冥府の眷属   作:ぶっちかん

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第5話 おかいもの

「2万4000ヴァリスになります。」

 ドロップアイテムなども持ち帰り換金したところ、それだけの金額を手に入れることができた。

 そして、帰る前に自身のアドバイザーを呼んだ。

「お待たせしました、ハルツ・スフィア様。何か御用でしょうか。」

「ロスランドという姓の姉弟を見つけたんですが。心当たりはありませんか?」

 そう言うや否や、アドバイザーの表情が変わった。

「...っ、ど、どちらでっ!」

「...俺の質問に答えてくれますか、心当たりは?」

「......相談室へご案内します、こちらへ。」

 ボックス型の部屋へ最初と同じように案内される。

「...その姉弟の名は、シトラと...ロイ、でしょうか。」

「はい。」

 この様子からして、血縁という線はまちがって無かったことが確認できた。

「...私の、家族です。...以前、闇派閥によってオラリオで多くの人が虐殺され、家を破壊されました。...その時の家の爆破で行方が分からなくなっていましたが...」

「なるほど。...実は昨日から保護していまして。」

「...それは...よかったです。あの...できれば、そのまま保護していてはくださらないでしょうか。少額ではありますがこちらからもお金はお渡しします。」

「別に金には困ってないですけど...」

「いえ、どうか受け取ってください。...そして...できれば、私のことは伏せておいてください。今更私が出たところで、あの子たちは覚えていないと思いますから...」

 目を伏せ、会う資格はないというように話す。

「...わかりました。それでは。」

 涙を流すアドバイザーを残し、自身は宿へと足を向けた。そこで何か、声をかけることが出来る者になりたいものだが、どうも言葉は思い浮かばなかった。...興味を持っただけなので、感謝されることでもなし、なんとも言えない。

「ん...?」

 時刻は既に朝。大通りにも人は多いが、その中から見覚えのある顔が。

「ハルツ・スフィア...!」

「おー、無事についたんだな、兄貴。で? どこぞの神から恩恵はもらったか?」

 兄はいつものように見下すが、覚えていないのだろうか。...あぁ、何か勘違いをしてるのか。ありえないことだと考えているのか、俺があの場で攻撃をしたこと、できたことを。

「あぁ、もらったとも。お前はどうだ? 神に縋り付いて恩恵を得たか?」

「既にもらってるさ。で、兄貴、アンタはどこの神から恩恵を得た?」

「ディオニュソス様だ。 フッ、これで、お前が俺に勝てる要素はすぐになくなるわけだ。」

 兄がすでに勝利したと言わんばかりに口端をゆがめる。

「兄に勝る弟は居ない、お前が俺に勝つ動理などあるわけもない。」

 そういって兄がギルドへと歩いていった。別段気にするでもなく宿へと足を進める。

「お、まだいたのか。」

「お帰りなさい、ハルツ。...それは、まぁ、その子を置いていくわけにもいかないでしょ。」

 片方のベッドを見やると、ロイがすでに起きていた。その傍にはシトラが。

「あぁ、なるほど。起きたというのなら話は早い。どういう状況か説明は?」

「それなら、シトラがしてくれたのだわ。」

「そうか、ありがとな、シトラ。」

 少女の頭をなで、視線をこちらを見上げる少年と並べる。

「...命にかかわるような状況じゃなさそうだな。 よし、俺がコイツの面倒は見とく。お前らは...あぁ、そうそう、モート神のもとに行け。シトラ、話は通じる神か?」

「恩恵をに関すること以外では不干渉を貫いていらっしゃったので...」

「なら良し、交渉はできるよな、エレ様?」

「ま、任せるのだわ!......頑張るのだわ。」

 若干頼りない表情を見せるが、ここは任せておいて問題ないだろう。あれでもやるときはやる神だ。

「...さて、と。」

 こんな子供に小難しい話をするわけにもいくまい。ここはまず...自己紹介をした方がいいだろうか。

「えっと...スフィア...さん?」

 行動にする前に向こうから質問をされた。

「ん、あぁ、ハルツでいいぞ。俺もお前のことはロイと呼ばせてもらうからな。気を使う必要はない。」

「助けてくれて、ありがとう...ございます。」

「そりゃウチの女神に言うんだな。アレが居なけりゃお前は助けられなかった。俺は金を出しただけに過ぎない。」

 どちらも礼儀はなっているようでよかった。...が。

「...お前らにそういった礼儀を教えた奴が居るのか?」

「?...いえ、特には。」

「...じゃあ、昔のことは覚えているか?」

「昔...?」

 この様子だと、襲撃される以前のことは覚えていないようだ。シトラのほうはどうだろうか2、3違うだけとはいえ子供のそれは大きいものだ。

「あぁ、いい。悪かったな、変なこと聞いて。」

 この姉弟、あの場所にいて正しい言葉遣いとなっているということは、少なくとも姉は正しい言葉遣いによる優位性を知っていた、または汚されないだけの意識があった。どちらにせよシトラは有用だ。たまたま拾った小石が宝石の原石であったかというほどには期待できる。十分に利用させてもらおう。

