ハリーポッターと化物となった少女   作:96℃

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かくして化物(フリークス)は生まれた 二

――――――――1985年8月3日 朝

 

 

 

 

 

sideメルセデス

 

 

 

 

 

窓に掛かったカーテンの隙間から射し込む光を感じ、私は目を覚ました。

 

「もう...朝ですか...」

 

朝早くなければできない事があったのでいつもより早い時間に起きた。

 

起き上がって背伸びをし、ふぁと欠伸を一つしてからベッドを降りて壁に立て掛けた姿見の前に立つ。私の容姿は両親を知る人が見ればすぐに二人の娘だと解る程に両親の要素を受け継いでいる。

 

お母さんから貰ったかなり黄色味が強く癖がない真っ直ぐな金髪に、お父さんから貰ったたれ目がちの血のように赤い瞳。この顔を見るたびに自分が両親の娘であることが実感できて嬉しくなる。

 

「さて、せっかく早起きをしたのですから早く目的を達成しましょう。」

 

さっさと着替えを済ませて我が家の台所へ向かうと、そこにはギョロリとした大きな目をしている小さい二足歩行の生物がいた。

 

「おはようございます、カーム。」

 

「おはようございます、メルセデスお嬢様。」

 

彼はカーム。ウォルター家の屋敷に仕えている屋敷しもべ妖精だ。

 

屋敷しもべ妖精というのは古くから由緒正しい魔法使いの家に仕えるとても献身的で忠実な魔法生物だ。彼らは魔法使いとは違う体系の魔術を扱うことができるのでそこらの魔法使いよりは強力なことが多い。

 

私も彼らの魔法にはとても興味があるのでよく教えを乞おうとするのだけど、カームは自分は屋敷妖精の中でも魔法の扱いが上手くないからといってなかなか教えてくれない。

 

「メルセデスお嬢様。このような朝早い時間に如何なさいましたか...?」

 

「私にも朝食の用意を手伝わせて貰おうと思ったのですよ。」

 

私が台所にきた目的を伝えるとカームは恐れおののくような態度をとった。

 

「お嬢様に朝食の用意を手伝わせるなど!とても恐れ多いことでございます!そのようなことは私目にお任せ下さい!」

 

「でも、私は料理が出来るようになりたいのです。一体いつどこで自分で料理を作らなければいけない時が来るか解らないのですから。」

 

「そのような機会は訪れませぬ。たとえ訪れたとしても私をお呼びくだされば、例え吸血鬼達がたむろする森の中であろうとも駆けつけますとも。」

 

「さすがに吸血鬼の住む森で料理を作って貰おうとは思いませんよ...」

 

カームが頑なに首を縦に降ろうとしないので今日はこの辺りで引くことにする。

 

「わかりました、今日のところは諦めます。でも!いずれ絶対に教えてもらいますからね!」

 

私はそう言い残し、台所を後にしてリビングに向かう。

 

カームに料理を教えて貰うために早起きをしたからお父さんもお母さんもまだ起きてはこないけどこの空いた時間に魔法の勉強をしようと思う。

 

ウォルター家は魔法による戦いによって名を上げてきた一族だ。私もその一員なのだから魔法の力量は少なくとも同年代に負けることの無い位にしなければ。

 

アクシオ(来い)!勉強道具!」

 

私がそう言って手を振ると教科書と羊皮紙、そして羽ペンとインクが飛んでくる。私が杖も持たずに魔法を使えることに疑問を持つ人もいるだろう。

 

魔法使いの子供は魔力が安定しておらず魔力の流れが体の中で完結していない。その為、魔力が体の外に漏れてしまっているためふとした時に思いもよらない魔法を発動させてしまうのだ。

 

成長するにつれてだんだん漏れでる魔力が少なくなってだいたい十一歳頃には漏れでる量は微々たるものになる。

 

魔力が漏れでなくなると魔法を使うには体の魔力の流れに孔を空けなければいけなくなる。その為の道具が杖だ。魔法使いにとっての杖とは水道の蛇口のようなものだと私は考えている。

 

また、魔力の流れは強い感情によって孔が空くことがある。これは大人の魔法使いも起こりうることだ。

 

話がそれたけど、魔法使いの子供は漏れでた魔力によって不意に魔法を発動してしまう。そしてほとんどの子はそれを制御することができない。それでも極一部の子供は自分の意思で漏れでた魔力を制御出来るのだそうだ。

 

その極一部に私が含まれているのだ。自分の意思で魔力を制御できた子供は杖を使用した魔法でも様々な応用を効かせるようになりやすいとのことなのでかなり期待をしている。

 

勉強道具をテーブルに並べて早速勉強を始めた。教科書を開き、羊皮紙に内容を分かりやすく要約しながら書き込みながら魔法の論理を頭に叩きこんでいく。

 

魔法が起こす現象を見ると一見何の原理もなくただただ不思議な力が働いているようにしか見えない。しかし、実のところ魔法は複雑な論理によって形作られている。

 

