ハリーポッターと化物となった少女   作:96℃

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化物(フリークス)と賢者の石 二十三

 

 

 

sideダニエル

 

 

 

スリザリン寮へと戻っていくメルセデス達を見送りながら、随分と二人の距離が縮まったものだと思う。物理的な距離だけなら抱きついて耳を撫で回すくらいだった今までとそう変わっていないけど、メルセデスから感じていた無意識の警戒というものが無くなったせいだろうか?より親密な雰囲気を醸し出している。

 

そう、今宵シャロンは見事にメルセデスの信頼を勝ち取り、人を喰らう化物に味方をする狂人の一人となった。

 

この結果を予想していなかった訳ではない。シャロンがメルセデスへと向ける感謝が日に日に大きくなっていたことを感じ取ってはいたし、戦争への忌避感も無いだろうことは分かっていた。メルセデスの為だけに死ぬ。それが出来る下地は十分にあると考えていたんだ。だから、メルセデスがシャロンに握手を求めた時はやっぱりそうなったかと思ったし、素直に称賛することが出来た…んだけど……

 

仲睦まじく歩いていく二人を見ていると、僕の胸の内に黒く澱んだものが浮かび上がって来る。これが何なのかは分かりきったことだ。シャロンと出会うまでメルセデスが唯一信頼している人間は僕だった。僕だけだったんだ。でも、それはシャロンに崩されてしまった。僕はメルセデスの唯一では無くなってしまったのかもしれない。シャロンにメルセデスの隣を奪われるんじゃないかと不安になる。僕はあろうことかシャロンを、同じ道を歩むことになる同士を邪魔だと感じてしまっている。

 

なんて醜いんだろう。なんて馬鹿なんだろう。メルセデスが信頼出来る人間が増えたことは本来なら喜んで然るべきなのに。彼女を僕だけに繋ぎ止めておけないことなんて分かっていたはずなのに。

 

………こんな思いもメルセデスには見透かされるんだろうな。伊達に物心がつく前から一緒に居るわけじゃない。開心術なんて使わなくてもお互いに何を考えているかはだいたい分かる。

 

「はぁ.....」

 

メルセデスに会いたくないと思う日が来るなんて夢にも思わなかった。とりあえず、なんとかこの気持ちを整理しておかないとね。只でさえ仲間が少ない僕達の間に不和を招くなんて有ってはならないことだから。今日はさっさと寮に帰って寝よう。朝になれば、この暗い胸の内にも光が射し込んでくれるかもしれない。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

翌朝、ホグワーツ中で微かに漂っているパンプキンパイの匂いで目を覚ました。ルームメイト達も美味しそうな匂いにつられて目を覚ましたようで、今日がハロウィンであることを思い出して嬉しそうにしている。

 

同様にハリーも嬉しそうにしているけど、彼からは僅かに疲れが滲んでいるように見える。それはそうだ、飛行訓練の一件以来グリフィンドールのクィディッチチームに所属することになったハリーは週に三回練習に参加しているんだから。ちなみにハリーはマクゴナガル教授から最新の箒をプレゼントされたらしい。僕の中で厳格なマクゴナガル教授のイメージが崩れていく…

 

普段の授業に加えて更に過酷なスポーツであるクィディッチの練習もしているハリーが他の皆より疲れているのは当たり前のことなんだろう。だけど、そんなハリーの表情はとても生き生きとしているんだ。授業もクィディッチも楽しくて堪らない。そう思っているのが分かりやすく顔に出ている。今のハリーは人よりもハードな一日による疲れを遣り甲斐で帳消しにしているらしい。

 

そんなハリーとは逆に僕の気持ちは沈んでいた。昨夜よりは多少ましになっているけど、黒い澱みは依然として僕の胸に横たわったままだ。このままメルセデス達と朝食を食べることになるのは気が進まないけど行かないわけにはいかない。

 

鬱屈とした気分のままいつも二人が朝食を食べに来る時間帯に大広間へと向かう。入り口を抜けるとグリフィンドールの席の端の方で既に二人が並んで座っているのが見えた。周囲の生徒も流石に二ヶ月も経てば慣れたのかグリフィンドールのテーブルに紛れるスリザリンを気にしていない。

 

向かい側の席に座って、なるべく普段通りを装って二人に挨拶をする。

 

「おはよう、二人とも。」

 

「おはようございます、ダニー。」

 

「おはようございます!」

 

二人もいつも通り挨拶を返してくれたけど、直ぐに怪訝そうな表情になる。

 

「ダニエル?気分が落ち込んでいるみたいですね?そんな感じがします。」

 

「そんなことは無いよ。大丈夫だ。」

 

シャロンが僕の顔を覗き込んできたので反射的に目を反らしてしまった。彼女を邪魔だと思ってしまっている今の僕ではシャロンの目を真っ直ぐ見ることなんて出来ない。反らした視線に先にはメルセデスの何かを察したような顔がある。やっぱり彼女には気づかれるかと罪を暴かれる犯罪者のような気持ちでメルセデスの言葉を待っていたが、彼女からは何か言われること無く食事が終わった。

 

