大変長らくお待たせしました。うっかりアレルギーを発症させて酷い事になりまして……
sideダニエル
ホグワーツを騒がせたトロールは無事にメルセデスによって討伐された。トロールも四肢の自由を奪われ腹を破られながらも死んではいない。メルセデスが死の呪文を使う前に止められて良かったけど、興奮すると色々と頭から飛んで行ってしまうのは彼女の悪い癖だと思う。
しかしメルセデスの雰囲気がいつもと違ったのが気になる。朝食の後に連れ出された時も普段とは違ったがそれともまた違う。具体的にどうとは言えないんだけどね。まあ、それに関しては自分から話してくれると言ってくれたことだし夜を待つことにしよう。しないといけない事もあるわけだし。
「ねえ?
「「な、なんだい?」」
僕は今、ハロウィンパーティーを楽しむ生徒達を横目に二人に
「そろそろ足が痺れてきたところかな?足をつついてみようか。」
二人の背後に回って足をつつこうとしてみるとロンが悲鳴のような声をあげた。
「やめてくれ!だいたい何だって僕らがこんな目に遭わないといけないんだ?」
「そりゃあ、僕が大人しく帰れって言っても帰らなかったからだよ。今回は僕らが到着する前にメルセデスがトロールを倒していてくれたけど、戦闘に乱入することになっていたら君達がトロールの標的になっていてもおかしくなかった。君達には危険な事をしたってことを反省してもらわないとね。」
帰そうとする僕と帰らない二人とで揉めに揉めて危うくスネイプ教授に抜け出したことがばれそうになったし、最終的に僕が折れたけどもう少し長く揉めていればメルセデスがトロールに死の呪文を使うところだった。いろんな意味で僕を焦らせてくれたんだ。少し位痛い目にあって貰ってもバチは当たらない。
「君だって危ないことに変わりは無いじゃないか!」
「そういうことは僕よりも魔法が上手くなってから言うんだね。さあ、つついてあげようじゃないか。」
第一、僕にとってメルセデスの為の行動は危険の内に入らない。危険というのは不都合な事態に陥る可能性のことだ。それが彼女の利になるなら僕は自身の死だって不都合だとは思わない。メルセデスの為なら闇の帝王の御前でマグル学の教鞭だってとってみせるさ。
「あの……お取り込み中のようだけど三人とも、少し良いかしら?」
今度こそ二人の足をつつこうとした所で僕らに声をかける人物が居た。ハーマイオニーだ。さすがに足をつつきながら話を聞く訳にもいかないか。命拾いをしたね、二人共。普段はハーマイオニーが近づいて来ると良い顔をしない二人も今はハーマイオニーを救世主のように見ていた。
仕方なく二人に立ち上がる事を許すも足がプルプルと震えていてどうにも立ち難そうだ。座らせているだけでも軽めの拷問になるんじゃないかな。
「それでどうしたんだい?ハーマイオニー。」
「その……お礼を言おうと思ったの。心配してくれてありがとうって。あなた達が私を探してくれてるって知った時、嬉しかったわ。」
「別に……君がトロールに殺されちゃ寝覚めが悪かっただけだよ。」
ハーマイオニーが素直に礼を言ってきた事に驚きながらも素っ気なくロンが言った。
「それでも嬉しかったのよ。後………今までごめんなさい。シャロンに言われたの。自分が正しいと思っていることが他の誰かにとっても正しいとは限らないって。相手の事も考えろって。私、あなた達にずっと嫌な思いをさせちゃってたんだわ。本当にごめんなさい。」
ハーマイオニーが深々と頭を下げる。あんなに自分が正しいと言って憚らなかった彼女が凄い変わりようだ。ハリーもロンもしばらく開いた口が塞がらない様子だったが、次第に罰が悪そうになっていった。
「僕も沢山悪口を言ってごめん……」
「ごめん、ハーマイオニー。」
二人は口々にハーマイオニーへ謝罪の言葉を言い合う。二ヶ月という時間も七年間続くホグワーツでの生活を考えれば短いものだ。仲違いしていた日々はこれからの日々で取り戻していけばいい。きっとこれからは仲良くやっていけるだろう。さて、僕も反省するところはあるし、彼女に謝らないとね。
「僕も、君とは分かり合えないと勝手に決めつけていた。もっとよく話してみるべきだったんだ。そうすればこんなに拗れる事も無かったろうに…すまない、ハーマイオニー。」
「あなた達が謝る必要は無いわ。それで……出来ればでいいんだけど、私があなた達の事を考えられるようになったって思えたら私とも仲良くしていって欲しいの。お願いできるかしら…」
僕らは顔を見合せ、声を揃えて言った。
「「「勿論!」」」
こうしてトロールの襲撃という大きな事件が解決した夜に僕らの間で起こった小さな事件も終息した。
