ハリーポッターと化物となった少女   作:96℃

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メルセデスさんによる魔法講座、初級編です。




かくして化物(フリークス)は生まれた 六

――――――――1985年8月4日 昼

 

 

 

 

いつもの時間にいつもの場所へと集まったメルセデスとダニエルは、椅子にするのに丁度よい倒木に隣り合って腰掛けていた。

 

「さて.....今日はダニーに魔法を見せるという事でいいですか?」

 

「ああ、よろしく頼むよ。昨日は森の探索の続きをしようと言ったけど、流石に魔法を直に見れる状況で探索をしても魔法の方に気をとられてしまうだろうし。」

 

そう言うとダニエルはメルセデスの方に向き直った。その狼を思わせる琥珀色の瞳は隠しようがない期待で満ちていた。

 

メルセデスは魔法に興味津々な様子のダニエルを見て沈んでいた気分がいくらか浮上したのを感じた。

 

「では、早速魔法を見せる。と言いたいところですが、先に昨日説明していなかった魔法のあれこれを教えようと思います。」

 

「前提となっている事がわからないと話が伝わらないこともあるだろうからね。お願いするよ。」

 

メルセデスは魔法の常識を説明し始める。

 

「まず、魔法とは何か?という話から始めます。魔法とはこの世界の理、マグルの世界でいう科学の法則をねじ曲げることができる力です。」

 

「世界の理を...ねじ曲げる?」

 

「世界の理をねじ曲げると言われても想像しにくいと思いますので、例に出して説明します。ダニーは火が何故燃えるのかを知っていますか?」

 

「火が燃える原理かい?確か....炭素?という物質が含まれたものの周りに十分な空気があって、その状況で大きい熱を与えると炭素と空気が反応して火が出る?だったかな?」

 

ダニエルは曖昧ながらも何かの本で見た火が燃える原理をメルセデスに伝える。

 

「私も科学というものには少々疎いので、よくわかっていませんが、多分ダニーが言ったような原理です。要は火が出るには燃えるものが必要ということですよね?」

 

「ああ、なにもない空中から火が出てくることはないはずだよ。」

 

「その、火が燃える為に必要な条件を無視して、火を発生させることが出来るのが魔法です。実際に魔法で空中に火を発生させてみましょう。インセンディオ(燃えよ)。」

 

間髪を入れずにメルセデスがなにもない空中に向かって呪文を唱え、腕を振るとメルセデスの指先から放射状の炎が放たれた。

 

「うわっ!」

 

ダニーは突然現れた炎に驚き、後ろにひっくり返りそうになったがなんとか踏ん張った。

 

「ふふっ、驚きましたか?」

 

メルセデスはいたずらが成功したようなニヤリとした笑みを浮かべていた。

 

「参ったな...メルセデスにからかわれる日がくるなんてね。それが火を出す魔法かい?」

 

「はい。インセンディオといいます。このように、魔法は呪文を唱えて発動するものなのです。」

 

「そういえば、昨日花を咲かせた時も呪文を唱えていたね。魔法は全て呪文を唱えるものなのかな?」

 

ダニエルは魔法には全て呪文が必要なのかと尋ねる。

 

「基本的には呪文を唱えるものですが、魔法薬の調合や、姿現し、分かりやすく言うと瞬間移動等の一部の魔法は呪文を必要としない事があります。また、呪文を必要とする魔法でも熟練者ならばそれを省略することもできますね。」

 

魔法の技術の一つとして無言呪文というものが存在する。主に魔法使いの決闘に用いられる技術であり、欠点としては魔法の効力が有言呪文と比べて些か落ちる事があるが相手に自分の手の内を悟られず意表をつけるという利点がある。その為、無言呪文を体得している魔法使い同士の決闘は端から見れば何をしているのか全くわからないこともある。

 

「腕をふっていたけど、それも必要なことなのかい?」

 

「そうですね。私が腕を振っていたのは確かに魔法に必要なことです。けれど、本来は腕ではなく杖を振るものなのですよ。」

 

「杖を?それはまた魔法使いらしいね。だったら君が腕を振って魔法を使ったのはどういうことなんだい?腕の中に杖が潜り込んでいるなんてことだったら病院に行くことをオススメするよ?」

