ハリーポッターと化物となった少女   作:96℃

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かくして化物(フリークス)は生まれた 九

――――――――1985年8月5日 払暁

 

 

 

 

ウォルター邸に横たわっていた早朝の静けさは、突如響いた轟音と男達の雄叫びによって引き裂かれた。

 

「なんだ!?」

 

書斎のソファでうたた寝をしていたウォルター家当主、オスカー・ウォルターは、外から響いてくる音にすぐさま目を覚まして窓へと駆け寄った。

 

「なんだ...これは...どうなっているんだ!?」

 

眼下に広がるのは、打ち破られた門とそこから雪崩れ込んでくる武装した三十人程の村人達の姿であった。村人達は口々に「魔法使いに死を!」「化物に死を!」と叫んでいる。

 

その村人達の最後尾を歩く身なりのいい男を見つけオスカーは唸り声を上げた。

 

「あれは...ウォード氏か!ダニエル君の傷痕から我々が魔法使いであると知られたのか...だがこうも直接的な手段に訴えてくるとは!魔法使いに死をだって?魔女狩りを繰り返すつもりか!そうはさせんぞ......!」

 

「あなた!外の状況はどうなっているの?」

 

憤慨するオスカーの元に妻、アイリーンが姿を現し外の状況を訪ねる。

 

「ダニエル君の父君、アルフレッド・ウォード氏が武装した村人達を引き連れて襲撃を仕掛けてきた。私達が危惧した状況が本当に起こってしまったようだね....彼らは魔法使いの死を求めている。恐らく、狙いはメルセデスだろう。」

 

「そんな....」

 

アイリーンの顔は蒼白になっていた。しかし、その目に湛えているのは絶望ではなく、この状況を切り抜ければならないという意志であった。

 

「オスカー、戦うしか無いのね?」

 

「ああ、煙突ネットワークは魔法省の追及を避けるために設置していないし、どうやら姿眩ましの妨害呪文を掛けられているようだ...敵はマグルだけでは無いようだね。恐らく、姿を見せはしないだろうけど。現状、私達の逃走手段は全て潰されている。」

 

オスカーは憂鬱な様子で続ける。

 

「敵が闇の魔法使いであったならまだ楽だった。魔法で叩き潰してアズカバンの目の前にでも放っておけばいいからね。だが、今回の相手はマグルだ...下手なことをすれば直ぐに魔法省が私達をアズカバンに連行しに来るだろう。そういう連中だ。私達が自分の陣営に参加しなかったことが余程腹に据えかねたらしい...」

 

オスカーは大きなため息を吐いて壁に寄りかかり、力なく呟いた。

 

「私達は...また戦わねばならないのか?ここ(マグル界)まで来たというのに...すまないね、アイリーン。君に魔法界を捨てさせてまで私がしたことは無駄だった。私は、君の人生を犠牲にしてしまったのかも知れない...」

 

アイリーンは壁に寄りかかるオスカーの首に腕をまわし、耳元で口を開いた。

 

「私は、大切なものの為に戦争を無くす第一歩として、自分達が戦争から遠ざかろうという考えに賛同したわ。だから貴方が魔法界を去ることを決意したときも貴方についていったし、今もここにいる。」

 

「だが、その結果がこの様だ。僕は君の人生を...」」

 

「私は貴方についていったことで人生を無駄にしたなんて思っていないわ。この村での平穏な生活は今までにない安らぎを私に与えてくれたし、家族を守る為に自らの一切合切を投げ出せる貴方を私は愛していたの。そして...何よりメルセデスと会うことが出来た。」

 

「アイリーン......」

 

「貴方はメルセデスと会うことが出来たことを無駄だと言うの?いいえ、そんなはずは無いわ。貴方の行動原理は全て家族のためだもの。戦争の無い世界を望むのも、家族が安心して暮らせるようにするためでしょう?」

 

――――――そうだ、元々僕が望んでいたものは家族が安心して暮らせる世界だった筈だ――――

 

アイリーンの言葉に、オスカーは夢から覚めたような感覚を覚えていた。

 

(戦う事が家族を危険に晒すという考えだけが先走っていたのか?自分で言っていたではないか!力とは大切ものを守るために使うものだと!私の中で言葉のみが残り、意味を失っていた...あれほどメルセデスに語った理想の中身を見失っていたとは、情けない!)

