ハリーポッターと化物となった少女   作:96℃

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気づいたら八千字を越えていたので二話に分割しました。続きは夜に投稿します。



化物(フリークス)と賢者の石 二十五

 

 

sideメルセデス

 

 

 

 

私はシャロンが危険だと断じたトイレを目の前にして立つ。外から見る限りは何も普段と変わっていないように見えるが……

 

「………見た所特に異常は無いようですね。シャロン、あなたの勘はまだ危険を予兆していますか?」

 

「してますね~凄くしてます。具体的に言うと頭がガンガン痛むくらいに。」

 

ふむ……ならば、ここに危険が待ち受けているというよりはここに危険がやってくるということだろうか?扉を開けて中を見渡してみるがやはり異常は感じられない。しかし、よくよく耳を澄ませてみれば奥の個室から誰かが啜り泣く声が聞こえた。

 

「女性の泣き声……?」

 

「誰か泣いているんですか?」

 

私の呟きを聞いたシャロンが奥の個室に向かって呼び掛けた。すると、泣き声の主はこちらに気づいて声をあげる。

 

「っ!誰っ!?」

 

尋ねてきた声には聞き覚えがあった。普段の勝ち気な声色とは違い、弱々しく掠れた声であるので確証は無いが…声の主は恐らくグリフィンドール生のグレンジャーだ。

 

「ウォルターです。中にいるのはミス・グレンジャーですか?大広間ではハロウィンパーティーが行われていますよ。こんなところでどうして泣いているのですか。」

 

「そうですよ。ご馳走を食べ損ねちゃいますよ?あ、ちなみに私はガードナーです。何度か会ったことはありますよね?」

 

普段ならばグレンジャーが泣き喚こうがどうしようが知ったことでは無い。しかし、今はここで命のやり取りが行われるかもしれない状況。巻き添えでグレンジャーが死ぬことも同様に知ったことでは無いが見捨てればまた周りの人間が騒がしくなるだろう。出来るならさっさとここから叩き出したいところだ。

 

「ウォルターにガードナー......ダニエルやハリー、ロンと大層仲がいいあなた達なら私の悪口も聞いているんでしょう?知ったかぶりで、独りよがりで、我慢ならないような奴だって。」

 

……悪口も何もダニーの口からグレンジャーの名前が出たことすらほぼ無い。他の二人からもだ。まあ、とりあえず何故泣いているのかは分かった。要は人付き合いに失敗して孤立したのだろう。

 

「ダニエル達からグレンジャーさんの悪口を聞いたことなんてありませんよ?何か三人に嫌われるようなことをしたんですか?私達で良ければ話を聞きますよ。安心してください!ここで聞いた話を誰かに話すようなことはしませんから!ねえ?メルセデス。」

 

「ええ、そうですね。ミス・グレンジャー、話してみてください。」

 

シャロンはグレンジャーを元気付けることにしたようだ。私は誰かに取り入ろうとすることに関してはシャロンよりも一歩も二歩も劣るのでここは任せるとしよう。シャロンと話しすことで気を持ち直してここから出ていくならそれで良し。間に合わなかったならば……その時はその時だ。

 

「私……自分が魔法使いだって知って…沢山勉強したの。そうしなきゃ他の魔法使いの家の子達においていかれちゃうって思って…でも、実際にホグワーツに来てみたら違ったわ。皆あまりにも勉強をしていないものだから私が教えてあげなきゃって皆に正しい知識を教えていこうとしたの。でも…皆はそれが嫌だって、あいつは知ったかぶりだって…」

 

「それは酷いですね~。あなたはただ皆に教えてあげようとしただけなのに。」

 

シャロンはグレンジャーの話に共感をしていった。どんなことを話しても受け入れてくれそうな親しみやすい雰囲気を醸し出している。

 

「それに、規則を破ろうとしている人にも何回も注意したわ。規則を破ったことがばれたら寮の点数が引かれちゃうし最悪その人が退学になっちゃうかもしれないから良かれと思ってそうしたの。でも皆規則を守ろうとすることがまるで悪いことみたいに…私が間違っていたの?規則は守る為にあるんじゃないの?もう分からなくなったのよ……」

 

「グリフィンドールって規則を守れと言われれば言われるほど破りたくなる人ばかりなように見えますからね~」

 

