ハリーポッターと化物となった少女   作:96℃

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序章 かくして化物(フリークス)は生まれた
かくして化物(フリークス)は生まれた 一


1985年 8月5日 夜

 

 

 

 

 

月の光が崩れ落ちた館を照らしている。所々に残る豪奢ではないがどこか気品を感じる装飾に、崩れ落ちる前はさぞ立派な館であったろう事が伺える。その館は、魔法界でも指折りの名家、ウォルター家の館であった。館の周囲に散らばる炭になった建材を見れば、この館が崩れ落ちた原因が火災である事がわかるだろう。

 

館の内外では魔法使い達が忙しそうに動き回っている。 その内の一人に半月型の眼鏡をかけた長身の老人―――――ホグワーツ魔法魔術学校の校長であるアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアは声をかけた。

 

「ウォルター家のものたちは見つかったかの?」 

 

「いいえ、ダンブルドア先生。何しろ邸内はどこもかしこも黒焦げで、元が何だったのかの判別すらつかない状況でして...」

 

「そうか...火災の原因は解っておるのか?」

 

「いいえ、火災の原因も見当がつかない状況です。」

 

「ふむ...ウォルター夫妻は魔法戦争で活躍してきた一族の末裔じゃ。無論、自らの身を守る術にも長けておる。夫妻が火災に対応出来なかったとは思えんのじゃが...」

 

ダンブルドアにはウォルター夫妻がただ火災にあっただけだとは思えなかった。ウォルター家は代々魔法界での決闘や戦争で名声を高めてきた一族であり、こと命を奪われるような状況にこそ力を発揮してきたためだ。 

 

「ウォルター夫妻が不在の時に火事が起きたということでしょうか?」

 

「火災が起きてから少なくとも半日は経っておる。夫妻は村の人間以外との付き合いをほとんど絶っておる上、外へでなければいけない用事も屋敷妖精に行わせておった。極一部の人間と会わなければいけない時も必ず館へ招く形であったのじゃ。夫妻に半日以上も館を離れる事情があるとは思えんの。」 

 

ウォルター家は魔法界の戦争において傭兵のような形で参戦していたために交友関係は多岐に渡っていたが、ここ数年は現当主夫妻の意向によりほとんどの縁を切っていた。

 

「何より、今日はわしがウォルター家を訪ねる予定だったのじゃ。夫妻は約束を何の連絡もなくすっぽかすような人間ではない。」

 

「ならば...やはり夫妻は...」

 

突然、邸内から声が上がった。 

 

「生存者です!」

 

「ウォルター夫妻のご息女だと思われます!」

 

その報告に、ダンブルドアは思わず呟いた。

 

「メルセデスが...!」

 

ダンブルドアは声が上がった場所に足を向けた。声のする方向へ向かい、辿り着いたのは黒焦げの絨毯の下に地下室への扉が隠されていた部屋だった。

 

そこには数名の魔法使いと、床に敷かれているローブの上に寝かされた五歳程度の少女がいる。

 

ウォルター家に少ないながらも何度か訪れ、直接言葉を交わしたことのあるダンブルドアには見間違えようがない。その少女はウォルター夫妻の一人娘 メルセデス・ウォルターであった。

 

メルセデスは母親から受け継いだであろう美しい金髪を埃まみれにし、病的なまでに白かった顔の所々に煤をつけ黒く染めていた。恐らく火災が起きてから今までの間にずっと地下室に隠れていたのだろう。しかし、彼女の姿で最も目立つのは全身を染める赤い血液であった。

 

メルセデスが大きな怪我をしているのではないかと思ったダンブルドアは近くにいた魔法使いに尋ねる。

 

「この子に怪我はないのかの?」

 

「かすり傷がいたるところにあることを除けば、目立った怪我はありません。呼吸にも問題はないようです。この血は.....他の誰かのもののようです。」

 

「ふむ...怪我をしていないこと自体はひとまず安心じゃの。ゆっくりと休ませてあげたいところじゃがしかし...この子には酷なようじゃが、ここで何が起こったのかを聞かねばならん。」

 

ダンブルドアがメルセデスを起こそうとしたところで、再び邸内で声が上がる。

 

「ウォルター夫妻と思わしき遺体と大勢のマグルのものと思われる遺体を発見しました!」

 

「屋敷しもべ妖精の死体もだ!」

 

その報告にダンブルドアは驚愕に目を見開いた。

 

「あのウォルター夫妻が...!」

 

ダンブルドアは、かつて英雄の一族とすら称えられたウォルター家の中でも抜きん出た魔法の腕を誇った二人の死に信じられない思いを抱いていた。大勢のマグルの遺体というのも不可解だ。ここで大規模な闇の魔術の儀式でも執り行われたのではないかという考えがダンブルドアの頭を過る。

 

詳細を伝える為、ダンブルドアがいた部屋に入ってきた魔法使いにダンブルドアは訪ねた。

 

「何故大勢の遺体がすぐには見つからなかったのじゃ?」

 

「にわかには信じられない事なのですが...床一面が黒焦げの遺体と崩れ落ちた瓦礫で黒く塗り潰されていたため、よく見なければ床に転がっている物が死体だと気付けなかったのだそうで…」

 

「なんということじゃ.......」

 

ダンブルドアは床一面を黒く染める遺体の山を想像し背筋が凍る思いをする。明らかに只の火災では済まなくなった。一体この屋敷で何が起こったというのか?

