sideダニエル
「ウォルター・メルセデス!」
メルセデスの名前が呼ばれた瞬間、ハリーの寮が決まったことで興奮の最中にあった大広間は静まり返っていた。
大広間中の人間の視線がメルセデスに集中している。しかし、何百と向けられたその視線の中で敵対的でない視線は片手で数えるほどしか存在しない。魔法界でのウォルター家の立ち位置を嫌と言うほど理解させてくれる光景だ。反吐がでる。
確かに、真実を知っている者から見れば今のメルセデスは自らを
気に入らない。全くもって気に入らない。こんな奴等の中で七年間もメルセデスを過ごさせなければいけないことに苛立ちを覚える。
メルセデスは自分に向けられる視線を全て無視して堂々と組分け帽子の前に立った。横に立っているマクゴナガル教授はメルセデスに心配そうな視線を向けている。どうやらあの教授は噂で人を判断しないらしい。
「スリザリン!」
組分け帽子をかぶってしばらくすると、メルセデスの寮が決まった。よりによってスリザリンか......スリザリンの連中はテーブルに向かってくるメルセデスをあからさまに見下した態度で迎えていた。他三つの寮の生徒達はスリザリンに入ったメルセデスに更なる敵意を向けている。
......スリザリンが最悪だと思っていたけど他三寮の方が危ないかもしれない。スリザリンはメルセデスを見下しているだけだ。それはそれで気に入らないが危害を加える可能性が低いという意味ではマシだろう。他三寮、特にグリフィンドールは行き過ぎた正義感からメルセデスを攻撃しようとするかもしれない。
「ウォルターの嫌われようって凄いんだね...もし汽車で君たちに会ってなかったら僕もあんな反応をしたんだろうな。ウォルターはよくあの空気の中を堂々としていられるよ。」
いつの間にか僕の隣にいたロンが話しかけてきた。ロンはメルセデスへの認識を改めてくれているらしい。汽車でマルフォイを投げ飛ばしたのが効いているのかな?
「メルセデスをよく知りもしない連中が彼女に悪意を向けるなんて......メルセデスを悪く言っていいのは彼女を理解した人間だけだ。僕だけなんだ。只の先入観からでてくる悪印象で彼女を決めつけることは許せない。彼女はそんな安っぽい存在じゃない。」
思わず出してしまった言葉にロンは僅かに顔をひきつらせながら反応を返してきた。
「あー、君が言っていることはよく分からないけど、とりあえず君がウォルターを大事にしているのは伝わったよ......ごめんね、汽車で君たちに失礼なことをして。」
「過ぎたことだよ。君は今メルセデスに悪意を向けていない。それで、十分だ。」
ロンに気にしないように伝えると、丁度僕の名前が呼ばれた。
「ウォード・ダニエル!」
呼び出しを受けて前へと歩き出すと、周囲の女生徒達が僕を見て色めき立つのが分かる。僕の顔がいいのは自分なりにわかっているつもりだ。メルセデスによく言われるし、出掛け先で女性に会うと大抵は好意的に接される。だけど、今までメルセデスに悪意を向けていた奴らに好意を向けられたところで喜びなどすることはない。むしろますます気分が悪くなってくる。
さっさと組分け帽子をかぶり椅子に座ると低い声が聞こえてきた。
「フーム、君の頭の中は見事に一色に染まっておる。愛しい人を守りたいと、守る為ならどんな恐ろしいものにも立ち向かっていくと......先程の娘のように何か隠し事があるようだがそれすらも気にならん。君の寮はこれしか無い....グリフィンドール!」
あっという間だった。僕が組分け帽子の言葉に何か反応を返すよりも前に僕の寮が決まった。
グリフィンドール...メルセデスに最も敵意を向けていた寮だ。グリフィンドールのテーブルに向かうとハリーがこちらに手招きをしている。ハリーの隣に座ると、ハリーは笑顔で話しかけてきた。
「ダニエル!同じ寮だね!これからよろしく。」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。」
ハリーに言葉を返すと、周囲の生徒達が次々と僕に話しかけてきた。ハリーと親しそうにしていたことで興味を持たれたらしい。同じくグリフィンドールに決まったロンも隣に座り、ウィーズリーの兄弟達も集まってくる。
――――これは使える。僕はこのグリフィンドールで最も信頼される人間になろう。皆の信頼を勝ち取り、少しずつメルセデスへの悪印象を削いでいく...そうしてメルセデスの学校生活を少しでも楽にしなければ。
ただでさえスリザリンの相手をしなければいけないメルセデスにグリフィンドールの対処までさせるわけにはいかない。その為ならば、現時点では不快感しか湧かないグリフィンドール生にも愛想を振り撒こう。
