冥府の眷属   作:ぶっちかん

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第3話 オラリオで

 

 

 

 活気づく街、人が行きかう大通り。道行く人の明るい顔はどこぞの祭りかと錯覚させられる。

「これで平常っつーんだから驚きだよな。」

「...こ、これが、平常...なのだわ?」

 女神は驚愕の顔を黒いフードの下からのぞかせる。それもそのはず、女神はいわゆるコミュ障、そしてぼっちという性分を持っている。冥府の底で暮らしていたはずで、最近まで洞窟にこもりっきりだった。そんな女神が人に慣れている道理はない。

「これに慣れろ...っつーことはいわねぇし、どうする? 今後、眷属は増やす方針で行くか?」

「え? わ、私はあなたが居れば十分だけど。」

「んじゃ、しばらくはこのまんまだな。...ひとまず、目標はマイホーム...ってか?」

 いつまでも宿で暮らすつもりはない。いつかはマイホームを手に入れるとこを目標にする。さて、それにいくら必要かは今後調べていくべき課題だ。

「お、ここか。」

 ギルドに到着した。大理石で造られた広大なロビー、それが大きな神殿、前庭の奥に見える。

「それじゃあエレ様、しばらく待っててくれ。登録だけ済ませてくる。」

 そう言って雑踏をかき分けて受付へ。そこに居るのはヒューマンの女性だった。

「冒険者登録手続きをしてもらえますか?」

「はい、わかりました。それではこちらの用紙に必要事項の記入をよろしくお願いします。」

 一糸の乱れもない対応に、この対応は日常茶飯事だということがうかがえる。

 人気のないカウンターへ誘導され、書類に本名、所属ファミリア、年齢種族使用武器と書き込み、手渡す。職員の女性はその書類に目を通し、こちらへと視線を移し、姿勢を正す。

「改めまして、オラリオへようこそ、ハルツ・スフィア氏。ギルド共々私達はあなたを歓迎します。」

 そんな定型の文句を聞き、一人の男子として心が沸き立つような、期待が胸の内に生まれる。

「迷宮内での被害、損失。また、ご自身のお命のについてもギルドは一切の責任を負いかねます。やり直しが存在しないということを、くれぐれもご自覚ください。 そして、注意事項になりますが、度の超えた違法行為は罰則の対象になります。それに際し、冒険者の登録が抹消された場合、ギルドからのサポートの停止はもちろん、ダンジョンから持ち帰った『魔石』及び『ドロップアイテム』はすべて強制没収となりますので、ご注意ください。」

 説明を聞いたが、なるほど。要するに問題を起こすなってことを言いたいだけだ。...ファミリア間での問題もカウントされるなら、イシュタルファミリアには近づかないようにしなければ。...ウチの神が何を言うかわからない。

 一通りの説明をうけ、おそらくこれも定型文であろう、質問をひとつ。

「迷宮探索アドバイザーはお付けになられますか?」

 ...アドバイザーか。確かに、そういったものは必要かもしれない。今の俺には迷宮に関しての知識はないし、そもそもの話だ、自身が持つ情報を照らし合わせるのにも有用だろう。

「あー、はい。お願いします。」

「それでは、担当アドバイザーの性別にご要望はありますでしょうか?」

「...性別?」

 そんなことを聞くのか?という疑問が態度に出てしまったようだ。その女性職員が口を開く。

「はい。それと種族についてのご要望もお聞きしております。」

 男性恐怖症女性恐怖症、ドワーフやエルフなどの対立。それらによるトラブルを避ける...ということだろうか。

「性別種族はそちらにお任せします。」

「わかりました。それで、本日は迷宮へ行かれますか?」

「いや、今日はこの都市を巡ってみようかと。」

 だからエレ様を連れてきたのだが...はやいとこ戻るか。

「今日はこれで、また明日来れば?」

「はい、明日、また同じ時間にここへいらしてください。アドバイザーの顔合わせを行いますので。」

 わかりました、とだけ反応を返し、女神のもとへ。

「...?」

 そこで、何か違和感を感じ、腰に手をやる。

 

「――。...ない。」

 本来そこにあるべきものがない。 本来そこには金貨が詰まった袋があったのだが、見事に手は空を切る。

 すぐさま周囲を見て――犯人であろう人物を見つけた。...相手を選んでいるのだろうか。

 走って逃げていく姿を見て、十分に追いつけると踏んだ。人混みの合間を縫い、追っていく。駆けつつ表通りの露店から一つ、果実をとって投擲する。そして狙い通りに膝裏に着弾し、盗人の体勢を崩した。

