冥府の眷属   作:ぶっちかん

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第2話 オラリオへ

 

 闇夜の岩場にて、焚火をつけ、どこからか持ってこられた丸太がそこにはふたつ。

「悪いなエレ様。俺の目的のために利用されてくれ。」

「...ハァ。もういいのだわ。その悪役ムーヴ。」

「あ、そう?」

 悪びれはするものの、期待した目を女神に向けた。

「...私は、貴方のことを思って拒否してた...つもりなのだけれど。」

 女神は、ハルツの父親の願いを履行しようとし、自分とは遠ざけようとした。しかしハルツはその気遣いをすべて台無しにし、女神を外の世界へ連れ出した。

「...ま、こうなったらどうも言ってられないし仕方ないのだわ?」

「ホントか! ...いやまぁ、ここで断られても連れてったんだけどな。」

 男は歓喜の表情。そしてくっく、といたずらな笑いを女神に向ける。

「...そうでしょうねぇ。...ハハ。」

 女神はわかっていたと言わんばかりに呆れた顔、そして苦笑へと表情を変える。

 

「――さて、俺も無計画ってわけじゃねぇ。あの辺境からオラリオまで、どれほどの距離で、自分の足でどれほどかかるか。...計算上ではこういった時間を含めて丸4日。兄貴の馬車よりは早く到着する。」

「4日...ね。」

「今日はここで休んで、明日は余裕をもってこの村に。」

「...こっちの荷物も、私も重いでしょう?」

「荷物はともかくお前は軽いしな...ま、それを考えても4日だ。」

 書類なら屋敷に大量にあったので、問題ないはずだ。

「...準備してもらったこの荷物も、食料と水以外は一人用だし...ねぇ、本当に私が使ってもいいの?」

 簡易寝具をゆびさして女神が問う。

「あぁ。気に病む必要はないぞ。俺はどこでも眠れる。」

「そ、それを言ったら私だって...!」

 このままいけば譲り合いの堂々巡り。目に見えて互いに譲る気はない。

「――いいっからっ、黙って使えッ!な!?」

「そういうわけにいかないってずっと言ってるのだわ!? 聞き分けのないガキそのものよ、ハルツ!!」

「見た目だけでみりゃテメェも俺と大差ねぇだろ!」

「今は中身の話をしているのだわっ!!」

「「ぐぬぬぬ.......!!」――ん?」

 言い争いの途中、不穏な空気――否、息遣いが聞こえた。

「だいたい――。? ...どうしたの。」

(静かにしてろ。...獣だ。)

 消えかけていた焚火を完全に消し、荷物の中からナイフを取り出す。

「...」

 ...獣か? ...獣、だけか?

 エレシュキガルを引き寄せ、周囲に気を回す。

(...逃げの一手だな。最悪、食料さえあればいい。...っつーか喧嘩すんのは面倒だから快適さとか求めないでくれ。)

(そうね。...わかったのだわ。)

 女神を最初に高台から投げ捨て、次に食料がはいった荷物を投げる。最後に自身は、低く加速し、崖になっている部分をつかんで引き下ろす。つまり、地面へと加速する形だ。

「っ...うお...おおおおおおおお!!」

 着地により体に走った衝撃に歯を食いしばり、落ちてきた神と地面の間に飛び込み、女神にかかる衝撃を自身の体で最小限に減らす。

「っく.........がはッ!!?」

 その真上から、先ほど別で投げた荷物が落ちてくる。

「...だ、大丈夫...?」

「.........も、目測...ミスった...」

 それなりに重い荷物が胴体にのしかかる。だが、どうにか女神は無事だということが分かった。

「ポンコツの系譜はポンコツ.........」

 ハァ、とため息をつこうとして――、状況を思い出す。

「ンなことしてるばあいじゃねぇな!」

 荷物を体で持ち上げるように起き上がり、背負い込む。

「...っと、早いとこ逃げるぞ!」

 女神を持ち上げ、駆ける。

「まさか夜も走ることになるとは...予定がパーだ。」

 誰に言うわけでもなく、小言でぼやく。

 

 朝日が昇り始めた。そのころにはもう追手もなく、場所は、2日目の宿泊地として候補に挙げていた村へと到着していた。

「はぁ...あー............疲れた。宿、さっさと借りよう。」

 