僕はそれからしばらくの間ひっきりなしに話題を振ってくる生徒達に笑顔で相手をしていった。
ザビニ・ブレーズがスリザリンに決まり、マクゴナガル教授が帽子を片付けるとダンブルドア校長が立ち上がった。
彼は生徒達を歓迎するかのように腕を広げ、満面の笑みを浮かべている。
「おめでとう!ホグワーツの新入生、おめでとう!歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。では、いきますぞ。そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」
意味のわからない掛け声を掛けたダンブルドア校長が席につくと、大広間中の人間が拍手し、喝采をあげた。
「あの人.....ちょっぴりおかしくない?」
隣でハリーが上級生に聞いていた。ハリーの感性は正しいと思う。
それからは食事が行われた。長テーブルの上は料理で埋め尽くされ、様々な料理の匂いで混沌とした様相であった。料理をいくらか食べてみるが、中々美味しい。少し脂っこい料理ばかりなのが気になるところではある。メルセデスの好みでは無いな。彼女は脂は控えめの方が好きなんだ。
食事を進めている内に、グリフィンドールのゴーストが挨拶にやって来たり、自分の出自の話になったりした。出自の話は曖昧に誤魔化しておいた。あまり話して気分の良いものでもないし、僕の出自にはメルセデスが不利になる要素が山のように存在する。
僕とメルセデスの関係を黙っていることは苦渋の決断だった。血の涙がでそうなほどには心苦しい。だけど、これからメルセデスの印象をよくしていく為にはここで話してしまう訳にはいかなかった。メルセデスには後で了承を取ろう。彼女を不安にはさせたくない。
食事が終わり、テーブルから料理が消えると再び校長が立ち上がった。
「全員よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、また二言、三言。新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある。」
校長は校内の森の立ち入り禁止、授業間の魔法の使用の注意、クィディッチの選抜の連絡をした。
「最後にじゃが、とても痛い死に方をしたくない者は、今年いっぱい四階の右側の廊下には入らぬことじゃ。」
最後の連絡は、死にたくなければ廊下に近づくなという学校とは思えない注意だった。今年いっぱいということは昨年まではなかったということ。今年になって新たに追加されたというところに思い当たる理由が一つある。
「七一三番金庫の例の物.....」
立ち入り禁止の廊下というものは、もしかするとあの謎の物品を守る仕掛けが施されているのかもしれない。そうだとしたら本気で校内に、しかも生徒が気軽に立ち寄れる場所に危険のある物を置いたことになる。
校長室にでも置いておけば良いものを、ここまで露骨だと誘っているようにしか見えない。いや?むしろ本当に誘っているのか?
「では、寝る前に校歌を歌いましょうぞ!」
校長の宣言に、大広間内の一部の人間の顔がひきつったのが見えた。何故校歌を歌うと聞いただけで顔が強張るんだ?
ダンブルドアが杖を振り上げ、空中に金色の文字が描かれる。校歌の歌詞らしい。聞いたこともない校歌だ新入生に歌えるとは思えないが、先輩達の歌を聞いて覚える方式なのだろうか。
「みんな自分の好きなメロディーで。さん、し、はい!」
「好きなメロディー?え?」
僕が校長の口から出た言葉に困惑していると、学校中に響くような大声が耳を貫いた。
ホグワーツ ホグワーツ
ホグホグ ワツワツ ホグワーツ
教えて どうぞ 僕たちに
老いても ハゲても 青二才でも
頭にゃなんとか詰め込める
おもしろいものを詰め込める
今はからっぽ 空気詰め
死んだハエやら ガラクタ詰め
教えて 価値のあるものを
教えて 忘れてしまったものを
ベストをつくせば あとはお任せ
学べよ脳みそ くさるまで
皆が皆バラバラに歌い終わった。ウィーズリーの双子など葬送行進曲で一番遅く歌い終わっていた。正気とは思えない。校長も双子にあわせて指揮をしていた。随分とノリがいい校長だね!?
「ああ、音楽とは何にもまさる魔法じゃ!」
校長は感激の涙を流しながらそう言った。確かに何にもまさる魔法だ。ただし、耳を破壊する魔法の中ではという注釈がつくけど。
「さあ、諸君、就寝時間。駆け足!」
やっとこの歓迎会も終わりのようだ。さっさと寮の部屋に入らせてもらって鏡でメルセデスと連絡を取りたいな。大分機嫌も悪くなっているだろうし...
僕たちは監督生の誘導に従い、騒がしい人混みを潜り抜けながらグリフィンドールの寮へと向かっていった。