FGO×月姫 亜種特異点『血鬼跋扈 三咲町』   作:風海草一郎

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やっぱり、二次創作は楽しいです!!


第三話 レイシフト

 魔術協会制服の礼装に袖を通した立香は一つ深呼吸し、コフィン内部に入った。このどこか棺桶を連想させる装置に入るのはいつまで経っても慣れる事は無い。

 マシュと立香が問題なく入ったのを確認するとコフィンの蓋が閉められ、同時に立香は瞼を閉じた。外部からオペレーターの声がコフィン越しに聞こえてくる。

 

「両名の魂魄概念を一時的に分離――」

「霊子境界線に固定終了――」

 

 技術者たちがモニター上の数値と睨み合いを続けながら、立香のバイタルをチェックし、レイシフトの準備を滞り無く続ける。

 このバンジージャンプで飛ぶ寸前やジェットコースターの落下直前のような緊張感は背中にじっとりとした精神性の発汗を促す。

 逃げるようにあお向けになった態勢から視線を横にずらすと、マシュと視線が交錯した。彼女は一瞬目を丸くし、やがて安心させるように薄く微笑んだ。

 立香はそれだけで心の奥底から沸々とこみ上げるものを感じ、天井へと視線を戻す。

 

「――よし、それじゃあレイシフト開始するよ! みんな、準備はいいかい!?」

 

 ダヴィンチの声かけにより、準備が整ったのを確認する。

 これから向かう先は吸血鬼と呼ばれる魑魅魍魎が跋扈する未知の世界。

 何が起こるのか、誰と出会うのかとんと見当のつかない遥かな旅路。

 

 それでも立香に恐怖は無い。

 どれほどの艱難辛苦が訪れようと、隣で戦ってくれる仲間達がいる限り、挫ける事だけはないと立香は胸を張って言える。

 

 立香が覚悟の火を灯した瞬間、言いようのない酩酊感が全身を犯す。自我と自己、自分という存在がふやけて溶解し、流体になる。

 やがて存在は圧縮され、時間の感覚が曖昧になり、間延びと圧縮を繰り返す。

 秒は年に引き伸ばされ、年は秒に押し縮められる。

 

 ほんの瞬きほどの間だったか、それとも辟易するほどの時が流れたのか。

 立香はそれを確認する術も無く、強烈な浮遊感と共に意識は水底に沈んでいった。

 

 〇

 

「って、またこのパターンかよおおおおおおおおおおおおっっっ!!」

 

 推測、上空三万三千フィート。メートルに換算すると約一万メートルの上空から藤丸立香は自由落下の旅へと洒落込んでいた。

 通常ならば航空機のテリトリーである遥か高みは酸素が薄く、夏場だというのに歯の根を鳴らすほどの寒さだ。

 

「先輩、こちらへ! どうか私の手を取ってください!!」

「んっ……! マシュ!」

「もう少し、もう少し、こちらへ手を伸ばしていただけませんか!?」

 

 コントロールを失った全身に強力なGがかかり、振り回された体は全く意図した方向へ進まない。上下左右の方向感覚を失い、手足をばたつかせるだけの立香はむしろ、マシュと徐々に距離が開いていった。

 幼い頃、ポケットに入れっぱなしなおかげで、一緒に洗濯機に放り込まれたおもちゃの人形はこんな感じなのかと雑念がよぎった。

 

「ああもう、世話の焼ける!!」

 

 突如、マシュと立香の手がぐいと引っ張られ、虞美人を介して間接的に手をつなぐ形となった。

 これで地面に墜落死する可能性は無くなり、ひとまず窮地は脱した。

 と、思いきや立香はあっと声を挙げる。

 

「あれ? そういえば式さんは!? 一緒にレイシフトしたよな!? どこにもいないぞ!?」

 

 そんなバカな、とマシュと虞美人も周囲を見渡すが、着物姿の麗人は影も形も見当たらない。サーヴァントの視力をもってしても見つからないとなると、レイシフトそのものに失敗したか、ここ以外のどこかに飛ばされたかのどちらかである可能性が高い。

 

「見当たりません……。先輩、まずは安全な着地を優先させるべきかと!!」

「……ああ!」

 

 式の行方も気になったが、見つからないのならば仕方が無い。立香は魔術回路に魔力を通し、礼装を起動させる。

 

 霊子譲渡。

 

 貧弱な魔力回路を補強する擬似回路となり、魔力を大量にサーヴァントへ送り込み宝具使用のハードルを下げる。基礎魔術もろくに使えない立香が、戦力の底上げをするために好んで使うスキルの一つだ。

 全身の神経が活性化し、マシュとの繋がりをより強固に。魔術回路は全身を循環するパイプ。それを補強し、荒れ狂う奔流を彼女に流し込むイメージ。

 

 ――繋がった。

 

 アイコンタクトをし合い、互いに頷く。

 オルテナウスの外骨格を起動し、大楯を落下方向に向ける。

 立香は叫ぶ。

 

「マシュ! 宝具開放!」

 

 マシュもそれに呼応する。

 

