超強化したはずのゴーレムは、ペコリーヌの一撃でなぎ倒されていく。そんな光景を見て歯噛みした魔王は、向こうで作戦成功とばかりにサイド攻撃体勢を取るカズマ達を見た。
「ぐぅ……!」
今だとばかりに全員の攻撃が魔王を襲う。それぞれの攻撃が全て魔王に通用する一撃だ。キャルの魔法はアクシズの加護、シェフィのブレスはホワイトドラゴン、めぐみんの爆裂魔法は障壁もぶち壊す威力。一つ一つも厄介なそれが、全てまとめて魔王へと直撃した。
流石にそれで倒れることなどないとはいえ、ダメージは多少では済まされない。思わず膝をつき、荒い息を吐いた。
「やっぱりしぶといわね」
「しかし、攻撃は確実に効いています」
「クルァァァ!」
キャルとめぐみんの声に答えるようにシェフィも吠える。そうしながら、それに、と視線を一人の少女に移した。ゴーレムを薙ぎ倒し道を作った、カズマ達のパーティーの最高戦力を。
「はぁぁぁぁ!」
「こ、のっ!」
魔王が呪文を放つが、それを左右にステップして躱したペコリーヌが一気に魔王へと肉薄する。ゴーレム生成などさせる暇はない、迎撃もさせない。そんなタイミングで彼女は剣を振るった。
咄嗟に魔王は持っていた杖で剣を防ぐが、その一撃で杖はあっさりと砕け散った。予想以上のパワーアップを果たしているペコリーヌの一撃に耐えきれなかったのだ。
しかし、その一瞬の隙で魔王は十分であった。即座に距離を取り、ゴーレムを再生成し、そして。
「なんだ? さっきより雰囲気が凶悪になったぞ?」
「恐らく向こうも最後の力を振り絞ったのだろう」
カズマの眼の前に現れたのは先程とは違うゴーレムが二体。量より質を取ったのか、立ち塞がるそれらはこれまでのゴーレムとも、最初に並んでいた側近たちとも桁が違う。
まるで自身の命を削って作ったかのようなそれに、思わずカズマは後ずさった。あれこれヤバいんじゃないか? と頭によぎった。
「いや、こっちには超パワーアップしたペコリーヌがいるんだ、このくらい」
「嘗めるな小僧。貴様が女神の加護で更なる超強化をしたように、我も似たようなことは出来る。……文字通り、命を削ることでな」
二体の最終兵器がペコリーヌに迫る。一体一体が魔王の分身とも言える強さを持っているそれは、ペコリーヌでも苦戦してしまうほどの代物で。
「く、ユースティアナ様!」
「ララティーナ!?」
ダクネスが飛び出し、ペコリーヌへの攻撃を庇う。メキメキと音がして、そのままダクネスは吹き飛ばされた。バウンドし、ゴロゴロと転がるダクネスだったが、しかし即座に起き上がるとこの程度では、と吠える。
ちなみに表情はこれこれ、と言わんばかりの笑顔であった。
「よし、サンドバッグに続け!」
「くぅ、こんな時にまで扱いがぞんざいだとはっ……!」
「喜んでんじゃないわよ! ったく。《アビスバースト》ぉぉぉぉ!」
ツッコミを入れながら最終兵器の片方に呪文を全力で叩き込む。魔王の分身とも言えるだけの強化を施した最終兵器は、勿論耐性は同じ。本来ならばそれはそれは強固な防御として盾の役割を果たしたのであろうそれであるが、いかんせん先程も述べたようにこの面子はその耐性をぶち抜く能力持ちばかりである。
キャルの放ったその一撃は、確実に最終兵器にダメージを与えていた。
「めぐみん!」
「分かっていますよ。《エクスプロージョン》!」
そろそろ連続使用のし過ぎで体にガタが来ていたが、そんなことは気にせんとばかりに爆裂魔法をぶっ放す。限界が近いのは向こうでもう一撃ぶっ放そうとしているキャルも一緒だ。魔力はもう尽きていてもおかしくない。体力を削って無理矢理戦っている。
咆哮が聞こえた。シェフィがダメージを受けた最終兵器を一体無理矢理押し倒し、損傷箇所にブレスを叩き込んだのだ。ひび割れが大きくなり、最終兵器の上半身が砕け散る。破片を体に浴びながら、どんなもんだとばかりにシェフィは再び一鳴きした。
