで消費していなかったりする。

けちだと思われても仕方がないが……しかし人が増えると言うことは薪の消費量も増えることと同義のため、致し方ないところもあった。

 

「権力があり、力もある。また我らからしたら理不尽な事を命令されても拒否できないほどの恩義もあります。それこそ娘を差し出せと言われたら断れる者はおらんでしょう」

「まぁそれもそうだな」

 

借金が返せず若い娘を人買いにとられる。

この時代ではそれも日常的な行為だろう。

特に今は乱世だ。

一人の娘を差し出して、幾人もの食い扶持が稼げるのならば、そう悪い買い物ではない。

逆に少年を売ることもあっただろう。

男色家というのはいつの時代にもいるのだ。

明日にも死ぬかもしれないほどに飢えているなら、それはなおさらだろう。

売られた方も運がよければ……ひもじい思いをしない可能性もなくはない。

 

大概が……ひどい目に遭うだろうがな

 

「だがそんなことをせず、あなたは我々のために必死になって働いてくれました。そして今もこうして話し合いの場に、我らを招いてくれている」

「それは俺が……」

「確かに。失礼ながら、あなたは私や亞莎ほどの知識や知略はありません。ですが飢える事がない状況であっても、あなたは何とかこの村を豊かにしようとしてくれている。私たちのために。ちーずやばたー等は非常に美味なる物ですが、量が少ない。独占してもいい物だ。だがそれをあなたは私と亞莎に教えてくれました。そして村のために売りにも出してくれている」

 

淡々とした口調だったが、言葉からははっきりとした感謝の念と尊敬の感情が溢れていた。

今でも俺自身こいつらのことを心から信頼し、信用しているわけではない。

この時代の人間は貧しい故に強かだ。

故にいつ裏切られるかわからないという猜疑心を、俺は拭い去ることが出来なかった。

 

「これほど私たちに尽くしてくれる人に対して……いまだ大して恩を返すことが出来ない事を、私たちも心苦しいものがあるのです。故に、少しでも恩義を返すことが出来るのであれば……力になりたいのです」

 

そういいながら、助は深々と頭を下げてきた。

その助の言葉を聞いて……俺自身も少し反省することになった。

 

……それは考えてなかったな

 

恩義を受けたのに何も返せていない。

それは確かに心苦しい物だろう。

こちらとしては別段労働力になってもらっているし、独占している物もあり、恩義や恩返しなどはあまり考えていなかった。

だがそれは俺が余裕ある者であるため、弱者の立場を考えていなかったという意味では過失にはなるだろう。

助が俺のために何かをしたいと考えているのが、よくわかった。

 

 

 

だが……俺には現時点で誰にも話していない、最大の後ろめたい理由があったりする。

 

 

 

……ぶっちゃけ人体実験もしてるしなぁ……

 

人体実験というのは少々穏やかな表現ではないが……ある意味で利用させてもらっているのは間違いなかった。

表現を軟らかくすれば「毒味」と言ったところだろう。

無論本人は断った上で、さらに言えば薬なのは間違いなかったりする。

 

だが……毒味させているのは事実だった……

 

さすがにこの事は……助に格、呂蒙にも話していなかった。

そんな後ろ暗いところもあったりする。

 

まぁおかげで、俺に対する仮説が立てられたわけだが……

 

とまぁ、確かに恩義に感じる理由は十分にあるだろうが、それでもこちらとしても後ろ暗いところもあるので、即答が出来なかった。

俺と助はいつしか発する声量も互いに普通になっており、途中から呂蒙も自らの父の言葉に姿勢を正して、俺を見つめていた。

しばらくそうして頭を下げていた助だったが、やがて顔を上げて、俺の前に跪いた。

そして両手をついて……俺に向けてこう言ってきた。

 

「失礼ながら先ほども申し上げましたが、刀月様は呂蒙よりも知略に劣っております。父である私から見ても、呂蒙は知略に秀でている娘です。きっとお役に立てるはずです。村だけで終わらせるのにはあまりにも惜しいと、親ながらに思っております。ですのでどうか……刀月様のお役に立つため、また娘のためにも、行商に連れて行ってはいただけませんか?」

 

う~む、卑怯な言い方だが……それも事実かぁ……

 

