ハリーポッターと化物となった少女   作:96℃

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化物(フリークス)と賢者の石 二十六

 

 

 

sideメルセデス

 

 

 

 

私を第一の獲物と定めたトロールが目の前の肉を喰らわんと動き出した。歩みそのものは鈍いが全長が四メートルを越える肉の砦が迫ってくる様子は中々の迫力がある。

 

トロール…直にまみえたことは無かったが噂に違わぬ巨躯だ。灰色の皮膚に剥げた頭、どうやらこの個体は三種いるトロールの中でも最も巨大で凶暴だとされる山トロールらしい。只の学生なら出会った時点であの世での人生計画を練り始めるところだろうがそうはいかない!

 

振り下ろされた身の丈程もある棍棒をバックステップで避け、床にめり込んだ棍棒を足掛かりにトロールの頭上へ跳躍する。狙うのは前側よりも若干肉が薄く見える後ろ首だ。空中で身を翻し、突然目の前から獲物が消えて呆けているトロールへと切り裂き呪文を飛ばす。これで首を落としきれるならそれで終わりなのだが……

 

金属質の閃光がトロールの首に一筋の切れ込みを入れ、傷口から血が噴き出す。だが、やはり首を切断するまでには至らない。床に着地して直ぐ様追撃を仕掛けようと身を屈めて跳躍の準備をするが、自分の首から何かが飛び出していることに気づいたトロールが慌てふためいて手に持った棍棒を出鱈目に振り回し始めた。

 

トロールが振り回す棍棒のもたらす災害のような衝撃波は周囲の洗面台や個室のことごとくを破壊し、トロールの周りは更地と化していく。一瞬だけ見えたトロールの後ろ首からは既に血など流れていなかった。膨張した筋肉の圧力で止血されたようだ。だがトロールは自分が何故暴れまわっているのかも忘れてただただ棍棒を振り回し続けている。

 

……軌道に塵ほどの意図も感じられない予測不可能な暴力の嵐だ。あれでは何度も後ろ首を大人しく狙わせてはくれないだろう。しかし、急所でなくとも、直ぐに止まるとしても、血を流すならばいつかは力尽きる時が来る。その時まで全身の皮膚という皮膚を切り裂き、その灰色の身体を朱に染めてやるとしよう。

 

「さて、愉しませてくださいよ?途中で逃げるような真似は許しませんからね。」

 

私は暴風の渦中にその身を投じた。歓迎の一打が私の頭上に迫る――――――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

sideシャロン

 

 

 

「きゃあっ!」

 

こちらに飛んできた無数の洗面台の破片にハーマイオニーが悲鳴をあげています。盾の呪文に阻まれて当たることは無いとはいえ怖いものは怖いので無理もありませんね。

 

私は今、自分とハーマイオニーの周囲をドーム型の盾の呪文で覆いながらメルセデスとトロールの戦いを眺めています。設置型の盾の呪文は最近使えるようになったんですけど便利なものですよ。一度張ったら破られるまで手を加える必要が無いんです。いや~自分がこんなに盾の呪文に関して天才だとは知りませんでした。……まあ、防御関連の魔法と一部の補助的な魔法以外はからっきしなんですけどね。

 

そんな事よりメルセデスの方に目を向けましょう。先程はメルセデスが戦っていると言いましたが、やっぱりこれは戦いとは言えないかもしれません。曲芸師が猛獣をパートナーに踊っているようにしか見えないんですもん。

 

地を這うようにして薙ぎ払われた棍棒を宙返りでかわし、続いて振り上げられた棍棒を空中で風を起こして自ら飛ばされることで避けています。さっきも棍棒を足場にして飛び上がったり壁を蹴り上がったりとアクロバティックな動きを繰り返していました。

 

動きが激しくてよく見えませんが合間に無数の切り裂き呪文を行使しているようで、トロールの身体中がズタズタな上に全身から血が噴き出していて見た目的にとてもよろしく無い姿になってしまっています。これでも大して痛がる素振りを見せて無いんですからどんだけ鈍いんですかね?トロールっていうのは。

