――――――――1985年8月4日 夜
sideアルフレッド
「素晴らしいタイミングでの帰還だな?アーロン。よくやった。お前もたまには役に立つではないか。」
床へと倒れ伏したダニエルを横目に、私はアーロンを労った。
「へっ、あんたに労われても嬉しかねぇよ。しっかしこりゃ一体どういう状況だ?ダニエルから明らかにやばそうな圧力を感じたから咄嗟に殴っちまったけどよ。」
どうせこのバカ息子にも協力させるのだ。少し面倒だが説明してやるとしよう。
「そうだな...簡潔に説明するならば、これから私が行おうとすることにダニエルが激怒し、私を魔法の暴走で殺そうとしていた。という状況だ。」
私が簡潔にに説明してやると、アーロンは府に落ちたような表情をしていた。
「ダニエルが魔法使いだってのは知ってたが実際に見たことは無かったからな。そうか、あれが魔法か。ありゃ確かに村の老人どもが怯えちまうのも仕方ねぇ。この俺ですら肝が冷えたぜ....んにしても何をしようとすればあのいい子ちゃんのダニエルがあんたを殺そうとするんだ?」
「私のここ数年の目標を成し遂げようとしただけだ。――――――ウォルター家を排除するという目標をな。」
「ウォルター家を......!」
ウォルター家を排除すると聞いたアーロンは喜びと期待に溢れた様子で私に尋ねた。
「なぁ?親父。そいつにゃ俺は噛ませてくれるのかい....?」
「勿論だとも。お前に暴力を振るう機会を与えてやる。感謝するがいい。」
アーロンは歓喜の声をあげた。暴力を振るう機会を与えるだけでここまで喜ぶのだ、戦時に生まれたならばさぞ充実した人生を送れたろうな。
「そりゃあいい!あのくそ忌々しい娘も殺せるんだろ?だがよ、どうやって奴等を排除するんだ?いくらあんたを信用してる村の連中だって何の謂われもねぇ奴を殺したら怪しむだろ?」
「それについても抜かりは無い......奴等には魔法使いと娘を魔法使いと知りながら隠し続けていた愚か者になってもらうつもりだった。つい先程まではな?」
「先程ぉ?」
怪訝そうな声をあげるアーロンだが、この事実を知れば再び歓喜の声をあげるだろう。
「くくっ、ダニエルが教えてくれたのだよ。あの娘が、メルセデス・ウォルターが本物の魔法使いであるとな!」
「あいつが本物の魔法使いだったって?本当かよ!」
「無論事実だとも、私は確証の無いことなど喋らん。メルセデス・ウォルターは魔女だ。その力であの娘はダニエルの一生消えない筈の傷痕を消したのだ。私にそれが伝わるとも知らずにな...愚かな娘だ、小賢しそうな顔をしていたが所詮は頭の足りない餓鬼であったということだ。」
私の話を聞き終えたアーロンは、長年の謎が説けたとでも言いたげな様子であった。
「ははっ、そうか、そうだったのか!だからあの娘に俺は何も出来なかったのか!」
一体何の話をしているんだ?こいつは。
「あの娘っ!あの気味の悪い娘っ!俺がどんだけ殴りかかってもまるで見えない何かに受け流されているように一発も当てられなかったんだ!それも魔法を使ってたんだってぇなら納得だぜ!」
どうやらこのバカは私の知らないところであの娘にちょっかいを掛けていたらしい。全く.....ウォルター家から何も言われていないから良いものの、あの家に本気で報復をされたら私でも危うかったかもしれん。
まぁ、これからあの家は滅びるのだ。不問にしてやろう。
「あの娘が魔法使いである事がある判明したのだ。大義は私達にある!アーロン!村の男達に伝達しろ。狩人は全員収集だ。銃を持ってこさせるのを忘れるな?農家の男どもからは四十を過ぎたものに刃物を持たせろ。
「まかせろ!直ぐに伝える!」
ようやくだ...ようやく目障りなウォルター家を排除出来る。
彼らに直接何かをされたわけではない。だが、この村に私の立場にとってかわる可能性のある人間は存在するべきではないのだ。
彼らはもしかしたら強力な魔法使いであるのかもしれない。だが、この村の男達は赤子とはいえ、周囲に破壊を撒き散らす化物達を長くに渡って殺し続けてきたのだ。
そんな総勢三十と余人の男達による魔女狩りだ。防ぎきれる筈がない。
それに、五年前に突然現れた男から渡された結界を発生させる道具、魔法使いどもの瞬間移動を封じる道具もある。
ペルシア風の伊達男という言葉がよく似合う男だった。あの男も見るからに怪しい人物だったが、道具の効果は
あの部屋を吹き飛ばしたダニエルの魔法を受けて傷ひとつ付かなかったのだ、効果は確かなものだろう。
それを魔女狩りに参加する全ての男が所持している。我々に敗北する道理はない。
「朝日がこれほど待ち遠しいのは、人生で初めてのことだ。」
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アーロンはアルフレッドの言い付けの通り、村中の家々をまわり魔女狩りの始まりを告げた。
ウォルター家の娘が魔法使いであり、その両親がその事実を隠蔽していたと知った村人達が感じたものは様々であった。
ある者は、自分達の村に魔法使いが紛れ込んでいたことに恐れ戦いた。
ある者は、魔法使いを村人達に隠し続けたウォルター夫妻に対して怒りを滲ませた。
ある者は、今まで良孝な関係を築いていたウォルター夫妻が魔法使いを隠していたと知り、信じられない思いを抱いた。
ある者は、.........................