確かに呂蒙は切れる。

いくら俺の手書きの地図があり、また情報をあちこちから仕入れているとはいえ、自ら現地に赴かずに食糧事情を思考し把握し、分析するのは並の頭脳ではない。

確かにこの村で終わらせるのにはあまりに惜しい人材だろう。

親からしたらもっと我が子が活躍し、いい生活を送ってほしいと思うのは当然と言えた。

 

しかし……能力をどうす――

 

 

 

「そして仮に刀月様が「超常の存在」であったとしても……私たちは絶対に恩義を忘れません。私と亞莎だけは……絶対に……」

 

 

 

!? まぁ……多少はわかるか

 

関羽に張飛といった、未来の歴史に名を刻んだ人物達をこの世界で見たが、一般人からしたらそれだって十分に超常存在だろう。

そして俺はそれ以上に超常的存在であり……いくら足が速いと見ているとはいえ、遙か彼方先まで一日で往復するなどあり得ない事だろう。

少しでも頭が働く者であれば、俺が普通ではないことはわかることだった。

特に……この二人にはある程度俺が情報を与えてしまっている。

手書きの地図に、情報の入手。

二人が元々得ていた知識や地理と当てはめれば……俺が普通ではないと考えるのも当然だろう。

いつの間にか呂蒙も父親のそばにきて跪き、俺に両手をついて頭を垂れていた。

 

「お願いします、刀月様!」

 

呂蒙にまで頭を下げられては……少々断りづらかった。

正直な話、非常に嫌だったが……呂蒙の助けも必要なのは事実だったため、俺は深々と溜息を吐きながら許可を出すしかなかった。

 

「……相手が誰であっても、行商中の俺についての情報は渡さないこと。これが条件だ」

「!? では!」

 

 

 

「助けが必要なのも事実だし……呂蒙の同行をお願いするよ」

 

 

 

「!? ありがとうございます! 刀月様!」

 

満面の笑みでお礼を言われるのは、内心複雑だった。

偽名な上に、かなりの秘密を俺は隠している。

恩義という貸しがあるとはいえ、秘密を抱えたままってのは……俺としては居心地が悪かった。

それも赤の他人ならともかく……ここまで慕われている存在からの、純粋な好意の前にはなおさらだった。

 

というか……本当にきわどい格好してるなぁ……

 

呂蒙は正座しており、俺は立っている状況だ。

夜の暗さとはいえ紫炎の能力で火を灯している……むろん松明に火を灯しているように見せかけているが……ので、小屋の中の明るさは十分だ。

長い袖もチャイナ服にもともとある物ではなく、暗器のためにわざわざ別パーツとして身につけている。

その袖を胸の上部で結んで固定しており、そのおかげで多少は胸が隠されていたが……そもそもにして胸元が開きすぎのため、あまり意味がなかったりする。

しかも肩も露出していて、足の付け根も見えるほどだ。

本当に、目の毒で仕方なかった。

しかし元黄巾党などの若い男には勝てる位の実力は有しているようだ。

何度か稽古として相手をしたことがあるが、そこらの男ではかなわないだろう。

 

まぁ片側ポニーには勝てないだろうが

 

そうして俺が呂蒙を見下ろしながら遠い目をしていると、俺が何を見て何を思っているのか助は正確に把握したらしい。

助がニヤリと……実にいやらしい笑みを浮かべながら立ち上がって、俺に耳打ちしてきた。

 

「あなたが襲うとは思ってませんが……合意の上なら私としては歓迎ですよ?」

「……あのなぁ」

 

助の言葉に俺は再度深い溜息を吐かざるを得なかった。

 

「きわどい格好をさせているにもかかわらず、あなたは自然に、下卑た感情を露出させず、また思うこともなく、亞莎と接してくれました。それだけでも信頼に足ると私は思っているのですよ?」

「……おい、この服装狙ってやってたのか?」

「ある程度は……ですね。商談でも娘を何度か連れて行くことはありましたが、それである程度人となりもわかりますし」

 

すげーなおい

 

