sideシャロン
現在は本日の授業が終わってメルセデスと一緒にハロウィンのパーティーが行われる大広間に向かっている道中なのですが、メルセデスの様子がおかしいです。なんというか…こう…凄く楽しそうにしてます。口角がいつもより上がっていますし、声色もなんだか甘ったるいというか…とにかく私が初めて見るくらいには機嫌がいいんです。
時期的にハロウィンパーティーが楽しみなのかとも思いましたがメルセデスが素直にハロウィンを楽しみにしてるなんて想像がつきません。それに様子が変わったのはダニエルに用があると言って別れてからです。
私の見ていないほんの少しの間に一体何があったんでしょうか。気になります。気になるので聞いてみましょう。
「ダニエルに用があると別れてから随分と楽しそうですけど、何があったんですか?ダニエルが遂に愛を囁いてきたとか?」
冗談で言ってみましたがあながち間違いでも無いような気がしてきました。この二人ってあんなにお互いを想いあっているように見えるのに友人の域を越えて無いんですよね。
一度二人は結局どんな関係なのかと聞いてみたんですけどダニエルは真っ先に大事な友人だと答えましたしメルセデスも複雑な表情をしながらも否定しませんでした。ダニエルからは関係を知られるのが恥ずかしいから誤魔化してるような感じはしなくて……好意はあるけど関係を友人でとどめておこうという意思が感じられるんですよ。何でかまでは流石に分かりませんでしたけど。
その何らかの理由が取っ払われて遂に!…ていうことかもしれないと思ったのですが、その考えは否定されました。いえ、ある意味では合っていたんですけどね?
「ふふ、逆ですよ。私がダニーに愛を囁くことにしたのです。今までは様々な理由から抑えてきましたが…これからは遠慮しないことに決めました。ダニーを私の想いで雁字がらめにして私から離れられなくしてやるのです。」
おお、とても解放感に溢れた笑顔です。メルセデスってかなり愛が重そうなタイプですよね。ダニエルも苦労しそう……いえ、ダニエルなら戸惑いながらも喜んで受け入れそうです。ダニエルはダニエルで愛が重そうですからちょうどいいのかもしれません。
「ダニーは私に好意を抱いてくれています。しかし、それと同時に私に対する負い目がありました。彼の父親が私の人生を狂わせたことを今日に至るまで引きずっているのです。それが、彼を今の関係に踏みとどまらせた要因でしょう。そして私も、ダニーが私から離れていこうとした時に躊躇無く殺すことが出来るように、彼に過剰な想いを抱かないようにしようとしてきました。しようとしてきたんです。」
「ダニエルがメルセデスから離れる時が来るとは思えませんよ?だって…あんなにメルセデスの為にと頑張っているじゃないですか。」
ダニエルの行動原理はスニジェットが逃げ出す隙間も無いくらいメルセデスで埋め尽くされています。杖魔法の訓練だけじゃなく、役に立つ魔法薬を作ってストックしてたりハリー達と交友を深めているのもメルセデスのため。なんなら生きていること自体がメルセデスの為と言っても過言ではありません。
「シャロンは杖の木材が示す魔法使いの運命というものを信じていますか?」
「杖の木材ですか?セコイアの杖に選ばれた魔法使いは幸運になるとかそういう?」
杖には色々と伝承だとかジンクスだとかいうものがあります。例を挙げると、セコイアの杖に選ばれた魔法使いは運が良いことが多いんだそうです。ちなみに私の杖は黒胡桃でできています。特に目立った伝承はありませんけどオリバンダーさんによれば直感が鋭い魔法使いが選ばれやすいんだとか。私にぴったりですね。そう考えると杖の伝承も根拠が無いものではないのでしょうか?そうだとして、ダニエルがメルセデスから離れていくことになんの関係があるのでしょうか。