 などと、予想外のことに見舞われつつも、夕方、目が覚める。

「...エレ様?」

「ん、なぁに?」

 まだ覚醒しきらないうちに、女神に声をかける。

「...出るか。」

「そうね。...予定と違って夜だけど、大丈夫?」

「あぁ。...兄貴もそろそろここに到着するだろ。...ここで兄貴に会って、わざわざひと悶着起こすつもりもない。」

 予定外の事態に、避けようとしていた面倒に遭遇する可能性を作ってしまった。

「さっさと出てくのが賢明な判断だ。」

 兄貴とはとある確執が存在する。以前より強いプライドを持っていた兄は、自身のとある考えを否定した俺に強い怒りを覚えたらしく、それ以降俺を目の敵にし、やたらと突っかかってくるようになった。親父の言いつけを守り、虎視眈々と自由になる時を待っていた。故に知識量は俺を超え、体を鍛えていた俺には、ステイタスを手に入れて超えるとしきりに言っていた。

「兄貴が到着する前に出るぞ。とりあえず村を出ればいい。しばらく歩いてもらうぞ。」

 新しく立て直した計画では、この村からオラリオまで駆け抜けるということにした。丸4日かかるというのは、ステイタスを考えてのことだったが、今はレベル2、昨日もこれまでとは比べ物にならないスピードが出ていた。

 休み休み行けばいい、食料はここで大半を処分した。今持っているのは、向こうについてしばらく宿を借りるだけの金と一本のナイフ。

「――おい。」

 村を出ようと歩みだした背中へ、声がかけられた。

「...何故お前がここに居る、ハルツ!!」

 怒りの炎を隠すことなくぶつけられ、仕方なく振り返る。そこには、案の定実の兄が。

「何か、不都合でも?」

「...おかしいだろう、俺が出発した時、お前はまだ屋敷に居たはずだ! それが、何故ここに居る!!」

 こちらの質問には応えず、怒りの表情のまま、こちらをにらみつけてくる。

「答えろ! 何故お前がここに居る!!」

 呆れの表情と共に、前に視線を移す。

「行くか。」

「ッ、この...ッ!!」

 質問に答えなかった、それが怒りを増長させたのか、男は指が白くなるほどの力を込め、ハルツの肩をつかんだ。

「おまっ――。」

 次の瞬間、男の視界が180度回転する。そして、その視界から見えた弟の姿は遠かった。

 

「いいの?」

 闇の中を駆け抜ける少年の腕の中で女神が問う。

「いい。どうせあいつもオラリオに来るんだ、問答はそのときでいい。」

「そう。それもそうね。」

 

 

「さて、冒険者が集う迷宮都市オラリオ。到着か。」

 早退した距離もない少し先に外壁と門が見える。

「...ハルツ、入る前に話しておきたいことがあるのだわ。」

 女神がハルツの前方へ走り出て、ひとつね、と指をだす。

「私は、貴方に危険なことをさせたくないし、させるつもりもないわ。良い?」

「それを言っちゃ何もできねぇだろ。」

 迷宮なんて、危険の塊そのものである。危険なことをさせないのなら、俺の望みもかなわない。

「えぇ。でもこれは強制じゃないから。ただ、死んだりなんかしたら死んだ魂を直接呪って私も死ぬのだわ。」

 自信満々に結構凶悪なことを言う。

「実質強制だろ、それ。...まぁ、俺の体を最優先に行動はする。」

 女神はその言葉に満足したのか、歩みを進めた。

「そういえば、イシュタルの淫乱強欲雑食汚泥ポンコツ駄女神もこの世界に降りてたはず...」

「イシュタルって、確か妹だったよな。っつーかひどい言い様だな。」

 おもわず2、3歩退く。

「あぁっ、待って! 引かないでほしいのだわ! そうね、今のは言いすぎよね! 事実とはいえ言い過ぎたのだわ!? いくら悪逆卑劣な妹とはいえそんなこと言っちゃだめよね! あれ? ね、ねぇ、なんで引くのだわ? 待って? まっ、待って~っ!?」

 

 

