長めです。やっとダイアゴン横丁が終わりました。
sideメルセデス
グリンゴッツを出た私は、今にも吐きそうなダニーの背を擦りながら次に買うものを思案していた。けれども、ダニーから通りへ目を向けた時点で次に買うものが決まってしまう。というのも、目の前に買わなければいけない物の店があったからだ。
「制服を買った方がいいな。」
ハグリッドが店の看板を顎でさした。看板には「マダム・マルキンの洋装店〜〜〜普段着から式服まで」と書いてある。
私達が店に向かおうとすると、ハグリッドがハリーに話しかけているのが聞こえた。
「なぁ、ハリー。漏れ鍋でちょっとだけ元気薬をひっかけてきてもいいかな?グリンゴッツのトロッコにはまいった。」
ハグリッドの話を聞いていたダニーが申し訳なさそうに聞いてきた。
「ごめん、メルセデス。僕もハグリッドについていっていいかな?今のままだと店の中が酷いことになりそうなんだ...」
「仕方ないですね...まぁ二人分の採寸が終わるのにも多少時間が掛かるでしょうし、時間的には問題無いと思いますよ。」
私が許可を出すとダニーは青い顔をしながら礼を言った。
「ありがとう、メルセデス。恩に着るよ...なるべく早く戻るようにする。」
ダニーとハグリッドと別れ、ハグリッドと別れたことで不安そうにしているハリーを引っ張ってマダム・マルキンの店に入る。
店には藤色の服を着た愛想のよい魔女がいた。彼女がマダム・マルキンだろう。マダムは店に入ってきた私達を見つけると、にこやかな笑顔で話かけてきた。
「坊っちゃん達。ホグワーツなの?全部ここで揃いますよ......もう一人お若い方が丈を合わせているところよ。」
店の奥では、青白い、あごのとがった男の子が踏み台の上でローブをピンで留めてもらっていた。
何処かで見たような顔だ...魔法省に行った時に見たような...?いや、子供が魔法省にいることなど特別な場合を除いてほとんどない。多分気のせいか、魔法省にいた誰かの子供なのだろう。
「ハリー、先に採寸をしてもらって下さい。」
そう言って私はさっさと店の入り口側に置いてある順番待ちの椅子に座った。あれは話すのが面倒そうな手合だ。ハリーには犠牲になって貰おう。
ハリーが採寸をされながら男の子と話しているのを横目に見つつ、私はあの男の子が誰の子供かを考えていた。
あの青白い顔、ホワイトブロンドの髪、気取ったような振る舞い......ああ思い出した、やっぱりハリーを犠牲にして正解だった。あれはルシウス・マルフォイの息子だろう。あの行き過ぎた純血主義とマグル差別が服を着て歩いているような男は、私の父を最も見下している人物だ。魔法界の名家の当主であったのにマグルに殺されたという事実がどうも気に入らないらしい。あの男には、魔法省で顔を合わせる度に何かしらの嫌味を聞かされてきた。あの男の息子なのだから、あれもろくな育ちかたをしていないはずだ。今も話をしているハリーの機嫌が急降下している。
私がルシウス・マルフォイにありったけの罵詈雑言を心の中で投げつけていると、ハグリッドとダニーが店の前にやって来ていた。二人の手にはアイスクリームがある。ハグリッドは店の中のハリーになにやら合図をしているようだ。
私は店の外に出てダニーに話かける。
「戻って来たのですね。その手に持っているアイスクリームは?」
「ハグリッドがハリーの為にアイスを買っていたから君にもと思ってね。」
ダニーが私にアイスクリームを手渡してきたので、受け取ってお礼をする。
「ありがとうございます。」
私はダニーに渡されたアイスクリーム―――ナッツ入りのチョコレート味のようだ―――を食べ始める。今までアイスクリームを食べる機会は殆ど無かったので少し食べるのに手間取ってしまった。
私がアイスクリームを食べていると店のドアが開き、中から機嫌が悪そうなハリーが出てきた。やはりルシウス・マルフォイの息子に何か言われたのだろう。ハリーはハグリッドからアイスを貰うと多少機嫌が回復したようだ。
これから二人分の採寸を待たせるのも効率が悪いと思うので、私はアイスを食べ始めた二人に一つ頼み事をする。
「これから二人分のの採寸となるとかなりの時間が掛かると思います。なので申し訳ないのですが、私達の分の買い物をしてきてくれませんか?請け負ってくださるなら魔法の鞄をお借ししますよ?」
私の提案にハグリッドは直ぐ頷いた。
「お前さんの鞄が借りれるならそれ以上楽なもんはねぇ、いいぞ。お前さん達の分も買ってきちゃる。」
「ありがとうございます。私達の分はこのメモに書いてある物をお願いします。そこに書いていない物は既に用意してあるので不要です。」
そう言って私は買い物の代金分の金貨とメモが入った鞄をハグリッドに渡した。
