東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第十二話 エースバーンvsマフォクシー 後編

 極限状態になると人もポケモンも走馬灯を見る。エースバーンも迫り来る強大なみらいよちに対して走馬灯を見ていた。ラビフットの頃の思い出、そして負けられない先輩。時間にして本当に須臾だったが永遠のように長く感じた。このまままた蹂躙されるだけなのか……

 

「エースバーン! 大丈夫! そのまま耐えて」

 

 背後からトレーナーの鈴仙の声がした。一瞬何がどう大丈夫なのか理解できなかった。何しろ相手はあのマフォクシー先輩なのである。喧嘩を売ってきた伝説ポケモンたちを返り討ちにしたという武勇伝を残してきた彼女の戦闘力は凄まじい物である。そんな彼女の切り札であるみらいよちをまともに浴びてHPが1残る未来は予知できなかった。

 

「何言ってんだ! 無理に決まってんだろ!」

「大丈夫! 私を信じて!」

「っ! ……ったく!」

 

 出会ってたった数日なのに信じろと言うのが無理な話である。しかもそれが信頼のできない種族だとしたらなおさらである。だがエースバーンは鈴仙に会ったその瞬間、どこか他の人間とは違う感覚を覚えた。これがなんなのかは未だに理解はできていない。人間や妖怪などを信じられるようになったわけではない。しかし今は信じてみたい。勝利のため、そして自分の直感のため。

 

 

 

「あらら、随分と派手にやっちゃったじゃない」

「あの子は特別だからね。本気でやらないと倒せなかったのよ」

 

 爆炎を眺めながら純狐とマフォクシーは呟いていた。エースバーンの言う通りマフォクシー自身もみらいよちの火力を自負していた。しかもしっかりと拘束していた状態なので回避することも不能。完全に勝った気分でいた。だがマフォクシーはかつての自分がラビフットに言ったことを失念していた。

 

「! マフォクシー後ろ!」

「へっ?」

 

 敵に背中を向けたとき、その瞬間が最も神経を集中させるときよ。その言葉通りマフォクシーの背後から何かが飛んできた。炎を纏ったそれは轟音と爆炎を撒き散らしながらマフォクシーを貫いた。

 

「きゃああーー!!」

「マ、マフォクシー! 大丈夫!?」

 

 飛んできたものは石ころだった。しかしそれはただ単に子どものイタズラ程度のレベルではなく、半減であるはずのマフォクシーのHPのほとんどを奪うレベルのものであった。石を使う技は色々あるが炎を纏う石を使うものは一つしかなかった。

 

「ハァ、ハァ。な、何で俺瀕死になってないんだ……?」

「やっぱりね。信じてよかった」

 

 エースバーンの放った技はかえんボール。石に炎のエネルギーを溜めて蹴りだすというシンプルな技だがその分扱いやすい技なので威力は申し分ない。本当はラビフットのときに覚えたかったが覚えられず、鈴仙と特訓している間に身に付けることができた。マフォクシーにはラビフットの頃の記憶が強かったのでかえんボールを覚えることを失念していた。それが命中したことに驚いていたのはエースバーン本人であった。聞こえた『かえんボールよ!』という声に従って無我夢中で打ったのである。

 

「どういうことだ鈴仙?」

「あなた、自分で思っているよりも弱くないのよ。現にあのみらいよちを耐えたのがその証拠ね」

 

 鈴仙の目論見通り、エースバーンの耐久はそれほどヤワではなかった。マフォクシーの火力は目を見張るものがあるがエースバーンも負けじと防御に努力を注ぎ込んでいた。瀕死ギリギリでフラフラにはなったがここまで耐えられると鈴仙は予想していた。確たる根拠があったわけではなかったが何故か大丈夫だと思った。博霊の勘ほどのものではないがそれに近しいものが耳に流れた。

 

「俺が……か?」

「そうよ。あなた、あの先輩に勝ちたいんでしょ? 今まで一度も勝ったことないなら負けたくないって気持ちだけは絶やしちゃダメよ。とは言うものの私もまだ師匠に勝ったことないんだけどね」

「……そうか」

 

 エースバーンが鈴仙を選んだ理由が今なんとなく分かった。自分と共通点が多かったからである。自分の前に立ちはだかる大きな壁があること、そして目標に対する直向きさがあることである。もちろん本人に自覚はないが心の奥底ではそのようなことを考えていた。

 

「あなたもそういえば特性もうかだったわね」

 

 エースバーンもマフォクシーもトレーナーで言うところの初心者用ポケモンであり、特性はもうかであり、HPが少なくなるとほのおタイプの技が強くなるというものである。先ほどのかえんボールがものすごい威力だったものこの特性のおかげである。だがそれは相手にとっても同じ。これからは先に一撃入れた方の勝ちとなるだろう。

 

「ふふ、嬉しいわ。こんなに成長しているなんて」

「うどんちゃんも格好良かったわよ。ナイスコンビネーションね」

「あ、ありがとうございます……」

 

 相手側から褒められるとは思わなかったことよりも邪心無い言葉だったことに鈴仙は驚いた。いつもならば怪しい含み笑いに戦いているところである。少しはバトルに集中しているということなのかな?