娘を道具に使っているような話にも聞こえたが……しかし日頃から見る助の娘に対する愛情は本物だ。

親故に甘やかさないまでも、きちんと教育もしていたし、武術もそれなりに使える。

教育というのはかなりの費用がかかる。

特にこの貧しい時代ではなおさらだ。

それだけ目にかけていると言うことなのだろう。

また男がどういう物かを判断するのももってこいというものだろう。

何せこれだけきわどい格好をしているのだから。

 

「それに先にも言いましたが、あなたの妻の地位を狙っている娘は結構います。私としても刀月様に嫁がせることができるのであれば、娘の幸せも約束されたも同然。喜んで娘を嫁に出しましょう。娘の幸せを願ってのことですが……財的な意味があることも、否定しませんよ?」

 

ほんと~~~に、強かだなぁ……

 

自ら下心があると言うことで、俺に対して信頼をしているというアピールなのだろう。

商人として、俺の知識もほしいと思っているに違いない。

俺としては仮に呂蒙を嫁に娶ったからといって、助をそう特別扱いすることはしないだろうが……しかし嫁の実父に対して何もしないということは、出来ないだろう。

多分。

 

その辺はよくわからんなぁ

 

入寺刀月。

本名を鉄刃夜。

彼女いない歴=年齢。

修行に忙しいのでそんなことなどしている暇もなかったので……俺は男女の機微というのは本当に未知の領域だった。

 

閑話休題

 

しかも都合が悪いというか、まぁ呂蒙も子供ではないということで、ある程度こちらの話の内容を把握していたらしく……その後ものごっつ顔を真っ赤にして倒れてしまった。

助と俺の二人で反省したのは言うまでもないことだろう。

 

 

 

 

 

 

さて……俺としてはここからが本番だなぁ……

 

それから俺はやむなく呂蒙を連れて行くことになったので……運搬方法に悩んでいた。

 

荷物の運搬はいいにしても、呂蒙をどうやって運ぶかが問題だなぁ……

 

運ぶと言うと実に荷物扱いみたいな言いぐさだが……しかし移動するという事では足手まとい以外の何物でもないので、どうしようもなかった。

俺自身を加速させるだけであれば電磁投射の力を使えば簡単だが……しかしそれでは呂蒙の体が耐えられる訳がない。

ある程度は俺が気力を与えることでどうにか出来るが……さすがに電磁投射ほどの力に耐えるだけの気壁をほかの人物に与える能力は俺にはなかった。

 

幸いな事は、呂蒙が乗り物酔いに強いことだな

 

馬や馬車での旅をしていたため、乗り物酔いをする体質ではないことが幸いといえた。

また、呂蒙を連れて行くと決まったあの会議の夜より、昼間に呂蒙を何度かおぶって走り回った。

 

「あ、あぁぁ、あぁの……重くないですか……?」

 

女の子なんだなぁ……

 

男におぶれられているのはやはり恥ずかしいのだろう。

おぶっているため顔は見えないが、衣服越しに伝わる呂蒙の体温が上昇しているので、恥ずかしがっているのはすぐにわかった。

しかし俺からしたらまだ痩せていると言える呂蒙の体重など……身につけた衣服ほどしか重さを感じなかった。

 

「鍛えているからな、大丈夫だ」

「な、ならよかったです」

 

あれま、緊張のあまり冗談が通じてないな……まぁしょうがないか……

 

いくら恩義があるとはいえ男の背中だ。

しかも先日の会議で娶るだのどうこう言っていたから、余計意識してしまうのだろう。

また数日後には一時とはいえ村を離れて完全に二人になるのだ。

意識しない方が無理というものだろう。

 

まぁそこらは呂蒙にも助にも悪いが……絶対にあり得ないのだがな……

 

と、内心で二人に謝罪をしつつ、俺は実験を行った。

気力と魔力で強化した身体能力で走り回ったのだが、俺の背中に自力でしがみついて落ちることもなくまた気分が悪くなることもなく、普通に俺の背中で俺のあり得ない身体能力に驚いていた。

 

俺の身体能力の運搬に耐えられると言うことであれば……やはり滑空がもっとも無難か

 

風雲の羽衣を用いた滑空飛行。

これならば呂蒙の体にも負担をあまりかけなくてすむだろう。

そうなると電磁投射よりも速度が出ないが……最悪風翔による追い風加速で速度を出せば何とかなる。

問題は……滑空という超常の力を、呂蒙が受け入れられるかどうかだ。

 

