sideメルセデス
グリンゴッツ―――――英国魔法界唯一の銀行であり、英国の魔法使いのほとんどがここに金庫を有している。グリンゴッツは主に
白い階段の先にあるブロンズの扉を通って二番目の扉を通ろうとすると、ハリーが扉に書いてある言葉を興味深げに眺めていた。どうやら盗人への警告文が珍しかったようだ。
ハリーが食い入るように警告文を読んでいるのを見てハグリッドが呟いた。
「ここから何かを盗もうなんて、狂気の沙汰だわい。」
確かにここの警備はかなり厳重だ。盗人落としの滝、ドラゴン、
扉を抜けて中に入ると、中は広々とした大理石のホールだった。大勢の
「おはよう。ハリー・ポッターさんの金庫から金を取りに来たんだが。」
ハグリッドが
「鍵はお持ちでいらっしゃいますか?」
鍵は有るかとたずねられたハグリッドはポケットをひっくり返し始める。
「どっかにあるはずなんだが...」
どうも時間が掛かりそうだったので隣の
「おはようございます。ウォルター家の金庫を開けに来ました。」
「鍵をお持ちでいらっしゃいますか?」
私は鞄の中から小さな黄金の鍵を取り出して
「はい。これです。」
鍵を受け取った
「承知いたしました。」
しばらく鍵を見つめていた
「それと、ダンブルドア教授からの手紙を預かってきとる。七一三番金庫にある
例の物?随分と気になる言葉が飛び出してきたものだ。ダンブルドアがグリンゴッツに預けていた物か...よっぽど重要なものなのだろうか?いや、本当に大事な物なら自分の手で管理した方が安全な気もする。なんと言ったってあのダンブルドアだ。グリンゴッツよりもホグワーツの方が安全といわれている所以は彼にあるのだから。
渡された手紙を読んだ
私達はグリップフックについてホールの外へ続く扉へと向かった。その途中でハリーがハグリッドに話しかける。
「七一三番金庫の例の物って、何?」
例の物については私も気になっているので便乗する。
「私も気になりますね。ダンブルドア先生がわざわざグリンゴッツに預ける物なのですから、余程大事な物なのでしょう?」
「極秘だ。ホグワーツの仕事でな。ダンブルドアは俺を信頼してくださる。お前さん達に喋りでもすりゃ俺が首になるだけではすまん。」
ホグワーツの仕事で極秘...?ますますわからなくなった。もとからホグワーツにあった物をグリンゴッツに移動させたとは考えにくい。ホグワーツに置いておいた方が安全だからだ。恐らく何かを外部から持ち込もうとしているのだろう。少しダニーと話合ってみるべきかもしれない。
私は少し後ろを歩いていたダニーに歩調を合わせ、前の二人に気づかれないように例の物についての意見を聞く。
「例の物とはどんな物だと思いますか?ダニー。」
「そうだね...僕ら生徒にすら話したら首が飛ぶような物だろう?生徒にすら話せないってことは余程情報が漏れてはいけない物ってことなんだと思う。そして、それはホグワーツの運営そのものには関係していない物なんだ。ホグワーツに必要なものならわざわざグリンゴッツを経由しないだろうし。」
「そうですね。私もホグワーツに直接関わる物では無いと思います。では、外部の物をホグワーツに移動させる意味は何でしょう?やはり、より安全な場所へ、と言うことでしょうか。」
グリンゴッツからホグワーツへ、銀行から学校へと考えるとおかしく感じるが、安全な場所からより安全な場所へと考えるとしっくり来る。
「その考えで合っていると思うよ。多分、ダンブルドア先生は誰かに何かを守ってほしいと頼まれたんじゃないかな?誰かに狙われるか何かして最初はグリンゴッツに預けていたけど、それでもまだ不安だからダンブルドア先生に守って貰いたいって。」
そうだとすると、その誰かはダンブルドアに個人的な頼みができる程近しい関係で、物はダンブルドアが真剣に守ろうとするほど奪われるといけない物だってことだろうか?