 

「じゃあ行くわよ!」

「はい!」

 

 マフォクシーの合図とともにしんそくのスピードで間合いを詰める。何回もニトロチャージを積んでおり余裕で逃げられるはずであるがなぜか一向に逃げきれている様子がない。今までは手を抜いていたということだろうか? いやそうではない。何が起きるか分からないポケモンバトルではできる限り力を温存しておくのが定石である。そのブレーキを外させたということは向こうも限界ということである。

 

「純狐!」

「どうしたの?」

「いいタイミングでさいみんじゅつお願いね」

「ええ、分かったわ」

 

 いくらマフォクシーが速くなったとはいえ元々速いエースバーンに技を当てるのは容易ではない確実に動きを封じてからトドメを刺すつもりだろう。それに喰らったら一巻の終わりである。それを純狐に託したのは鈴仙の考えをある程度予測できるからだろう。現に先ほどマジカルフレイムでくさむすびを考案したのは純狐であり、そのブレインは確かなものである。今純狐の目は鈴仙の方を向いており、これはエースバーンとマフォクシーの戦いであると同時に鈴仙と純狐の戦いでもある。

 

「こっちの考えは筒抜けってわけね……あ! エースバーン!」

「何だ!?」

「私のタイミングで地面に向かってかえんボールを打って!」

「分かった!」

 

 エースバーン自身気付いていないが二人の間にはすでに信頼関係が築かれていた。あれほど人間に憎しみを抱いているはずの彼が一介の妖怪の言うことに素直に耳を貸していることがその証拠である。

 

「ふふ。逃げられるかしら。シャドーボールよ」

「全力で避けて!」

 

 連発で放たれるマフォクシーのシャドーボールだが鈴仙は対抗することなくただかわすと命じるのみ。神経を集中させて回避しなければならないのでエースバーンの負担が大きい。耳で技を感知することができるが背後から狙われるのは恐怖だろう。それでも黙って行動するのは目に見えない絆があるからである。

 

「まだ……まだ……」

 

 何かを伺っている鈴仙。ただただエースバーンが逃げ回っているようにしか見えないが実は鈴仙の思惑通りに事は運んでいる。

 

「……! 今よエースバーン!」

「……はっ、いけないマフォクシー!」

 

 エースバーンが言われた通り地面に向かってかえんボールを放つとマフォクシーは顔を手でブロックした。エースバーンが蹴りだしたそこは玄武の沢を流れる小川の上空であった。二匹が空中に跳びだすタイミングと小川が一直線上に並ぶタイミングを計っていた。すてみの計画だったが案の定作戦は成功し、マフォクシーに隙ができた。二匹を隔てる大きな水壁からシャドーボールが飛んできてマフォクシーにクリーンヒットした。ただでさえ水に弱い上ゴースト技を喰らってはマフォクシーと言えども立ってはいられなかった。

 

「マフォクシー戦闘不能。エースバーンの勝ちだ」

 

 スキマから聞こえる藍の声で試合は終了した。限界を超えた戦いだったのでその声でエースバーンも倒れこんだ。だが勝利はエースバーンと鈴仙のものである。

 

「よく頑張った……いえ、一緒に戦ってくれてありがとうね。ここは」

 

 この勝利はお互いがお互いを信じあった結果の勝利であるのでどちらか片一方のおかげにはしなかった。そうするのがエースバーンが嫌がりそうと思ったからである。もう気を失って鈴仙の声は聞こえはしなかったが想いは伝わっただろう。

 

「ふぅ。よく頑張ったわね二人とも」

「え、大丈夫なの? マフォクシー」

「まだちょっとフラフラするけどね。喋るくらいなら平気よ」

 

 倒したはずのマフォクシーがもうすでに起き上がりこちらに対して話しかけている。これではどちらが勝者か分からない。

 

「……ありがとうね。この子のパートナーになってくれて」

「い、いえ。私なんて大したことは……」

「別の種族でここまで心許したのはあなたが初めてよ。それだけで大したことをしているの。まあ今は分からなくても大丈夫よ」

「あの、私が言うのもなんですけど……今後もエースバーンをよろしくお願いします」

「……そうね。可愛い後輩だものね」

 

 そう言うとマフォクシーはどこかに姿を消した。ほんのちょっと目を話した隙に狂気の瞳ですら追えないところまで去っていた。鈴仙はマフォクシーの底が見えないと思った。

 

「うふふ~うどんちゃん。すごかったわね。どう? この後私と一緒に」

「エースバーンを回復させないといけないのでお断りします。それでは」

「あらら、いけずね」

 

 回復も逃亡も本音である。早く師匠のところまで行かせてあげたいのでこれ以上の揉め事はNGである。

 

「……あ。あの二人にあのこと言うの忘れてた」

 

 すぐに言うと混乱させるかもしれないので純狐はのんびりと二人の向かう永遠亭まで歩いて行くことにした。




読んでいただきありがとうございます。この話ここまで長くするつもりなかったんですけどついつい書いてしまいました。特性リベロのエースバーンが解禁されたことでテンションが上がってしまいました。それにちなんでここのエースバーンも特性リベロにして上手く立ち回ろうかなとも考えてましたがキャラに合わないなと思いボツにしました。

No.8 鈴仙・優曇華院・イナバ エスパータイプ 相棒ポケモン エースバーン ほのおタイプ 特性もうか

今回から話に関係ありそうなら特性も追加していくことにしました。ちなみにエスパータイプの技を覚えていないので火力はあまりないですがその分もうかの上乗せがあるので逆境になるとパワーを発揮します。まさに主人公タイプですね。ちなみにマフォクシー同様今後も出ます。


P.S 妖夢ちゃん人気投票一位おめでとう! 私は投票はしていなかったですが一位になって嬉しいですね。本当に偶然なのですが妖夢ソロで活躍する場面が来ます。ですがすぐに出すとガタガタになってしまうのでしばらく後に出そうと思います。今年中に出るかは分かりませんができるだけ早く執筆します! 
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