論理を理解していなければ自分の望む通りの事象を引き起こすことは出来ない。魔力を制御できているとはいえ私が魔法を扱えるのも論理を学んでいるからだ。

 

しばらくするとリビングに人が入ってきた。

 

「おはよう、メルセデス。あら、朝から勉強をしているの?偉いわね。」

 

「おはようございます、お母さん。私もウォルター家の名を上げることができるような魔法使いになりたいのですよ。」

 

入ってきたのはお母さんだった。黄色味の強い金髪に深海のように深い青色の瞳をしている。 名前はアイリーン・ウォルター。 お父さんと結婚する前はプルウェットという姓だったそうだ。

 

プルウェット家は英国魔法界で間違いなく純血であるとされている聖28の一族だったけど、四年前まで続いた戦争でほとんどの人間が殺されてしまった一族だ。

 

以前お父さんに聞いた話だと自分の甥達が闇の魔法使いに殺されたことを知ったお母さんは普段の争い事を好まない性格からは想像できない程激昂したみたいだ。自分達を勧誘しに現れた犯人達を見た時には自ら犯人達を打ち倒し、裁判を経由することなく直接アズカバンにぶちこもうとしたらしい。

 

そんなお母さんだけど、見ている分には若くて綺麗な深窓の令嬢という言葉がよく似合う人だ。だけど私は知っている。お母さんの年齢がもうすぐ六十歳に達しようとしていることを。見た目の若さは何かの魔法なのだろうか?

 

五十歳を越えるまで子供を作らなかったのは自分達の子供が危険にさらされる可能性がとても高かったからだと聞いた。

 

お母さんがお父さんと結婚したのは二十代の頃だけど、その頃にはお父さんが例のあの人に狙われていることを確信していたから子供を作ることを断念したそうな。

 

お父さんが例のあの人に狙われている理由は教えてくれなかったけど、お父さん達の年齢からして例のあの人と同時期にホグワーツに通っていたはずだからその時に何かしらあったんだろうと思っている。

 

「フフ...メルセデス。自分を高めようとすることは立派なことだわ。でもね?無理にウォルター家の家風を意識しなくてもいいのよ?」

 

「そう...なのですか?しかしウォルター家は歴史の年表にもたびたび出てくるほど歴史のある家です。他国の魔法使いとの婚姻も多かったので聖28一族にこそ名を列ねていませんが...その長い歴史の中で作り上げられたウォルター家の家風は受け継ぐべきではないのですか?」

 

「そうね、歴史は大事だし、受け継いでいかなければならないことも有るわ...でもね、メルセデス。受け継がないという選択も時には必要なのよ。」

 

「受け継がない事も必要?ですか?」

 

「そうよ、メルセデス。ウォルター家がどんな一族かは知っているわね? 代々魔法界の戦争で名を上げてきた一族...それが世間一般のウォルター家のイメージだわ。 だけど、私達はそれを快く思っていないの。 戦争なんて...起こらないほうがいいのよ。」

 

戦争は数多くの悲劇を引き起こすということは知識としては知っている。けれど、戦争は起こらなければいいものだと、戦争は悪だと言うのなら、戦争で名を上げてきた私達(ウォルター)は何を誇れば良いのだろう?

 

「確かに、戦う力は持っていなければならないわ。力がなければ敵になった人たちから何もかも奪われていくだけになってしまうから。でも力を使ってただ敵を殺していくだけではいけないの。」

 

「戦争とはそういうものではないのですか?」

 

「ええ、戦争とはそういうものだわ。でもね、殺した敵にも親しくしていた友人、家族、仲間......少なからず関わりを持った人物がいるわ。そしてその人たちが自分達に憎悪を向ける。それが限りなく広がっていくのよ...殺したから殺されて、殺されたから殺す。その連鎖はいつか人が滅びるまで止まらない...だから一人一人が戦いを止めようという意思を示さなければならないの。」

 

お母さんは視線は私に向いているはずなのにどこか遠くを向いているように感じた。

 

私は直に戦争を経験したわけではないのでお母さんの言っていることには実感がわかないけど、私も戦争を経験すればお母さんが言っていることの意味が解るのだろうか...

 

「アイリーンの言う通りだ。魔法使いの一人一人が戦いをやめなければ戦争は無くならない。戦いの力は敵を殺す為では無く、自分と自分の大切なものを守る為に使われなければいけないんだよ。メルセデス。」

 

そう言ってリビングに入ってきたのは私のお父さんでありウォルター家の当主 オスカー・ウォルターだ。短く刈り上げられたプラチナブロンドの髪とたれ目がちな血のように赤い瞳が特徴的な優しそうな雰囲気を纏った人だ。

 

「ウォルター家の人間は力を持っている。だからこそ光にとっても、闇にとっても敵を打ち倒す手段として魅力的に見えてしまう。敵に奪われれば不味いともね。実際にあったんだよ。私達の目の前で勧誘にきた光と闇が殺し合いを始めたことが、それも一度や二度ではない。」

 

それは初めて聞いた出来事だった。

 

