その町は狂っている。

 顔も無く、名も無い誰かがこの町をそう評した。
 くだらない御伽噺であるはずの吸血鬼が夜の繁華街を我が物顔で闊歩し、思うがままに人を喰らい生き血をすする。
 人々は一笑に付すはずの噂をまことしやかに囁き、恐怖を心の奥底に沈殿させながらも今日と変わらぬ明日が来ると信じて床に入る。

 確かに、それら吸血鬼はすべて紛い物。
 届かぬ星に手を伸ばし、それらを追い求める英霊もまた紛い物。
 そして何よりも、町の中央に鎮座する聖杯もまた紛い物であった。

 今宵、繰り返され続ける暁の惨劇は全てがフェイク、偽物、贋作、紛い物である。

 しかし、本物を超える紛い物ならばどうか。
 それが人の我欲の数だけ存在すればどうか。

 この物語を収束させるのは神ではない。真祖でも死神でも、ましてや英霊でもなく

 ――たった一人の少年であった事など誰が予測できようか?



 
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