「これすらも、破るのか……!」
「そういうわけだ。ペコリーヌ!」
「はいっ! 《プリンセス――」
驚愕の表情を浮かべる魔王を見ながら、カズマはペコリーヌに剣を向け、繋げる。超強化されている彼女を、更に自身の能力で底上げして。
「――ヴァリアント》!」
最終兵器を横薙ぎの一撃で両断した。上半身と下半身に寸断された最終兵器が崩れ落ちるのを横目に、ペコリーヌは魔王へと一気に駆け出す。
「ペコリーヌさま!」
食事での自身の超強化もあくまで一時的、肩で息をし始めたペコリーヌを見たコッコロが即座に彼女へと支援を掛ける。ふぅ、と息を吐いたペコリーヌはそのスピードを加速させた。
「終わりです、魔王!」
「まだだ! 《カースド・ライトニング》!」
近付けさせまいと雷撃を連打する魔王、それらを剣で弾きつつ、しかしペコリーヌは足を止めてしまった。魔王はその隙を逃さず、彼女を迎撃せんと魔法の連打は緩めず、破壊された最終平気に再度強化を施す。流石に完全再生とはいかなかったが、蘇った一体は背後からペコリーヌを握り潰さんと彼女を掴んだ。
「しまっ、ぐぅぅ!」
「ユースティアナ様! く、この木偶の坊! ユースティアナ様を離せ!」
ダクネスが最終兵器に駆け寄るが、彼女の攻撃ではびくともしない。だがそれでもダクネスは攻撃をやめず、その剣を振るっていた。
「ダクネスの攻撃が当たってるってことは、それだけ全力で必死ってことか」
「言ってる場合!? ペコリーヌ! 無理矢理出れないって言うなら」
「少々手荒な脱出になりますよ」
「いや待てって、俺の残った力でペコリーヌを強化して」
「カズマくん!」
剣を構えたカズマに、握り潰されかけているペコリーヌが叫ぶ。視線と視線が交差し、本当にいいんだな、とカズマは苦い顔を浮かべた。ぶっちゃけそういうのやりたくないんだけど、とその表情が述べている。
「ああもう、キャル、めぐみん――ぶっ放せ!」
「了解、《アビス――」
「どのみち私達も限界ですけれども、《エクス――」
呪文を構成しながら、キャルは思わず膝をつく。
詠唱をしながら、めぐみんは流れてくる鼻血を手の甲で強引に拭った。
「――バースト》!」
「――プロージョン》!」
「よし今だ、ペコリーヌ!」
二つの呪文が同時にぶつかるそのタイミングで、カズマはペコリーヌ再強化。爆風を勢いに変えて、彼女は再度魔王へと突っ込んでいった。勿論強引な脱出も含めて、ペコリーヌもボロボロである。が、それでもカズマの強化によって彼女の力は今全力で剣を振るえるほどに満ちていた。
「そのような無謀な突進など――む!?」
「グルァァァァ!」
ホワイトドラゴンのブレスが放たれる。足元が凍り付き、回避を不可能にさせた。
ならば、と魔法を連打し、先程のように隙を作れば。
「《デコイ》!」
「ん、なぁ!?」
魔法はスキルの効果により明後日の方向に飛んでいく。魔法の連打をその身に受けたダクネスは、ちょっぴり焼け焦げながら今ですと叫んだ。
「ま、まだだ! こうなれば、貴様を道連れにしてでも――」
刺し違えてでも、眼の前の第一王女は殺す。己は負けるが、そちらも無傷とはいかない心の傷を植え付ける。それもまた魔王の道。そんなことを思いながらも、魔王は全力で残った魔力を迎撃につぎ込む。
後は向こうの攻撃に合わせるようにカウンターを放てばいい。
「《狙撃》っ!」
そんなことを思っていた魔王の側頭部に矢が放たれる。それを受けて、魔王の頭が弾かれるように横にぶれた。
勿論ろくなダメージにはならない。が、その衝撃に魔王は思わずそちらを見た。
「き、貴様! こんな攻撃で我が倒せるとでも」
「思ってねえよ。これはな――」
「全力全開!」
「――お前に一瞬隙が出来ればいいんだよ」
「はっ、しまっ――」
気付いた時にはもう遅い。カズマの狙撃を受けたその一瞬で、魔王のカウンターを行うタイミングがずれた。ペコリーヌはすでに間合いを詰め、己の残った力のすべてを叩き込まんと剣を振り上げている。
