冥府の眷属   作:ぶっちかん

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第1話 はじまり

 ハルツ・スフィアはとある屋敷の令息である。

 不自由なく(じゆうをしらず)生きた少年であった。しかしこの日、すべてが変わる。

「...お亡くなりに、なられました。」

 屋敷の主人が、息を引き取った。その主人には2人の息子と一人の娘、次を長女が継ぐことになっており、見合いの話も数多く用意されていた。

 2人の息子のうち、上の一人は迷うことなく、結ばれていた契約を履行させた。

 そして最後、一番下の子、少年のもとへもその知らせは届く。

 

 

 

 本日最初の知らせ、同時に待ち望んでいたものでもある。

「...そうか。お兄様は?」

「数日前から依頼なされていた行商人の馬車に乗り、外へ。」

「......お姉さまは?」

 お父様、お兄様、お姉さま、そして自分がいたこの屋敷から、一つの命が消えた。

「村のほうへ行かれました。」

「...そうか。」

 お父様が死んだことで、ようやく自由の身になったともいえる。姉は辺境の村への縛りを話し合いに、兄は外へ。

「......ようやくか。」

 それぞれに執事やメイドがついている、もちろん、自身にも。

「お父様は、最後に何か?」

「いいえ、最後まで言葉を発することはありませんでした。」

 そのメイドとも、これで終わりだ。

「そうか。」

 何も、言葉を残さなかった。まぁ、それは予想通りだ。

「...よし。今までありがとうな、やっぱ俺もオラリオに向かうことにした。ここにいても単なるごくつぶしになるだけだしな。」

 もちろん、ただ

 兄も、姉も、父親も。 この辺境にも神が居ることを知っておきながら、その神を負の存在としてあつかった。

 闇をつかさどるその神は、この地の者すべてより疎まれていた。 立ち入ることを禁ずとされた禁忌の地に、彼女は居る。

 誰も立ち入ることが無い故に、整備もまともにされず、見張ろうなどという人もいるはずはない。

「...」

 そう、自分を除いては。

 屋敷から歩いてしばらくのそこには洞窟があり、その奥に女神が居る。

「エレ様ー」

「っ! ハ、ハルツっ!? よ、よかったぁ~、もう来てくれないかと思ってたのだわ!」

「アンタがここにいる限りはここへ来るから心配すんな。」

「でも、今はまだ日中だと思ったけど...」

 今までは父親の能力により、見えない楔が自身には突き刺さっていた。一日中というわけにもいかず、おそらく、エレシュキガルを恐れていると思ったのだろう、夜の間は何の制限もなかった。

 基本的にこの付近は夜間の外出が禁止――というわけではないが、タブーとなっている。

「...実は、親父は死んでな。」

 18...それを考えると実に10年以上この神のもとに通っていたことになる。完全に秘密にし続けられたとは思わないが、誰にも何も言われていないから別に良しとしている。

 正直、実の父親が死んだ今でも、悲しみの感情は生まれていない。それは、闇、冥府の神がここにいるからではなく、父親との記憶がないからである。小さい頃に母親が消えた...らしい。どういった事情があったのか、語ることなく人生を終えた。あまつさえ自身の子供と直接話すことは決してなかった。特に、母親の血を濃く受け継いだ俺には顔すら合わせなかった。...楔を植え付けていたのは、管理だけはしようという考えなのか、母親への贖罪か。...ともかく、今はそんなことを気にする必要はなくなったということは確かだろう。

「...ま、顔も知らない親だ。どうとも思わん。...で、エレ様。......ステイタスの更新を頼む。」

 であって1年。眷属が欲しい神と、神と話していたい少年がそろえば何が起こるかはわかりきったことで、その日、神の恩恵を受けた。それから十余年。

 恩恵をもらって、昼間は蔵書を読みふけりつつ、体を鍛えた。恩恵の更新をするまでは、自身の体に身体能力は依る。自身の体自身がもろい状態で、特殊な能力は扱えないと踏んでそうした。それのおかげか体はいたって健康に、ステイタスを一度も更新しないまま、3階にある自身の部屋へ、体の動かし方だけで向かうことができるようになった。 もちろん失敗も多く、足を滑らし、塀から落ちたとき、体と地面が熱い抱擁を交わすことになってしまったり、山で転げ落ちたりもした。

 ...と、まぁ、紆余曲折あり、たった今、更新されたステイタスを確認する。

「...よ、ようやく...! ようやく今までの苦労が実を結んだのだわ!」

 迷宮に10年も居れば、今頃は上級とよばれて差し支えないほどに...とは、幻想めいた話なのだが。今よりは上がっていただろうに...