 

階下からは、玄関をぶち破ろうと村人達が重厚な扉に体当たりを繰り返している音が響いている。

 

「貴方は今、戦うことによって起こる様々な問題に目を向けすぎているわ。今はメルセデスを守るという最低条件を達成するのよ。」

 

「ああ、すまない...アイリーン...寝ぼけていたようだ。冷静さを欠いていたよ...今、私がすべきことは自分の行動の先にあるものを恐れることではない、家族を守る為に敵を駆逐することだ!自分の行動への反省や後悔は後ですればいい!」

 

オスカーは迷いを振り切り、前へと踏み出す。

 

「カーム!ここへ!」

 

「ここにございます。旦那様!」

 

オスカーはカームを呼び出し、命令を下した。

 

「メルセデスを頼む。あの子はきっと共に戦おうとするだろう。君の出来る限りでいい。止めるんだ!また、もしメルセデスに近づこうとするものが居たならば、躊躇なく排除せよ!方法は君の判断に任せる!」

 

「御意に!」

 

命令を受けたカームはメルセデスの元へと向かった。

 

オスカーはアイリーンの方を振り向き、手を差し出した。

 

「アイリーン...私と共に戦ってくれるかい?」

 

「私は四十年前から、貴方と共に戦っているつもりでいるわよ。」

 

アイリーンはオスカーの手を取り、いとおしげに握りしめた。

 

二人は連れ立って敵がやって来るであろう階下の大広間へとむかう。

 

私達(ウォルター)の行く先々に争いがやって来る...最早これは家名にかかった呪いのようなものなのかもしれない。...私は争いの無い世界を望んでいた。

この村に来たのも、せめて私の周りからは争いを無くしたいという思いがあったからだ。だが...その思いすらも越えて争いがやって来るならば、受けて立とう...」

 

オスカーの血のような赤色をした瞳には、先の魔法戦争ですら見せることのなかった程の闘志を宿していた。

 

「相手はマグルだ。それも、魔法使いに何らかの支援をされているもの達だ。マグルの武器もある。敵の戦力は未知数、手加減をしきれずに殺してしまうこともあるだろうし、私達がここで死ぬことも十分にあり得るだろう...」

 

「ええ、それでもメルセデスだけは守るわ。例え後世にマグル殺しの犯罪者として名を連ねることになっても、自分の身を犠牲にしても、自分の命が尽きることになっても...!」

 

「ああ、だけど、それは最終手段だ。メルセデスに犯罪者の娘という汚名を着せるのは忍びないし、私は君にも生き残って貰いたいのだから。」

 

「生を渇望する時期は当の昔にすんでいるわ。そろそろ死に場所にも困っていた所よ。私は自分の死に場所をここと定める。...気がかりがあるとすれば、あの子を一人にすることだけよ。」

 

「敵さえ打ち倒せれば、後はきっとダンブルドアがメルセデスを一人にしないでいてくれる。今日が母の命日でよかった...」

 

玄関から轟音が鳴り響く、敵は直ぐ近くだ。

 

オスカーは自嘲気味に笑う。

 

「メルセデスから見れば、私は自分の言ったことすら守れない父親に見えるのだろうね...」

 

「そうね。でもきっと、あの子はそれを自分を守る為だったと理解してくれるわ。」

 

「きっとそうだ、あの子はとても敏いからね。...どうやらお出ましのようだ。」

 

大広間の扉が開かれていく。

 

「ウォルター家当主、オスカー・ウォルターとその妻、アイリーン・ウォルターがお相手しよう。さぁ来い!アルフレッド・ウォード!戦ってやる。」

 