「あ、おい!!」

 果実をとったことに店主が声を荒げるが、それを一旦超えて、盗人のもとへ。金貨が入った袋を取り返す。

「よかったよかった。さ、早く逃げろよ盗人。次はうまくやるといい。」

 自分の金さえ戻ってくればそれで結構、店主に果実分の代金を払い、女神のほうへ足を向ける。

「おい、アンタ、金をとられたんだろ?」

「ん、あぁ。でも取り返したしな。果実分の代金は払ったしそれでいいだろ?」

「まぁな。でも珍しいな。あのガキが金を取り返されたのなんてそうそうみねぇんだが。」

 店主が話してくれそうだったので、足を止めて、果実を見る。

「これ3つ買うんで、詳しく。」

「5つだな。」

「...わかった。」

 果実を購入し、そのままわきのほうへ。

「アレはどうも冒険者登録をしに来た奴らを狙ってるらしくてなぁ。それに限らず新米冒険者が結構カモになってる。」

「対策はしないのか?」

「そういうのはギルドの仕事。冒険者共は我関せずさ。でもまぁ、賢い方法だと思うぜ? 稼ぎは大したことねぇだろうけどな! アンタのそれを見る限り、新米の中じゃ最高額だったんじゃねぇか?」

 と、金貨が入った袋を指さされる。

「ハハッ、かもな。 ...で、今のは不定期に?」

「あぁ。だがそろそろ痛い目見ることになるぜぇ? 過去の新米たちもそろそろ育ってきてる。アンタと違って盗まれちまった奴がよく話を聞きに来てたよ。それと、俺の勘だがあのガキは俊敏だけなら10階層に居る程度の冒険者と同じくらいだろうな。」

「ほう...」

 俊敏だけがとりえな盗人、というところか。

「捕まえとけばよかった。詳しく知りたい。」

「常連になりゃあ情報はくれてやるけどな? どうだ。」

「ハハ、考えとくよおっさん。ありがとな。」

 何かに特化しているということは、それだけで強みになる。どういった弱さがあろうとも、長所を生かすことができればそれでいい。 できれば会って話してみたい。悪人であろうと善人であろうと、特殊な者は興味を惹かれる。

 

「エレ様。」

「ひゃっ!? な、なんでそっちからくるのだわ...?」

「いやー、ちょっとな。 ほら、本屋を探すんだ、行くぞ。」

 

 

 翌日。

「今日はここに居るのか?」

「えぇ、私も知識をつけなきゃなのだわ!」

 そう気合を入れる女神の手には、『ぼっち神必見!ファミリアってなぁに?オラリオって?』という本が。...そうだなぁ、ぼっちの神とかもいるもんなぁ...

「...な、なに? その生暖かい目は。」

「...なんでもない。それじゃあ行ってくる。」

 目じりに浮かんだ涙をぬぐい...

「...俺もそう変わんなくねぇか?」

 ...と、いう事実に行き着いてしまったが、ひとまず忘れて外へ。すると、廊下には人が。同じように部屋から出たところのようだが、部屋の位置的に、初日にうるさいと怒鳴ってきた部屋の男だろう。