……いつか杖を突き付け合う仲になるかもしれない彼等と馴れ合っている事に何をしているんだと呆れている自分がいる。だけど、これも悪くは無いという思いがあるのも確かだ。まあいいさ、最終的にメルセデスの邪魔にならなければ問題は無い。いずれ来る決別まではこの友達ごっこを楽しんでおこう。
さて、こっちの問題は片付いたしメルセデスに振る舞う料理の事を考えようかな。久々に食べて貰う料理だからしっかりとしたものを作りたい。よし、今日はいつもより早く部屋へ向かおうか。メルセデスからの話もある、早めに作って温かい内に食べてもらって直ぐに落ち着いて話せるようにするとしよう。
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ホグワーツの校長室。ホグワーツの三階に存在する美しい円形をした部屋の中心で、三人の教師がテーブルを囲み話をしていた。一人はグリフィンドールの寮監であるミネルバ・マクゴナガル。二人目はスリザリンの寮監、セブルス・スネイプ。そして三人目はこの部屋の主であるホグワーツの校長、アルバス・ダンブルドアだ。
「では、トロールはメルセデスによって何の被害も無く討伐されたのじゃな?」
マクゴナガルによる此度の事件の報告を聞いたダンブルドアはそう尋ねる。
「ええその通りですダンブルドア。誰一人として目立った怪我もせずにトロールは討伐されました。トロールに対抗する術を持たない生徒が大勢いるこのホグワーツにおいて、このような形で事件を終えられたことは奇跡のようなことだと言えるでしょう。……事件を解決したのが一生徒であったことは彼女達を守る立場にある者として恥ずかしく思いますが。」
ダンブルドアはしばらく考え込み、今度はスネイプに尋ねる。
「セブルス。討伐されたトロールはどうなっておった?」
「もはや何故生きているのか不思議に思うほどの重症を負ってはいますが息の根は止まっておりませぬな。全身は無数の切り傷に覆われ、腹を破られ、四肢はその機能を喪失し立ち上がる事も不可能。実際にご覧になれば一年生の生徒が造り上げたとは思えないような惨状であったとご理解頂けるかと。」
「使われた魔法は……なんじゃった?」
「我輩の見立てではトロールに使用された魔法はたった一つ、切り裂きの呪いだと存じます。それも、相当に熟練の域に達した……我輩も教職に就く以前にトロールに切り裂きの呪いを使用した経験がございますがあのトロールに刻まれた裂傷ほど深い傷を負わせることはとても難易度が高い。ウォルターは少なくともホグワーツを卒業した直後の我輩以上に切り裂きの呪いに熟達していると考えられますな。何故そのような技術を得るに至ったのか、一度ウォルターを問い詰めてみた方がよろしいかと。」
スネイプの意見にマクゴナガルが声を荒げて反論した。
「しかし!ミス・ウォルターは友人を守る為にその力を振るったのですよ?」
「友人を守ろうとしたからと言って切り裂きの呪いという危険な魔法を修めるに至った経緯を聞かぬ理由にはなりませぬな。」
メルセデスに対する意見の食い違いでマクゴナガルとスネイプは言い争いを始める。ダンブルドアはその言い争いを手で制し、自らの考えを述べる。
「メルセデスはウォルター家の者じゃ。切り裂きの呪いを幼い頃より教えられていたとしてもおかしくはあるまい。彼女の祖母もホグワーツに入学した当初から喧嘩を仕掛けてきた相手に切り裂きの呪いを使用して同級生から怖がられておったからの。実際は髪を数本切り飛ばして済ませただけだったのじゃが。」
だから問い詰める必要は無い。そう言われたスネイプは尚もダンブルドアに食い下がった。
「我輩にはもう一つウォルターに懸念がございます。入学当初、ウォルターは度々マルフォイを中心とした純血主義の者達といさかいを起こしておりました。しかし、一ヶ月ほど前からウォルターと衝突する人間はマルフォイからバーキンソンに移り変わり、当のマルフォイはウォルターに怯えているような素振りを見せ始めた。我輩としてはウォルターがマルフォイを何らかの方法で脅したのではないかと考えているのですが。」
これでもウォルターを野放しにしておくのか?無言の抗議を感じとるダンブルドアだったがそれでも彼の意見は変わらなかった。
「疑わしきは罰せずじゃよセブルス。今は見守るのじゃ。」
苦い顔をしながらもスネイプはしぶしぶ頷く。
「校長がそうお考えならば。」
その後も話し合いは続く。トロールに侵入されるという前代未聞の事態に見舞われた教師達の夜は長い。
