冥府の眷属 作:ぶっちかん
そうして数時間。太陽も真上に上って、一度昼食を取りに行くかと思ったところ、例の盗人が真下の路地裏へ現れた。
「...」
金貨を落とし、音を鳴らす。無論周囲を警戒していた盗人はそちらへ振り替える。そして次は上を。 ――だが、ここは一枚上手をいった。
「――、――!?」
つかみ上げて肩に担ぐ。
「っ、は、離してッ!!」
もちろん盗人は抵抗するが、ステイタスの差がこういったところで出てくる。...というかこの声、女性か。
「やはり、俊敏特化か...」
おそらく今まで捕まえられなかったのはよほどの幸運、この俊敏に特化した性能、新米に絞った狙い、それに、人波を縫うこの小ささもあるだろう。
「本当に子供なのか、小人族なのか、どちらだ?」
担いだまま尋ねてみる。
「...っ。」
まぁ、反応が返ってこないのは当然ともいえるだろう。
「こっちとしては、ギルドに突き出すつもりも直接的な危害も加えるつもりもない。ただお前に話をしたいってやつが居るから、それだけ協力してくれれば...そうだな、ある程度金はやろう。」
「...本当か?」
「あぁ、本当だ。そうだな...一万、それでどうだ? 俺と話すのも込みで。」
「!」
この少女本人に話をきけるなら、この程度の出費は目をつぶろう。
「今日持ってきた全額、1万ヴァリスだ。」
少女を降ろして金貨袋を渡す。
「......なんで、こんなことをする。...んですか?」
警戒されるのは当然だろう。こちらとしては目的を話したつもりではあるのだが。
「言ったろ、話をしてくれるだけでいい。俺と、もう一人。今日一日をかけられる金額はあるだろ?」
「...わかりました。」
「で、歳はいくつだ。」
「......11。」
小人族ではなく、子供。それでいて盗みをする...
「盗みをするからには理由があるんだろ? それを教えろ。」
「......その前に、一つ聞いていいですか?」
「あぁ、なんだ?」
「...何で、金を盗られかけたのに、あのあと、何もしてこなかったんですか?貴方のステイタスなら...」
少女の顔には困惑の表情も含まれている。
「あの時は興味がなかった、それだけだ。だがあの後興味を持った、だからこうして今は話をしてる。」
自由を知る、すなわち好きなように生きる。俺は、この信条の下行動しているだけに過ぎない。
「その足があれば他にできることもあるだろう。サポーターなんてどうだ?」
「...この足は、逃げる中で手に入れたものです。...いろんな人物に恨みを買った今、サポーターなんてすれば...」
俺よりも若いのになかなかに聡い。そのとおりだ。サポーターとなっても雇ってもらえず、挙句の果てには恨みを晴らすために迷宮へおきざり、なんてこともあるだろう。
「...フム、まぁ、まずはもう一人の奴を探す。ここで持ち逃げも良いだろうが、その時、どうなるかは考えとけ。」
路地裏を歩いていく。
「...宿で待つか。」
ダイダロス通りをある程度探し、馬鹿らしくなって宿へ。
「そういえば名前を聞いてなかったな。なんていうんだ、お前。」
少女はおとなしくついてきて、宿にも警戒はしつつやってきた。
「シトラ・ロスライン」
「...ロスライン?」
アドバイザーの名前だが...と、思えばどことなく似通った個所もある。
「......まぁ、いい。」
自分たちが過ごしている部屋ではなく、隣の部屋の扉を叩く。すると、内側から扉が開いた。
「ん、あ。」
「...やっぱここかよ。ダイダロス通りはどうした。」
「いや、な? ひとまず昼食をと思ったわけだ。遅めだがな。そっちこそどうした? ...! 見つけたのか!」
ガバっと男が立ち上がる。
「まぁ待て。おい、こっちだ。」
シトラを率いて部屋の中へ入る。
「っ、ようやくだ! よくもあの時俺の金をとりやがったなクソガキィ!」
シトラへつかみかかろうとした手をはじく。
「まぁ、待て。こんないたいけな少女に暴力をふるうのは大人げないだろ。」
「なんだぁ? 正体が少女ってことでそっちの肩を持つのかよ。」
「肩を持つとかじゃねぇよ。それで、お前は金を取り戻したいんだろ?いくらだ。」
「...1万ヴァリスだ!」
「嘘です!この人2000ヴァリスしか持ってなかった!」
一瞬で矛盾が生じた。だがここで信じるのは...