 弟のほうはどうだろうか。...未知数としておけばいいだろうか。どうにせよ病み上がりだ、今すぐ何かをさせたりはしない。

「...まぁ、しばらくはこのままでいいか。」

 そうしてしばらく、扉が開いた。

「...帰ったのだわ...」

 扉からは妙に疲れた様子の女神が。そして、それを気遣うかのように少女が。

「シトラ、改宗は?」

 ひとまず、最優先事項から進める。

「改宗はできました。今は無事恩恵が刻まれています。」

「...」

 女神が無言ですぐそばに倒れこんでくる。

「...人と話すの...疲れるわね...」

 なるほど。権能でも一方的に話すでもなく、対話が必要ということがこの女神には疲労の大きな要因になりうると...

「にしてもそこまでかよ。」

 

 

 そうして、そこから1週間が経った。

「やっぱり、すごい上がり様ね。向こうにいたころとは比べ物にならないわ。」

「具体的には?」

「トータル80オーバー。力が特に上がってるわね。」

 ナイフが壊れて以降素手か迷宮で生まれた武器を使って戦ってきた。結果、どうしても力が必要になり、そのアビリティが伸びることになった。

「耐久は殴ったときの反動...ってなもんか。」

「貴方にも、スキルや魔法が発現すればいいんだけれど。」

「そりゃあ言っても仕方ねぇことだろ。」

 スキルが発現しないということは、今の自分には不要だということだ。無くても文句は言えない。

「...それと、ハルツ。そろそろ装備も用意しなくちゃいけないんじゃないの?」

「装備...か。」

 今、もろもろの装備を用意せずにいるのはただ単に、これでやれているから。もろもろ用意すればそれだけ金もかかる。

「...そうだなぁ...」

「ハルツさん。」

「ん、なんだ。」

 声をかけてきたのはシトラ。もとの育ちがいいからか、文字もしっかり使えていた。ロイの方は現在シトラが教えている。

 そして、シトラは過去のことを覚えていた。家族は全員死んだと思っているらしい。実際にはそうではないのだが、俺に真実を伝える権利はないだろう。

「私は数年間冒険者を見てきました、その中で装備が万全でなかった新米は...ことごとく、あのギルドから消えました。」

「......なるほど。」

 俺よりもオラリオの冒険者を見て来たシトラが、装備について言及するのならば、必要だ。それに、ここから先に進もうと思うのなら、必須でもあるだろう。

「仕方ないな。」

 金をなるべく節約しようと思っていたが、投資だと思ってあきらめよう。だが、買うからには先に進む必要がある。

「...おかいもの、か。」

 

 

「武器も考え直すか...」

 様々な武器が陳列されているのをみて、そうつぶやく。

 今までとは違い人目を気にする必要もない、で、あれば――

 

 

 

「馬鹿ね。」

 意気揚々と宿に戻った俺に待っていたのは女神の諦観の声だった。

「馬鹿で結構、格好いいだろう!」

 並べられたものを見る前はいろいろと考えていた。だが、実際見た時、これしかないと思うほどの衝撃が走ってしまった。

「この先に進むのに必要だったんじゃないのかしら。」

 周りの人間の忠告も虚しく俺が買ったのは巨大な双刃の斧。本来はドワーフが使うために調整されたであろうそれは、重量度外視で確かな切れ味と質量をのみ約束されていた。

「あぁもちろん、これだけじゃなくてだな...」

 おもむろに取り出したのは篭手、一見普通の者と変わらないが、よく見れば指先は獣の爪のような形状になっている。

「いやー...いいよなぁ! 俺はこういう浪漫ってやつを求めてきたのかもしれない。」

 浪漫がある、というのだ。武器は浪漫武器、とでもいえばいいのか。

「...子供ね。まるで成長していないのだわ。」

「んなこと、わかりきってただろ? 何せ俺は、俺のためにお前を連れ出すほどのわがままな奴なんだぜ?」




「女神様...いいんですか?」
「あんな武器を買って、防具もまともにつけず迷宮に潜ること?」
 少年が出ていった後の部屋で、主神に問いかける。
「でも、かっこよかったですよね! 僕もああなりたいです!」
 ロイの中では彼はすっかり英雄そのものである。自身からしても感謝してもしきれない人ではあるが、それと苦言を呈するのとは違う。
「...武器としての質は申し分ないものだとは思いますけど、防御に関しては何も用意していませんでした。回避についても、あれでは...」
 少年には忠告する間もなかった。追いかけようとしたが既にその姿は消え、追いつくこともままならない状況にあったからだ。
「帰ってくれば、どのみちわかるのだわ。...今の私達には確かめる手立てはないのだし、仕方ないから待ってみましょう?」
「...はい、わかりました。...なるほど、あの御方はそういう人なのですね。」
 ここでようやく、本質が垣間見えた気がした。




「次回、『闊歩せし怪物』」
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