エビの大冒険   作:彼是

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才能と期待

 ある日、砂浜でダイが真剣な眼差しで佇む。少し離れた場所に設置した木の板に向かい手を差し出だした。その姿を私達は固唾を呑んで見守った。

 

「……【火炎呪文(メラ)】!!」

 

 ぽすん。という音とともにダイの手のひらから湯気が上がった。

 

「こりゃっ!ちゃんとやらんかっ!!」

 

「っ!やってるよ!」

 

「やっとらん!いいか?ん~【火炎呪文(メラ)】」

 

 ブラスが杖を木の板に向けるとハサミサイズの火の玉が飛んで行き、木の板を燃やす。

 

「お~」

 

「ピ~」

 

 私達はお見事と拍手する。ゴメちゃんは非常に器用だ。なんせ浮きながら羽で拍手するのだから。

 

「こうじゃ!わかったか?」

 

「ん~~~【火炎呪文(メラ)】」

 

 またもや、ぽすん。という音とともにダイの手のひらから湯気が上がった。

 

「こら!もっと真剣にやらんか!そうでないと立派な魔法使いになれんぞ!」

 

 ブラスの怒号が響くなか、ふとある考えが浮かぶ。

 

「ブラス。ちょっといいか?」

 

「どうされましたかな?」

 

「ダイ。ちょっといいか?」

 

「え?いいよ?」

 

 ダイに近づき身体を触れて確かめる。

 

「ん~」

 

「ど、どうかしたの?」

 

「ん?いや、魔法使いとは術師の事だろ?ダイは術師より剣士の方が向いている」

 

「えっ!!」

 

 ダイが嬉しそうな声を上げる。

 

「しかし、術は覚えていて損は無い。私も術が使えるからな」

 

「え?そうなの?」

 

 三人は驚いた顔をする。確かに毎日身体を動かして体術の練習しているが私は術の練習をしない。

 

「ああ。ロブスター族は生まれつき玄武を使える。だから術が戦闘で非常に有利なのはよくわかる」

 

 魔物でも術を使う魔物は非常にやっかいだ。攻撃の種類が多いのはそれだけで強い。

 

「ブラス。魔法使いとやらは武器を持ってはダメなのか?」

 

「い、いえ。そういう魔法使いもいると聞いた事がありますじゃ」

 

「なら、ダイはそれに近いのでは?魔法と術が同じなら才能がまったく無い訳でもなさそうだ」

 

「「え?(ピィ?)」」

 

 三人?は酷く驚いた顔をして私を見る。どうしたのだろう?

 

「え?俺才能無いんじゃないの!?」

 

「?才能が無ければ湯気すら出ないと思うぞ」

 

 適正が無い。それは術を発動出来ない以前に覚える事が出来ない。その為、湯気でも出ているダイは才能はあるだろう。

 

「ブラスもわかってるがダイは真剣にやってるようで諦めてる。それが術に影響してると私は思うぞ」

 

 私の得意技も不安や無理と思えばどうしてもタイミングがズレて失敗する。

 

「諦め……」

 

「ブラスは術を使う時どう思って使ってるんだ?」

 

「え?ワシは大きさ、熱量、目標を考えて呪文を使っておりますじゃ」

 

 なるほど。ならダイも同じようにすれば出来るのでは?

 

「ダイ。次は小さくてもいいから、丸い炎を木片に当てることに集中してみてくれ」

 

「で、でも……」

 

「ピィピィ…」

 

 不安そうなダイにゴメちゃんが肩に乗って慰める。私は逆の肩にハサミを置きダイの目線にしゃがみ応援する。

 

「大丈夫だ。湯気が出たんだ。火の玉だって出るさ」

 

「……うん。わかった!俺やってみるよ!」

 

 ダイは先ほどと同じように手を木の板へ向ける。ただ、先ほどと違い精神を集中していた。

 

「……」

 

「ピィ…」

 

 島からモンスター達の音が消えて、風が木を揺らす音が響く。

 術とは自然の力を操る力だとブラック達が言っていた。人間が炎の朱雀術、風の玄武術、水の蒼龍術、地の白虎術の四聖獣の術が得意なのは必然だ。私達亜人は生まれた時から決まった属性の術しか使えない。だから、少しでも熱を出せるダイは才能がある。

 

「【火炎呪文(メラ)】」

 

 ダイの声と共に小さいが炎が木の板へ飛んでいく。パコンと軽い音を立て、木の板に当たる。

 

「……やった……やったぞぉっ!!」

 

「おぉ…ダイが魔法を成功させた…」

 

「ピィピィ!!」

 

 ブラスも内心諦めてたのかも知れない。話を聞けばダイが術を習ってから一度も成功してなかったらしい。ブラスはブラスなりにダイに立派な魔法使いになって欲しい。そう思って修行をしていたのだろう。