「ダニーの杖の木材はイトスギ…イトスギの杖に選ばれた魔法使いは昔から偉大な英雄になると言い伝えられています。私は彼がイトスギの杖に選ばれた時からダニーが
魔法界において運命というのは存在しないと切り捨てることが難しいものです。魔法というものはどこまでも謎めいていて、人が何もせずとも自然と原因不明の魔法が作り出されることもあります。運命という名の魔法が無いとは言い切れません。メルセデスも自分の不安を只の妄想だと決めつけられないんでしょう。
「同じ村で育った幼馴染の二人がいずれ決別し、お互いに殺し合う…王道とは言いませんが、物語ではよくある話でしょう?ましてや、片方が化物として人々を脅かす存在と成り果てているのなら、尚更。」
「確かに二人はよく物語で見る関係のように見えます。でも…そんなのは只の物語でしかありませんよ!重ね合わせる必要なんてありません!」
「ええ、そうですね。ですから私はダニーと殺し合いをするつもりなど毛頭ありません。ダニーを英雄になんてさせるものですか。ダニーは死ぬまで私と共にいてもらいます。その為に……ダニーが私から離れられなくなる程私の愛で彼を溺れさせたいのですよ。」
メルセデス……そんなにダニエルのことを想っているんですね。少し妬いちゃいます。私にもこんなに想い合える人が現れますかね~...多分無理でしょうね。メルセデスに着いていく以上知り合う人は皆死体になりそうです。
「………」
メルセデスが急に足を止めました。目線が明後日の方向を向いているので何か考え込んでいるようですが…?
「シャロン。ハロウィンパーティー...行きたいですか?」
「え?そこまで興味はありませんけど…」
どうしたんでしょうか。突然行きたく無くなったとかですかね。何故かマルフォイは最近近づいて来なくなりましたが他のスリザリン生はまだまだしつこいのでそいつらが面倒になったのかもしれません。
「次にダニーに会う大広間でのハロウィンパーティーから行動に移そうと思っていたのですが…大広間だと周囲の有象無象が煩いかもしれません。夜中に必要の部屋で集まった時にしようと思うのですよ。なのでダニーには所要が出来たからハリー達とパーティーを楽しんで欲しいと伝えようかと。」
そんな理由ですか…まあ確かに甘ったるい空間を作るつもりなら周囲がやっかみの視線を向けてくるのは間違いないでしょうね。間に挟まれる私も凄くいたたまれなくなりそうですからこれには賛成です。
「良いんじゃないですか?伝える所要は何にします?」
「そうですね……シャロンがお腹を壊したとかどうでしょう?」
「なんでですか!もっと他に良いのがあるでしょ!」
またこの人はもう!たまに出るいたずらっぽい一面がほぼ私に向かうのはどうにかなりませんかね?
「良いではないですか。考えるのが面倒なのですよ。なんなら、腹痛になる呪いでも掛けてあげましょうか?」
本気の目をしていますよこの人!辞めてください!杖を出そうとしないで!
「分かりましたよ!大人しくトイレに籠っていればいいんですね!だから呪いは勘弁してくださいお願いします。」
メルセデスは手を口元に当ててクスクスと笑っています。相変わらずからかうのが好きですね…
「ごめんなさいね、ダニー。必要の部屋で会いましょう。愛してますよ。それでは。」
呪いを掛けられずに済んだことにホッとしている間にメルセデスがさっさとダニエルへの連絡を済ませていました。さらっと愛してると伝えてましたね…ダニエルがどんな反応をしたのか見てみたかったです。
「それでは、トイレに向かいましょうか。」
「ッ!―――――」
メルセデスの発言を聞いた瞬間に身体に震えが走りました。何か……凄く嫌な予感がします!このままトイレに向かうと危ない!なんで急に……!