「2000な? お前もケチケチしてんなぁ...」
「...っ、うるせぇ! 2000でも重要な資金だろうが!!」
最初からきちんと話を聞いておけばよかった。
「...ハァ。2000か。ちょっと待ってろ。コイツに危害を加えるなよ。」
2人を残して部屋を出て、すぐ隣の部屋へ。
「あ、お帰りなさい。」
「あぁ。少しな。」
2000ヴぁリスを手に取り、すぐさま隣の部屋へ。
「おい、これでいいだろ。これで問題解決だ。」
一応そういう話だったのでシトラを連れてきたが、これでひとまずこの男の...
「そうだ、お前も名前を聞いてなかった。ドワーフ男、名前は?」
「ちょっと待て。......確かに2000ヴァリスだが、なんでお前が払う?」
少女をかばうようにも見えるというか、まさにかばっているようなものなのだが、その行動を見てその質問だ、当然のものだろう。
「俺はコイツと話をする必要があるからな。」
面倒な件を先に終わらせれば、いちいち気にすることもない。
「だからお前の問題は終了だ。それでいいだろ。」
「ま、金は戻ってきたし構わねぇか。で、名前だな? 俺はドライ・ドラム。見ての通りのドワーフだ。お前は?」
「俺はハルツ・スフィア。ヒューマンだ。今後も何かあれば、何かと協力しよう。」
「あぁ。お、それならパーティを組まねぇか? お互いに新米冒険者だ。」
パーティか...と、なるとステイタスが合わないだろう。
「悪いが、俺はLv.2でな。パーティとしちゃ成り立たんだろ。...さて、シトラ、ついてこい。」
部屋を出て、大通りを歩いていく。
「...あの、これから何を...?」
「あぁ、部屋でわざわざ聞くことでもないしな。このあたりでいいだろ。」
裏道へ入る。
「何故お前は人から金をとる? 生きてくためっていうなら、冒険者になればよかっただろう。」
「.........それじゃ、必要なだけのお金に足りないんです。......弟が病気で...」
「なるほど。それの治療か。」
簡単に信用しすぎだと人に言われるだろうが、そんなことは神の前に連れていけばすむ話だ。嘘だったとしても、こちらに危害を加えないのなら問題ない。
「弟だけか、お前のところの主神は?」
「...何もしてくれません。」
弟と共に生き残るために必要だったから、と少女は続ける。
「...エレ様?」
「嘘は言ってなかったわ。」
表通りから、エレ様がやってくる。10年もあれば言葉を介さずともある程度意思疎通ができるようになる。宿でついてきてくれ、とハンドサインで伝えていた。
「よし、それじゃあシトラ、弟のところへ俺たちを連れていけ。 ウチの女神は病もつかさどる。どうすれば助かるかもわかるだろ。」
「えぇ、任せるのだわ。」
「ここです。」
何とか雨風をしのげるという、最低限しかない家だ。
「この子ね。......? この処置は、貴方が?」
「いえ、お医者様がしてくださってます。」
「そう、多分貴方、騙されてるわよ。この病気にこの処置は間違ってるのだわ。」
自身の権能であったものについてはこの女神は自信を持っている。だから闇の中や病のことについて聞かれた時ははっきりと答える。自分の専門外については消極的なのだが。
「騙されているって、そんな...!? でも、お医者様は...!」
「それなら、本人に聞いてみるのが一番なのだわ。そのお医者様は、今日も?」
「はい。...もうすぐだと思います。」
「そう...それなら、ハルツ。」
久々にこの女神のまっすぐな瞳を受けた。自身の領域で間違いを犯されたのが、ウチの女神には許せなかったのか。
「もちろん。」
そうして隠れてその『お医者様』を待つことしばらく、やってきたようだ。
『お邪魔しますよ。 ...それでは、まず金を。』
『......あの。』
『はい、なんでしょう。』
先ほどの様子からして、自称医者とその用心棒...といったところだろうか、2人が居る。
『...弟への処置は、間違っているんですか?』
『...誰からそんなことを?』
少し場所を変え、屋根の上へ。
「――私よ。」