 

「ブラス。ダイのメラはどうだ?武器を持った魔法使いになれそうか?」

 

「…なれるでしょう。ダイは身体を動かすのが好きで、よく島の皆と勇者ごっこをしておりますので……」

 

 はしゃぐダイとゴメちゃんをブラスは少しさみしそうに見つめる。その姿を見て、私はもしかして要らぬ事を言ったのではないか?そう思った。

 

「すまない」

 

「え?」

 

「ブラスの姿を見てさみしそうに見えた。たぶんその原因は私だろう。すまない」

 

「いえいえ!ボストン殿のせいではありません。ただ…」

 

「ただ?」

 

「子供が成長するのは早いと思いまして……」

 

 ダイを見る目が変る。遠く…そうダイを見ているがもっと遠くを見ているようだ。

 

「……そうだな」

 

 ブラック達が島に来て滞在したのは少しだったが彼らの中にそんな目をする者達がいた。話を聞けば故郷に残してきた家族の事や仲間の事を話てくれた。

 

「ボストン殿。ワシはダイに立派な魔法使いになって一人でも(・・・・・)生きて行けるようにしたかったですじゃ」

 

「……」

 

「ワシももう歳ですじゃ。ダイもいつかはこの島を出て人間の町で暮らす事になるやもしれん。そう思うとワシがダイに渡せるものは魔法だけですじゃ」

 

「そんな事は無い」

 

 魔法だけ?そうではない。

 

「ブラスの事を話すダイはいつも楽しそうだ。ゴメちゃんと二人でブラスの事を教えてくれる姿は見ていてうれしくなる。この島は凄く居心地がいい。それはこの島の長であり、じいちゃんのブラスがいるからだろう。魔法だけではなくブラスの気持ちもダイ達に残る。ダイが心優しいのもすべてブラスの気持ちが伝わったからだろう」

 

「ボ、ボストン殿……」

 

「それに…友達になったんだ。私はブラスともっと居たいぞ」

 

「ボストン殿ぉぉ…」

 

 ブラスには長生きして欲しい。もっと話したいし、ダイ達も同じ気持ちだろう。

 

「じぃ~ちゃ~ん!見ててぇ~!ん~~【氷系呪文(ヒャド)】!」

 

 そう遠くから声をかけたダイは目の前に小さな氷を作り出す。どうやらコツを掴んだようで術を使うのが楽しいようだ。

 

「ダ、ダイぃ…」

 

「ほら、ブラス泣いてないで返事を返してやったらどうだ?」

 

「は、はい……こらぁ!そんなに使ったていたら魔力切れを起こすぞぉ!」

 

 ブラスは涙を拭い、いつもの様に大きな声でダイに注意する。

 

「大丈夫大丈夫!【氷系呪文(ヒャド)】」

 

「ピーピー!」

 

「あははは!!…はれ?」

 

 海に入り、自慢げに術を自慢していたダイが急にフラリと倒れ海に沈む。

 

「ピィピー!?」

 

「ほれ、言わんこっちゃない!」

 

「任せろ!」

 

 魔力切れで力が入らないのだろう。私が駆けつけた時にはマーマンがダイを抱えて岸に上がっていた。

 

「ダイ大丈夫か?」

 

「うん。へへへ。危なかった」

 

「今はゆっくり休め。後でブラスと私で説教だ」

 

「え~そんなぁ~」

 

「心配させたバツだ」

 

「そうじゃ。心配したんじゃぞ」

 

「ガウガウ」

 

「ピーピィ…」

 

「…ごめんなさい」

 

 ダイはみんなに心配されているのがわかり、深く反省したようだ。

 

「わかればよい……ボストン殿すまんがダイを家まで運んで貰えますかな?」

 

「任せろ」

 

 ダイを背負い皆で家に帰る。ダイとゴメちゃんは疲れて寝ている。ゴメちゃんは器用にダイの頭で寝ているがどうやって捕まってるんだ?

 

「ボストン殿、今日はありがとうございますじゃ」

 

「これぐらい任せて欲しい。いつも色々して貰ってるから他に出来る事があれば言って欲しい」

 

 勉強、食事などブラス達にはお世話になってばかりだ。魔物でもいれば闘いお礼をするがいないので私の出番が無い。待てよ?なら…

 

「…よければダイの訓練の相手をして貰えませんかな?」

 

「いいのか?」

 

 ちょうどその話をしようとしていた。私は武器は使えないが戦闘なら中々のものだと自負している。それこそこの島で一番強いだろう。

 

「はい。どうかダイをよろしくお願いしますじゃ」

 

「わかった。これからもよろしく」

 

 そうして私はダイに近接戦闘を教える事になった。

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