冥府の眷属 作:ぶっちかん
その女神は、その顔に、沈んだ表情を張り付けていた。――そこへ、男が。
「......あら、どうしたのかしら。」
「息子が、世話になっているらしいな、エレシュキガル。」
男はひどく疲弊したような顔で、目で、女神を見ていた。
「あら、どうやって知ったのかしら...っていうのは、野暮かしら?」
「アンタからもらった力だ、かまわない。...子供たちの中でもあの子は母親似だ。」
「えぇ、そうね。成長すればきっと、格好のいい...えーと...イケメン? ってやつになると思うのだわ?」
「ハハ、イケメンか。美丈夫といえばいいものを。アンタは見栄を張るな。」
「なっ...! み、見栄なんて張ってないのだわ!」
女神が怒り顔で反論する。
「わかりやすい。おそらく息子にもそのうちからかわれるだろうなぁ。」
「そっ、そんなわけないじゃない! 逆に私がからかうぐらいなのだわ!」
わかりやすく見栄を張る。実際は毎日のようにからかわれているので、男には完全に図星を刺されている。
「さて。それはどうでもいいとして...アンタとの契約。...あの村とアンタとの契約は既に切れている。もう、どこへなりとも行けるが。」
「どうでもいいって.........契約、ね。そうね、確かにもう契約は終わったわ。でも、これといった行く当てもないし、オラリオなんかに私が行ったところでね...」
「確かに。眷属の居ない神、それも陰鬱ときた。そんな神についていきたいと思う阿呆が居るのかねぇ。」
「ム...私の記憶に違いがなければ、あなたもその阿呆になったと思ったのだけれど。」
負けじと女神も反撃する。
「......まぁな。」
「それに、ハルツにも恩恵は授けたのだわ!」
「なッ...!?」
ここで、男が驚愕の表情をみせた。
「あら、これは知らなかったみたいね?」
フフン、と女神が鼻を鳴らす。
「マジかー...」
男はあちゃ~とでもいうように、顔面に手を押し付け、次の言葉を探す。
「お前なぁ...! 俺がどれだけアイツに――、っ...!」
言葉の途中で、男が胸を押さえ片膝をつく。
「......病...いや、呪いね。」
女神は疫病神でもある。その権能を使えないとはいえ、知識まで封印されるわけではない。その眼で、男の状況を把握する。
「...あぁ。アンタの目から見て、俺はあとどのくらいだ?」
「......そうね。あと7年って程度かしら。」
女神がきっぱりと告げる。
「...あと7年、そうか。」
「どう? 冥府の女神から死の宣告よ?」
女神は誇らしげでも、悲しげでもなく、それが自分だと言わんばかりに淡々と余命を告げる。
「...それだけあれば、十分だ。......あぁ、あと、もう一つ聞きたいことが。」
男は男でこれ以上寿命について深めるつもりはないと、次の質問へ。
「息子に、危険なことはさせないよな?」
「私からそんな話、持ちかけると思う?」
闇の神は、目に光をともし、男の目を見据える。
「――なら、いい。頼んだ。」
男は、自身の体の不調を無視してまで、女神に懇願するように、頭を垂れた。
これより始まるのは冥府の女神と自由を望む少年との物語。