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sideメルセデス
ようやく夜がやって来た。石壁から扉へと変化していく必要の部屋の入り口を眺めながら随分と長く感じた一日を思う。
ちなみにシャロンはこの場には居ない。彼女は寮の部屋に戻るなり直ぐにベッドで寝てしまったようで、私が寮に戻る頃には『疲れたのでもう寝ます。ダニーと仲良くハロウィンを過ごしてください。』との書き置きが残されていた。あの暴力の権現のようなトロールを目の前にしながらずっと盾の呪文を張り続けていたのだから疲れるのは当然だろう。
必要の部屋の扉を開くと室内は既にかぼちゃの甘い匂いとベーコンの香ばしい匂いで満たされていた。内装もハロウィン風になっており、壁や家具が艶の無い黒に統一されていて所々にジャックオーランタンが飾られている。部屋の中心に大きめな長方形のテーブルが置かれ、向こう側にキッチンが見える。そのキッチンではダニーが料理を盛り付けている所だった。ダニーは私が来た事に気づくと、料理の皿を持った手を広げるようにして私を歓迎した。
「やあ、メルセデス。一足先に料理を作って待っていたよ。君に一刻も早く楽しんで貰いたくてね。」
一通りの料理は完成してしまっているようだ。ダニーが料理をしている姿を見るのも楽しみにしていたのだが……
「ありがとうございますダニー。……でも少し残念です。あなたが私の為の料理を作ってくれている姿を見て幸福感に浸りたかったのですが……あ、ダニーの気持ちが嬉しく無いわけではありませんよ?ただ料理をしている時のあなたを見ているのが好きなのです。」
私がそう言うとダニーは照れたように空いた手で後頭部を掻いた。
「そうかい?待っている間暇なんじゃないかと思ってたんだけど…君がそう言うなら次から存分に料理を作っている姿も楽しんで貰おうかな。……そういえばシャロンは一緒じゃないんだね?」
「シャロンはもう今夜は休むと言ってベッドに入ってしまいました。初めて目に見えた死の脅威に遭遇したので疲れてしまったのでしょう。ですから……」
さあ、そろそろ仕掛けていこう。ダニーに思い切り身体を寄せる。
「今夜は久々に…あなたと二人きりですよ……ダニー。」
「っ!」
耳元に顔を近づけて囁いてみるとダニーは面白いくらい顔を赤くした。身体を離して赤くなった顔をまじまじと見つめるとダニーは直ぐに顔を反らす。
「冷めない内に料理を食べてしまおう!せっかく作ったんだから温かい内に食べて欲しい。僕も要らなくなったシャロンの分を君と食べる事にしようかな。」
誤魔化すように多少早口になりながらダニーはテーブルに料理を並べていった。可愛い反応をしてくれるダニーに思わず舌なめずりをしてしまう。どうしよう、癖になりそうだ。
テーブルにはかぼちゃのスープにベーコンやキャベツが入ったマッシュポテト、ドライフルーツを使ったケーキ等が並んでいく。魔法を使えばある程度の工程を短縮出来るとはいえこれだけの料理を短時間で揃えるのは大変だったろうに……
「どれも美味しそうです。それにしても随分と気合いの入った料理を作ってくれたのですね?」
「一月前にも君に料理を作って欲しいと頼まれていたけどシャロンの加入やら三頭犬騒ぎやらで有耶無耶になっていたからね。その分も含めて今夜は張り切って料理をさせてもらったよ。」
ダニーが作ってくれた料理ならば多少手が抜かれたものでも文句は無い。だが、やはり私の為に張り切ってくれたというのはこれ以上無いほど目の前の料理を素晴らしいものに見せてくれる。
実際に料理は美味しかった。ダニーがわざわざ張り切って作ったと豪語しただけはあり、久しぶりに食べるダニーの料理ということも相まってウォルター邸で毎日作っていた頃をも凌ぐ満足感を私に与えてくれた。
滑らかな食感が好きな私のためか、かぼちゃもジャガイモもしっかりと裏ごしされていて私に合わせて味付けも薄めにされていた。色々とおおざっぱで濃いめの味付けなホグワーツの料理はどうしても好きになれないのでダニーの料理を食べるとほっとする。
「やはりダニーに作って貰って正解でしたね……とても美味しかったです。」
「それは良かった。」
食後にはアップルティーを振る舞ってくれた。アップルティーを私が淹れると紅茶の風味が林檎に負けてただの林檎味の水になる事も多いのだがダニーの淹れたものはきちんと紅茶だと感じるので流石だ。
「それで……何か話があるんだろう?」
二人でゆっくりと紅茶を楽しみ、私達の間に落ち着いた空気が流れ始めた頃にダニーが切り出してきた。遂に私の想いをさらけ出す時が来たのだ。
「ええ……単刀直入に言いますと、私はあなたへの想いに決着を付ける事にしたのです。」