 

「流石の魔法使いにも自分の腕に杖をめり込ませるような人はいません!.....多分」

 

「多分なのか...冗談のつもりだったんだけど。」

 

魔法使いには変人も多いためにメルセデスは断言ができなかった。

 

「それで、実際はどういうことなんだい?」

 

「説明するにはまず魔法を使うのに必要な魔法力の話から始めないと行けません。」

 

「魔法力?やっぱりそういうものがあるんだね。」

 

「魔法力は親から子供へと伝わる特性で、親が魔法力を持っていない子供と親から伝わり損ねてしまった子供には魔法力が無いので、魔法を使えません。」

 

「へぇ、なら僕や他のマグルの生まれと呼ばれる人は何で魔法力を持っているのかな?」

 

「それにはきちんとした理由があります。親から魔法力が伝わらなかった子供、スクイブと言われる人達なのですが、彼らは魔法界で生きていくことが難しくマグルの世界へと移り住む事が多いのです。」

 

スクイブは魔法が使えないことで周りから出来損ない扱いを受けたり魔法学校を卒業出来ない為に信用がなく、魔法界ではろくな仕事につけないのが現状だった。

 

「マグルの世界へと移り住んだスクイブはマグルと結婚をして子供を作ります。」

 

「もしかして、そのスクイブって人達の子供に魔法使いが産まれるってこと?」

 

「そうです、正確には何代かたった後の子孫に現れることが多いのですが、それがマグル生まれの魔法使いが誕生する理由です。」

 

「なら、僕の先祖にも魔法使いがいるってことか...」

 

ダニエルは自分の先祖がどのような人達なのかを知らなかった。父であるアルフレッドからは自分の家がどのような家系であるかなど効いたこともないし、母に関しては言うまでもない。

 

ダニエルは自分の母親について存在したということしか知らない。

 

「話が逸れましたが、魔力について続きを話しますね。魔力なのですが、普段は私達の身体の中を循環していると言われています。その流れは自分の中だけで完結していて外に漏れることはありません。しかし、私達のようにまだまだ幼い子供はその流れが完成しきっていないので身体の外に魔力が漏れてしまうのです。」

 

「僕の魔力も漏れているのかな?」

 

「はい。昨日ダニーは樹から落ちた時に魔法を使いましたよね。その時にダニーは呪文を唱えたり杖を振ったりしましたか?」

 

ダニエルは昨日の体験を振り返る。

 

「いや、そんな覚えはないよ。だけど魔法は使えたんだよね?」

 

「そうです。実は私達の身体から漏れている魔力は、自分の意志や感情によって勝手に魔法を発動させることがあるのです。ダニーの場合は、自分の止まってほしいという思いが魔法を発動させたきっかけになったのではないかと。」

 

「確かに、あの時は止まってくれ!と強く願っていたよ。」

 

「このように、子供は自分の意志や感情によって呪文も杖も無しに魔法を使うことが多々あるのですが、その反面漏れでた魔力を制御することが出来ないことが殆どなのですよ。」

 

「待ってくれ。ならメルセデスは何故魔法を自由に使えるんだ?」

 

「それは私にもよくわかりませんが....極々稀に自分の意思で魔力を制御できる子供が現れるんです。」

 

「それが君だってことかい?凄いじゃないか!」

 

ダニエルは素直にメルセデスを褒めた。自分が特殊な力を持っていることを何の悪意もなく褒められたことに、メルセデスの耳は少し赤くなっていた。

 

「あ、ありがとうございます.....話を戻しますが、身体から漏れる魔力は成長するにつれて少なくなり、11歳頃に殆ど無くなります。身体の魔力の循環に孔が無くなるので勝手に魔法が発動することもほぼ無くなります。そこで登場するのが杖です。」

 

「杖は一体どんな役割を果たしているんだい?」

 

「杖は穴が無くなった循環に意図的に穴を開けることができます。その穴から杖を通して魔力を体外に放出して魔法を使います。循環が未完成の時とは違って孔が一つしかないので、魔力の制御が容易になるのです。」

 