 

「なんなのよ…メルセデスのあの動きは…本当に人なの?シャロン。」

 

飛び散っている血飛沫に顔を青くしながらハーマイオニーが尋ねてきました。実際自らを化物と呼称してますからね~メルセデスは。なんだかもうその名に偽り無しって感じですよ。ですがそんな事をハーマイオニーに口走る訳にはいきませんから適当なこと言っときましょう。

 

「分類的にはまだ人だと思いますよ?ただ、ウォルター家の人って成長するにつれて身体能力が人並み外れたものになっていくそうです。メルセデスのご先祖様の中には吸血鬼と素手で殴り合って勝った人も居たんだとか。」

 

この話を聞いた時は冗談だと思ったんですけどね。だって吸血鬼ですよ?今目の前で暴れているトロールと力比べで勝ったという逸話がある吸血鬼ですよ?そんな生き物と殴り合うって……

 

「吸血鬼って…本当の話なの?」

 

「ちゃんと記録に残っているれっきとした事実だそうですよ。まあ、そこまで人から外れる人は千年ほど続くウォルター家の歴史でも二人しか居ないらしいです。メルセデスがそうじゃないとは言い切れませんけど……」

 

メルセデスならそうなってもおかしく無いような気がするんですよ。根拠は特に無いんですが。

 

吸血鬼と殴り合うメルセデスの姿を想像していると、戦闘音の中に笑い声が混じり始めたことに気づきました。

 

「あはははは!」

 

いつも控えめな笑い方しかしないメルセデスが声をあげて笑っていたんです。心の底から愉しそうに。綺麗な顔を返り血で赤く染めながら笑っています。闘うのってそんなに愉しいんですか?メルセデス。私にはまだ理解できませんが、いつか私も闘いの最中に笑えるようになるんですかね?

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

sideメルセデス

 

 

 

 

「ふふっ。」

 

私の頭を吹き飛ばさんと棍棒が薙ぎ払われる。

 

「ふふふっ。」

 

身を屈めて前方に跳び、トロールの懐に潜り込む。

 

「あはっ。」

 

がら空きの胴体に幾重にも大きな裂傷を負わせてやる。

 

「あははっ!」

 

トロールは懐にいる私を叩き潰そうと自らの腹部に向かって棍棒を振り下ろす。

 

「あはははは!」

 

私は飛び退けるが振り下ろされた棍棒は止まらず、大きく切り裂かれた胴体を深く陥没させた。強い圧力を加えられた傷口からは大量の血と臓物の一部を噴き出し、私をより赤く染め上げる。

 

人ならば明らかに致命的な失血をして尚、トロールは私を殺す為に腕を振り上げた。

 

「あはははははは!」

 

愉しい!こんなに愉しいのは久し振りだ!トロールはどれほどに血を流そうとも私を殺す事を諦めない!これだ!これが欲しかったのだ!

 

ああなんということだ、私は今日この時までトロールを心の何処かで下等な生き物だと軽んじていた。しかしどうだ?このトロールという生物は少し死を目の前にしただけで戦意を喪失する無様な襲撃者共よりも遥かに私の心を震わせてくれる!

 

もはやトロールに対して『ごとき』などという言葉は使うまい。その戦意が自らの死を理解していない故のものだったとしても彼が死ぬまで闘い続けようとしていることは事実だ。ならば、私もその戦意に敬意を表し全力で彼を殺さなければならない!

 

彼の手首に刃を放つ――――彼は棍棒を握っていられずに地面に落とした。それでも彼は残った腕で私を叩き潰そうとする。

 

彼の肩に刃を放つ―――――彼の腕はだらりとぶら下がり、使い物にならなくなった。それでも彼は残った脚で私を蹴りあげようとする。

 

彼の膝に刃を放つ―――――彼の膝は砕けちり、床へと崩れ落ちた。それでも彼は残った顎で私を食い千切ろうとする。

 

最早彼が動かすことができる部位は頭だけだ。既に脅威とは言えなくなってしまったが、このまま生き永らえさせるのは今も尚闘い続けようとしている彼への侮辱だ。久々に私を愉しませてくれた彼への手向けに安らかな死を贈ろう。

