FGO×月姫 亜種特異点『血鬼跋扈 三咲町』   作:風海草一郎

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 最近、イラストにはまっていて中々こちらまで手が回りませんが、完結させる気はあるので気長に付き合っていただけるとありがたいです。


第四話 嘆きの貴人

 大気を震わせる残響は針のように鋭く剣呑でいて、全てを包み込む慈愛さをもって夜空を駆ける。

 細くしなやかな指先が走ると同時に奏でられる旋律は鎮魂歌(レクイエム)

 

 マスターらしき女性の隣で涼し気な顔のまま独奏を続ける彼は、優雅に残虐にマシュたちを追い詰めていた。

 指が弦を弾くと同時にマシュは大楯を突き出し、金切り声を挙げる大楯ごと吹き飛ばされる。ならばと虞美人が赤熱の剣を投げつけるも、それらを一瞥する事も無く弾き落す。

 

 もとより戦闘とは相手の短所を突き、己の長所を押し付ける事が鉄則となる。遠距離での戦いを得意とするアーチャー相手に距離を取るなど愚の骨頂。

 二対一という数の有利を利用し、マシュが注意を引き付けている間に虞美人が懐に飛び込んで攻撃するという戦術を立香たちは選んだはずだった。

 それなのに、

 

 ――近づけねえじゃねえか、この野郎っ!!

 

 マシュの背後に庇われながら、立香は歯噛みする。

 立香を守る事に集中力を割かざるをえないマシュは機動力が低下し、攪乱役としての機能を果たせない。かといって虞美人で引き付ければ火力不足のマシュで攻撃したところで大きなダメージを与える事は難しい。最悪、トリスタンの反撃によって立香が殺される可能性も大いにある。

 

 マシュもそれを理解しているのか防戦一方。しだいに防ぎ損ねた弦によって生傷が徐々に増え始めた事も立香の脳を汗でふやかせる。

 今やこの公園はトリスタンの独壇場。自分たちは退路を断たれた哀れな獲物に過ぎぬ。銃口を突き付けられながら、牙を剥き威嚇する様はさぞかし滑稽なのだろう。

 

 戦力差は歴然。ジリ貧となった戦局の中、無意味と知りつつも虞美人が憎々し気に口を開く。

 

「普段がアレだから今まで忘れていたし、認めたくないけど……! やっぱり聞きしに勝る大英雄よ円卓の騎士が一人トリスタン!」

「……なぜ私の真名を。どこかでお会いしましたかレディ? あなたのように美しい方ならば私が忘れるとは思えないのですが」

 

 小首を傾げながらも攻撃の手を緩めないトリスタン。虞美人は音より早く飛来する斬撃をすんでのところで躱すと同時に剣を投擲。

 それを難なく叩き落とすトリスタンは眉一つ動かさない。

 

「本当に隙の無い。食堂でガヴェインと人妻について目を輝かせながら語っていた男とは思えないわね」

「…………」

 

 旋律に僅かな狂いが生じた。微かな指さばきの鈍りは音律を1オクターブ下げ、トリスタンの額に一筋の汗が浮かばせる。隣に佇む少女の半眼にあえて気づかないフリをしながら、己の恥部を漏らした不届きものに集中砲火を浴びせる。

 

 ――ポロロン

 ――ポロロン

 ――ポロロロロロロン!!

 

「わあっ! ちょっとアンタ! そんな露骨に!?」

 

 静かな怒気を旋律に乗せ、不可視の斬撃は執拗に虞美人を突け狙う。

 首筋へ襲い来る刃は首を振って躱し、腕を切り飛ばさんと後方から振るわれた一撃は身をよじる事で辛うじて回避。

 連続攻撃である以上、不必要に大きな動作は即、死に繋がる。それを理解した虞美人はギリギリのラインで刃の軌道を見切り、最低限の動作に絞る事で何とかやり過ごしていた。

 

「芥先輩! ――――ッ」

 

 なぜ、相手を挑発するような事を、とマシュが問いを口にしようとした時、肩を掴まれた。意識をトリスタンに向けながらも背後の立香へ視線を寄越すと、険しい表情の立香が二人の戦闘を見守っていた。

 

 一挙手一投足も見過ごすまいと、極限の集中力を発揮した立香が見せる本気の素顔。立香の意図を図りかねたマシュは、立香の視線の先へと瞳を動かす。

 瞬きほどの間、マシュと立香の視線が重ねられる。その時、全動作を回避に絞っていた虞美人が微かに顎を動かした。

 

 ――行きなさい二人とも。

 

 マシュは真意を察しながら、それを悟られないようにアイコンタクト。立香も肩に掴む力をさらに込め、撤退に同意したようだった。

 ぎり、とマシュは奥歯を噛みしめるも、現状を打破する方法が他に無い事も痛感していた。

 

 仲間を見捨てるために動き出そうとする脚は鉛のように重く、苦渋の決断はささくれとなって心に突き刺さる。

 立香が固く握りしめた拳からは血が滴り落ち、己の不甲斐なさを恥じた。

 

 それでも、進まなければならない時がある。

 

 さらに増した握力にマシュは不承不承の同意を心の中で示すと、ゆっくりと、警戒を続けながらも左足を半歩下げる。

 

