東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第十一話 エースバーンvsマフォクシー 中編

 約一年前、エースバーンもといラビフットは暗い山道をトボトボ歩いていた。ボロボロの体に空腹とひどい状態であった。このラビフットはつい最近野生のポケモンになったばかりである。元トレーナーからは戦闘のときのみボールから出され、それ以外はコミュニケーションを取ろうとすらされなかった。そんな生活を続けていたがついに限界が来てラビフットは見限ったのである。

 しかし保障されていた衣食住の権利が無くなったため毎日毎日山の木の実などを採集して飢えを凌いでいた。そんなフラフラしていたとき、つい目の前にポケモンがいるのに気付かなかった。

 

「いて」

「あぁん? なんだお前」

 

 ぶつかってしまったのはならずものポケモンシザリガー。後に小町のパートナーポケモンとなるがこの時点ではただのチンピラである。そしてその両側にはいわへびポケモンのポ、じゃなくてイワーク。そしてゆうもうポケモンウォーグルという地元では中々のチンピラ集団であった。

 

「ぶつかっといて詫びの一言もないのか?」

「……俺の前にいたお前らが悪いんだろ」

 

 どう考えてもぶつかったラビフットの方が悪く、すみませんの一言でもあれば波風も立つことなく穏便に終わっただろう。だがやさぐれていた当時の状況ではそんなことは頭になかったのだろう。いやむしろ誰でもいいから溜まっていた鬱憤を晴らしたかったのかもしれない。

 

「しつけのなっていないガキだな! 死んで後悔するなよ!」

 

 シザリガーのつじぎり、イワークのすてみタックル、ウォーグルのブレイククローが大人げなくラビフットを襲う。しかしネグレクト気味であったとはいえラビフットの戦闘経験値は高いものでそれらをかわすのは容易であった。かわした後はまず一番の巨体であるイワークに渾身のニトロチャージで足元を破壊した。バランスを崩したイワークは横にぐわんと倒れ、その先にはシザリガーとウォーグルの二体がおり、下敷きになってしまった。後にウォーグルはそのときの光景を、ワールズエンドフォールを喰らったみたいだと語っていた。

 

「おら、まだやるつもりか?」

 

 中指を立てて挑発するもペシャンコになっているので返答できない。ラビフットがトドメを刺そうとした瞬間、背後から肩を掴まれた。

 

「もうやめなさいそのあたりで」

「誰だお前は。こいつらの仲間か?」

 

 美しい顔を浮かべるのはキツネポケモンマフォクシーだった。彼女は野生ポケモンではあったが実力はこの辺りでは随一という評判らしい。なので彼女に喧嘩を売る者は普通いないのだがラビフットはそんなこと知らなかった。

 

「いや違うけど。でも暴れ者を放ってはおけないからね」

「……俺は今イライラしてんだ。怪我したくなきゃ……」

 

 口上を言っている間に目の前にいたはずのマフォクシーが消えており、気付けばラビフットの真横にいた。そのまま至近距離で放たれるマジカルフレイムを避けられるわけもなくウサギの丸焼きになってしまった。

 

「どうなるって?」

「う……参った」

 

 こうかいまひとつとは思えないくらいの威力だった。たったの一撃で自分との力量の差を見せつけられたラビフットはマフォクシーを先輩として尊敬し、そのまま彼女と共に行動することになった。

 その後は技の特訓にフィジカル強化と様々なことを共に行い人間のトレーナーといたときよりもより強くなっていた。長年一緒にいたせいでかなり懐いていた。しかし別れはいつも突然に訪れるものである。

 

「先輩おはようございます! 今日は何の特訓しますか?」

「……ちょっといいかしら、ラビフット」

「どうしました? そんな神妙な面持ちで」

 

 いつも優しくクールなマフォクシーだったが今日ばかりは普段と様子が違かった。どこか遠くに行ってしまうような……

 

「実はね、私カロス地方に先輩がいるの」

「カロス地方ってここから結構近いですよね」

 

 二人が今いるここはガラル地方でありカロス地方はまさに隣の地方に当たる。向こうはここよりも寒いらしくこおりタイプが多くほのおタイプは少ないらしい。

 

「そのポケモンもほのおタイプですか?」

「いや、もっとすごいポケモンよ。私なんか目じゃないくらいのね」

 

 ラビフットの知る中でマフォクシーよりも戦闘スキルの高いポケモンは見たことがなかった。何しろ彼自身今まで一度しか負けたことがないからだ。ヒバニーのころからトレーナーと一緒に旅をしていたが黒星が一度も付いたことがなかったのである。初めて付けられたそんなマフォクシーですら敵わないポケモンに心当たりがなかった。

 

「昔弟子入りしてね。それでさっきテレパシーで戻ってこいって言われたのよ。だから私カロス地方に行かないといけないの」

「その、一体どのくらいですか?」

「分からないわね。あの方は気まぐれでそれでいて厳しいから。私がテールナーのときにね……」

 

 ラビフットはマフォクシーから昔行われた修行内容について聞かされた。普通テールナーでは覚えないはずのマジカルフレイムを習得させられたり、また素早さもテッカニンレベルまで鍛え上げられたりと無茶苦茶だが確かな実力の持ち主であるマフォクシーの師匠について教わった。

 

「とまあこんな風な師匠なのよ。だから最低でも一年間は帰ってこないと思うわ」

「そ、そんなに厳しいんですか……そのポケモンの名は?」

「ごめんね。それは言うなって言われているの。なぜか具体的に名前を挙げられるのが嫌みたいなんだよね」

 