 

アバダ・(息絶)―――――

 

トロールに死を与えようと杖を振り上げた瞬間、私は誰かに後ろから抱き締められた。振り上げた腕は優しく掴まれて下へと降ろされる。

 

邪魔をされたことで一瞬怒りのままに背後の人物を投げ飛ばしそうになったが、嗅ぎ覚えのある匂いに昂っていた心が急激に鎮まっていくのを感じた。

 

「ダニー......」

 

「落ち着いたかい?君がそれを使う前に間に合って良かった。」

 

抱き締められたまま後ろを向くと、穏やかに笑っているダニーの顔が直ぐ側にあった。少し遠くにはズタズタのトロールを見て青い顔をしているハリーとロンも見える。

 

危ない所だった。死の呪文をホグワーツで使うリスクの高さは良く分かっている筈だったのだが、思いの外トロールが奮闘してくれるものだから興奮してしまって周りが見えなくなっていたようだ。トロールをあのままにしておくのは彼に失礼だが……今回は私の立場を優先しなければならない。

 

私を抱き締めている腕をほどき、ダニーに向き直って止めてくれた事に感謝を伝えようとすると、廊下がなにやら騒がしくなった。

 

バタバタと複数の人間が走る音が聞こえ、マクゴナガル教授、スネイプ教授、クィレル教授がトイレに飛び込んできた。スネイプ教授は床に横たわるトロールの傷を見て顔をしかめ、クィレル教授はトロールそのものを見て腰を抜かした。マクゴナガル教授はトイレの惨状を見渡すと、彼女からは今まで聞いたことが無いような大声で怒鳴った。

 

「これは一体どういうことですか!この悲惨な状態のトロールは誰がやったんです!」

 

私がトロールと闘っていたのは逃れようのない事実だ。ここは正直に名乗り出た方が良いだろう。

 

「トロールの傷に関しては、全て私が負わせたものです。」

 

「ミス・ウォルター、あなたが?」

 

「ええ、私はお腹を壊したシャロンを介抱するためにこのトイレに来ました。そこにはハーマイオニーも居たのですが運悪くトロールがトイレに入って来てしまい、ウォルター家の者として闘う力のある私が闘う力の無い友を守る為、トロールと闘うこととなったのです。」

 

私は確かにお腹を壊す(予定になっている)シャロンを介抱するためにトイレに来たしトロールが来ることも直前まで知らなかった。それに最初はシャロン達を守る為に闘っていたから嘘は言っていない。だが教授はまだ納得がいっていない様子だった。

 

「だからといってこんなに惨たらしい姿にする必要があったのですか?」

 

私がわざとトロールをズタズタにするような闘い方をしたと疑っているのだろうか?確かに闘いを愉しみはしたが無惨に殺す事を愉しんでいた訳ではない。

 

「教授もご存知でしょう?トロールは痛みに強くどれだけの傷を与えても逃げようとはしないと。トロールを止める為には動けなくなる程の傷を負わせなければならなかったのです。私とてトロールに要らぬ苦しみを与える事を心苦しく思っています。」

 

トロールが結局最後の最後まで止まろうとしなかった事もトロールに苦しみを与えていることを良く思っていない事も本当だ。出来ることなら早く解放したい……この世からではあるが。

 

「ミス・ウォルターとミス・ガードナー、ミス・グレンジャーについては分かりました……ですが、他のグリフィンドール生三人は何故ここに居るのですか?」

 

私の言い分を納得してくれたようだが、今度は男子三人への尋問が始まった。きつい説教を覚悟しているのか項垂れている三人だったが、そこに助け船を出す人物がいた。ハーマイオニーだ。

 

「先生、ハリー達は私を探しに来てくれたんです。私がハリー達に気分が悪いからしばらくトイレに行くって伝えていたのを覚えていてくれて…トロールがホグワーツに侵入したって知らない私がトロールに襲われる前に連れ戻そうとしてくれたんです。」

 

