イングランドの何処かに存在する森、マグルには魔法によって認識すらされない森の奥深くに魔法使いの屋敷があった。
その屋敷は魔法界の貴族と呼ばれる者達の屋敷と同等の規模であったがきらびやかさは無く、何処か寂れているような印象を見る者に与えた。その屋敷は、先代ウォルター家当主が魔法界から姿を眩ます際に放置されたウォルター家の別邸の一つであった。
そんな屋敷へと一羽のふくろうが飛んでいく。その嘴には二通の手紙が咥えられていた。
ふくろうは屋敷の窓の一つへと近づくと脚を持ち上げて窓を叩いた。その窓からは一人の少年が料理を作っているのが見える。
「ん?ふくろう便か。」
ふくろうが窓を叩く音に気づいた少年――――――ダニエル・ウォードは料理を中断して窓を開ける。
「お疲れ様。ほら、ご褒美をあげよう。」
ダニエルは手紙を受け取ると焼こうとしていたベーコンの一枚をふくろうに投げてよこした。
ふくろうはベーコンを嘴に咥えるとそのまま来た道を引き返していく。
ダニエルは料理を再開しながら手紙へと目を向けていた。そのまま手紙は、獅子、蛇、穴熊、鷲が象られた封蝋によって閉じられている。
「この封蝋は...この手紙はホグワーツからの入学許可証というやつかな?料理が出来たらメルセデスにも渡しに行こう。」
手紙に目を向けながらもダニエルは手際よく料理を作り上げていく。ほどなくして料理が完成し、ダニエルはテーブルに料理を並べた。
「さて、朝食も作り終わったしメルセデスを呼びに行こう。メルセデスは今日も地下かな...」
そう呟くとダニエルは地下室へと足を向ける。
屋敷の中はその大きさに反比例するかのように飾り気がなく、殺風景な様相であった。掃除だけはされているのか不潔な印象こそ抱かないが、その静けさに何処か不気味さを感じることができる。
長い廊下を歩き、何もない壁の前に立って壁に空いた穴の幾つかに指を挿していくと壁は機械的に動き始め左右に開いていく。その間からは地下室へと続く階段が現れた。
この仕掛けには魔法は使用されておらず、マグル式のからくりによって作られたものであった。魔法による仕掛けばかりを探す魔法使いを欺く為のものである。
地下へと続く階段を降りるとそこには重厚な扉があった。扉からは言い様の無い不安を掻き立てる雰囲気が漏れ出していて、中には何か恐ろしい化物が居るのではないか...と言う想像が浮かぶ。
ダニエルは扉をノックして中へと呼び掛ける。
「おはようメルセデス、朝食が出来たよ。それと、ホグワーツからの手紙が来た。」
ダニエルの呼び掛けに扉の先の人物は鈴を鳴らしたような綺麗な声で答えた。
「少し待っていて下さい。直ぐに向かいます。」
しばらく中から物音と
「おはようございます。お待たせしました、ダニー。さぁ、ダイニングに向かいましょう?」
少女――――――この屋敷の主人であるメルセデス・ウォルターは、ダニエルの手を取り歩き出す。
「研究は順調かい?」
前を行くメルセデスに、ダニエルが声をかけた。
「ええ、新しい資料の方がやっと大人しくなってくれたので、わざわざ押さえつけずに済むようになりました...これで研究が捗りますね。」
今までは押さえつけながら研究をしていたのかと思うダニエルだったが、今は大丈夫ならいいかと思い直した。次の資料に移ることになったら拘束具でも作ろうかと考え始める。
「そうか、それは良いことだね。君のやっている研究は正直僕には分からないけど...君がそれを必要だと思っているならいくらでも応援するよ。」
「ありがとうございます、ダニー。貴方には随分とお世話になっていますね...貴方がいなければこの屋敷も埃まみれになっていたでしょう。それに料理まで引き受けてくれて、とても助かっています。私は料理が出来ませんから...」
そう言ってメルセデスは苦笑する。事実、彼女は料理をしたことが無いため、もしダニエルがいなければその食事事情は悲惨なことになっていたことは明白であった。
「気にすることは無いよ?