「ん、あぁ...おい、テメェ、そこの部屋で夜中騒ぐんじゃねぇよ。...ハァ、金はとられるし隣はうるせぇし、散々な出だしだ。」

 ドワーフの男だ。なるほど、野太い声だったのも、迫力があったのもうなずける。

「...金をとられた? もしかしてこんな、小さなガキだったんじゃねぇか?」

「ん? なんだ、知ってるのか!」

 男がずいずいと迫ってくる。

「あぁ、俺も昨日金を盗られかけたもんで。」

「なるほどそうか、じゃあ俺たちは同じ被害者ってわけだ。それじゃあもちろん、探してるよな?」

「いやまぁ、そうだな。探してる。」

「よし騒音の件は水に流してやる! そのガキを捕まえるのに協力しろ!!」

 肩をつかまれて目を見据えられる。...拒否権はないぞ、と言わんばかりの目だ。...しかたない。

「ウチの女神に悪印象なんざ持たれてちゃ困るしな。で、捕まえるのに協力ってのは、調査も含まれるのか?」

「あぁ、そうだな...どこによくあらわれるか、なんて情報があればそれでいい。そのあとは俺がやる。」

 ひとまず出よう、とハンドサインで表し、外へ。

「逃げてったとこにあった露店で聞いたんだが、どうも新米冒険者を狙っているらしい。」

「新米だと?」

「俊敏に関してはかなりのものだった。一直線の通路などに行けば、Lv.1で追いつくのは難しいかもな。」

「なるほど...それじゃあ待ち伏せをするのはどうだ!」

「そっちもオラリオ外部から来たクチだろ。それじゃあ地理に関しちゃ勝てる見込みはない。待ち伏せもできなさそうだ。」

 ここはやはり、情報を集めることが先決だというこちらの意見とまだるっこしいのは苦手だというドワーフの男で案を出しつつも、ギルドまでやってきた。

「これからアドバイザーとの顔合わせでな。気になったならそっちの通り、果物屋のおっさんが何か知ってるかもしれねぇし聞いてみろ。こっちはこっちで職員に尋ねてみる。」

 こちらは話をしてみたいから、あちらは金を取り戻したいから。聞いた話によると案外多めの額をとられていた。 誰かにつかまる前に話を聞いてみたいこちらとしても、探すのには賛成だ。なのでできるだけ協力しよう。

「えーと...」

 ギルドに入り、受付に昨日の受付が―と話を切り出すと、ボックス型の部屋へ案内された。

「...」

 ひとまず、あのドワーフの男の.........後で名前を聞いておこう。アイツの目的を達成させてから、自分のほうの目的にかかろう。金を取り返すことができればそれでいいはずだ。......しかし迷宮にも一度潜っておきたい、そのための準備も必要だ。

 と、思考していると、扉が音を立てて開いた。

「本日から貴方のアドバイザーを務めることになりました、レイ・ロスラインです。今日からよろしくお願いします。」

「...レイさん?」

「はい。レイ・ロスラインです。」

 こちらが聞き損じたと考えたのか、もう一度名前を言ってくれる。

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 多少面食らったのは、最初に受付をしてくれた女性だったということ。目麗しいヒューマンだ。

「では、これから打ち合わせをさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。」

「えぇ、はい。」

 質問は後に回し、まずは今後について。

「それでは...使用武器は短刀、とのことですが、ギルド支給のものもご用意できますが、どうなさいますか?」

 こちらで武器を用意する、ということとダンジョンについてある程度の質問をして、顔合わせは終了。そして最後にもう一つ。

「近頃新米冒険者が狙われた盗難が相次いでいると聞きますが。」

「そちらの件についてはギルドも対策を講じ始めております。」

「何か、知りません?」

「...目撃情報としては、ダイダロス通りにも見かけられた、というのがいくつか。」

「なるほど。わかりました、ありがとうございます、これからも頼ることになると思うんで、それじゃあ。」

 ギルドを出て、ドワーフの男を探しに果物屋へ。

「おぉ、来たか。今さっき情報を聞きに来た男がいたが、ドワーフっつーのは短絡的だな。」

「そういうのはあんまり言わないほうがいいと思うけどな。それで、その男は?」

 店主が指をさした。そちらを見るとあの男が聞き込みをしてる。...どうやら、煙たがられてるみたいだが。

「ありがとう、またあとで。 おい、気持ちはわかるが迷惑をかけてちゃ調査もままならんだろ。」

 店主の指の方向へ進み、男の肩を叩いて注意する。

「いやぁ、ここの店主がテメェなんぞに情報は売らねぇっていうんだ、おかしいだろう!」

「生憎アタシゃドワーフが嫌いでね! さっさとどっか行けって言ってるんだよ! アンタのお仲間ならさっさと連れてきな!」

「ハハ。すんません。ホラ行くぞ。」

 つかんで路地裏のほうへ。

「何故急ぐ。そんな理由ないだろ。」

「いいやあるんだ、あの金がないともともとの計画が狂う! それで、そっちはどうだった?」

「ダイダロス通りで目撃情報があったらしい。それも、かなり多くの。」

「それじゃあさっそく行こう! ダイダロス通りだな!」

 ダイダロス通り。それは迷宮のように入り組んだ地形の街で、迷ったら抜け出せないという噂まで存在する。

「俺はこの周辺を探すから、そっちは頼めるか?」

 どちらで捕まえやすいかといえばこちらだろう。獲物の本拠地で探すなんざできそうもない。

「あぁ、分かった! 任せたぞ!!」

 そのドワーフの声を背中で聞いて、奥へと歩みを進めた。

 ...名前を聞くのを忘れた。




「ひょんなことから協力関係を結ばされたハルツ、目的の盗人は一体何者なのか、何のためにそのような行為を続けているのか。次回、『盗人を追え』」
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