FGO×月姫 亜種特異点『血鬼跋扈 三咲町』   作:風海草一郎

5 / 8
これだけ真名バレバレなのも珍しい……


第五話 狂乱ノ華爛ト枯レ

 爛々と怪しく輝く瞳は狂気に染まり焦点が定まらず、吊り上がった口角は恍惚と花が咲くような笑顔を形作る。

 

 少しくすんだクリーム色の野暮ったいセーターに学校指定と思わしきロイヤルブルーの制服。可愛らしく揺れるツインポニーの下に覗く顔は、どこか小動物を思わせる年相応の可憐な少女の顔立ち。

 

 しかし、そこに浮かぶは白痴の笑み。首をゴキリと鳴らし、口の端から涎を垂らしながら、狂乱の檻に囚われた獣は天高く咆哮した。

 

「■■■■■■■■■■■■―――――――ッッ!!」

「二人とも、私の後ろに!」

 

 少女の叫びは微弱な魔力はとなって大気を叩き、地表を撫でながら立香たちに体当たりをかましてくる。

 

 マシュは最後の力を振り絞ってそれを防ぎ、ぎりぎりのところで押しとどめる。立香はその隙に魔力回路に魔力を通し、二人を回復させる。二人の生傷に仄かな光が灯り、エーテルで構成されている体が徐々に元の形に戻る。

 

「な、なんだってのよあの娘……? 明らかにバーサーカーだけど、あんな現代人らしいサーヴァントなんてあり得るの……?」

「俺もそう思います。イリヤや美遊のような例外ならともかく、あれはまるで本当に一般人のような……?」

 

 幾らか復調した虞美人が、マシュの盾ごしに暴風雨の中心となった少女へ訝し気な視線を送り、立香も不審そうに見つめる。

 

 確かに、両儀式やイリヤ、美遊といった現代人たちがサーヴァントとなって立香たちに協力してくれる事もある。しかし、それは人理修復という壮大な目的がある場合のみに成り立つイレギュラーである。

 

 この微小特異点で、明らかに現代の女学生のようなサーヴァントなど果たして現界できるのだろうか。

 

「トオノクン、トオノクン、トオノクン、トオノクウウウウウウンンンン!!!!」

 

 ぶつぶつと何か漏らす少女は道に迷い母を探す稚児の顔を張り付けたかと思うと、分別なく周囲の生物を殺戮する狂獣の顔を行き来する。

 立香たちの疑問をよそに、秋葉と名乗った少女は忌々し気に眉を顰めると、あろうことかバーサーカーに話しかけた。

 

「またあなたは暴走しているのですか弓塚さん。兄さんに殺されてもまだ、想い続けるのですか」

「――――――――?」

 

 さつきは秋葉の方を一瞥するも、僅かな逡巡を見せるだけで再び思考を狂気に混濁させる。

 全員の視線が集中する中、狂気を湛えた瞳がぐるりと周囲を睥睨し、

 立香に焦点を固定した。

 

 

「――――トオノ、クン?」

 

 

 瞬間、全身が総毛立ち。泡立つ肌が危険信号を発信した。

 彼女が何に狂い、何を追い求めているかは皆目見当もつかない。つくはずがない。それでも、今、眼前の怪物に狙いを定められた事だけは理解できた。

 

 かはあ、と少女が息を漏らした。思いを募らせた恋人と久方ぶりの逢瀬を楽しむように、狂気と喜悦が入り混じった表情でげたげたと笑う。

 

 立香の心臓が押しつぶされそうなほどに収縮し、不規則な拍動を繰り返す。

 

 少女がふくらはぎに力を込めて、襲い掛からんと身構えたその時、サーヴァントの背後から制止する声が飛んできた。

 

「止まりなさいバーサーカー!! 止まれっ、止まってください!!」

 

 林立する樹木の中から、凛とした声が飛ばされ、少し遅れて声の発生源が姿を現した。

 菖蒲色とでも言えばいいのか、鮮やかな青紫色のエキゾチックな衣装に身を包み。丈の短いスカートからは二―ソックスに包まれた不健康そうな足が生える。

 

 後ろで編んだ三つ編み頭にベレー帽と奇抜なファッションだが、顔立ちは生真面目な学者然としている。

 やや陰気そうな印象を与える少女であったが、立香は頭の隅でどこか引っ掛かりを覚えていた。

 

 似ている。どこがとは上手く表現できないが、存在を構成しているパーツがとある錬金術師を想起させるのだ。

 少女はただでさえ白い肌をさらに青白くさせ、呼吸は荒く息も絶え絶えであった。手の甲に見える三角の令呪は熱を持ったように紅く発光し、彼女の魔力回路を焼き切りかねない負荷をかける。

 

「■■■■■■■■■■■■―――――――ッッ!!」

「がああああああああああああああっっっっっ………………!」

 

 バーサーカーの抱合と共に、マスターらしき少女が苦悶の表情で、胸を押さえてのたうち回る。

 奥歯を噛みしめながら呻き声を漏らす少女に立香は困惑する。

 