「...で、無事オラリオには入れたわけだが。」

 あっけなく迷宮都市へは入ることができた。去る者は追い、来る者は拒まずという噂は本当だったらしい。

「まずは宿でしょ? ここまで体を行使させてしまったのだし、それくらいは私がするのだわ? 光栄に思いなさい?」

「へいへい。ありがたやありがたや、冥府の女神様ー。」

 少年はかるく感謝するように両手を合わせて頭を下げる。大して女神は不服そうに。

「...尊敬の意が感じられないのだけれど?」

 その言葉を受け、少年は跪いて、言葉を選ぶ。

「――お美しい冥界の女神エレシュキガル。貴方様のお気遣い、我が身に余る光栄でございます。」

「フフン、いい気分――でもないわね、尊敬の意が感じられないのだわ?」

 わざとらしいその様子に比べれば、最初のほうが幾分か、いや、かなり尊敬の意が込められていた。

「じゃあどうすりゃいいんだよ...」

「普通でいいのだわ、普通で。」

 別段起こる様子もなく、女神は若干あきらめたように言い流す。

「そうか。ま、ありがとな、エレ様。」

 少年の言い方は親しい友人に対する簡単な感謝だったのだが、それが最上位、何よりも普段通りに、敬意を感じられた。

「えぇ、よくってよ!」

 

「――それで、今後は?」

 無事、部屋をとることも出来、部屋で。

「...その前に、一ついいか?」

「? えぇ、いいわよ?」

 ひとつ、聞きたいことを聞くとしよう。この部屋についてだ。

「なんで...一部屋なんだよ。」

「えっ? あ、えーっと...てっきり、そうだと思ってたのだけれど。」

 止まる宿の食堂だなんだと確認している間に部屋と取ってくれたのはいいものの、その部屋はひとつ...と。

「...そ、そうよね、死の女神とおんなじ部屋で寝て二度と目覚めませんでした、なんて嫌だものね...」

「別にそういうわけじゃないが...ほら、俺は男でお前は女。 そうだろ?」

 当たり前のことだというように女神へ問う。

「...もしかして、私のことを気遣って...?」

「男とおんなじ部屋でなんて嫌だろ。」

「......同じ部屋で、寝る...寝る...な、なんてこと考えてるのだわっ!? もしかして体目当てっ!?」

 女神が自身の体を抱き、部屋の隅へ引く。

「...そうだな、実は俺はお前の体目当てでここまで連れ込んで――って、この部屋は、お前がとったんだよなぁ? 誘ってんのか淫乱駄女神。」

「なっ、だ、誰が駄女神よっ!!」

「お・ま・え・だ・よ。エレシュキガル...!」

「ひっどいのだわ!? 謝罪を要求するのだわ! 今、私の心はガラスみたいにたたき割られたのだわっ!?」

 ぎゃいぎゃいと言い争いを続ける。しかし、2人とも失念していたが、現在、月は真上、星もきれいに見える刻。つまり深夜である。そんな中、騒いでいたら、何が起こるかは明白である。 

 ドン! と壁がたたかれ、一言。

「うるせぇ!!」

「――ご、ごめんなさいっ!?」

 壁の向こうから聞こえてきた怒声によって、口論は終わる。

「か、神を黙らせる怒声...壁の向こうに居るのはおそらく、よほど名のある冒険者なのだわ...」

 部屋に静けさが満ちる。 この程度の口論は辺境では日常茶飯事だったので失念していた。当然といえば当然である。

「...寝るか。」

 口論していた議題は喧騒と共に投げ捨てられたとして、ベッドへ。

「...そうね。」

 互いにベッドへ。...特に落ち着かず眠れないということもなく、眠気は侵食してくる。

「途中で借りた宿、あそこは空き部屋がなかったからだったんだが...」

「でもここで2部屋も、お金がかさばるだけでしょう?」

「......ま、お前がいいならそれでいいわ。」

 冗談で襲うなどと言っていたが、それをするはずがないのも分かっているし、本気で罵倒をするはずがないのも分かっている。だからこそ誇張表現も多大に使われる。

 次第に、寝息が聞こえてくる。そのころには自身も、意識を闇の中へ手放していた。

 

 




「え、えぇっと? これを読めばいいのね、任せなさい?」
 女神が台本を両手で持ち、毅然とした態度で読み上げる。
「オラリオへたどり着いた2人、女神は妹、少年は兄との確執を持ったまま、歩み始める。自由を知るために、明日へと進む。次回、ギバラギバギバギバライカ...? えっ、あ、これ落書きじゃない! ――次回っ、『オラリオで』! さ、さぁーって、次回もサービスサービスぅ!」
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