FGO×月姫 亜種特異点『血鬼跋扈 三咲町』   作:風海草一郎

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 初めましてFGOの二次創作は初めてですのでお手柔らかにお願いします。またプロットは出来ているので今年中には完結できると思います。


第一話 微睡みから醒めて

 Pririri――

 Pririri――

 

 やや控えめに規則正しく鳴り響くアラームで、少女は微睡みから呼び起こされる。

 時刻は午前七時ジャスト。今日も職務に忠実な目覚まし時計を優しく押すと、仕事熱心な彼も朝のお務めを終えた。

 

 瞼をこすり、大きく背伸び。全身の筋肉をほぐし、体中に活を入れると一日のスタートを実感する。

 

 温もり恋しいベッドから潔く起き上がると、洗面台へ向かう。白い陶器で出来たシンプルなものだが、不思議と少女はその簡素さが気に入っていた。

 蛇口を捻り、生み出されてきた水を手ですくい、顔に叩きつける。

 

 冷たい。

 だが清新だ。

 

 眠気の残滓は今度こそ完全に吹き飛び、少女――マシュ・キリエライトは鏡に写る自分の顔をまじまじと見つめる。

 水も弾きそうなきめ細やかな肌と、大きく見開かれた瞳は健康的。知的ながらもどこか小動物を思わせる顔立ちは少女と女性の中間といったところ。

 メイヴやメディアといった女性サーヴァント達に教えてもらった肌ケアの効果はいかほどか。マシュは指先で軽く肌を押すと、抵抗なく沈んでいった。

 

「……やっぱり、よく分かりません」

 

 マシュは独り言ちると小さく首を傾げる。

 もとより自分の容姿に無頓着だった彼女は清潔さを念頭に置く事はあっても、美醜に関わる事に対してはほぼ素人同然であった。

 ところが最近は薄く化粧をする事もあり、自身の気持ちの変化に戸惑う事が多かった。

 メディアから化粧を教わるついでに尋ねてみた事もあったが、彼女は薄く微笑むばかりで口を閉ざした。

 

 考えても仕方が無い。そして何より、このもやもやした気持ちは決して不快なものではないのだから。

 顔を洗い終えたマシュはすでに不要なはずの眼鏡を装着すると、手早く着替えを済ませて部屋を後にした。

 

 ぐるりとなだらかな円周状になった廊下を突き進みながら、マシュはにわかに騒ぎ出した心臓を鎮めるために小さく深呼吸をする。

 すでに日課となって久しいこの行為は、不思議といつまで経っても慣れる事が無かった。

 

 まるで初めてのように気分は高揚し、全身に血液を送り出す心臓は狂ったメトロノームのように不規則に収縮する。

 

 再び大きく深呼吸。

 

 肺腑にありったけの勇気を詰め込んで、気弱な自分を追い出すと彼女はタッチパネルに触れる。

 この扉が開けば、今日も尊敬する彼に会う事が出来る。マシュは期待に胸を膨らませ、一歩踏み出そうとすると――

 

「だからさ! 俺の中で二人はぜってえフタナリで決まりなんだよ!! デオンは生やしたフタナリでダヴィンチちゃんは穴を開けたフタナリでファイナルアンサー!?」

「どうしてそう、神秘を暴こうとするんだ立香! 世の中にはなあ! 解明されないからこそ輝くってモンがあるんだよ!!」

「落ち着くで御座るよお二方! 拙者はどちらの意見も分かりますぞ!!」

「「中立派の甘ちゃんは黙ってなぁ!!」」

「ひ、ひどい…………」

 

 ――何の話をされているんですか先輩……

 

 少女の目に飛び込んできたのは真剣な顔つきで低俗な会話に興じる三人、先輩こと藤丸立香とムニエル、黒ひげの三人だった。

 サブカルチャー(特にいかがわしい方面)について人目も憚らず語り合う事の多い三人組だったが、最近では女性サーヴァントの目も厳しくなっており、自室で話し込んでいたらしい。

 

 三人の会話は徐々に熱を帯びていき、部屋へ入ってきた人物に気づく事なく口角泡を飛ばす勢いで議論を白熱させる。

 立香いわく『性癖とは完全に被る事は無く、むしろ近しいからこそ摩擦や軋轢を生むのだ』という深いのか浅いのかよく分からない迷言をマシュは聞かされた事があった。

 

 しかし、そこは善良なオタク同士。理解の及ばぬ嗜好には不可侵条約を締結させる事で落ち着いたらしい。

 

「はあ、はあ、はあ……。もういいや、疲れた。ちょっと言い過ぎたわ、ごめんな黒ひげ、ムニエル」

「いいよ立香。俺も熱くなりすぎた。性癖なんて人類の数だけあるんだから、優劣つけようなんて野暮ってもんだ。結局、黒ひげの言う『みんな違ってみんないい』って事だなうん」

「分かっていただけたようで何よりですぞ。ディベートはオタにとって必須ですが、相手を頭から否定するべきではありませぬ。リョナやヤク漬けのように、一見、躊躇われる趣味でもその熱いリビドーは理解して差し上げるべきだと拙者は考えるわけです」

「うーん。俺、可哀相すぎるのは抜けないんだよなあ、女の子がドMなら話は別なんだけど」

 

 腕組みをして思案する立香。なぜあの内容の会話でそこまで眉間の深いシワをつくる事が出来るのか。

 ロマニ亡き今、無菌室から脱した少女はそれなりに醜いものに触れてきたつもりであったが、これらはまた別種の何かであった。

 少しだけ重くなった体に活を入れ、マシュは口を開いた。

 

「おはようございます先輩。そろそろよろしいでしょうか?」

 

 これ以上は聞くに堪えない。という風に眼鏡の少女は切り出す。

 

「ああ、おはようマシュ。今日は少し早いな。何かあったのか?」

 

 先ほどの会話を聞かれていたというのに、立香の態度は変わらない。正直というより明け透けな立香がマシュは不思議と嫌いではなかった。話の内容は別として。乙女の脳はだいぶ都合がいいように設計されているらしい。

 短めに切りそろえられた黒髪に黒い瞳。美形とは言えないものの、善性が滲み出たどこか人好きのする顔。

その彼が柔和な笑みを向けてくると、マシュの頬にほんのり朱色が差す。

 

「マシュ?」

「ええっと、はい、先輩。何でしょう?」

 

 数秒、停止した思考を強制的に再起動したせいで、声が上擦ってしまった。マシュはあたふたと両手を顔の前で振って誤魔化す。

 

「何でって、マシュの方こそ用があって俺の部屋に来たんじゃないのか? 何だか話がありそうだったけど」

 

 立香が怪訝そうな顔をぐいと近づけ、マシュの心拍数が一気に上昇する。慌てたマシュは誤魔化すように顔の前で手を振りながら、訪問の目的を口にする。

 

「ああっ、そうでした先輩! ダヴィンチちゃんから至急、先輩をお呼びするように頼まれたんでした!!」

 

 何に、と立香が問うより早く、マシュが答える。

 

「再び、亜種特異点が現れたんです! 発生地点は先輩の母国、しかも先輩が暮らしていた時代に近い、二十世紀末の日本なんです!!」

 

 

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