ムーディ視点がこれほど難しいとは思いませんでした...
sideマッドアイ
「全く!面倒な場所に建ちおって!」
傾いた太陽が木々を赤く染めている森の中を歩きながら儂は独りごちる。
森の中には道というものが存在しておらんし、周りの風景も何一つ変わらん為に歩きにくいことこの上ない。方角を示す魔法を使わんで進むことは不可能だろう。
そのような面倒な場所を歩く羽目になっておるのは一重に儂の目的地であるウォルター邸がこの森の中にあるせいだ。
ウォルター邸には姿現し妨害もかかっておるわ、とある事情によって煙突飛行も使うわけにはいかないわでウォルター家に向かうには森の中を突っ切る他無い。箒で空を飛ぼうにも上からはウォルター邸が見えないという徹底ぶりだ。
「油断大敵」が儂の座右の銘ではあるが、いざ自分が防御を固めた屋敷へと向かう身になるととても面倒な道のりだ。
こんな苦労をしてまで儂がウォルター邸を目指すのは、あの屋敷に住む二人の子供に会いに行くためだ。
メルセデス・ウォルターとダニエル・ウォード。儂はあの二人に月に一度ほど会いに行っている。
何故そのようなことになったのかというとだ。六年前、闇払いを引退して隠居生活をしておった儂の元にホグワーツ校長であるダンブルドアが現れて頼みごとをしてきおった。その頼みごとは、ウォルターの娘の監視役を兼ねた保護者になってくれという内容だった。
ダンブルドアが現れたのはあの事件がまだ新聞に載っていない時期だったからな、ウォルターが死んだことをまだ知らなかった儂はダンブルドアに事の顛末を聞いたのだ。
するとどうだ?ダンブルドアから語られたのは幼い子供が心を病むには十分すぎる凄惨な事件であった。闇に堕ちないように監視をせねばならないのは至極真っ当なことだろう。ダンブルドアは闇に堕ちる可能性は低いと断じていたが、儂はそうは思わん。
オスカー・ウォルターとは知らない仲では無かった。ホグワーツの同級生でな。若い頃は闇の魔術を使うというウォルター家の人間だということでよく突っかかったものだ。
最も、戦争屋の人間のくせに争い事を避けたがる姿勢を崩さなかったウォルターに対する敵愾心は長くはもたなくてな、一方的に突っかかる相手からある程度認めた相手へと変わっていくのに時間はかからんかった。
奴とは戦う力への考え方が正反対だったが、あの時はお互いを尊重しあっていたと思っている。
そんなウォルターの娘だ、保護者になることは吝かでは無かったので二つ返事で承諾した。闇払いとしてもウォルター家の人間が闇に堕ちることは防ぎたかったからな。......まさかウォルターを殺した男の息子までついてくるとは思わんかったが。
あの二人は仲が良い、お互いにの肉親が殺しあったとはとても思えんくらいに。依存し合っているようにも見える。特にダニエル、あの小僧はメルセデスの為ならば何でもするだろう。あの二人の間に何があったのかまでは知らんが危ういことこの上ない。
メルセデスもそうだ、今でこそ様々な表情を見せるが初めて会った当初は微笑んでいる姿しか見せなかった。両親が殺された人間がする表情ではない、明らかに何処かが壊れてしまっていた。
ダンブルドアはこの二人の何処を見て闇に堕ちる可能性が低いと断じたのか?儂には全く理解ができん。
ダンブルドアが何を考えているにせよあの二人が闇に堕ちないようにし、もし闇に堕ちたのならば打ち倒すのが今の儂の仕事だ。しかし、六年間の関わりの中で、流石の儂もあの二人に情が湧いてしまっているのを自覚していた。
―――――――儂は、あの二人が敵として目の前に立った時でも容赦無く打ち倒す事が出来るか...?
そんなことを考えている内にウォルター邸が見えた。相も変わらず規模の割に飾り気の無い屋敷だ。儂は玄関の扉に近づきドアノッカーで扉を叩く。
しばらく待つと玄関の扉が開いた。
「ようこそ、マッドアイ。お久しぶりですね。」
扉を開いて現れたのはメルセデスだった。その赤い血のような目からはこの娘がウォルターの娘であることを確信できるだろう。
「一月ぶりだな?え?メルセデス。お前達がホグワーツに行く前に良からぬことを企んでいないかを改めに来た。」
儂がそう言うとメルセデスの表情に僅かな警戒が現れた。メルセデスは儂が魔法省からの依頼でここに来ておると思っている。魔法省にはこの娘をアズカバンにぶちこみたがっている者もいるからな。儂が何かをでっち上げないかどうか不安なのだろう。もしくは、本当に疚しい事があるのかもしれんが。
「今日は珍しく日時をお知らせくださいましたので、ささやかながら歓待の用意をさせて頂きました。」
メルセデスは儂をもてなそうと言う。時間から考えて儂の分の料理でも作ったのだろう。ダニエルの料理は何度か食った事があるが、あれが中々旨い。単純に有難いと思った、態度には出さんがな!