「おお、これはこれは、女神殿。ですが、こちらの子供は体が弱く、正規の処置は不可能なんですよ。」
「...この子を生かさず殺さずの状態にしておいて、よく言うわね。それは何? 毒かしら。」
「いいがかりを言われては困ります。私はこの子の命を――」
自称医者の言葉を女神がたたき切る。
「嘘ね。知らなかったのかしら、女神に嘘は通じない、常識でしょう?」
「チッ、だがまぁ、犯罪にするには証拠が足りない! ここままとんずらすりゃ俺らの勝ちだ!」
そういって、二人が家の外へと飛び出そうとした。そのときに入り口で立ちはだかる。
「よっと。」
眼前の男の顔面を壁へたたきつけ、医者の首根っこをとらえる。
「ギルドに引き渡せばいい...か。」
そのまま首を絞めて、意識を落とす。
「エレ様、その子への処置は?」
「お金はかかるだろうけれど、医療系ファミリアに頼めば、病気自体はすぐ直ると思うのだわ。毒は別で取り除く必要があるけれど...」
「よしわかった。ひとまずギルドに行く。シトラ、弟を連れてついてこい。」
ギルドに男たちを引き渡し、ディアンケヒトファミリアへ。そしてシトラの弟であるレフを診せたところ、女神の言った通り簡単な処置と、解毒が行われた。
その結果、所持金額が1万ヴァリスになった。
「よし、それじゃあ明日。エレ様、お前はコイツの改宗を頼む。」
そうすることによって、今後迷宮へ連れていくこともできるようになるかもしれない。
「俺は今から迷宮に行ってくる。一度この目に見ない限りはどうしようもないしな。」
「あ、それじゃあステイタスの更新をするのだわ?」
あぁ、と上着を脱いで、空いているベッドに横になる。そして、いつも通りの神の恩恵による変化がもたらされる。
「......よし、と。 ...俊敏が少し上がっている程度ね。」
「そうか。...さて、それじゃあ行ってくる。」
装備はナイフ一本、そして魔石を入れるためのショルダーが一つ。
防具などは今後買っていけばいいだろう。 今までは防具もポーションもなかったのだ。
「何も問題はない...が。」
歩みを進め、早々に5階層へとたどり着いた。
正規ルートに関しては、ギルドにて13層までを記憶した。
「このナイフも、どこまで通用するか...」
すでに見てわかるほどの刃こぼれが生じている。切っ先などは最初の段階で欠けてしまっている。それからは素手とナイフを使い分けて進んでいる。
森と同様に、知識を最初から持たずに、戦いの中でその特徴を覚えつつあるが、名前に関してはさすがにわからない。
などと思いつつ、11階層へたどり着いた。
「ステイタスは十分...か。」
だが武器が、ここで完全に使い物にならなくなった。
「...」
周囲を確認する。すると、何か棒のようなものが。そしてその奥から、いかにもトロルというようなモンスターが現れた。
「いいじゃねぇか...もらうぜ、その武器!」
真正面から接近し、その大ぶりな一撃を跳んで回避、それと同時に上あごと下あごの間に両手を挟む。
「――はぁぁぁぁぁぁッッ!!」
閉じる力を超える力で開き、体と頭部を分離させる。すると、モンスターは塵のように消えた。そこには魔石と、モンスターが持っていたこん棒が落ちている。
「さて、と。
そのこん棒をつかみ、指を埋め込むほどに握る。
「掛かってきやがれェェ!!」
「え、ハルツなのだわ?」
「はい、女神様。...あの人は、興味を持ったという理由で私たちを助けてくださいましたが...」
「...見捨てられないか不安、ってわけね。」
「...はい。私は、人に興味を持たれるような人間ではありません。わ、私もできるだけ頑張りますけどっ、それでも...」
「大丈夫よ。...あの子は多分、貴方たちの姉弟愛に惹かれたのだわ。」
「姉弟愛...ですか?」
「えぇ。...愛というものを実感できずに過ごしてきたから興味を持った、という言葉でしか感情的に動く理由を見いだせないのだと思うのだわ。...あの子が一度、興味を持ったのならその人がどんな人であれ、彼は見捨てない。...だから、安心していればいいのだわ。」
「というわけで次回、『おかいもの』」