聞きかじった知識では、確かバーサーカーは膨大な魔力を消費するため、非常に燃費の悪いサーヴァントのはずだ。

 そのため、通常の聖杯戦争ではよほど魔術回路に自信のある者でもない限り、バーサーカーを使役するのは自滅するだけだと。

 

 少女の魔術回路は自他共に認める三流魔術使いの立香よりもさらに貧弱。バーサーカーを賄えるほどの魔力など、どう考えても供給しきれるはずがない。

 

 今の彼女は、細い水道管に無理やり圧をかけて大量の水を流している状態に等しい。このままでは彼女の魔術回路は焼き切れ自壊するのは火を見るより明らかだった。

 土にまみれ、地面を転がりながらも少女は叫ぶ。

 

「お願いですバーサーカーっ……! 私に令呪を使わせるようなマネはしないで下さい!!」

 

 少女はバーサーカーに半ば頼み込むように命令するが、理性を消し飛ばされた霊基には響かない。

 

「やはり、届きませんか……。計算内とはいえ、こうまで人の言う事を聞かないなんて……っ!」

 

 少女は苦笑を浮かべ、背に腹は代えられないとでも言いたげに令呪になけなしの魔力を注ぎ込む。

 

「バーサーカー、令呪を持って命じます。落ち着い」

「何を勝手なマネをしているのかしら?」

「がっ!」

 

 冷淡な声音と共に振り下ろされた足が、少女の手の甲を踏みつけて命令を強制的に終了させる。タバコの火をもみ消すようにぐりぐりと地面に縫い付ける所作は、虫けらを足蹴にする様に似ている。

 

「――――――――ッ!!」

「させません!」

 

 マスターの窮地にバーサーカーも秋葉に襲い掛かるが、トリスタンが牽制。拳と弦がぶつかり合う派手な破砕音が奏でられる中、二人は対話を続ける。

 

「シオン、あなたの貧弱な魔力回路でバーサーカーを御しきれるわけないでしょう? 見逃して差し上げるからさっさとその方を自害させて去りなさい」

 

 甲の骨を踏み砕かれそうな鈍痛と、全身の神経がショートしそうな激痛にも構わず、シオンと呼ばれた少女は秋葉を見上げて睨みつける。

 

「秋葉、あなたは間違っている! そのような方法で本当に彼が喜ぶとでも!?」

「黙りなさい」

「がああああっ!!」

 

 鈍い音が手の平から伝わり、常人離れした脚力で踏み砕かれたのをシオンは感じた。

 荒い呼吸を繰り返す『元』友人に、秋葉は無情にもさらに足に力を籠める。

 砕けた骨が筋肉を断裂させ、内出血を起こさせると見る見るうちに紫色に膨れ上がり、耐えきれなくなったシオンが絶叫する。

 

 秋葉は深く溜息をつくと、もはや単なる障害へと成り下がった少女を見下ろすと最後の警告を送る。

 

「これで最後です。おとなしくこの聖杯戦争から降りて、どこにでも行きなさい。協力出来ないのであれば、せめて私の邪魔はしないでちょうだい。それくらいは出来るわね?」

 

 自分の生殺与奪は完全に握られている。しかし、シオンは譲らない。

 

「お断りします。誇り高きエルトナムの娘として、友人が間違った道へ進もうとしているのを傍観する事は出来ません」

「そう、よほど死にたいようね」

 

 ざわり、と林の木々がざわめき、周囲の空気が一辺する。鴉の濡羽のように黒く艶やかだった挑発は赫怒に紅く染まり、心綺楼のように背景を歪ませる。

 

 秋葉にもはや躊躇いは無い。愛しきあの人への想いを邪魔するものに情けなどかけるものか。下らぬ知識を詰め合わせただけのスポンジがごとき脳漿など、蒸発して消え失せるがよかろう。

 

 秋葉は内に流れる異能の血を発動させ、眼下の吸血鬼もどきを奪い尽くそうとする。

 

「――いけないなあ秋葉。俺を差し置いて、そんな上物の獲物を独り占めするなよ」

 

 ニヒルな声がすると同時に秋葉は飛ぶ。ちょうどバーサーカーと応戦していたトリスタンと、背中を預け合うようにして死角を潰す。そして、憎々し気に見つめる視線の先にはニヒルな笑みを浮かべた学生服の少年。

 

 秋葉の脳天を貫く軌道で振り下ろされたナイフを水平に構え、異様な雰囲気を醸し出している男へ、主役の座がシフトする。

 

「今度は七夜まで! どいつもこいつも、いったい、どれだけ私の邪魔をすれば気が済むのかしら!?」

 

 怒り心頭に発する秋葉は深紅の髪を振り回し、二人目となる闖入者へ罵声を浴びせかけるも、七夜は大仰に肩をすくめてやり過ごす。

 

 普段、冷静沈着な秋葉が感情を剥き出しにするのが面白いのか、七夜は軽口で応戦し、秋葉の怒りに油を注いでいく。

 