「そうか、それならばもてなして貰うとしよう.....だが!まずは屋敷の見回りからだ!お前達が儂に何か隠しているやも知れんからな。油断大敵!」
儂は屋敷へと上がり込み部屋を一つ一つ確認していく。隠されている物を暴く魔法を幾つか公使していくがどれも反応がない。いつも通りのことではあるがやはり不安は残る。
今までこの屋敷から見つかった闇の魔術関連のものが図書室から見つかった本が数冊と倉庫に置かれていた物品が幾つかしか無い。ウォルター家所有の屋敷の中でも古い部類に入るこの屋敷にこれだけしか闇の魔術に関連するものが無いものなのか?
違和感はあるが六年間探し続けて見つからなかったのだ。違和感はただの違和感なのかもしれん。
「見回りは終わりましたか?ダニエルが料理を作って待っていますのでご案内しますね。」
一通り屋敷を見回った後ダイニングへと案内される。六年もの間歩き回った屋敷だ、ダイニングの場所くらいわかるが大人しく案内されることにしよう。
「久しぶりだね、マッドアイ。今日は腕によりをかけて料理を作ったから、是非味わって行ってくれ。」
ダイニングに入ってきた儂に、ダニエルが料理を配膳しながら笑顔で声をかけてきた。
ダニエルの顔は儂から見ても女に好まれそうな顔だと感じるくらいだ、ホグワーツに行けばさぞ狙われるのだろうな。きっとこの小僧の目がメルセデス以外に向くことは無いのだろうが。
ダニエルに軽く挨拶をして食卓につく。普段ならば毒殺を警戒して自分の用意したものしか口にせんのだが....一度ダニエルの料理を拒否した次の訪問の時に、メルセデスが何処から持ってきたのかベアゾール石を筆頭とした解毒剤をありったけ用意してきたのを見て諦めた。
だが、まぁおかげで旨い料理を食う機会を得ることが出来たのは良いことだ。
「どうです?マッドアイ。ダニエルの料理は美味しいでしょう?」
「否定はせん。確かに旨い。だが、旨い料理ぐらいで儂が油断すると思っているのではないだろうな?え?儂はお前達を信用しているわけではないぞ?お前達がいつ闇の魔術で儂を殺そうとするかわからんからな!油断大敵!」
こう言ってはいるが徐々に気が緩んでしまっているのは事実だ。情で突きつけた杖が震えるようならば、監視役を交代する必要があるかもしれん。だが、他に任せられる人間がいないのもまた事実だ。
六年前のウォルター家の事件は大々的に新聞に載せられた。しかし、その内容は事実をねじ曲げ、ウォルター家を徹底的にこき下ろす内容であった。オスカーはまるで罪の無い三十人のマグルを殺した残虐な殺人鬼のように報道され、人々はオスカーがマグルに殺されたのは自業自得だと口々に言うようになった。
その娘のメルセデスもまた残酷な子供だとされ、魔法省にはメルセデスをアズカバンへ送るべきだという嘆願が幾つも届いたらしい。ダンブルドアが魔法大臣を通じて全てねじ伏せたようだったがな。
今やウォルター家は魔法界で一二を争う嫌われた家だろう。純血主義の連中からはマグルに殺された情けない一族だと軽んじられ、親マグル派からは恐ろしい殺人鬼の一族だと罵られる。
ダンブルドアと親しい家の中にもウォルター家をよく思っていない家があるくらいだ、儂の後任が見つかるとは思えん。メルセデスを悪く言う連中を監視につけるようなことがあれば、メルセデス達はさらに魔法界への不信感を高めるだろう。
二人と下らない会話をしている内に食事が終わっていた。儂は今日ウォルター邸にやって来た目的を果たすためにトランクを持ってくる。
「そのトランクには何が入っているのですか?」
メルセデスとダニエルが不思議そうに儂のトランクを見つめる。
「明日からはホグワーツだろう?あまり気は進まんかったがお前達に餞別をくれてやろうと思ってな。」
儂はトランクを開くと中に入っているものを取り出す。取り出したのは二つの鏡だ。メルセデスはその鏡の招待に気づいたようだ。
「それは両面鏡ですか?マッドアイ。」
「そうだ。儂には正直お前達がホグワーツで同じ寮になるとは思えんからな。寮が別れてお前達が泣きわめかんように連絡手段を用意してやった。」
両面鏡は対になった二つの鏡の間で連絡を取り合う事が出来る魔法具だ。鏡に向かって相手の名前を呼ぶともう一対の鏡の相手が映る。遠く離れていてもお互いの顔を見ながら話す事が出来る優れものだ。
「両面鏡って.....鏡どうしで連絡が出来る道具だったっけ?」
「それであってますよ、ダニエル。しかしマッドアイ、わざわざ私達にそんな物を?確か両面鏡はとても高価な物だったはずでは?」
メルセデスはかなり驚いた様子だ。普段は落ち着いた様子しか見せない娘を驚かせただけでもこれを買った価値はあるかもしれんな。
「闇払いとして稼いできた儂にはそう高い買い物では無い。だか大事に扱えよ?壊したとて儂は二度と買わんぞ?」
メルセデスは渡された両面鏡を胸に抱いて微笑んだ。
「ありがとうございます、マッドアイ.....勿論大事に使わせてもらいますね.....本当にありがとうございます。」
自分が渡した鏡を抱いて笑顔を見せるメルセデスに、儂は不覚にもメルセデスが本当の娘のように思えてしまった。
―――――どうか、儂がこの娘に杖を向けなければならない時がこないでいてくれ......
儂には、メルセデスが闇に堕ちないことを祈ることしかできなかった。