「シャロン、私は少しダニーに用があるので先に戻っていてください。」

 

大広間から出てそれぞれの寮に戻ろうとした時突然メルセデスが僕の腕を取ってそう言った。シャロンが頭に疑問符を浮かべながらもスリザリン寮に戻っていくのを確認すると、人通りが少ない廊下に連れ出される。

 

「ダニー?シャロンに何か思うところがあるようですね?」

 

やっぱりその話をされるか。メルセデスに誤魔化したところでどうしようもない。素直に話すことにしよう…

 

「ああ、そうだよ…僕は…」

 

「言わなくても分かりますよ。大方、シャロンに私の隣を奪われるのでは無いかと不安になったのでしょう?」

 

訳を話そうとする前に言いたかったことを当てられてしまった。メルセデスにはお見通しか…彼女には敵いそうにない。

 

正解だよ、という風に力無く肩をすくめて見せるとメルセデスは僕と鼻先がくっつきそうになるまで近づいて来た。僕の目を見つめるメルセデスの雰囲気は、あの事件以前の彼女のように優しげなものだった。

 

「……馬鹿ですね。本当に馬鹿です…そんなお馬鹿さんには………こうです。」

 

ふと暖かいものに包まれる感触がして、懐かしい匂いを感じる。数年前まで一緒に寝ていたベッドで感じた匂い。メルセデスの匂い。……ああ、僕はメルセデスに抱きしめられているのか…

 

自分が何をされているのかを理解した途端に心が途方もない安心感に溢れ、全身から力が抜けてメルセデスに身体を預けてしまう。それでもメルセデスは僕を受け止めて、僕の耳元で柔らかく言い聞かせるような声で話し始めた。

 

「全く…確かにシャロンはフリークスの本当の意味での友人になりました。ですが、それであなたと私の関係が変わる訳ではありません。それに、私達は六年間も一つ屋根の下で暮らしてきたのですよ?あなたはもう、只の友人では済みません。家族です。私の、たった一人の家族……」

 

メルセデスは僕の頬を撫で上げた。その手つきはとても愛しげで…思わず目から何かが溢れそうになる。

 

「だからダニー。そんなことで不安がる必要は無いのですよ。あなたはいつまでも、私の唯一なのだから…」

 

今度は頭を撫でられた。ゆっくりと慈しむように……

 

どうしてなんだ…君は化物の筈なのに。人を殺すことに微塵の躊躇も葛藤も無いその精神性は紛うこと無く化物そのものなのに…どうしてここだけは昔と変わらないメルセデス(深い慈悲)のままなんだ…!

 

僕の心から黒い澱みが消えていく。我ながら単純なことだと思うけど、こればっかりは許して欲しい。愛した人から『あなたは自分の唯一だ』と言われて歓喜に咽び泣かない人間なんていないだろう?

 

僕は、しばらくの間メルセデスにされるがままになってこの幸福な時間を胸に刻み込んでいた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

sideメルセデス

 

 

 

 

寮へと続く階段を降りながら、私は先程の自分の行動を深く反省していた。

 

「はぁ...やってしまいましたね....」

 

ダニーがシャロンに嫉妬心を向けていることには直ぐに気づくことが出来た。シャロンからあからさまに目を反らしたので何か思うところがあるのは直ぐに察しがつき、では何を思っているのかと直近の出来事を思い浮かべれば私がシャロンを本当に信頼出来る存在であるとしたことが原因であろうと予想出来た。

 

ダニーは自分が私に唯一信頼されていることにある種の優越感を感じていた。そこにシャロンが割って入ったのだからダニーがシャロンを良く思えなくなるのは必然なのだろう。シャロンが入ったところで私とダニーが今まで過ごしてきた時は変わらないのに、と思わなくも無いが、私にはダニーしか居なかったようにダニーにも私しか居ないのだ。自分の唯一をぽっと出の少女に奪われることはダニーには耐え難いことなのかもしれない。

 

そう考えてダニーを連れ出し、なんとか彼がこれ以上シャロンへの感情を拗らせないようにしようと思ったのだが想定に無い事態に見舞われてしまった。ダニーがシャロンへの不安を認めて力無く肩をすくめる姿を見て心の底から愛しさが込み上げてきたのだ。

 

私は、その抗い難い愛しさに身を任せてダニーを抱きしめて彼を撫で回し、あなたは私のたった一人の家族だと、不安がる必要は無いのだと言い聞かせてしまった。

 

ダニーを家族のように思う気持ちが無かった訳ではない。だが、言葉にしてしまったのは私の最大のミスだった。言葉にしてしまえばもう、それは一時の気の迷いだとか、只の気まぐれだということに()()()()()()なってしまう。そう、私はダニーを家族だと思ってしまった。口にしてしまえばもう気のせいには出来ない。

 

一体なんだというのかこれは。私は化物になったのでは無いのか?愛してくれた両親も世話をしてくれた従者も、大切な日々を過ごした家も想い人への想いも何もかも失い、ただ闘争を求めてさ迷い歩く存在。それこそが化物ではないのか?それが今はどうだ。ダニーを目の前にしただけで私の中にもう一人誰かが居るかのように彼への想いを止めることが出来ない。