「よし、メモに書いてある物だな?それじゃ、採寸が終わったらオリバンダーの店に来てくれ。そこで待ち合わせしよう。」
そう言ってハグリッドはハリーを連れて歩いていった。私達も採寸をして貰おうと店に向き直った瞬間、ルシウス・マルフォイの息子が店から出てきた。嫌味ったらしい顔が私達に話しかけてくる。最悪だ。
「やぁ、君達はあの男の子と知り合いなのかい?」
ルシウスよりはまだ気取り方が甘いが、それでも鼻につくような喋り方だった。
「ええ、そうですよ。失礼ですが私達も採寸をしてもらわなければいけないのでお話はまた今度。では。」
さっさと会話を切り上げてダニーの手を引っ付かみ、店の中へと戻った。視界の端にあの男の影が見えたような気がする。あの男がダイアゴン横丁に息子一人を放り出すとは思えない。近くに居るのは確実だろう。こんな人の往来の激しい所で嫌味をたれ流されるのは御免だ。
「メルセデス?あの男の子は誰なんだい?随分と気にくわなさそうだったけど。」
ダニーが目を白黒させながら聞いてくる。
「あれがルシウス・マルフォイの息子だと言えばわかりますか?」
「ああ...なるほど...」
ダニーは直ぐに察したような表情をした。ダニーには魔法省であの男に会った後に屋敷で散々愚痴っていたので、私が彼をどう思っているのかをよく知っている。
二人で採寸をしてもらっている間も、私はダニーに向かってルシウス・マルフォイのことを散々に扱き下ろし続けた。
「さて、採寸も終わったのでオリバンダーの店に行きましょうか。」
「そうだね.......」
ダニーは心なしか疲れているような表情をしている。きっと気のせいだろう。
店から出て通りを歩いていくと、オリバンダーの店が見えてきた。オリバンダーの店は歴史があるのに随分とみすぼらしく、扉には剥がれかかった金色の文字で「オリバンダーの店――――紀元前三八二年創業、高級杖メーカー」と書かれている。紀元前三八二年....二千年以上の歴史があるなんて信じがたいことだ。ウォルター家でさえ千年ほどの歴史しか無いのに。
「ウォルター家の歴史も十分長いと思うんだけどな...」
後ろでダニーが何かを言っているけど気にしない。
中に入ると、丁度ハリーの杖が決まった瞬間だったようだ。ハリーが振った杖から赤と金色の火花が舞っている。
「ブラボー!」
中にいた老人―――店の店主であるギャリック・オリバンダーが叫んでいた。
「すばらしい。いや、よかった。さて、さて.......不思議なこともあるものよ.......まったくもって不思議な.....」
オリバンダー老はぶつぶつと不思議だと繰り返している。ハリーが渡された杖に何かあったのだろうか?
「あのう。何がそんなに不思議なんですか?」
オリバンダー老にハリーが聞いた。オリバンダー老はハリーをじっと見つめて話始める。
「ポッターさん。わしは自分の売った杖は全て覚えておる。全部じゃ。あなたの杖に入っている不死鳥の羽根はな、同じ不死鳥が尾羽根をもう一枚だけ提供した.....たった一枚じゃが。あなたがこの杖を持つ運命にあったとは、不思議なことじゃ。兄弟羽根が.....なんと、兄弟杖がその傷を負わせたというのに......」
兄弟杖がハリーの稲妻形の傷を負わせた....つまりそれはヴォルデモート卿の杖に他ならない。なるほど、それは確かに不思議なことだ。信じていないわけでは無かったが、やはり運命というものは存在するらしい。
オリバンダー老はさらに続けた。
「さよう。三十四センチのイチイの木じゃった。こういうことが起こるとは、不思議なものじゃ。杖は持ち主の魔法使いを選ぶ。そういうことじゃ.....。ポッターさん、あなたはきっと偉大なことなさるに違いない.....。名前を言ってはいけないあの人もある意味では、偉大なことをしたわけじゃ.....恐ろしいことじゃったが、偉大には違いない。」
他の魔法使いには成し遂げられないことをした、という意味ではかの闇の帝王は偉大だったのであろう。私は彼の思想には共感していないけど.....彼が魔法界に与えた恐怖の大きさは尊敬に値する。彼は既にハリーによって打ち倒されているがもし彼がまだ生きていて再起を図っているのなら、私は彼と接触を試みたいと思っている。彼の力は、私の
オリバンダー老から話を聞いたハリーが少し肩を落としながらハグリッドの所へと歩いていった。私達もハグリッドの所へ向かう。
「先ほどぶりです、ハグリッド。買い物は無事に済みましたか?」
「おお、メルセデスか。あの鞄には助かってるぞ、荷物を運ぶのにかかる手間が何一つ無いんだからな。買い物はメモに書いてある通りにすんだ。つりは鞄にしまってある。」