まぁある程度ごまかす努力はするかぁ……

 

またほかにもやらなければいけないことを思い、俺は深々と溜息を吐きながら……呂蒙を連れて行くときに売るチーズとバターを作っていた。

後蜂蜜もいくつか仕入れる事が出来た……呂蒙を連れた場合いくつもの村に行けないことを考えて江都だけで商売を終わらせることを考えてだった。

 

いくつか貯蔵している果実と加工品ももってくかなぁ……

 

風翔龍の力を用いた冷凍庫にはへそくりとして果実も冷凍保存を行っていた。

砂糖は貴重故か、あまり出回ってない。

砂糖があれば手っ取り早くジャムにしたのだが、この時代甘味はあまりに貴重品だ。

甘味……それはすなわち果実も同じく貴重品なのだ。

俺は果実もそれなりに採取して、保存食であるドライフルーツも作成していた。

へそくりの一つである。

しかし問題が一つ。

 

甘味があまりにも貴重だということだ。

 

つまり目立つのだ。

現時点でも蜂蜜でずいぶんと目立ってしまっている。

別段賊程度なら俺がどうにか出来るが、そんな俺でもどうにも出来ない存在がいる。

それが軍だ。

 

軍とは……当然この領地を任されている領主などの直轄の部隊。

 

軍に対して面倒事が起きると……へたをすると領主ににらまれる可能性があるのだ。

孫策がどのような人物か俺はわからないので、どうなるか読めないのが本音だった。

だがそれでも、この村はまだ蓄えらしい蓄えがない。

また呂蒙がいるため、江都での商売ももっと活発化出来る可能性がある。

 

リスクとリターン

 

何とかその匙加減を間違わずに立ち回る必要があるだろう。

 

一人は一人で気楽でいいんだがなぁ……

 

と、そんなことを思って、俺は溜息を吐いた。

それをいうならすでに村まで人数が膨らんでしまったこの状況で、一人もくそもないのだが……行商はある意味で俺の息抜きにもなっていたのだ。

人に頼られまくるのも考え物である。

だがあそこまで必死に誰かの役に立ちたいと、人見知りの呂蒙が奮い立って俺に行商を手伝いたいと懇願してきたのだ。

ならばその思いには応えてやらねばならないだろう。

 

……人のために頑張るか……。いろいろと思い出してしまってかなわんな

 

在りし日のあの子を思いだして……俺は小さく笑った。

そうして物思いにふけながらも、俺は呂蒙のための装置を……作っていた。

 

 

 

 

 

 

~数日後~

 

ついに呂蒙とともに行商に行く日がやってきた。

この日は俺が前日に村の連中に命じて、いつもより少し早く起きてもらい、広場に集まってもらっていた。

会議については先に担当長に問題がないことを確認したので、本日は休みとしていた。

担当長にも広場に集まってもらっており、俺の言葉を待っていた。

 

「忘れ物はないな?」

「はい!」

 

広場で話をする前に呂蒙とも打ち合わせを行っていた。

といっても本日いくのが江都であること、本日の行商の品物に値段設定、江都に着いた際の段取り等を打ち合わせしただけだが。

そうして打ち合わせも終わって、俺は呂蒙とともに広場に設置した台の上に立ち……村のみんなを見下ろしていた。

 

「と、刀月様? どうして私もここに?」

「必要だからだ。恥ずかしいかもしれないが、ちょっと耐えてくれ」

「は、はぃぃぃ」

 

誰もが注目するこの状況では、人見知りの呂蒙には応えるだろう。

だが、それでもどうしてもやっておかなければならないことがあるので……俺は声を張り上げた。

 

といっても……風翔の力である程度拡声できるから、楽でいいんだが

 

「諸君、おはよう」

「「「「おはようございます!」」」」

 

朝早く……というかマジで夜明け……にもかかわらず、村人達は元気に返事をしてくれた。

驚いているのがほとんどだった。

それも致し方ないと言える。

村になって以来、俺がこうして広場に全員を集めるなど初めてだったのだから。

 

「本日これより俺は、近隣の村に行って行商を行ってくる。これは以前からも行っている故、驚くことはないだろう」

 