シャロンはうんうんと頷き、しばしの間を開けて今度は真面目な雰囲気を身に纏った。

 

「グレンジャーさん、あなたの考えは間違ってはいませんが、正しくもありません。あなたは他人が自分と同じく意思を持つ人間であるということを少し軽視しているんです。」

 

「どういうこと…?」

 

「確かに規則は守るべきものですし、破れば待っているのは罰則です。ですが進んで規則を破ろうとしている人達にとってそんな事は分かりきったことなんですよ。分かっててやってるんです。分かっていることをわざわざ注意されるのはそういう人達にとってありがた迷惑でしかならないんですよ。それが、自分を思って言われたことでもね。あなたはきっと、自分がした注意が相手にどんな風に伝わるかを考えていなかった。」

 

「っ!」

 

「勉強を教えることも同じです。魔法があなたよりも遅れている人達の誰しもがあなたに魔法を教わりたい訳じゃないんです。中には自分で試行錯誤しながら技術を高めるのが好きな人もいます。誰かに教わることを屈辱だと思う人もいます。後、教えようとする時の入り方とか言い方が悪いこともありますよね。グレンジャーさん、誰かに教えようとする前に助けが要るかどうか確認してましたか?突然横から割り込んだりしていませんか?」

 

「そっ…それは……」

 

「ある程度信頼関係が出来た後ならちょっとやそっとでしゃばった位では不愉快には思われません。ですが、信頼を築く前は慎重に行動するべきです。まずはそこから始めましょう。自分が人に対して何かをする前に自分の行動が相手にどう写るかを考えてみるんです。時間はかかるかもしれませんがきっと、いずれあなたの知識を素直に欲してくれる人が現れますよ。」

 

「………」

 

カチャ、と扉が開きいて中からグレンジャーが出てきた。泣いていたせいだろう、目は赤く腫れているがどことなく決意を感じられる面持ちをしている。

 

「ありがとう……ガードナー。おかげで少しどうすればいいか分かったような気がするわ。ウォルターもありがとう。」

 

「私は最初から最後までシャロンの横に立っていただけです。礼を言われる筋合いはありませんよ。ですが……いえ、そうですね…私からも何かを言わなければシャロンに負けたような気がして面白くありません。」

 

「いいじゃないですか!たまには勝った気でいさせてくださいよ!」

 

シャロンが何か喚いているが気にしない気にしない。

 

「では私からも一言、二言、シャロンは相手から見た自分を考えてみろと言いましたが……周囲の人間を気にしすぎて自分の生き方をねじ曲げる必要はありません。敢えて自らの思うがままに振る舞い、障害を捩じ伏せようとする気概も時には必要です。」

 

「あ、ありがとう…参考にするわ…」

 

グレンジャーに引かれているような気がする。自分を押さえつけすぎるのは良くないと伝えたつもりなのだが何処に引かれる要素があったのだろうか?

 

「メルセデス、そこは普通に自分を押さえつけすぎなくても良いって言えばいいんです。言葉が物騒なんですよ…メルセデスは。」

 

言葉使いを意識している訳ではないのだが周りからは物騒に思われたらしい。これはシャロンの言っていた自分の発言の前に一旦考えろというものを実践してみるべきか。

 

「ウォルターは凄いわよね……私、組分けであなたの名前が呼ばれた時の息苦しい雰囲気を今でも覚えているわ。あなたの事は本で読んだから知っていたけど……まさかホグワーツ中の人達が敵意を剥き出しにするほどなんて思ってもみなかった。考えてみれば、私が言われた悪口なんて大したこと無いんじゃないかって思うの。ウォルター、あなたはどうして平気なの?」

 

「吠えるばかりで私と真正面から相対する勇気も力も無い有象無象なんていちいち気にする価値も無いからですよ。あまりにも羽虫の如く鬱陶しいなら叩き潰したくもなりますがそれまでです。下らない正義感を振りかざしてでも私を打ち倒そうとするなら喜んでお相手するのですが…どうもこのホグワーツは腰抜けばかりなようですね。」

 

「ほら!また言葉づかいが物騒ですよ!」

 

おっと、またグレンジャーを引かせてしまったか…と思ってグレンジャーの顔を見るがこれはどうしたことだろう。笑っている。

 