「待ってくださいメルセデス。今トイレに行くと何か危ないことに巻き込まれるような気がします。」
私の切羽詰まった表情を見て冗談ではないと悟ったのかメルセデスの顔も真剣味を帯びました。
「具体的にどう危ないのか分かりますか?」
「命の危険…ですかね。」
メルセデスの目がスッと細まります。トイレで何が起こるのか考えてるんでしょうか?しっかしトイレで命の危機って何が有るって言うんですかね?滑って転ぶくらいしか思いつかないんですけど…まさかトイレに危ない生き物でも迷い込んでくるとか?まあ何が起こるにせよ近づかなければ何の問題も……
「ここ一ヶ月ほど平穏な時が流れていましたが…ようやく何かが動き出すようですね。いいでしょう。命の危機の一つや二つをいちいち遠ざけようとしているようでは、これから待ち受けている幾千幾万の命の危機を乗り越えることは出来ません。参りましょう、
……闘いに行く気満々のようです。死の危険を伝えたってどうせメルセデスは迎え撃とうとすると思っていましたけどやっぱりこうなるんですね…あ、そうだ。メルセデスが死地に赴くならダニエルを呼ばないといけませんよね。そうに違いありません。
「じゃあ私は大広間にダニエルを呼びに…」
「何を言っているのですか?勿論シャロンも行くに決まっているでしょう。」
「ですよね~」
ちっ、ダニエルを呼びに行く体でおさらばしたかったのですが無駄ですか。あ~もう!分かりましたよ!メルセデスの言う通りどうせこれから何千回も何万回も死にそうになるんです。腹を括ってこれが記念すべき一回目だと思って突貫しましょう!
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sideダニエル
妖精の呪文学の授業の後、ハーマイオニーは残りの全ての授業を欠席していた。彼女のルームメイトのパーバティによればトイレで泣いているらしい。声を掛けたが一人にしておいて欲しいと言われたそうだ。
僕自身は彼女に何かしたわけでは無いのだけどなんとなく罰が悪い。ロンもハーマイオニーが泣いていると聞いて罰が悪そうにしていたのだが大広間のハロウィンの飾り付けを見て直ぐに忘れてしまったようだ。ハリーと共に嬉しそうに大広間へ駆けていった。
全く薄情な…と思いながら僕も大広間に入ろうとすると懐の両面鏡から小さく僕を呼ぶ声がした。直ぐに人目につかない小部屋に入って鏡を見るととても機嫌が良さそうなメルセデスが映っていた。
「突然連絡してごめんなさい。実はシャロンがお腹を壊してしまいまして…色々と付き添わないといけないのでそちらにはいけなくなりました。」
シャロンが腹痛…?ハロウィンが待ちきれなくて何か摘まみ食いでもしたのかな?それにしてもメルセデスはなんでこんなに機嫌が良さそうなんだろう。まさかシャロンの腹痛が嬉しい訳ではないよね?