魔力は練りきっていない。カウンターのタイミングはもう遅い。魔王の迎撃は、何もかもが間に合わない。
「絆の――《プリンセスストライク》!」
ペコリーヌの一撃は、魔王を確実に切り裂いた。
ドサリと魔王が倒れる。起き上がる気配もなく、動かない。
「やったの?」
「おいこらそういうフラグ立てるんじゃねえよ! ……どうだペコリーヌ?」
「大丈夫です。魔王は……討伐しました」
剣をゆっくりと下ろし、ペコリーヌがそう述べる。くるりと踵を返すと、彼女はこちらに嬉しそうに駆けてきた。その途中、体力の限界も来たのか、おっとっととバランスを崩す。
「おい、大丈夫かペコリーヌ」
「えっへへ~。ちょっとお腹が空いちゃいました」
「よし、いつも通りだな」
そんな彼女を支えたカズマは、ペコリーヌの言葉を聞いて溜息を吐く。そうしながら、じゃあ帰って飯でも、などと口にした。しようとした。
ゴゴゴゴ、と地響きの音がした。何だ何だ、と周囲を見渡すと、戦いの余波でボロボロになった魔王城が限界を迎えるところで。
「こういうところもRPGのお約束かよ!」
「わけ分かんないこと言ってないで、逃げるわよ!」
最後のクエスト、崩れる魔王城から脱出せよ。とばかりに崩壊を始める魔王城を見て急いで出口を目指す一行。が、その中で、コッコロだけは一人、倒れた魔王を見て動かずにいた。
「おいコッコロ、早く逃げるぞ」
「……主さま。わたくしは」
「魔王の娘だからここに残るとか言ったら本当に怒るからな! 本気と書いてマジだぞ!」
なにか言う前に先んじてそれを潰されたコッコロは目を見開き、そして思わず苦笑する。やはりお見通しなのですね、と呟いた。
ぐい、とそのままコッコロの手を握る。さあ早く、とカズマはそんな彼女を促した。
「こころ……」
そのタイミングで声。ば、と振り向くと、死んだはずの魔王がこちらを見ているところであった。まだやる気か、とカズマがコッコロを庇うように前に立ち、そして気付いたペコリーヌやキャル、シェフィにめぐみんにダクネスも再度武器を構える。
「案ずるな……もう戦う力も残っておらん。私はじきに死ぬ」
「だったら素直に死んどけよ」
「ははは。……いや何、こうして倒されたのでな……魔王軍の秘密などを語るのも一興か、と思ったのだが」
「興味ないわー」
はん、と鼻で笑ったカズマを見てそうだろうな、と笑った魔王は、そのまま視線をコッコロに向けた。
「こころ、お前は魔王と何の関係もない……だから気にせず、生きるがいい」
「お父様……」
「ふ、最後にそう呼んでもらえるのは――」
そう言って笑顔を浮かべた魔王は、今度こそ動かなくなった。満足そうに逝ってしまった魔王を見下ろしていた一行は、止まらない地響きでああそうだと我に返る。気にせず生きるも何も、このままここでのんびりしていたら向こうで待っている魔王と鉢合わせて気まずい再開を果たしてしまう。
慌てて魔王の間から飛び出す。とはいえもうすでに完全崩壊していて部屋と呼べるような場所でもなかったそこから回廊を抜け、最初来た道をなぞるように、一気に入口まで駆け抜ける。
「そういえばバニル達はどうしたんだ?」
「帰ったんでしょ! ああもう、どうせならあたしたち待っててくれてもよかったじゃない!」
そうして、入口にいたはずの面々がいないことに気付いたのはもうすでに入口に辿り着くか着かないか辺り。
その直前で、魔王が倒されたことを知ったらしい魔王の部下たちがわらわらとこちらに向かってきていた。
「ちょっと待て! おまえら、この惨状見て言ってんのか!? 城崩れるんだぞ!」
「やかましい! 魔王様の仇を!」
どうやらここで城とともに潰れて死ぬのが向こうはお好みのようだ。そう判断したカズマは、仕方ないとばかりに周りの面々に視線を向けた。分かりましたとばかりに前に出たペコリーヌが、入口に集まっていた魔王の部下たちを一網打尽にする。