ちなみに、村の連中には近隣の村としか教えていなかった。

当然……馬ですら数日かかる江都や、さらに遠い街などに行っているとは誰も知らず、ましてや教えたところで信じないだろう。

自分たちが逃げ延びてきて歩いてきたのだ。

そのため、近隣の村であっても生半可な距離ではないことを知っている。

だが、俺の身体能力はある程度知っているので、近隣の村に行商を行っていると、村人達も信じることが出来ていた。

 

「しかし今回からは俺がずいぶんと助けてもらっている、呂蒙にも同行してもらう」

 

状況から、村人達もわかっていたのだろう。

呂蒙が俺の行商について行くことは。

以前から助の娘と言うことで目をかけている……と村人達は認識している……のに、さらに行商までついて行く。

それも若い男に若い娘がついて行くのだ。

他の連中……特に若い女達が心中穏やかではないだろう。

呂蒙は緊張で頭が一杯一杯で周りが見えていないようだが……しかし若い連中からは怨念にも似た怒気が発せられているのを、俺は明確に察していた。

 

ほんと~~~~~~~に、めんどくせぇなぁおい……

 

俺はその嫉妬に納得半分、めんどくささ半分に思いながら……大きく柏手を一つ。

 

 

 

!!!!

 

 

 

風翔の力を用いたが故に、少し遠くの森で寝こけている鳥たちが驚いて羽ばたいて逃げていくほどの大きさの柏手となった。

そんな大きな音なので、村人達もびっくりしていた。

俺は意識を強制的に俺に向けさせて、声を張り上げる。

 

「まず! 最初に言っておく! 俺は相手が誰であれ、女を娶るつもりはさらさらない!」

 

今まではっきりさせていなかったことを、俺は文字通り声を大にして宣言した。

行商に連れて行くことで呂蒙が仲間はずれにされることを避けたかったのである。

また当然俺自身のためでもあった。

 

絶対にまたこの世界から離脱するのだから……妻を迎えるとか出来るわけないし……

 

「そして言っておくが、当然男色家でもない! 俺が村にいるときに俺を男色家とかいった奴は飯抜きとする!」

「え、えっと……その刀月様?」

 

緊張していた呂蒙も、俺の柏手で緊張が解けており、また俺の発言で目を白黒させていた。

そんな呂蒙をあえて無視しつつ……俺はさらに言葉を続ける。

 

「呂蒙と行商に行くのは間違いないが、それは呂蒙が俺よりも知略に優れているため、俺の……いや俺たちの村のために力を貸してもらうためだ」

 

村のために力を尽くすということ。

特にこの時代は肉体労働が、村での主な仕事だ。

それなりに大きな村や街でなければ、頭脳労働という労働はあまりない。

呂蒙と助は頭がいいので頭脳労働が主だった。

呂蒙は修行もかねて防衛隊の訓練にも参加しているが、主な仕事は頭脳労働だ。

そしてその頭脳労働は、俺と一緒にいることでもあるのだ。

村長の俺と近しいというのは、それだけで嫉妬の対象なり得る。

その状況で二人きりで行商に出かけるとなると、誤解を招く可能性が大いにある。

そのため、俺は自分が女にも男にも興味がない変態として……自らを生け贄に捧げることにした。

 

まぁそれが一番楽だしな

 

「行商が成功すれば今まで以上に食うに困らなくなる。それは俺だけではなくみんなのおかげだし、そして呂蒙のおかげでもある。だから変な誤解はくれぐれもしないように。わかったな?」

「え、えっと……」

「そうは言っても……」

 

しかしそれでも若い男女ということが気にかかるのだろう。

普段であればもう少し時間をかけても良いのだが……本日は初の呂蒙を連れての行商故に、俺は最後は強引に押し切った。

 

 

 

「わかったな!?」

 

 

 

「「「「はい! わかりました!」」」」

 

最後は力押ししたが……それでも必要なことなので強引に押し切った。

呂蒙はあわあわと顔を赤くしており、後方にいた助は天を仰いでいたが……まぁそこらはしょうがないだろう。

 

「では各自解散! 俺がいないからって仕事さぼるなよ?」

 

そう言い残して、俺と呂蒙は出発することにした。

 

 