「残念だけど仕方がないな。シャロンに大事にするよう伝えて欲しい。しかし、そうか…これないってことはメルセデス達は夕食を食べ損ねることになるね。僕が持っていこうか?」
「欲を言えば必要の部屋でダニーに作ってもらいたいです。」
……もしかして僕の料理を食べる口実が出来たから機嫌がよかったりするのかな?そうだったら嬉しいんだけど。
「大丈夫だ。むしろ喜んで作らせてもらうよ。それじゃ、また必要の部屋でね。」
「ごめんなさいね、ダニー。必要の部屋で会いましょう。愛してますよ。それでは。」
さりげなく付け加えられた一言に僕の心臓が跳ねた。今、メルセデスに愛してると言われた…?はずみで付け加えられただけで特に意味は無いのかもしれない。それでも僕の心臓はうるさく脈打っていた。
「あ、ダニエル。遅かったね?」
なんとか心を落ち着けてハリー達の元へ向かうと、二人は既にハロウィンのご馳走を食べ始めていた。
「ちょっとね。」
僕も席について料理を取り分ける。夜のことを考えて少し少なめにし、さあ食べようとしたところで大広間の扉が慌ただしい音を立てて開かれた。入ってきたのは―――――クィレル教授だ。顔は恐ろしいモノを見たと言わんばかりにひきつり、今にも死にそうなほど息を切らしている。
教授は足をもつらせながらも校長の前まで駆けていってゼーゼーと息を吐きながら言った。
「トロールが……地下室に………お知らせしなくてはと思って……」
教授はそのまま派手に床に崩れ落ちて気を失った。
大広間は生徒の恐怖と悲鳴で満杯になった。トロールは危険レベルが四の魔法生物。禁じられた廊下を守護していた三頭犬と同じくらい凶暴で、やはり只の生徒が出会えば死ぬことは間違いない。誰だ?魔法界でホグワーツほど安全な所はないと言った大馬鹿野郎は。
しかし、もともと居たのでなければ野生のトロールがホグワーツに侵入するとは考えにくい。誰かが意図的に侵入させたと考えるのが妥当だろう。そして、今回トロールを発見したと知らせに来たのはシャロン曰く何かを企んでいるらしいクィレル教授だ。トロールをおとりに何かしようとするかもしれない。ここは教授を見張っているべきか?
いや、待て。メルセデスはトロールが侵入したことを知らない。彼女がトロールに遅れを取るとは考えもしないが彼女がやり過ぎることは十分にあり得る。彼女がトロールを殺してしまう前に合流しなければ!
僕が混乱する群衆に紛れて姿を消そうとしたところで爆竹の爆発音がした。ダンブルドア校長だ。
「監督生よ。すぐさま自分の寮の生徒を引率して寮に帰るように。」
校長の指示によって混乱していた生徒達は統制の取れた集団へと早変わりした。くそっ、これじゃ動きにくくなるじゃないか。仕方がない。後で抜け出したことがバレてもいいから今はメルセデスを優先しよう。
周囲の生徒の視線を切って目眩ましを使用する。そのまま大広間を抜けようと歩き出すとハリーとロンの二人が列を抜け出そうとしているのが見えた。こんな時に何をしようって言うんだ?
「どこに行こうとしてるんだい?」
「ダニエル!?今どこから出てきたんだ?」
「ハーマイオニーはトロールのことを知らないんだ。だから知らせにいかなくちゃって…」
…ハーマイオニーのことをすっかり忘れていた。薄情なのは僕の方だったか。だけど、メルセデスと比べれば優先するべきはメルセデスだから仕方がないね。
「ダニエルはどうして列を抜け出したの?まさか僕らを連れ戻しに?」
「いいや、メルセデスもトロールのことを知らないんだ。だからとりあえずトロールが出たことを連絡する。」
「連絡するって言ったってどうやるんだ?」
「僕とメルセデスには離れていても連絡できる手段があるんだ。」
連絡手段があると聞いてロンがよく分からないといった顔で尋ねてきた。
「それじゃあなんで抜け出してきたんだい?離れていてもできるなら寮からも出来るんだろ?」
「メルセデスがトロールが居ると聞いて大人しくしている筈がない。絶対に。だから止めに行くんだ。」
二人はああ…と納得した表情をした。この二人も二ヶ月の間に何度かメルセデスと交流することでそこそこ彼女のことが分かってきたらしい。
「そうだよね、流石にあのメルセデスでもトロールに殺されちゃうよ。」
いや、やっぱり分かっていなかったか。メルセデスがトロールに殺されるって?
「何を言ってるんだ?メルセデスがトロールごときに殺される筈がないだろう。僕が止めるのは彼女がうっかりトロールを殺してしまうことだ。いくらトロールといっても殺してしまえば印象が悪くなってしまうからね。」
ポカンと口を開けて固まった二人をおいてさっさと大広間を抜けようと移動を始める。さあ、早くメルセデスの元に行こう。僕が行くまでトロールが生きているといいんだけど。