 さっきの話でもそのポケモン、とか師匠とか言って具体的な名前は言わなかった。どうしてかはもちろん分からないがカロス地方固有のポケモンかなという予想しかできなかった。

 

「どうする? 私に付いてきたら分かるけど……来る?」

 

 突然の勧誘にラビフットはびっくりしたが結論は決まっていた。先輩の先輩に力をつけてもらえれば今よりも強くなれる。しかも場合によっては先輩にも勝てるかもしれない。だから即決でマフォクシーに言った。

 

「俺、行きません」

 

 マフォクシーですら限界の修行である。自分みたいな者が行っても何の成果も得られずに帰還する、あるいは永遠に帰還できない可能性がある。むしろその可能性の方が高い。それにそもそもマフォクシーと同じように修行しても差が縮まるわけがない。これからは自力で鍛えるしかないのである。

 

「意外な返事ね。じゃあ私はもう行くわね」

「……先輩。次会う時は勝負しましょう。それで……」

「ええ、分かってるわ。私に負けないようにね」

 

 本当に強い者は多くを語らない。それだけを言うと背を向けて南に向かって歩き出した。いつ会えるか分からない相手であり、自分の強さを追い続けるきっかけとなったポケモン。そんな彼女が自分の元からいなくなるという事実にラビフットは悲しい気持ちにはならなかった。多少はあったかもしれないがそれよりも覚悟を決めなければという方が強かった。チンピラから戦士になった瞬間だった。

 

 

 それから一年後、ラビフットは未だ進化できずにいた。ヒバニーからラビフットになるのはそんなに時間はかからなかったが、いつまで経ってもエースバーンになっていなかった。だが特に支障はなかったのでストレスはなかった。今日も最近覚えた技のトレーニングをしていると目の前の空間が割れた。

 

「君がラビフットかな?」

 

 目の前に現れたのは人間らしき女。と思ったがどこか人間とは違う雰囲気である。そして傍らにはキュウコン。どうやらその人間(?)の相棒ポケモンらしい。かつては自分がキュウコンの立場にいたことが脳裏に浮かぶ。久しぶりに人間を見てラビフットはふと気づいた。自分自身に人間を認める寛容さがまだ十分に育っていないことに。

 

「ああ。そうだが」

「突然で悪いんだが……バトルをする気はないか?」

 

 それから八雲藍と名乗る妖怪狐から話を聞いた。どうやら幻想郷という場所でポケモンバトルがあり、それに参加してくれるポケモンを募っているらしい。その時点で胡散臭さはバツグンだが最大のポイントは人間、および妖怪とコンビを組んで戦うということだ。ラビフットの世界に妖怪はいないので実質人間と同類である。

 

「そんなのに乗るメリットはないな。何かご褒美でもあるのか?」

「えーっと……これはまだ公表していないんだが、どうやら紫様……私の主人だが、わるだくみをしているようでな。何でも願いを叶えるとかなんとか。私もよく分からないんだがな」

 

 これまた胡散臭い話だ。願いを何でも叶えるなんて上手い話があるとは思えない。ホウエン地方にそれっぽい伝説があるみたいだが同じようなことを起こせるとは思わなかった。だが……

 

「もちろん無理強いはしない。無理に連れてきて暴れられても困るからな。どうする? 時間が必要なら……」

「分かった。行く」

「えっ!? 良いのか?」

 

 即決に藍もキュウコンも驚いた。人間に対して敵意を持っているのが見え見えだったからほぼ諦めかけていたからである。疑わしいところもあったが褒美でマフォクシーに出会いたかったからだ。自分がどれほど強くなったかを見てほしかったのである。

 

「けど、その前に聞きたいことがある。キュウコン」

「私? どうしたの?」

 

 これだけはどうしても聞きたいことが藍ではなくキュウコンにあった。

 

「あなたはその妖怪のポケモンらしいけど……その妖怪はどんな妖怪?」

「そうね……あなたの思っているような回答かどうか分からないけど」

 

 ラビフットは眉をしかめた。ここで少しでも人間や妖怪に対して不信感を持たせるような発言をしたら考えを変えるつもりだった。

 

「……楽しいよ? 少なくてもあなたが思っているよりも」

「そうか。分かった」

 

 その一言だけでラビフットは幻想郷なるところへ行くことになった。目の前にいるキュウコンは自分よりも格上ということは一目瞭然であり、そのポケモンが楽しいといってくれたのだから大丈夫と思えたのである。その姿は一年間会っていなかった先輩のように思えた。

 

 

 こうして幻想郷に移ったラビフットはとある竹林で鈴仙・優曇華院・イナバと出会うことになる。




読んでいただきありがとうございます! 本当はここ後編で終わらすつもりだったんですが唐突に過去編入れたくなって中編入れてしまいました。もうちょっとだけ続きます。なので今回は藍様について

No.7 八雲藍 無所属 はがね・エスパータイプ 相棒ポケモン キュウコン ほのおタイプ

使える技 だいもんじ ソーラービーム あやしいひかり さいみんじゅつ

 THE苦労人の藍しゃま。紫様からの無茶ぶりをこなす超優秀な式神です。なんやかんや言いながら毎回任務を完璧にこなすので紫様からの信頼は絶大です。サボリの紫に代わって様々な仕事をしているので幻想郷の住民は紫よりも藍の方を支持している。
 そんな相棒ポケモンはキュウコンです。強さで言うとマフォクシーと同じくらいですね。またこのコンビは出てくると思います。
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