 

 

 

 

呂蒙と二人でしばらく走り……呂蒙にあわせた行軍のため、普通の駆け足である……村が見えなくなったところで、俺は足を止めた。

ちなみに呂蒙はお姫様抱っこをしていたので……もう顔が真っ赤で今にも目を回しそうにしていた。

そんな呂蒙に苦笑しつつ呂蒙を下ろして、背負っていた背負子を一度おろした。

 

「刀月様……これは?」

「俺が作った特性背負子だ」

 

俺が鍛えた鉄で作られた背負子で、特徴としては布を使用して腰掛けられるようになっており、長時間の着座もしやすいようにしている。

また俺がおんぶするのと同じように、背負子に座る人物が、前を向いて座れるようにしている。

さらに冬木で仕入れた軍隊でも使用されている特性のベルトで、背負子の人物を固定できる。

極めつけが……さらにその後ろに荷物が積めるように鍛造している事だ。

言ってしまえば、「U」字型に鉄棒を二つ鍛造して間を空けて連結し、Uの間に呂蒙が座れるように作成した背負子なのだ。

 

「さて呂蒙。行商に付いてくるときにも言ったが、俺の行商についての情報等は絶対に誰にも言うなよ?」

「は、はい」

「それはもちろんお前の父親でもある助にもだ? わかったな?」

「はい!」

「よし」

 

俺は呂蒙に念を押してその意志を確認して……俺自身も覚悟を決めた。

 

「呂蒙と助はある程度わかっているようだが……江都に行くのに、俺は特殊な移動手段を用いている」

「!? はい」

 

この前の夜の会議の際、助が指摘した俺の「超常存在」部分を明かす事が理解できたのだろう。

真剣に俺の話を聞き始めたので、俺は一度うなずいて言葉を続けた。

 

「何度か呂蒙を背負って走り回った。そのためたぶん大丈夫だと思うが保険をかけておく。それがこの背負子だ」

 

万が一にも宙で落っこちられたら……助けられるか微妙だしな……

 

まだ風雲の羽衣の扱いには慣れていない。

大量の荷物を持った状況では滑空が関の山なのだ。

モンスターワールドで、煌黒邪神龍と戦った時と同じように自由自在に飛べれば何も心配はないのだろうが……未熟な俺では不可能な芸当だった。

そのための安全策がこの特性背負子だ。

背負子で呂蒙を背負い、ベルトで固定すれば落っこちる事がない。

また背負子は俺が鍛造して作った特別製で、気もかなり込めやすい。

気を込めなくてもそう簡単に壊れることはないように制作したが、気を込めればより万全だろう。

さらに……俺は一度の飛行距離を伸ばすために、もう一つ作っていた物を組み立てた。

 

 

である。

竹製の骨組みに、布をピンと張ることで翼とする。

いわゆるハンググライダーもどきの羽だ。

 

これで飛んでいる……という嘘を信じ込ませる。

 

確かにそれなりに物作りは可能だが……俺は正直航空力学なんて物は全く理解していない。

俺が知っているのはせいぜい、飛行機の羽には揚力があってその力と空気抵抗で飛んでいる程度である。

だが呂蒙に少しでも、ある程度科学というか……妖術っぽくない物を信じ込ませればそれでいいのだ。

何せ作ったハンググライダーの羽は、本当にもどきでしかないのだから。

帆で風の力を受け止めるというのはこの時代でも利用されている。

今度はそれを浮く……というよりも滑空するための力に使うとわからせればいいのだ。

 

後は風翔龍の力で徐々に落ちながら飛んでいけばいい

 

羽がどういう物か説明した後に、俺は背負子の一番後ろに荷物をくくりつけてから、呂蒙を背負子に座らせて俺がその背負子を背負う。

そして今度は台車を持ち上げた。

普通の方法では持ち上げられなかったので、やむなく一度宙に投げてから落ちる前にキャッチするという半ば強引なやり方だった。

 

「す、すごいです……」

 

まぁ普通に考えてあり得ないよな

 