ハーマイオニーが自分たちを庇って教授に嘘を言っていることに驚いているのか、ハリーとロンは口が開いたままになっている。ダニーも僅かながら驚いているようだ。

 

「そうなのですか?」

 

三人はいかにもそうだと言わんばかりの真面目な顔で頷いている。

 

「はあ…分かりました。危険を省みない無謀な行動にグリフィンドール生の三人はそれぞれ五点減点します。」

 

厳しい顔をした教授の言葉にダニーはともかくハリーとロンの二人は露骨にがっかりとした顔をした。

 

「ですが、友の命を守る為に行動したことは素晴らしいことです。よってあなた達にそれぞれ十点を差し上げましょう。」

 

だが、次の瞬間教授の表情が優しげなものに変わり、得点を与えたことによってハリー達の表情も明るいものになった。さらに教授は私の方にも優しげな表情を向ける。

 

「ミス・ウォルター。野生のトロールから生徒二人を守った事に二十点を差し上げましょう。今後も、その力を友の為に使ってくれる事を期待していますよ。」

 

そう言って教授は私に清め呪文をかけた。すっかり忘れていたが大量の返り血を浴びていたのだった。ダニーはトロールの返り血まみれで酷い臭いだったろう私を抱き締めてまで止めてくれたのか。この礼は後で必ずしよう。

 

「寮に戻った生徒が中断したパーティーの続きを行っていますよ。さあ、あなた達も寮にお戻りなさい。」

 

マクゴナガル教授はさっさと私達をトイレから追い出してしまった。ハリーとロンはパーティーの続きがあると聞いて寮に飛んで帰っていった。あのトロールの行く末が気になるが私が手を出すことはもう出来ないだろう。

 

私が名残惜しげにトイレの方を向いていると、ハーマイオニーが遠慮がちに話しかけてきた。

 

「メルセデス……正直に言って戦っている時のあなたは怖かったわ。でも、あなたに助けられた事に感謝してるのも本当よ。」

 

「私はただトロールとの闘争を愉しんでいただけですよ。それより、あなたはハリー達と上手くやる事を考えるべきです。」

 

「そうね……今日はありがとう。シャロンも、話を聞いてくれて助かったわ。じゃあ、また。」

 

「ええ。」

 

「またね、です。」

 

ハーマイオニーが去ると、私達のやり取りを見守っていたダニーが意外そうに尋ねてきた。

 

「ハーマイオニーと仲が良くなったんだね?」

 

「主にシャロンが、ですが。」

 

最後の反応を見るに私は怖がられてしまったのだろう。まあ、彼女に怖がられたところで何か不利益が有るかと聞かれれば特に思い付かないので問題無いとは思うが。

 

「ダニエル達が冷たいせいでハーマイオニーったら泣いてたんですよ?女の子を泣かせるなんてサイテーです。」

 

「ぐっ、それを言われると痛いな……」

 

ダニーはシャロンのからかい混じりの罵りに罰が悪そうな顔をした。しかし、ダニーが他の女子に良い顔をするのは私が不機嫌になるだけなのでダニーは今のままで良い。

 

「シャロン、ダニーは私だけを見ていれば良いのですからあまり責めてはいけませんよ。」

 

「あ~、そうでしたね。それじゃ、ダニエルがメルセデスだけを見るように私は先に帰りますね!」

 

そう言ってシャロンは風のように去っていった。その去りっぷりが何かから逃げ出している様に感じられたのだが何から逃げたのだろうか?

 

「メルセデス?いつもと何か雰囲気が違う気がするんだけど……何かあったのかい?」

 

ダニーは私の雰囲気が変わったのだと言う。変わった原因は明らかに私がダニーへ向ける想いの変化だろう。だが……

 

「そうですね……あったと言えばありました。ですが…何があったかは夜に必要の部屋で話しましょう。」

 

こんな廊下では落ち着いて話せない。ダニーに私の想いを伝えるのは夜に持ち越そう。

 

「それでは、夜にまた会いましょう?ダニー。」

 

「あ、ああ。」

 

 

 

 

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