「誠に残念じゃが……お主は死んだのじゃ」
ワシのせいでな、と申し訳なく付け足されたその言葉。僕と白い髭をこれでもかと蓄えたお爺さんしかいない空っぽのセカイに、沈黙が走る。
「どう、して」
震える声で聞き返す。
「……間違えた、それだけじゃよ。全てはワシの責任。殴るなら蹴るなりなんなりとして構わん」
そう言われたとしても、弱々しい老人へ暴力を振るうほど僕は怒り狂うことはできない。ただできたのはぎゅう、と拳を握りしめて俯くことだけ。
「遺されたお主の家族が心配か」
すい、とセカイに色が現れる。空から見下ろすカタチになったその映像は、僕にはとても見覚えがある人達がたくさんいて。
――おにいちゃぁん! どうして、どうしてぇ……ああぁぁあん……。
妹が泣く声。声を殺して泣く母さんを落ち着かせようと背を撫でる父さん。良い子だったのに、とハンカチで目元を抑える親戚のおばさん、おじさん。
「帰りたいか、あちらへ。でもそれはもう出来ないこと、なのじゃ……」
それはとてつもなく残酷な事だった。帰らせてくれ、今すぐ! 僕は叫んだ。流れる涙も鼻水もそのままに。
返せないのならなんでこんなものを見せたんだ! 喉が枯れてもお構いなしに、心の震えるまま。
老人曰く、一度生を終えた者が同じ世界へ舞い戻ることは前例が無いのだと言う。前例がない、というのは人間でも神でもやはり問題になるらしい。だから、今までの慣例通りに別の世界へと送る。
「ワシは神。それも全能ですらない、吹けば飛ぶような端くれ」
「だから、ワシの全てを持って償うしかない」
「お主は新たな世界の新たな生にて、何を望む? 叶えられる願いはそう多くはないが、最善を尽くすと約束しよう」
「……なんでも、ですか」
「ああ、なんでも、しよう」
「なら、強くしてください」
「成る程、病気一つかからない力強い体に――」
「いえ、エッチな方面で」
「……………………聞き違いかの?」
「僕をエロ同人で出てくる孕ませ触手にして下さい!!」
「正気か?」
「正気です」
「いやおかしいじゃろ! この流れだと『今度は天寿をまっとうできるように』ー、とかなるアレじゃろ!? お主チートハーレムとかまっっっっったく!? 興味ない男の子じゃったろぉ!!??」
「あ、腐ってはいました」
「え、ええ……最近の子ってこんな感じなのかの……?」
「ネットの世界には沢山いると思いますが」
「ちょっと? さっきまでのシリアス返してくれんか?」
「無理ですね、これが素なもので」
「待ってくれんか……衝撃的すぎて呼吸が……ヒィ」
「だ、大丈夫ですか!?」オロオロ
「(何も知らん人から見ると『お爺ちゃんを心配する孫』にしか見えんのになあ、なんでこうなんじゃ……)あ、ああすまんの……」
「で、孕ませ触手なんですけど」
「耳元で言うのやめて!?」
「エロ同人に出てくる触手は基本負けないじゃないですか。どちらかといえば男も女もヒィヒィ言わせる側じゃないですか」
「さっきまで家族見て泣いてて、今は孕ませ触手について冷静に語るとか本当お前狂っとるぞ」
「いやぁそれほどでも///」
「褒めとらんわ気持ち悪い」
「で、人外転生スキル複数持ってTUEEEとか流行ったじゃないですか」
「流行ってはおるじゃろ、それ書いてる人の心の中では」
「つまり! 孕ませ触手ならエッチなスキルも手に入るでしょ! なら相手をエッチな気持ちにさせてエッチして孕ませてハッピー! 僕はスキル手に入れて強化で強くなれてハッピー! どっちも幸せになれるんです! どうですか凄いでしょこれ」
「切り替え早すぎるし思考回路ヤバイ、なにこの子。はやくこの空間から出て行って欲しい」
「じゃあ早く転生させてくださいよ」
「自分の存在全て使って孕ませ触手へ転生させる事になってしまったこっちの気持ち考えてくれんか!?」
「早くしてくださいよ! じゃないと――」
「ああああああ!!!!!!!!!! 来るなああああああ!!!!!!!!!」シュオッ
――かくして、なんかヤバイ人間が孕ませ触手へと転生し、こことは違う世界へと降り立った。野に放たれてしまった。
――彼が何を思い、何をなすのか。それは……うん。知らない方がいいと思う。