「――――かかりましたね?」

 

 本能が告げる直感に従い、マシュは反射的に足を引いたが後の祭り。地面から跳ね上げられた弦が絡みつくようにマシュの左足を切り刻む。

 

 吹き出す血しぶきは鮮やかな華を夜空に咲かせ、地面へ飛散する様は花弁が舞い散るよう。一拍遅れてやってきた激痛のシグナルは、脳髄をスパークさせ視界を明滅させる。

 オルテナウスの装甲を紙のように切り裂き、骨にまで達しかけるほどの一撃は、完全にマシュの機動力を殺していた。

 

 マシュは臓腑ごと吐き出しそうな悲鳴を意地で抑え込むも、盾を杖代わりにして崩れ落ちないようにするのが限界だった。

 

「トラップか!?」

 

 咄嗟に庇われた立香は尻餅をついた状態で、驚愕の表情を浮かべる。直径二十センチほどの地面が爆散し、えぐり取られるように開いた穴が一つ。ここに弦を仕込ませていたとでもいうのか。

 

 立香は震駭すると同時に理解する。つまり、ここ一体は地雷原と同義であると。

 立ち尽くせば慈悲なき旋律の餌食となり、逃げまどえば足と胴体が泣き別れ。辛くも攻撃を防いでくれていたマシュは移動困難な状況である。

 

「マシュ! 立香!」

 

 たまらず虞美人が後方へ顔を寄越すと、最悪の展開となっている事に瞠目する。

 その動揺を見逃すトリスタンであるはずがなく、瞬時に間合いを詰めると虞美人の横っ腹を具足で蹴り飛ばした。

 

「がっ……!」

 

 強い吐き気を催しながら苦悶の声を漏らす虞美人は、その勢いを利用して立香たちへ距離を縮める。追撃に放たれる弦は七割撃ち落とし、残りは急所以外の部位で受け止めた。

 夜空に深紅の花が再び咲き乱れる。矜持で悲鳴こそあげないものの、頼みの綱であった虞美人までもが深手を負った。

 

 背筋を撫でるような悪寒が立香に走り、あと一手で詰みとなる事を悟ってしまった。

 喉は気道を塞がれたように張り付き、呼吸を停止。己の心音さえ聞こえてきそうなほどの静寂の中、立香は思考を巡らす。

 

 魔術協会の制服には全体回復の機能があり、二人を戦闘可能な状態にする事は出来る。

 しかし、魔術回路の一本にでも魔力を通せば、自分の首は迷わず寸断されるだろう。

 

「あなたたちの負けです。サーヴァントを二騎も従えているのだからどんな凄腕魔術師かと思えば、とんだ肩透かしね」

 

 今まで静観していた少女は侮蔑の表情を浮かべると、つまらなさそうに腕を組んだ。

 風に揺れる黒髪は艶やかに月光を反射し、夜闇の中でますます映える。瞳は冷徹、微笑は冷酷。

 常日頃から群衆の頂点に君臨し、人々を従えるのに慣れ親しんでいる生まれながらの支配者。とすれば慢心ともとられるその態度は、高い実力に裏打ちされているものなのだろう。

 

 立香は思わず後じさりしかけるも、弱気になった脚部に活を入れ、踏みとどまるとせめてもの抵抗にと目前の少女を睨みつける。

 いまだに闘志の火が消えない立香の瞳に、少女は少しだけ機嫌を直したように「へえ」と呟いた。

 

「あら、サーヴァントを置いて逃げもしなければ、命乞いもしないのね。その心意気だけは立派だわ。他の雑魚たちと少しは違うようね。最後にお名前を伺っても?」

「……藤丸立香。カルデアのマスターだ」

 

 絞り出すような声音に少女は頷くと、礼儀として名乗り返す。傲然と胸を張り、己がカタチを成す誇り高き名を口にする。

 

「申し遅れました。私の名前は秋葉。この地域一帯を統べる遠野家の現当主にしてアーチャーのマスターです」

 

 秋葉はすっと右手を挙げると、アーチャーの背後に底冷えするような殺気が昇るのを立香は肌で感じ取った。彼女の右手は死刑宣告。その長くしなやかな腕が振り下ろされると同時に、自分の命脈は断たれるのだろう。

 

「先輩……! あなただけでも逃げてください……!」

 

 満身創痍のマシュは立香に撤退を懇願するも、逃げ場などどこを見渡せどありはしない。

 せめて彼女の前でだけは情けない姿をみせられないと、最後に残った意地で立香はマシュの前に立つ。マスターとして、先輩として、なにより男として。

 

 何の策もなくサーヴァントの前にマスターが立つなど、ただの自殺行為である。その儚くも愚かしい態度に、秋葉少しだけ右手を強張らせるも、何かを振り払うように右手を勢いよく下ろした。

 

「やりなさい、アーチャー」

「承知いたしましたマスター」

 

 小さく頷いたトリスタンの指先が弦に触れ、弾かれようとした瞬間、

 

 

「■■■■■■■■■■■■―――――――ッッ!!」

 

 

 耳をつんざく絶叫と共に、闖入者が乱入してきた。

 

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