 

「床を埋め尽くすほど程のマグルが死んでおったと言うのかの?」

 

「少なくとも三十人ほどの遺体を確認しています。どうやら付近の村の男達のようです。」

 

「夫妻の死因はなんじゃ?」

 

「死因は判然としませんが...火災による火傷の他に夫妻の体の複数箇所に刃物による刺し傷と思われるものがありました。複数のマグルの遺体が刃物を握りしめていたようなので、恐らくウォルター夫妻はこのマグル達に刺されたものと思われます。また、しもべ妖精にも刺し傷があったため主人を庇おうとしていたのではないかと考えられるかと。」 

 

夫妻の死因がマグルによるものと知り、ダンブルドアはこの館で起こったことへの疑念を強めた。複数のマグルが刃物を所持していたと言うのなら恐らく先に手を出したのはマグル側なのだろう。しかし何故、マグルの村人達がウォルター家を襲ったのか?そしてどのようにして死ぬ事となったのか?

 

「マグルの死因は分かっておるのかの?」

 

「そちらには火傷以外には何もないようでしたので普通に考えれば焼死ということになりますが...」

 

「火災が起きている状況で逃げないということはないじゃろう。そのもの達が自殺志願者でもないかぎりの。」

 

火災というものは直ぐに人の命を奪うものではない。逃げようと思えば逃げる時間は有った筈である。炎によって退路が塞がれていたとしても死体が一つの部屋に集中しているのはあまりにも不可解だった。

 

「ええ。ですので可能性の一つとしてウォルター夫妻が死の呪文を行使したことも考慮するべきかと。死の呪文を行使したと仮定すれば、疑問が解決します。死の呪文によって死亡した遺体には外傷がつきませんから。」

 

「夫妻が死の呪文を使うとは考えにくいのじゃが...しかしウォルター家は代々闇の魔術にも戦闘の手段として手を伸ばしておった。無いとは言い切れん。」

 

ウォルター家の人間は闇の魔法使いと呼ぶには邪悪さが無いものの、戦闘の手段として悪霊の火を始めとする闇の魔術を修めていた。その為、先の戦争では闇の陣営からの執拗な勧誘にあっていたようだが。

 

「死の呪文の行使には本物の、それもとてつもなく強い殺意が必要じゃ。現当主夫妻はウォルター家には珍しい温厚な人柄をしておった。彼らにそれほどまでの殺意を抱かせることがこの館で起こったというのかの...」

 

「んんっ...うぅ...」

 

声がして振り向くとメルセデスがうめき声を上げていた。意識が覚醒したのだ。

 

「ここは...」

 

ダンブルドアは直ぐ様メルセデスの元に駆け寄り、メルセデスを抱き起こす。

 

「目が覚めたかの?メルセデスや。」

 

「ダンブルドア...先生?なぜあなたが...っ!」

 

自分の周りの惨状を見て、何があったのかを思い出したのであろう。メルセデスは突然叫ぶようにダンブルドアを問い詰めた。

 

「お父さんは!?お母さんは!?カームは...どうなったのですか!ダンブルドア先生!」

 

「落ち着くのじゃ。メルセデス」

 

ダンブルドアは激しく取り乱して自分の服を揺さぶるメルセデスをそっと抱き締め、人を落ち着かせる深みのある声でゆっくりと語りかける。

 

「メルセデスや、この事実は幼い君にはとても残酷なことであろう。だがしかし、心を強く保って聞くのじゃ。」

 

メルセデスは顔をうつむかせながらも続く言葉を待つ。その姿はさながら、刑を言い渡される直前の罪人の様であった。

 

「ウォルター夫妻...君の両親は...帰らぬ人となってしもうた。カームも...君の両親を庇い...」

 

「っ!...」

 

メルセデスは動揺した素振りを見せるが、激しく取り乱すことはなかった。ダンブルドアには、メルセデスが両親と屋敷妖精の死に半ば確信めいたものを持っていたように見えた。

 

「メルセデスや君には酷な頼み事じゃろうが、教えて欲しいのじゃ。この館で一体何が起こったのかを。」

 

メルセデスは何かを思い返すように目を閉じ、絞り出すように呟く。 

 

「私が...私が...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前当主であり、四十年前の魔法戦争の英雄であったケリー・ウォルターの死によって当主となったオスカー・ウォルターとその妻、アイリーンは争いから身を引き魔法界との関わりを最低限にすることを望んでいた。

 

そんな彼らが住みついたのは住民が二百名程度の小さな村だ。村に住んでいる魔法使いはウォルター家のみであったが村人達はウォルター家が魔法使いであることなど知らなかったし想像すらしなかった。―――――――――――事件が起きる寸前までは。 

 

村自体はどこにでもありそうな村であったが、少し他の村と違う事があるとすれば、村人が魔女や怪物といった存在に対して異常とすら思える恐怖心を抱いていたことであろう。しかし、それは表面に現れるものではなかった。村人達はその恐怖心によって魔法使いや怪物の類いを話題に挙げることすら避けていたためだ。

 

表面的にはその村は過ごしやすい村であった、村人たちは気が良くよそ者にも寛容であったし、何より村では争い事が起こることがなく平和であった。いっそ平和ボケしているようにも見えたほどだった。

 

だからこそ、争い事に関わることを疎んだウォルター家はその村に居を構えたのだろう。否、構えてしまったのだろう。

 

そして油断していたのだろう。もし村人達に魔法がばれて騒がれたとしても、魔法を持たないマグルが相手ならばウォルター家たる自分達にはどうすることも出来ると。平和ボケしている村人達は直接自分達を攻撃することはないだろうと。

 

彼らは知らなかったのだ。人間が、自分達に理解ができない光景を目にした時に起こす行動の恐ろしさを。例えマグルであったとしても狂気に囚われた人間が幾人も集まれば、それは強力な暴力になりうることを。

 

抑圧された恐怖心が恐怖の源に触れた時、恐怖は抑圧から解放され溢れでる。

 

溢れでた恐怖は伝染する。

 

伝染した恐怖は村人達を狂気に染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は事件が起きた二日前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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