 

この城に向かう道中に誓った筈だ。この想いはいずれ自分の首を絞めると、だからいつかは断ち切らなくてはいけないと。だが……それでも…………

 

私は彼への想いを断ち切ることなど出来ない…!ならば…仕方がない。断ち切ろうとするのは辞めだ。その代わり……彼が私の首を絞める日が来ないように私はダニーを愛そう。彼が私から離れることが無いように……ダニーを私の愛で溺れさせよう。

 

化物(フリークス)にだって、一人くらい愛情を向ける存在がいたって良い筈でしょう?ねえ?ダニー。」

 

次にダニーに会った時にはもう抑えはしない。ダニーはどんな反応をするだろうか?楽しみだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

sideダニエル

 

 

 

 

あれからどのようにしてメルセデスと別れたのかは覚えていない。あの後僕はとてもぼーっとしていたようで、気づいた時には妖精の呪文教室の机に座っていた。

 

「あっ、やっと目に意識が戻ってきたね。大丈夫?ダニエル。凄くぼーっとしてたよ?」

 

どうやらネビルが放心状態の僕を授業まで連れ出してくれたらしい。思わぬところで世話になってしまった。これはしっかりと授業の内容を手伝ってあげなければね。

 

今日の授業は浮遊呪文の実践のようだ。呪文は「ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)」魔法界に存在する数ある呪文の中でも一際長い呪文でとても言い間違えやすい。僕もメルセデスからこの呪文を習った時は度々呪文を言い間違えてよく分からない効果を発揮させたものだ。

 

授業は二人ペアで行う。僕は先程の礼も兼ねてネビルと組み、ハリーはルームメイトのシェーマスと、ロンはハーマイオニーと組んでいた。

 

ロンとハーマイオニーのペアは凄く心配になる。彼らはハリーが貰った箒の件で揉めて以来話している姿を見たことがない。僕とネビルのペアは二人の隣なので喧嘩が始まった時に真っ先に被害を被るのは僕らだ。

 

全員がペアを組み終えたところでフリットウィック教授の講義が始まった。

 

「ビューン、ヒョイ、ですよ。いいですか、ビューン、ヒョイ。呪文を正確に、これもまた大切ですよ。覚えてますね、あの魔法使いバルッフィオは『f』ではなく『s』の発音をしたために、気がついたら自分が床に寝転んでいてバッファローが胸の上に乗っかっていましたね。」

 

教授の話が終わると皆一斉に呪文を唱えたり杖を振ったりし始めた。僕は自分のことは置いてネビルにドジを起こさせないことに集中する。ハリーのペアではシェーマスが配られた羽を爆発させてハリーがついた火を必死になって消そうとしている。シェーマスの魔法は良く爆発するんだ。ハリーも可哀想に。

 

さて、問題のロンとハーマイオニーのペアだが、早速険悪な雰囲気になっている。

 

「ウィンガディアム・レヴィオーサ!」

 

「言い方が間違っているわ。ウィン・ガー・ディアム・レヴィ・オー・サ。『ガー』と長ぁーくきれいに言わなくちゃ。」

 

ハーマイオニーがロンの間違いを指摘している。只でさえ気にくわない相手に自分のミスを指摘されたことでロンは随分と腹を立てているようだ。

 

「そんなによくご存知なら、君がやってみろよ。」

 

そう言われたハーマイオニーは目に焼き付けろと言わんばかりに腕捲りをし、張り切って呪文を唱えた。

 

ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)!」

 

すると突き付けられた杖の先にあった羽は自ずと浮き上がり、ハーマイオニーの頭上二メートルほどの高さで浮遊した。成功したのだ。

 

「オーッ、よく出来ました!皆さん見てください。グレンジャーさんがやりました!」

 

相変わらず魔法の腕は悪くないらしい。そういったところもロンの敵愾心を買ってしまうのだから難儀なものだ。

 

授業が終わるとロンの機嫌は最悪になっていた。教授に惜しみ無く称賛された時のハーマイオニーの勝ち誇った顔が物凄く気に障ったみたいだ。ネビルと並んで後ろを歩いていても聞こえる声でハリーに悪態をついている。

 

「だから、誰だってあいつには我慢できないって言うんだ。まったく悪夢みたいなやつさ。」

 

だが、ロンがそう言ったその時に件のハーマイオニーが僕らのすぐ後ろを歩いているのに気づいた。

 

「あっ…ハーマイオニー。」

 

「え?」

 

僕の声にロンが振り向くが、ハーマイオニーはハリーにぶつかって急ぎ足で去ってしまった。ちらりと見えた顔には流れ落ちる涙があった。

 

「今の、聞こえたみたい。」

 

「ロン…確かに彼女は君を苛立たせてきたんだろうけど、泣かせるのはどうかと思うよ。」

 

ロンは多少ばつが悪そうな顔をしていたが、直ぐに不機嫌そうな表情に戻った。

 

「あんな奴を泣かせたところでどうしたっていうんだ?誰も友達がいないってことは、とっくに気づいているだろうさ。」

 

ハーマイオニーはその後の授業を全て欠席した。

 

 

 

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