ある者は、................
ある者は、........
抱いた感情は実に様々であったが、行き着く先は皆同じであった。
自分達に害をなす存在を許しては置けない。
自分達に害をなす存在を隠していた者を許しては置けない。
殺さなければならない!
排除しなければならない!
我々を脅かす化物に死を!
我々を騙し続けた者に死を!
村人達は、武器と己の身を化物から守ってくれる不思議な御守りを手に広場へと歩き出す。
日常の中に隠された恐怖心は抑圧から解放され、溢れでる。
溢れでた恐怖心は周囲の人間へと伝染し、高まり続ける。
頂点に達した恐怖は、己を守る為の抑えようのない殺意へと姿を変える。
抑えきれない殺意に身を沈めた村人達の目は、狂気に染め上げられていた。
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――――――――1985年8月5日 払暁
払暁。昇りかけた朝日によって照らされ始めた村で最も大きい広場に、三十人を越える男達の姿があった。
男達は皆、何かしらの凶器を携えていた。
長い棒の先にナイフをくくりつけたもの、農業で使う鍬、巨大な鉈、一部の人間はその肩に猟銃を担いでいた。
普段の姿が見えれば大きく手を振り、目が合えば世間話に花を咲かせる陽気な姿は見る影もない。
男達は誰一人として口を動かさず、広場は夏の真っ只中とは思えないような寒々しさすら感じる程に静まり返っていた。
暫くすると、広場に村人達より身なりのいい男が現れた。
男は、村人達の視線を受けながら堂々たる足取りで広場の中央へと歩いていった。
中央に立った男が、口を開いた。
「諸君、このような夜明けの刹那によくぞ集まってくれた。まずはその事に礼を言いたい。」
男――――アルフレッド・ウォードはそう言って頭を下げる。
村人達は何も返さない。
男は続ける。
「本日、集まって貰った理由は我が愚息から聞いていると思う......なんとも恐ろしいことに、私達の村に、魔法使いが紛れ込んでいたのだ。」
村人達は無言のまま目に怒りを滾らせた。
「魔法使いは我々に害をなす存在だ。我々の理解の範疇を越える現象を引き起こし、我々の日常を脅かす化物なのだ。排除しなければならない....!打ち倒さなければならない.....!」
男は拳を握りしめ、頭上へと掲げた。
「今回、我々の村を脅かすのは今までのようながむしゃらに魔術を振り回す災害のような魔法使いではない!自らの意思によって魔術を操り、的確に我々を攻撃する脅威だ!」
村人達の顔が僅かに恐怖で歪む。
「さらに、昨日判明した魔法使いはウォルター家長女、メルセデス・ウォルターのみであるが、その両親が魔法使いでないとは言い切れない.....だが、」
男はそこで一旦言葉を切って息を吸い、演説を続けた。
「諸君等は数百年に渡り魔法使いを殺してきたいわば魔法使い殺しのプロである!この中にも魔法使いとの戦いを経験した者もいるだろう、それもろくに準備が整っていない状況でだ!今回!我々は入念な準備を行い総勢三十と余人に及ぶ部隊であのウォルター邸に襲撃を行う!準備が出来ない状況でも魔法使いを殺しうる諸君等がこの戦力で敗れる事など万に一つもないと私は確信している!」
男の演説によって村人達からは恐怖が消え去り、闘争を前にした興奮のみが残る。
「我々は我々の変わらぬ日常のために魔法使いを打倒する!行くぞ諸君!今ここに魔女狩りの開始を宣言する!」
「ウォォォォォォォ!!!!!」
男の宣言と共に、村人達は雄叫びを挙げウォルター邸へと進撃する。
彼らの目には、溢れんばかりの闘争の狂気と興奮のみが爛々と輝いていた。
ウォルター家の人間は、まだ誰も己に迫る狂気の波に気づいていなかった。
ハリポタ要素の欠片も感じられない....なんだこれ