開け放たれた扉の先には、武器を持ち殺気だった村人達と、その先頭で狂気的な笑顔を浮かべるアルフレッドの姿があった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「先程の大きな音は何だったのでしょうか...」

 

メルセデスは門が打ち破られた轟音で目を覚ましていた。しかし、まさか自分の命が狙われているとは思いもしないメルセデスは何かあったのなら両親がやって来るだろうと考え、部屋から動かずにいた。

 

「高く積み上げた荷物が崩れ落ちたとかですかね?でも...そんなに高く積み上がったもの何て知らないですし...音だけでは考えてもわかりませんね。」

 

メルセデスが暫く音の原因についてあれこれと考えていると、部屋の扉が開いた。

 

「っ!誰?」

 

「カームでございます。お嬢様。」

 

「カーム?」

 

部屋に入ってきたのはウォルター家の屋敷妖精、カームであった。

 

「カーム、先程の大きな音は何だったのですか?」

 

「そのことなのですが...お嬢様...」

 

カームはとても話しにくそうにしていたが、意を決して話始めた。

 

「お嬢様、心してお聞きください。実は...お嬢様のご友人であられるダニエル様のお父上が、村人達と共に武器を持ってこの館に襲撃を仕掛けてきたのです...それも、魔女であるお嬢様は危険な存在であるから排除しなければならないと...」

 

「何ですって!?」

 

メルセデスは、カームの報告に血の気が引くような感覚を覚えた。

 

ダニエルの父が自分を魔女として殺しに来る理由が、自分が治したダニエルの傷痕以外に見当たらなかった。

 

「襲撃が起こったのは私が原因ということですか...!」

 

メルセデスはカームに掴みかかるような勢いで問いかける。

 

「お父さんとお母さんはどうしたのですか!」

 

「旦那様方は、カームにお嬢様を任せて大広間にて襲撃者達を迎え撃つようでございます。」

 

メルセデスは、戦うことを嫌っていた両親が戦おうとしていることに信じられない気持ちになった。

 

「お父さん達は...戦うのですか?」

 

「それしか道がないのでございます...」

 

「それは...きっと私の為なのですね...」

 

メルセデスは暫く項垂れた後に再び顔を上げた。その父親譲りの赤色の瞳に秘めた決意を感じ取ったカームはメルセデスを止めようとする。

 

「お嬢様...!まさか自らも戦おうなどとお考えになっているのではありませんな?いけません!旦那様方は貴方を御守りするために戦うのです。お嬢様はここで大人しくしているべきなのです!」

 

その時、階下から幾つもの破壊音、銃声、男達の怒号が響いてきた。戦いが始まったのだ。

 

「私の考え無しの行動によって起きた戦いなのです!私の考え無しの行動の為に二人を危険晒して!二人の信念反する行動を取らせて!当の私が...こんな所で大人しくしているなどと...私はウォルター家の恥晒しになるつもりはありません!」

 

メルセデスは抑えようとするカームを押し退け、部屋の外へと向かおうとする。

 

「お戻りください!お嬢様!お戻りくださらないならばカームは貴方様を止めなければなりません。」

 

カームは魔法を使ってでもメルセデスを止めようとする。主人に手を上げる自分には、後でキツイお仕置きをしなければならないと考えながら。しかし...

 

「ごめんなさい...カーム...でも、ここで止まってしまえば私は...きっと自分をこの家族の一員だと胸を張って言えなくなる!

―――――――ペトリフィカス・トタルス(石になれ)!」

 

カームがメルセデスを止めるより先にメルセデスの石化呪文がカームを石に変えた。

 

「暫くしたら解けるようにしてあります...カーム、私を許してとは言いません。ただ分かって欲しいのです...」

 

そうして、メルセデスは戦場と化した大広間へと向かった。そこで自分が何を見てしまうのかも知らずに...

 

 

 




序章の筈なのにクライマックスを感じる......
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