「はい! 真名、凍結展開───。これは多くの道、多くの願いを受けた幻想の城───呼応せよ! 『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)い』!!」

 

 トリガーが紡がれると同時に、荘厳な重圧を伴った空間が変質する。

 それは遍く騎士たちの理想とされ、多くの王が夢想した『騎士王』という最果ての夢。

 

 その高潔さを、その正義を、その忠誠を――

 正しき騎士と王という概念全てを内包した白を守護する堅牢な城壁が権限する。

 ギャラハッドの力は失われ、存在に亀裂の入った脆き護りであろうと、この程度の苦難からは守ってくれる。

 

「落下地点、目視完了! 着地まで五、四、三、二、一……」

 

 マシュのカウントが終了すると同時に、凄まじい衝撃が立香を襲った。

 缶に入れられ、バットで殴られたような感覚に襲われる。目まぐるしく回転する視界から、自身が転げまわっているのだと揺さぶられる意識の中で認識した。

 金属がアスファルトを削る音が耳をつんざき、地面と水平に滑り続ける事十秒足らず。ようやく立香の体は慣性運動をやめた。

 平衡感覚はとうに任務を放棄し、吐き気がこみ上げるが、この程度で済んだのはマシュの宝具のおかげだろう。

 

「着地、何とか成功しました……。ご無事ですか先輩!?」

「何とかな……」

 

 ふらつく頭を手で押さえ、よろよろと立ち上がる。立香はぼやける視界で周囲を見渡して現在位置を確認する。

 夜空にはほの白い貝殻のような月明かりの他に、銀砂のような星々が煌めく。その真下には人間の欲望を文明という利器が体現したような毒々しいネオンの明かりが星たちの輝きを蹂躙していた。

 

 ぎらついた不夜城のおかげで正確な時刻は不明だが、とりあえず夜遅い時間帯である事は間違いない。

 どうやら立香たちは繁華街の中心部からやや外れた公園に着地したらしい。道路のアスファルトを転がり、公園の敷地まで転がり込んだのだろうと立香は思った。

 そして、目前に見えるビル街がおそらく三咲町だろう。

 

「多分、あの眠らない街っぽいのが三咲町かな? とりあえずは現地に向かったほうがいいですかね所長?」

 

 立香が通信機に向かって指示を仰ぐも、通信機はうんともすんとも言わない。

 途端、既視感が脳裏をよぎった立香は無駄と知りつつも通信機を振ったり、携帯電話の電波を探すように色々な方向へ向けたりする。

 真空管時代の処置法を試したところで、当然、通信機は答えない。

 

「これは……」

「いつものパターンですね……」

「慣れてるわねアンタたち……」

 

 三人が物言わぬ通信機に視線を投げかけるも、既に耐性が出来ている立香は切り替えが早い。パン! と手を叩くと今ある手札で現状を打破するために思考を巡らす。

 無いものねだりで時間を浪費するなど愚の骨頂。ならば、少しでも成功率をあげるために奔走するべきだろう。

 

「とりあえず、現状を整理しよう。通信は切れていてサポートは期待出来ない。こちらの戦力はマシュとぐっちゃん先輩のみ。これでいい?」

「はい! しばらくは私たちだけで現地探索を頑張るしかないと思います!」

「お前はぐっちゃんと呼ぶなと――」

 

 虞美人は律儀に訂正を促そうとする瞬間、耳に届いた旋律は二人を考えるよりも早く動かした。

 

 

 ――ポロロン

 

 

「――――――――――!!」

 

 電光石火の速度で虞美人は立香を抱えて飛びすさり、マシュは大楯を音の方角向けて防御態勢を取った。

 刹那、極限まで引き絞られた弦が跳ねるような斬撃が大楯を襲い、大気を切り裂く音が遅れて聞こえた。

 

 マシュの背筋に冷たいものが走る。

 振るわれた糸の狙撃点は先程までの立香の首筋あたり。

 この一部の遊びも無い殺し方。

 敵と定めた者には一切の躊躇い無き斬撃。

 

 そして決定的なのは、耳に覚えがある悲愴さを孕んだ音色だった。

 

 ――ポロロン

 

 再び弦を弾く音がする。マシュは全身に緊張に強張らせるも、先ほどの斬撃は飛んでこない。直感ではあるが、先ほどの急襲を防いだものに対する賛辞に聞こえた。

 よく手入れの行き届いた植林の茂みの中から、二つの人影が現れた。

 

「アーチャー、珍しいわね。あなたが初弾を防がれるなんて」

「申し訳ございませんマスター。完全に虚を突いたつもりだったのですが……。この失態はすぐに取り返します」

「失敗はそれを上回る成功で補ってちょうだい」

「仰せのままに」

 

 一人はマシュと同じかやや年下と思われる。勝気な瞳と夜空に溶け込みそうな黒髪、膝下まで届きそうな赤いロングスカートが目立つ女性。

 そしてもう一人は燃えるような赤髪に、女性と見紛う柳眉の下に特徴的な糸目の美丈夫。

 

 ――アーチャー。嘆きのトリスタンその人だった。

 

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