が、いかんせん魔王戦で消耗していることもあり、それでもわらわらと集まってくる部下達を全滅させるには至らない。
「くっ、きりがないですね」
「ならば、《エクスプロージョン》!」
「ちょ!? 城が崩れかけてるんだってば!?」
「入口を広げるくらいならばまだいけるでしょう。どうせ既に吹き飛んでいるんですし」
めぐみんの言葉の通り、魔王の部下と一緒に更に吹き飛ばされた入口は、先程より風通しが良くなっていた。その分やってくる部下も多くなっている気がするが、通り抜ける道を作りやすくはなっている。
「じゃあ私が」
「だから今ここでドラゴンになったら城潰れるでしょ! ああもう、あたしがやるしかないじゃない!」
「キャルさま、お手伝いいたします。《オーロラブルーミング》!」
「サンキューコロ助! 吹き飛べ! 《アビスバースト》!」
「ここで放つ分にはそう大して変わらない気がするのは私だけか?」
「安心しろ、俺もそう思ってる。――走れぇ!」
「ヤバいですね!」
地響きが更に大きくなる。間違いなくもうすぐ城が崩れる音だ。急いでキャルの呪文で出来た隙間を走り抜ける。魔王様の仇、と騒ぐ部下達は出来る限り無視をした。そんなものに構っていては、崩れる魔王城と運命をともにしてしまうからだ。
「間に合った! みんな、無事か!?」
めぐみんが突入前に吹き飛ばした城門をくぐり抜け、魔王の城から脱出したカズマは、即座に振り返って面子を確認する。ペコリーヌ、キャル、コッコロ、シェフィ、めぐみん、ダクネス。全員揃っているのを確認すると、彼はそこでようやく安堵の溜息を漏らした。そうしながら、いやまだ近いな、と皆を最初の魔王城の見える丘辺りまで移動させる。
倒壊していく魔王城を見下ろしながら、今度こそ終わった、とカズマは息を吐いた。
「……倒したな、魔王」
「倒しちゃいましたね、魔王」
呟いたカズマに返答するように、ペコリーヌも呟く。それを口にしたことで、ようやく実感が湧いてきたのか、それとも疲労が戻ってきたのか。カズマはその場にへたり込んだ。そうしながら、やったやったざまーみろ、と拳を突き上げる。
「あー、いや、まあ、コッコロにとっちゃ嬉しいことではないかもしれないけど」
「いえ。魔王が討伐されたのは、大変喜ばしいことだと思います。――お父様も、わたくしが喜ぶ方が嬉しいのでは、と思いますので」
「そうか。じゃあ――っしゃあ! この勇者佐藤和真様が魔王を倒してやったぜ!」
「倒したのはペコリーヌでしょ。あんたも、まあ、一応活躍したかもだけど」
やれやれ、と肩を竦めるキャルであったが、その表情は笑顔である。彼女も彼女で、魔王を倒したという達成感を今更ながらに感じているのだ。それは何も彼女だけではない、シェフィも、ダクネスも、めぐみんも、そして勿論コッコロとペコリーヌも。世界を脅かす魔王を倒したことを。
「って、なあ。あれ」
「あれ、って? うわ」
そんなことを思っていた矢先。倒壊した魔王城にどんどんと集まってくる魔王の部下達を見付け、カズマは顔色を変えた。これってここにいるとあの連中と戦闘になるんじゃないだろうか。そんなことを考え、どうするどうすると思考を巡らせる。
「大丈夫よ。私に乗ってさっさと帰りましょう」
「シェフィちゃん、大丈夫なんですか?」
「マ、ッコロさんに回復してもらったし、跳んで逃げるくらいなら余裕よ」
そう言うとシェフィはドラゴンの姿になる。さあ乗れ、と体を下げたので、皆促されるままその背に乗った。
「よしじゃあシェフィ。アクセルまで、ひとっ飛び頼むぞ!」
「クルァァァ!」
バサリと飛び立つホワイトドラゴンを魔王軍が気付いた頃には、もう既に追いかけるのは難しい距離となっていて。
魔王を倒した勇者一行は、こうして見事に帰還を果たすのだった。