「私達はどちらにも付かなかった。それを批難する魔法使いは大勢いる。私のことをウォルター家のくせに戦いから逃げた臆病者(チキン)と蔑む者もいる。先祖達であれば間違いなく光の陣営の先頭に立って戦っただろう。だが、私は自分の選択を間違いだったとは一度も思ったことはない。」

 

お父さんの言葉からは強い意思を感じ取れる。

 

「ウォルター家には敵があまりにも多かった。長い歴史の中で先祖達に打ち倒されてきた魔法使いの末裔が、虎視眈々と狙っている。私達が光に付いたと聴けば、彼らは闇に接触を図っただろう。だからと言って闇に与することなど言語道断だった...」

 

「私達はこれ以上敵を作る訳にはいかない。これ以上敵を作り続ければいずれ止まらない憎悪の渦に巻き込まれ、魔法使いを絶滅させる争いが起きてしまいかねない。」

 

「だからこそ私達はウォルター家の歴史を捨ててまで姿を眩まし、マグルに混じって生活をすることにしたんだ。それが最も正しい選択だと信じてね......さて、そろそろカームが朝食を作り終えた頃だ。ダイニングへ向かおう。」

 

そう言ってお父さんはリビングから出ていった。今のウォルター家がマグルしかいない村で隠れもせずに生活している理由がそんなに深刻なことだったとは思わなかった。だから私が他の魔法使いに会うことが滅多にないのか。

 

けれど、どちらの陣営にも付かず魔法界から離れているのなら我が家に光陣営の代表的存在であるダンブルドア先生がたびたびやって来るのはどういう事なんだろうか?朝食を食べたら聞いてみよう。

 

ダイニングに入るとカームが料理の配膳をしている所だった。素早く席について食事を始める。今日の朝食はトーストにスクランブルエッグ、ベーコンといったイギリスの伝統的な朝食だ。

 

とてもシンプルなのだけどカームが作る料理は美味しい。といっても私はカームが作った料理以外を食べる機会が少ないのでもしかしたらこれが標準なのかも知れない。

 

黙々と朝食を食べて一息ついたところでお父さんに訪ねた。

 

「お父さん、先程ウォルター家はどの陣営にも入らずに距離を置いたと言っていましたけど、それならばダンブルドア先生は何故我が家にやって来るのですか?」

 

お父さんは少し驚いた様子だったがすぐに何かに気づいたように言った。

 

「そういえばメルセデスにはダンブルドアが何をしに来ているのかを教えたことはなかったね。 彼は私の母の墓参りに来ているんだよ。」

 

「お祖母さんの墓参りですか?」

 

「ああ、ダンブルドアと母さんはホグワーツの同級生でね...四十年前の戦争でも色々と世話になったと言っていたよ。闇の魔法使い、ゲラート・グリンデルバルトを知っているね? 彼を最終的に打ち倒したのはダンブルドアだが、私の母、ケリー・ウォルターはそこに行き着くまでの過程でニュート・スキャマンダー氏と共にグリンデルバルトと戦っていたんだそうだよ。」

 

「へぇ、あのグリンデルバルドと渡り合うなんて、やはりお祖母様も優れた魔法使いだったのですね.....そういえば、お祖父様はどんな人だったのですか?」

 

私がお祖父様について尋ねるとお父さんは困った表情になった。

 

「実は、判らないんだよ。私達だけではない、ダンブルドアも他の母と親しかった魔法使いも、誰も私の父が誰なのかを知らないんだ。」

 

誰もお祖父様が誰なのかが判らない?一体どういう事なんだろうか?

 

「私の母は、二十七年もの間行方を眩ましていたんだ。1926年に突然赤ん坊の私をつれてダンブルドアの元に現れたと聞いている。ダンブルドアは...私の父に心当たりがあったみたいだけど、確実でないことは迂闊に言えないとはぐらかされてしまったよ。」

 

まさか私のお祖父様が誰なのかが判っていないなんて...今日はやけに今まで知らなかった事実が判明していく。

 

「そういえばメルセデス、今日も勉強が終わったらあの子と遊ぶのかい?」

 

「はい、今日もダニーと約束をしているんです。」

 

「メルセデスはあの子...ダニエル・ウォード君だったかしら?あの子と随分と仲が良いようね?」

 

――――――ダニエル・ウォード。村で私と一番仲が良い友達だ。私はお父さんから受け継いだ血のような赤い瞳をしているため村の子供達から遠巻きにされることが多いのだけど、彼だけは物怖じせずに私と仲良くしてくれている。私の瞳を綺麗だと言ってくれるのは彼だけだった。

 

その為自然と彼と一緒に遊ぶことがほとんどになっていた。だけど、私と仲良くしているせいで彼まで村の子供達から遠巻きにされてしまっているので少し心苦しい思いもある。それでも私は彼と離れたいとは思えなかった。

 

「ダニーは私の大切な人なのです。」

 

そう言うと両親は微笑ましそうな表情を浮かべた。

 

 

 

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