「想いに……決着…?」
「私はここ数年程、あなたがいつか私の元を離れるのではないかという妄執に囚われていました。勿論、今までのあなたにそんな考えが浮かんだことすら無いことは知っています。」
「そうだ、僕が君の元を君の意思を無視して離れるなんて考えた事も無い。今までも、そしてこれからもだ。」
少し強めの口調だった。自分が離れていくと思っているのならそれは的外れだと強く主張するように。
「しかし、人の運命というものは複雑怪奇。不完全な理論を元に行使された魔法のように予測不可能なもの。今は隣にいるあなたもいつかは…いつかはと考えずにはいられなく、もしもの時にあなたを前にして苦しむ事がないようあなたとの間にある決定的な一歩を踏み込まないようにしてきたのです。」
「…………」
ダニーの顔が切なそうに歪んでいる。もしかすると私が自分を切り捨てようとしているのではないか……という考えが浮かんでいる事がありありと分かる。そちらの方が的外れも甚だしい。私がどれ程ダニーへの想いを拗らせているのかをしっかりと見せつけなければ。
「ですが、あなたへの想いだけはどうしても断ち切ることが出来ませんでした……なので、私は開き直ることにしたのです。私があなたを離さなければ良いことだと。」
テーブルに身を乗り出してダニーの手を握る。不安げに揺れている琥珀色の瞳を安心させるように、私の想いが確実に伝わるように言葉を紡いでいく。
「ダニー、あなたを愛しています。歪んだ私を受け入れてくれたあなたが、私の隣に立とうと努力してくれるあなたが、常に私を思って行動してくれるあなたが、私の事になると気が短くなるあなたも嫉妬してしまうあなたも、あなたの全てが私は愛しい。私の傍らに居て、私だけを見て欲しいのです。……ダニー、私は胸の内をさらけ出しました。あなたの胸の内も聞かせてくださいませんか?」
心など読まなくても分かった。今のダニーの心は歓喜と私への負い目、それに付随する躊躇で満杯になっている。
「僕は……僕たちウォード家は
長年溜まったものを吐き出しているような静かな叫び。そうだ、吐き出してしまえばいいのだ。それは無駄なものなのだから。
「他ならぬ私が許しているのです。私の他に一体誰があなたを許さないと言うのですか?ダニー、あなたには何も躊躇う事などありません。さあ……」
私達を隔てているテーブルを消し、ダニーの眼前に手を広げて立ちはだかる。さあ、来なさいダニー。あなたの数多存在した道はもう私の小さな身体に塞がれてしまったのだから。
恐る恐るダニーの手が私の首に回されていく。腕がしっかりと私の首元を覆い、ダニーが確かに私を抱き締めた時、絞り出すような言葉が彼の口から紡がれた。
「君を、君を愛している。他の誰にも君の心を渡したくない。君の傍らで、君だけを見ていたい。そして僕だけを見ていて欲しい。僕が死んだ後も僕だけを心に残していて欲しい。君がそうしてくれるなら僕は……自分の人生を棒に振ることすら厭わない。」
ダニーを抱き締め返して背中を撫でる。やっとだ。やっとお互いを何の気負いもなく愛していると言えるのだ。こんなことならば最初から強引に私から離れられなくするべきだった。
「それで良いのです……あなたの願いを受け入れましょう。その代わり…英雄にすら成れると言われたあなたの輝かしい生涯を台無しにしてください。私の為に……」
「ああ、ああ、誓うよ。僕は英雄になんてならない。なってやるものかよ。決して。僕は……僕は君のものだ。」
嗚咽が洩れそうな程の幸福感に身体が震えているのを感じる。この人間は私のものだ。彼の心は誰にも奪わせない。彼の命も誰にも奪わせない。奪っていいのは私だけだ!
賽は投げられた。これで私はダニーを死なせるという選択肢を最後まで選ぶことが出来なくなってしまっただろう。愛しくて堪らないダニーを失う事を最後まで惜しんでしまう筈だ。とれる行動が大きく制限される事になる。だがそれでも構わない。代わりにこの上ない幸福感を得ることが出来るのだから。
元より娯楽というものは幾ばくかの苦難を伴うものだ。スポーツであれば身体を壊す可能性があり、ギャンブルであれば身の破滅の危険が付いて回る。娯楽を享受するためには大なり小なり何らかの代償を支払わなければならない。
私の邪魔をする者は許さないが、それに加えてダニーを害する者も許す事が出来なくなった。馬鹿になって考えれば単純に敵が倍になる訳だ。まあ、あまり気にすることは無いか。どうせ数え切れない程の人間を死なせる予定なのだから、たかが倍になった程度ではさほど変わらないだろう。