「うん…私、あなた達がどんな人なのかが少し分かった気がする。ねえ、私もメルセデスとシャロンって呼んでいいかしら?私の事もハーマイオニーって呼んで欲しい。」

 

どういう風の吹き回しだろうか?良くわからないが別に損はしないだろう。

 

「結構ですよ。ハーマイオニー。」

 

「私からお願いしようと思っていたくらいですよ!よろしくお願いします!ハーマイオニー!」

 

私達から名を呼ばれたハーマイオニーは恥ずかしげに顔を赤くしている。端から見れば和やかな雰囲気ではあるが忘れてはいけない。今まさに、ここへ脅威が迫っていることを。

 

『メルセデス!』

 

突然、緩みかけた空気を切り裂くようにして鏡からダニーの焦ったような声が響いてきた。グレンジャーは突然聞こえてきたダニーの声が何処からしたのかと辺りを見回している。相手が身内以外と接触している時に鏡の存在がバレないよう、使用する時は小声で起動させることが私達のルールだったのだがその手間すら惜しい事態が起こったというのだろうか?

 

「どうしたのですか?ダニー。何か緊急事態が?」

 

『取り敢えず教えてくれ!君は今どこにいる?』

 

「一階の女子トイレですが……」

 

『地下室の近くか……!メルセデス、実は…『一階の女子トイレ!?メルセデス!そこにハーマイオニーは居る?』こらっ!勝手に映りこむんじゃない!』

 

ダニーに加えてハリーが鏡に映り込んできた。ハリーに鏡の存在を教えたのか知られたのかは分からないが、私とダニーの鏡に他の人間が映り込むのは少々不快だった。いや…そんな不満は後にしよう。今は何が起こっているのかを把握するべきだ。

 

「ハーマイオニーならば一緒にいますよ。一体何が起こったというのですか?」

 

『ハーマイオニーは君と一緒か。それなら心配は要らないね……実は、ホグワーツにトロールが侵入したんだ。最後に発見されたのは地下室。』

 

トロール……!シャロンの言う命の危機とはトロールの襲撃を指していたのか。かの生物は魔法に対する耐性が高く、感覚も鈍いため並の魔法では痛みを与えることすら困難な魔法使いを殺しうる存在。なるほど、確かに十分に死の脅威を与えてくれる敵だ。

 

『確か君達が居るトイレは地下室に近かっただろう?十分に注意してくれ。君がトロールに遅れを取るとは微塵も思っていないけど、出来れば安全な所に避難して欲しい……』

 

「あ~、ちょっと遅かったようですね。もう扉の前にいますよ。トロール。」

 

シャロンの言葉に呼応するかのように女子トイレの扉に凄まじい衝撃が走り、重厚な扉の木材がひび割れていく音が鳴り響く。ひび割れた隙間からは顔をしかめたくなるような悪臭と、低く腹の底に響くような唸り声が洩れ出してきている。扉が蹴り破られるのは時間の問題だ。

 

「既に闘う以外に選択肢が無いようです。ダニー。」

 

『そうか…なら仕方ない。ご武運を(Good luck)、メルセデス。後…あまりやり過ぎないでね?』

 

「善処しましょう。………ハーマイオニー、戦闘の心得はありますか?」

 

二ヶ月前まで只の少女であったハーマイオニーが戦えるとは思えないが一応は聞いておこう。もしもし戦えたとしても、トロールが今にも自分が居る所に入り込もうとしている現状に頭が着いていっていない様子から見てあまり役には立たないだろうが。

 

「え?な、無いけど……」

 

「まあ、そうですよね。シャロン、ハーマイオニーを任せます。私は……そこの木偶の坊のお相手をさせて頂きましょうか。」

 

「了解ですよ~」

 

本気の命のやり取りなど何年ぶりだろうか?二年前にウォルター邸が襲撃に遭った時以来か。あの時はそれなりに死ぬ思いをしたが今回はどうなることやら……

 

入り口の扉が吹き飛び、トロールがその醜い姿を顕にした。トロールは私達を確認して歓喜の叫びをあげている。

 

「ウォルター家当主にして化物(フリークス)、メルセデス・ウォルターがお相手しましょう。さあ来なさいトロール。戦ってあげます。」

 

 

 

 

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