「もしそうなら、僕はダンブルドア先生の正気を疑うかな。誰かに狙われているようなものをか弱い生徒が大勢いる学校に移すなんて迂闊すぎる。ホグワーツの守りに自信があるのかもしれないけど、教育者として優先するべきは生徒の安全じゃあ無いのかな?」
最もだと私は思った。だけど、例の物がダンブルドアにとって生徒を危険にさらしてまで守りたい物なのか、もしくは生徒が危険にさらされるなどと考えもしていないのか私には読めない。
ダンブルドアはとても長い年月を生きてきた、物事を考える力は十分以上に持っている筈だが彼には浅はかだった前科がある。六年前、この私を野放しにしたことだ。けれど、それさえも彼の何かしらの考えによって行われた事なのではないかという思いが脳裏をちらつく。考えているのかいないのか、それすらも読むことが出来ない所がダンブルドアの一番厄介な所だと私は思う。
私がダンブルドアの思惑について考えを巡らせている内に、トロッコに着いた。トロッコは大男のせいで非常に乗り心地が悪かったが、当の大男が最も気分が悪そうにしていたので誰も何も言わなかった。トロッコが苦手らしい。ついでにダニーも死にそうな表情を浮かべていた。彼は高い所が得意ではない。欠点が目立つことの少ないダニーには珍しい欠点らしい欠点だった。後ろは大男、目の前は大穴で普段の倍は苦痛を感じているようだ
一番最初に着いたのはポッター家の金庫だった。ポッター家は随分と財産を溜め込んでいたようで、金庫の中はガリオンの山で埋め尽くされていた。まぁ、元が純血の名家だったので当たり前か。
次に着いたのはウォルター家の金庫だ。金庫の中にはポッター家の金庫よりも金貨の山が積み上げられ、所々に魔法の道具や高価な装飾品、そして大量の剣や槍といった武器が置いてある。ここ二百年ほどは全く使われていないが、昔のウォルター家は武器も使っていたらしい。しかし、自分の家系ながらよくここまでの金貨を集めたものだ。戦争で儲かるのはマグルも魔法使いも変わらないらしい。
ウォルター家の金庫の中身に驚いていたハリーが興奮した様子で私に話かけてきた。
「すごい金貨の山だね!メルセデスの家系はどんな家なの?剣とかもいっぱいあるけど...」
「私の家は代々魔法界の戦争で名をあげてきたんですよ。この金貨の山も打ち負かした相手から奪った物達ですから、あまり誉められたような出所では無いのです。」
ハリーの質問に答えながら私は当面の生活費と今日の買い物のための金を魔法の鞄に詰めていく。明らかに鞄に入る容量ではない貨幣がどんどん鞄に収まっていくのが不思議だったのか、ハリーはポカンと口を開けていた。
「この鞄には魔法がかけてあるんです。便利な物ですよ?」
私がハリーに鞄を開いて見せると、彼は物欲しそうな表情をした。金はあるのだから自分で買えばいいのに。
再びトロッコに乗り、若干二名ほど半死半生になった所で例の七一三番金庫に着いた。
「下がってください。」
その金庫には鍵穴が無かった。どうやら
グリップフックがその長い指で扉をそっと撫でる。すると扉が溶けるように消えていった。
彼によると
さて、金庫が開いたことだし例の物とやらを拝もう。
私が金庫の中を覗きこむとそこには茶色の紙でくるまれた小さな包みがぽつんと一つ置かれているだけだった。
これが...ダンブルドアが守ろうとしているもの?予想以上に小さいけど、これほど小さいなら正体の候補は絞られてくるだろう。まぁ、気になりはするけどそれまでだ。是が非でも答えを見つける必要はないか...
ハグリッドはさっさと包みをコートの奥へしまいこむとトロッコへ向かった。
「行くぞ。地獄のトロッコへ。帰り道は話しかけんでくれよ。俺は口を閉じているのが一番よさそうだからな。」
そう言ってハグリッドトロッコへ乗り込む。
「全く同意だ...!でもこれで最後だ...!耐えろ、僕...」
ダニーもハグリッドの後を追ってトロッコへ乗り込む。ハグリッドとダニーはトロッコの中で、お互い大変だなとでもいうように顔を見合わせた。
「あれ?次はダニエルの金庫に行くんじゃないの?」
ハリーが不思議そうにたずねる。覚悟を決めるのに忙しそうなダニーに変わって私が答えた。
「ダニーはマグル生まれの魔法使いなのです。だから、彼の財産はここには無いのですよ。」
私の答えにハリーは驚いた様子だった。
「え?そうなの?メルセデスと一緒でここに慣れた様子だったからてっきり昔から通っているのかと思ってた。」
「そうですよ?彼が初めてここに来たのは六年程前のことです。」
ハリーはさらに混乱したようだ。
「えっと...つまり、どういうこと?」
「まぁ、ダニーにも私にも込み入った事情があるのですよ...」
私が会話を切り上げるとハリーはそれ以上は聞いて来なかった。
私達がトロッコに乗るとトロッコは猛烈な速さで走りだし、再び二名の脱落者を出しながら地上へと帰っていった。
六年前に人格が破綻したメルセデスさんですが、この六年の間である程度普通の人間に