「愛しい妹との対話も悪くないが……。やはり、俺たちのような人間にはコッチの方がふさわしいだろう?」

「ええ、いい加減目障りな連中を一層するいい機会です。すべて奪いつくして差し上げます」

 

 七夜はゆったりと鷹揚に構え、秋葉は略奪を発動。トリスタンは真空の刃でバーサーカーの猛攻と渡り合う。完全に乱戦状態と化していた。

 

 既に蚊帳の外となった立香たちは茫然と立ち尽くし、彼女たちの関係性に困惑しているが、入り口から一つの影が走り寄ってくるのを立香は視界に捉えた。

 

 薄く赤みがかった髪にホワイトプリム。クラシカルなメイド服に身を包んだ喜怒哀楽が読み取りにくい少女がこちらに向かって声を張り上げる。

 

「皆さん、今のうちです! どうかこちらへ!」

「君は!?」

「説明している時間はありません! ですがあなたたちに害なす者ではありません! それだけは信じてください!!」

 

 悲痛な表情で必死に訴える彼女であったが、立香はそれでおいそれと信用するわけにはいかなかった。自分の人を見る目の無さは今までの特異点で嫌というほど思い知らされてきた。

 イレギュラーな事だらけの特異点で、言葉だけの信用など紙一枚ぶんの重さも無い。

 

「どうします先輩!?」

「ばっ、信用できるわけないじゃない! こういう時に都合よく出てくるやつは大体裏切るのよ私の経験上! 後輩、ここを撤退するのは同意だけど、あの女についていくのは反対よ!!」

 

 虞美人のもっともな意見に立香も同意する。しかし立香の直感が、メイドが嘘を言っていない事を告げてもいた。

 決めあぐねていると、異変を察知した秋葉が標的を変えようとする。

 

「何をしているのアーチャー! 彼らが逃げるわよ!」

「申し訳ございませんマスター! しかし、彼女がなかなかに手ごわく……!」

「ああ、もうだらしない! 円卓の騎士の名が泣くわよ!?」

 

 戦況はいまだ混乱の渦にかき乱されているが、じきに平静を取り戻すだろう。そうなれば撤退も格段に厳しくなる。

 残された時間は少ない。立香は腹を決めると、二人に指示を飛ばす。

 

「とりあえず、関係者らしき彼女についていこう! 何一つ分かっていないこの状況では現地人の証言は何としても欲しい!」

「はい! 先輩がそうおっしゃるのでしたら!」

「正気!?」

 

 マシュは迷わず立香を抱えると、メイド服の少女へ駆け出し、虞美人も幾許かの逡巡の後、不承不承と立香を追う。

 このままならば脱出できる。そう立香が安堵しかけた時、掻き消えそうな苦悶の声が耳に届いた。

 

「かっ……! は、はあ…………! はあああああ…………っ!!」

「シオン様……!」

「え、何!? 君も彼女の知り合い!?」

 

 依然としてバーサーカーに魔力を吸われ続けて瀕死の少女へ、立香は視線を投げかける。既に自発呼吸すらままならないほどに衰弱している少女を見捨てる事に、立香は二の足を踏む。

 

 目前のメイド姿の少女も、全身紫の少女も味方である保証は無い。

 浅い人生経験しかなく騙されてばかりの自分に、誰を救って信用し、突き放し切り捨てるかの選択など出来るはずもない。

 

 立香は後ろ髪を引かれながらも、撤退を促そうとする。

 

 しかし、目の前の少女が見せた表情が――あまりにも歯痒かった。

 

 見ればベレー帽の少女は爆心地より幾らか離れた位置に倒れており、他の四人は膠着状態となっている。

 

「~~~~~~~~~~~チッ!」

 

 立香は盛大に舌打ちすると、両手の空いた虞美人へ頼み込む。

 

「ごめん! ぐっちゃん先輩! 悪いけどあの娘も連れてってくれないかな!?」

「はああああああああッ!? あんたとうとう頭おかしくなった!?」

「おかしな事を言ってるのは分かってる! でも頼む! ここで見捨てたら俺は絶対、後悔する!! 全責任は俺が……取れるわけないけど、もし駄目だったら後で死ぬほど謝るから!!」

「ああもうどうしてこんなヤツのところに召喚されちゃったのかしらもおおおおおおっ!!」

 

 虞美人は立香の甘さに辟易しながらも、即座に少女の元へ駆け寄り雑に抱えると、全速力。背後から浴びせられる罵声をシャットアウト。ついでにメイド服の少女も小脇に抱えて離脱に全神経を集中させる。

 

 戸惑いながらも、メイドはここから遥か遠い洋館を指さし、そこへ身を隠しましょうと言った。

 

 虞美人はなおもぎゃあぎゃあと喚いたが、打つ手が他に無いのを理解もしているらしく、二人を抱えたまま夜空を駆ける。

 

 マシュに抱えられながら立香は薄く唇を噛む。果たして、今回の自分のワガママは、吉と出るか凶と出るか。

 底知れぬ不安を無理やり振り払うと、しばらくは全身に伝わる振動に身をゆだねた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。