ダニエルは、六年前の事件によってこの別邸へと移り住むことを余儀なくされていたメルセデスに付いてきた形でこの屋敷に住んでいる。
会話をしながら歩く内にダイニングへと戻ってきた。大きな縦長の食卓には、その大きさに似合わず二人分の朝食が並べられている。この屋敷に住んでいる
二人は向かい合って椅子に座り、朝食を食べ始めた。
「今日も美味しいですね、ダニー。」
「お褒めに預り光栄だよ。だけど、まだ君の家の屋敷妖精だったっていうカームには追い付いて居ないんじゃないかな?」
「それは否定しません。ですが、直ぐに追い付ける所までは来ていますよ?」
和やかな雰囲気で食事は続き、二人は同じ頃に食事を終えた。食器を片付けようかというところでダニエルが忘れていたと声をあげる。
「そうだ、さっき渡そうと思っていたんだけど忘れていた。ホグワーツからの手紙だ、これが君の分だよ。」
メルセデスは渡された手紙を受け取り封蝋の上を指で一閃する。すると封蝋は二つに別れ、メルセデスは中から手紙を取り出して開いた。
―――――――――――――――――――――――――
ホグワーツ魔法魔術学校
校長 アルバス・ダンブルドア
マーリン勲章勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員
親愛なるウォルター殿
このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。
教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。
新学期は九月一日に始まります。七月三十一日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。
敬具
副校長 ミネルバ・マクゴナガル
―――――――――――――――――――――――――
「ふむ...やはりホグワーツの入学許可証ですか。」
メルセデスが手紙を読んでいる間にダニエルは準備物のリストを読んでいたようだ。
「色々と教材を買わないと駄目みたいだね。教科書も屋敷には無いものが有るみたいだしダイアゴン横丁に行かないと。後、そろそろ新しい杖も買わないとね。いつまでも
都合の良い日を訪ねられたメルセデスはしばし悩んだ後希望日を伝える。
「そうですね、七月三十一日が一番都合がつきます。」
「なら決まりだ。七月三十一日にダイアゴン横丁へ行こう。移動手段は煙突飛行で大丈夫かな?」
煙突飛行とは魔法界における移動手段の一つであり、魔法のかかった暖炉に
「煙突飛行を使うと魔法省の監視がつく可能性もありますが...今回は
煙突飛行のネットワークは魔法省によって管理されているため、魔法省は必要とあらば特定の家の暖炉の使用状況を監視することもできる。メルセデスは六年前の事件によって一部の魔法省職員から危険視されていた。
「魔法省の人達もしつこいな...表面上は大人しくしている筈なのにね?ある意味仕事熱心なのかも知れないけど。」
「ええ、特にあのマッドアイと呼ばれる凄腕の闇払いは妙に私たちに構ってきますね。前大戦中にアズカバンの独房の半分を埋めたと聞きましたが...そんな人物に警戒されるなんて生きた心地がしません。」
そんなことを言いながらも、メルセデスは機嫌が良さそうであった。
「生きた心地がしないなんて言いながら随分と嬉しそうだね?」
「それはそうでしょう?あんな実力者に警戒されてるということは、それだけ私の望みが果たされる可能性が高くなるのですから。」
嬉しそうに微笑むメルセデスを見ながら、ダニエルは少し呆れたように呟く。
「警戒されてもいるんだろうけど、どっちかというと世話をやきに来ているように僕には見えるんだけどな...」
マッドアイは一ヶ月に一度程度屋敷に現れ、屋敷を一通り見回った後に消耗品をこれでもかと二人に渡して帰っていく。時には少しばかりの魔法の講義をして帰る時もあった。
屋敷を見回られているが、見られて困るものは全て例の地下室に置いてある。流石の凄腕の闇払いもマグル式の隠し扉には気づかないようだった。
「まぁいいや。じゃあメルセデス、ダイアゴン横丁へは七月三十一日の朝に煙突飛行で行くってことで問題無いね?」
「はい、問題ありません。久しぶりの外出ですから楽しみましょうね?」
それから二人はダイアゴン横丁で何を買うかを話あっていった。
自分達がダイアゴン横丁に向かうその日に英雄が初めて魔法界にやって来ることを、二人はまだ知らない。
次回は原作主人公の初登場です。