子供の魔法使いの循環には大量の孔が存在する。その孔から漏れた魔力がそれぞれ好き勝手に動き回ることで制御を困難にしているのだが11歳頃には孔が無くなり、強い感情の発露等による一時的に発生する孔を除き魔力が漏れることが無くなる為個人差こそあるものの杖を持つことで自在に動かすことが出来る。

 

ダンブルドアやグリンデルバルドといった伝説級の魔法使いともなると自分の魔力の循環に自ら孔を空けることが可能となり、杖無しで魔法を使うことが出来る。無論制御が難しいので普段は杖を使った方がいいのだが。

 

「杖は魔法使いにとっての水道の蛇口です。呪文を唱え、杖を振ることは蛇口を捻ることだと考えると分かりやすいのではないかと。」

 

「なるほど、まだ実感は湧かないけどなんとなくは理解できたよ。」

 

ダニエルはまだ杖を持ったことは無いためどのような感覚なのかは分からなかったが、蛇口の例えには理解を示した。

 

「さて、小難しい話はここまでにしましょう。これからは色々と魔法を見せようと思います。」

 

「いよいよだね。さっき炎の魔法は見せてもらったけど、次はどんな魔法を見せてくれるんだい?」

 

「まずは、水の魔法を見せましょう。アグアメンティ(水よ)!」

 

メルセデスは水の魔法を使って空中に水の塊を出現させた。

 

「ただ水を出しただけではつまらないですよね?エイビス(鳥よ)!」

 

メルセデスが魔法を唱えると水の塊が無数の透明な鳥に変化し、メルセデスとダニエルの周りを飛び回る。

 

透明な鳥達は木々の隙間から射す太陽の光に照らされ、冬の空で輝くダイヤモンドダストのように見えた。

 

「綺麗だ.......」

 

ダニエルはその光景のあまりの美しさにただただ綺麗だという感想を抱いていた。

 

「次は?次は何を見せてくれるんだい?メルセデス!」

 

「ふふっ、次はですね.........」

 

それからメルセデスは様々な魔法をダニエルに見せていった。氷を出現させ、それを甲冑を着た兵士へと姿をかえて頭を垂れされる。炎をドラゴンのように変化させて氷の兵士と戦わせる等、どれもダニエルの興味を尽きさせないものだった。

 

矢のように時は過ぎていき、直ぐに日が沈み始めた。

 

「次で最後にしましょう。次は.....ダニー、あなたの希望を聞きたいと思います。」

 

「僕のかい?」

 

メルセデスに希望を聞かれたダニエルは暫く悩んだ後に自分の服の袖を捲った。

 

袖が捲られたことによって顕になった前腕の半ばから肘にかけて大きな傷痕が残っていることが分かる。

 

「この傷痕を消して欲しいんだ。この傷痕は目に入る度に僕の母さんのことを考えさせる。」

 

その傷はダニエルに物心がついた頃には既に存在していた。ダニエルは父にこの傷痕について聞いたことがあり、その時に知ることが出来たのはこの傷痕が母が死んだ時に出来たものだということだけだった。

 

「出来るかな?」

 

「......わかりました。」

 

メルセデスはダニエルの家庭環境をよく知っているわけではない。だが、ダニエルから彼の母親の話を聞いたことが無いため彼の母親は既にダニエルのそばには居ないのだろうと察していた。

 

彼が母親のことを考える機会を無くして良いものかはメルセデスには判断がつかなかったが、他ならぬ彼自身が消したいと願っているのだと自分を納得させた。

 

「では、行きます。プラーガ・イヴァネスカ(傷よ 消えよ).....」

 

メルセデスが呪文を唱えダニエルの傷痕に指先を当てると傷痕はみるみると薄くなっていき、遂には消えてしまった。

 

「ありがとう、メルセデス。さぁ、帰ろうか。」

 

「どういたしまして、ダニエル。帰りましょう。」

 

二人はいつも通り帰路についた。

 

 

 

 

 




プラーガ・イヴァネスカ(傷よ 消えよ)

戦闘は好きだが肌に傷がつくのは嫌だ。というウォルター家の女性が作り上げた魔法。生物以外の傷にも使えるため汎用性が高かったりする。
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