私は鞄を開いて中を確認する。買い物はきちんと済ませてくれたようだ。
「ありがとうございます。では、私達も杖を選んで貰いますね。」
まず私がオリバンダー老へと声をかける。
「こんにちは。」
オリバンダー老は私を見ると懐かしそうな顔をした。
「おお、これは懐かしい顔だ。オスカーさんとアイリーンさんの娘じゃな?お父さんと同じ目をしておる。三十二センチ、黒檀で作られていて、とても振りやすかった。ウォルター家の名に相応しく戦闘に適した杖じゃったな。最も、その最後は残念なものじゃったが....」
マグルを三十人も殺したことに自分の杖が使われてしまったのが残念で仕方がないのだろう。オリバンダー老の顔色は優れているとは言えなかった。
「アイリーンさんはナナカマドの杖に選ばれておった。二十五センチ、しなりのよい杖じゃった。高い防衛力を持つが、ここぞというときに相手を上回る攻撃を放つことができる杖じゃった。」
確かに、母は闇の魔法使いを一人で複数人ぶちのめしたことがあったそうだ。杖の性能というのはかなり正確にわかるものなのだなと思う。
「さて、それではウォルターさん。拝見しましょうか。どちらが杖腕ですかな?」
オリバンダー老が巻き尺を取り出しながらたずねる。
「左腕です。」
「腕を伸ばして。そうそう。」
オリバンダー老は私の寸法を測りながら杖の芯材について話す。この店では
巻き尺が私の鼻の寸法を測りだしたので、反射的に燃やそうとしてしまったがなんとか抑える。ダニーの目の前で鼻の寸法を測られるのは何か気に入らない。
「では、ウォルターさん。これをお試しください。リンボクに
オリバンダー老が巻き尺を片付けると、杖を差し出してきた。
渡された杖を手にとって振ってみるが、すぐにもぎ取られる。それから二、三本杖を振ったがどれもしっくり来ない。
「う~む、それではこれを。ヤマナラシにドラゴンの心臓の琴線。二十センチ、全く曲がらない。」
私が杖を振ると、今までとは違って杖の先から衝撃が発生し、店の一部をえぐった。
「おお、すばらしい。その杖もまた決闘に優れた杖じゃ。ウォルター家のあなたに相応しい。また、革命家の好む杖でもある...あなたはきっと偉大なことを成し遂げるじゃろう。」
ふむ.....革命家か。ある意味では私も革命家になることを望んでいるのかもしれない。私にあった杖だと言える。少し短めなのが気になる所ではあるけれど...
「杖が決まってよかったね。メルセデス。さぁ次は僕だ。」
私と入れ替わりにダニーの杖を選んでもらう。何本か杖を入れ換えた後、やっとダニーの杖から見事な火花がとんだ。
「ブラボー!イトスギに
英雄、という所でダニーは複雑そうな表情を浮かべた。
英雄.....か。もしダニーが英雄になる運命なのだとしたら、彼は何をもって英雄と呼ばれるのだろうか?頭の中で私の前に立ちはだかるダニーの姿が一瞬見えたような気がした。
.......彼は
いまだに気分が落ち込んでいる様子のハリーとハグリッドと共に、私達はオリバンダーの店を出る。
外では既に太陽が世界を赤く染めていた。私達は来た道を戻り、漏れ鍋へと帰って来た。
ハリーは道中もずっと黙りこくったままだった。余程さっきのオリバンダー老の話が引っ掛かっているらしい。この状態のハリーに魔法鞄に入れてある荷物を全てもって帰らせるのは流石に酷く見えるかと思い、私はハリーに声をかけた。
「ハリー、よかったらその魔法鞄を入学まで貸してあげましょうか?これからマグルの交通機関で帰るのでしょうから、その荷物は目立ちますよ。」
ハリーは突然の提案に驚いたようだ。
「え?いいの?確かに助かるけど...」
「大丈夫ですよ、まだダニーの鞄がありますから。」
私は自分達の分の荷物をダニーの鞄に押し込んで、自分の魔法鞄を差し出す。ハリーは遠慮しながらも嬉しそうに受け取った。
「ありがとう、メルセデス..ダニエルも...あの、ええと...」
ハリーは何かを言いたそうにしているが、中々声にならないようだ。
「どうかしましたか?」
ハリーは意を決して口を開いた。
「あの、二人とも僕と友達になってくれないかな!」
これは驚いた。まさか英雄から友達になりたいと言われるなんて。私とダニーは顔を見合わせて同時に頷く。
「勿論ですよ。よろしくお願いしますね、ハリー。」
「こちらこそよろしく、ハリー。」
ハリーは随分と感激した様子だ。ハグリッドも後ろで涙ぐんでいる。
「ありがとう、二人とも。ホグワーツでもよろしくね!」
こうしてハリーと友人になるという予想外の出来事が有りつつも、私達の買い物は終わった。英雄と友人になったことで今後私達にどのような影響が出るのかはまだ、わからない。