果たして全部の重さはいかほどか……。

重量計などあるわけもないので何とも言えないが、それでも優に数百キロはあるだろう。

それを一人で持ち上げているのだから、驚くのも無理はないといえた。

台車にはすでに羽を取り付けてあるので、後は跳ぶだけである。

要するに台車というハンググライダーもどきで飛んで行くという……実にかなり無理のある方法で俺は呂蒙を騙くらかそうとしているのである。

 

あとは……大丈夫なことを祈るしかないなぁ

 

「ではこれからある程度走って加速したらジャ――跳躍する」

「跳躍……ですか?」

「そうだ。放物線を描くように大きく跳躍する。そして着地してまた加速して跳躍……これを繰り返す。台車で走り回ると荷が傷むからな。苦肉の策だ」

 

そして明かすことはないだろうがさらに風翔龍の力も用いて、いつもよりも加速する。

それは呂蒙にも負担をかけることになるが……まだ完全に能力が使うことを教えるわけにはいかないので、苦肉の策と言えた。

 

「気分が悪くなったり辛かったら、遠慮せず言うように。むしろ我慢されて体調崩された方が面倒だ」

「はい!」

「……また、暴れたりするなよ?  マジ――いや、本当に真剣に暴れるな? ……最悪は気絶させて運ぶぞ?」

「わ、わかりました」

 

気絶というと少し怖がっていたが、致し方ないだろう。

跳んでいるときに暴れられた方がよほど危ないのだから。

最悪リバースされても言いように衣服も二人分を数着用意……もちろんこれは秘密……してある。

 

では……行きますか

 

少々怖いが……いつまでも荒野のど真ん中でいるわけにはいかない。

今日はただでさえ俺一人ではないため、移動に時間がかかるのだ。

時間を無駄には出来なかった。

 

「んじゃ、いくぞ」

「はい! お願いします!」

 

まじめだなぁ……

 

真剣な呂蒙に苦笑しつつ……俺はなるべく体を上下に揺らさないようにして走り出した。

どんどんと加速していく事に、呂蒙は驚きながらも……それでも俺に迷惑をかけないようにと声を出すこともなく耐えていた。

 

よし……では

 

「跳ぶぞ!」

「はい!」

 

そう言いながら……俺は遙か彼方へと跳ぶように、大きく跳躍した。

高さにして100mほどだろうか?

助走したため放物線を描くようにして遙かに跳んでいく。

 

「え、えぇぇぇぇ!?」

 

さすがにここまで大きく跳躍すると思っていなかった呂蒙が、さすがに我慢しきれずに驚きの声を上げる。

そして気づく。

 

あ、高所恐怖症だったらどうしよ……

 

乗り物酔い……俺が乗り物ということになるが……の事は考えていたが、高所恐怖症のことまで考えていなかった。

しかしすでに行商当日。

もしもの場合は本当に気で気絶させる事になると思った。

だが……

 

「す、すごいです! 刀月様! 空を飛んでるみたいです!」

「お、おぉ!? そうだな」

 

しかし不安に反して呂蒙は嬉しそうに声を張り上げていた。

この時代、こんな高いところから下を見るなどあり得ないだろう。

城などに行けばまた別だろうが……それでも地に足を付けている感覚はある。

このように……身一つで空を落ちていくなど、経験があるわけがなかった。

 

まぁ折檻した時に何度か空中に放り投げた事はあるけど……

 

しかし当然呂蒙は折檻したことがないので初めての経験だ。

しかも折檻の時は完全に上空打ち上げ、後自然落下に対して、今の呂蒙は滑空体験だ。

俺以外では、この大陸において初めての経験だろう。

また飛び上がった時点で風翔の力で追い風加速を行っているので……より早く跳んで行っていた。

 

「大丈夫か!?」

「大丈夫です!」

 

風翔の力で互いの声もある程度聞き取り安いように周囲の風を軽減したりも出来る。

とりあえず大丈夫であることを確認して、俺はほっとしていた。

落ちて着地したときも、驚いていたが特段問題ないようだった。

飛び上がって風翔に力で浮く&追い風加速、滑空による移動。

これを幾度も繰り返して、俺と呂蒙は江都へと向かった。

 

 





本当にすすんでねぇな

次はまたヒロインの一人が登場しますよ~

まぁ当分ヒロインらしい動きするやつって・・・・・・呂蒙含めてもいないんだけどW

来週も上げられるようにがんばりま~す
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