「...ようやく、レベル2か。...10年かかったぞ、おい。」

「で、でもっ、仕方ないのだわ。こんな辺境域、高め合う相手もいない。日中は敷地から出られない。それじゃあどうしても一人でしか鍛錬できないもの。」

 この周辺で恩恵をもらっている人物がどれだけいるのかは知らないが、現在のエレ様の眷属が俺一人であることは知っている。

「......それで、あなたのご両親は、亡くなったのね?」

 浮かれていた表情が消え、まっすぐにこちらを見据えてくる。

「ん、あぁ。」

「...そ。 ...それなら、話してもいいかもね、貴方のご両親のこと。」

「――。...知ってる...のか?」

「えぇ。これでも私は女神。ここに間違って落ちた時はどうしようかと思ったけど、近くの村に最初は居てね。あれは...100年ほど前だったかしら。

 ...まぁ、自分と変わらないように見えても、向こうは神、ということか。

「しばらくして...まぁ、追い出されたのだけれど。 供え物があっていままで生きられてるのだわ。」

「...うわー...」

 10年間つきあってきて、性格もよく知っているけど、なるほど。いつも空腹などとは無縁と言っていたのはこれが理由か。

「わ、私だって契約のもと追いやられたんだから! それにもともと闇をつかさどる女神なんて追いやられて当然でしょ?」

「...契約?」

 追い出された当初...か。

「そこからしばらく、この洞窟を自分が住みやすいようにいろいろ用意してたのだけれど、そこでやってきたのが貴方の父親。」

「親父が?」

「えぇ。あなたの父親にも恩恵を授けてたのだけれど、奥さんが亡くなった際に改宗可能な状態に切り替えたのよ。」

 親父がエレ様の眷属...

「あなたのお父様は、何をするにしても慎重でね。オラリオに居た頃は違ったらしいけど。」

「...親父が、ねぇ。」

 慎重という点はわかる。...それと、どこかの神から恩恵を受けていたというのは知っていたが...

「貴方の父親は、奥さんの死後、スキルを発現してね。そのスキルは日中しか使えないけれど、自身が触れた相手がどこにいるかがわかる。効果は3人。...丁度あなたたち子どもと同じ数ね。」

「...すると、親父は俺の。俺たちのことを案じていたと?」

「えぇ。貴方の父親は誰よりも愛を重んじていた。だからこそ...息子である貴方、一番母親の面影が残る貴方に、あの顔を見せることはできなかったのでしょうね。」

「...見たのか?」

「えぇ。この10年間で日中、一度ここへ訪れたのよ。...酷い顔だったわ。」

 ひどい顔。それがいったいどんなものか、普段の顔すらわからないので想像のしようもない。

「...なるほど。ま、エレ様がそれを知ってるならそれでいい。親父も報われるだろう。」

 エレ様の言葉はおそらくすべてが真実。であればそれでいい。

「それ以上は不要だ。俺がこれ以上親父のことを知る必要はない。本人が俺に伝えることのなかったことだ。」

「そう? ...わかったわ。」

 知ったところで、俺の何が変わることもない。これまでの決断とこれからの決断も、だ。だから今、言うことは変わらない。

「エレシュキガル、俺に付き合ってくれ。」

「えぇ......って、へぇっ!?」

 ...今のは、勘違いを生む言い方だったな。

「...俺は、オラリオへ行きたい。一生をこんな辺境で終わらせたくない。――自由を、知りたい。」

 逃げようと思えば、いままで、いつでも逃げれたのかもしれない。だが...

「隠れながら過ごす日常はいらない。...俺に――。俺の我がままに、付き合ってくれ。」

 望みをかなえる。自由を知る。そしてそれには神の協力が必要不可欠である。――なら、俺が誰よりも知る神が、ここには居る。この神でなければ、俺はこの先の道を...歩めないだろう。

「――。......自由...」

「あぁ。俺はどうしてもそれが欲しい、知りたい。だから、俺に力を貸してくれ!!」

 

 その瞬間、ランタンの火が揺らめき、黄金と亜麻の絹糸が照らされる。

「.........でも、私は、冥界の神。...自由なんてものとは程遠い女神。...私がその道についていけば、夢を遠ざけてしまう。」

 その夢の障害になると、女神は俯き言葉を紡いだ。

「...?」

 その言葉を受けた少年は、本気で何を言ってるのかわからないというような顔をして女神へ目線を向けている。

「それがどうした?」

「――...へ...?」

「障害なんてあって当然だろ。んじゃ、それ以外の理由はないな?」

「えっ? ...っと...え~っと...」

 女神が頭を抱えて理由を探し出す。

「わっ、私といると不幸になる!!」

「それじゃあもうなってるよ。このままでいい。」

 思いついた理由を切って捨てられる。

「じゃ、じゃあ役にたっ、立たないのだわ!?」

 一瞬言い淀んだのは残ったプライドが邪魔をしたのか、しかし言い切る。

「んなことねーよ。」

「ん~~~.................あ! .........貴方の、生を...削ぐ、のだわ?」

「よしわかった。」

 女神の顔が、複雑にゆがむ。

「よっ。」

「ひゃっ!?」

 少年が女神の足を払い、体勢を崩して抱きかかえる。いわゆるそれは、お姫様抱っこ、と言われるものだ。

「――。ん――?」

 地面に激突しないことを疑問に思ったか、目を開ける。すると......どうやら、ようやく状況を理解したらしい。

「なっ、ちょっ...!? ど、どどどどどどどどどどどどどどどどどど――!?」

「んじゃ、誘拐させてもらうわ。準備はさせてある。」

 少年が、洞窟の地を蹴った。

 

 

 




【ハルツ・スフィア】
 Lv.2
 力:I 0 耐久:I 0 器用:I 0 俊敏:I 0 魔力:I 0
《魔法》
 -
《スキル》
 -
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