東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第十三話 仙人と仙人

 勝負をするにあたり自分の戦いやすいフィールドに持ち込むことは多くの場合アドバンテージとなる。そこの地理に詳しければ詳しいほど戦術も広がるからだ。ここ妖怪の山の天狗のナワバリ付近は片腕有角の仙人、茨木華扇にとっては庭のようなもの。条件的にも、相棒ポケモン的にもこの戦いはかなり有利なはずであるが華扇は露ほどの油断もしていなかった。己の中の油断大敵がしっかり備わっているだけではなく相手が相手だからだ。

 

「じゃあそろそろ始めましょうか。仙人同士仲良くね」

「ええ。胸を借りるつもりで挑みましょう」

「あら華扇様には借りるまでもなく十分な胸があるじゃないですか~」

「そ、そう意味じゃありません!」

 

 この飄々としている青髪の綺麗な人は霍青娥という邪仙である。仙人という種族ということもあってか華扇とはよく顔を合わすことも多くそれなりに喋る機会はある。青娥は華扇について気に入ってはいるが華扇は青娥のことを苦手な人に分類している。このように軽いセクハラ発言をしてきたり揉まれたりとおちょくられているのが止めてほしいと思っている。

 

「冗談ですよ~ 早速あなたのポケモン見せて下さいね?」

「分かりましたよ。すぐ終わらせましょう。私のパートナーはこの子です!」

 

 珍しいフレンドボールの中からポケモンが出てきただけなのにその上空には雷雲が突如立ち込めた。雷鳴と共に現れたのは出てきたボールと同じ緑色の伝説ポケモンであった。

 

「すごい強そうですね。もしかして伝説のポケモンですか?」

「そうですよ。レックウザというポケモンで最近私の家に訪問してきましてね。意気投合してそのまま相棒となってもらいました」

 

 まるで自分が褒められたかのように大きく胸を張る華扇。伝説として文句のない実力の持ち主であるレックウザだが実は藍が連れてきたわけではないポケモンの一匹である。たまたま宇宙をふらふらと散歩していたところ幻想郷に迷い込み、華扇の別荘までたどり着いたというわけである。普通のポケモンでは侵入不可であることから相当な実力者ということが一見して分かったと華扇は言う。

 

「まあ俺も特にすることなかったしな。暇つぶしにでもなればってな」

「そうなんですね。でも華扇様が参加するとは正直思っていませんでしたよ?」

 

 こういう俗っぽいものに関しては飛びつくどころか批判する立場にいる華扇なので、監視することはあっても参加することはないと思われた。しかし華扇にはある思惑があったのだ。

 

「確かに霊夢みたいに私に何か欲しい物があるわけではありません。ですがもし私たちのチームが優勝して何でも願いを叶えられることができたのならば、霊夢に一度本格的な瞑想を受けてもらいたいのです」

 

 本来は何かしらの金品や物などが対象となる今回の報酬だが、紫の力添えがあれば霊夢に瞑想をさせることくらい訳ないだろう。それに霊夢と華扇は別チームなので華扇が勝てば霊夢は敗者のはずなので甘んじて受け入れるしかなくなる。瞑想でもして心を落ち着けてもっと巫女らしくしてほしいというのが華扇の願いである。

 

「霊夢さんのことすごく大事に思っているのですね~」

「当然です! 妹みたいなものですからね。それよりあなたもそろそろポケモンを出してください」

「長話に夢中になりすぎましたね。それでは私のポケモンはこちらですわ」

 

 頭に刺してあった簪の後ろに隠していたモンスターボールを手に取り放ると中からはスライム状のポケモンが現れた。

 

「メタモンって言いますわ。どうぞお見知りおきを」

「……あの、こんなことを言うのも失礼なのですがこのメタモンというポケモンは強いのですか?」

 

 華扇は自分のレックウザと見比べて言った。見た目だけで判断するのは良くないのだがどこからどう見ても強そうには見えない。紫色のプルプルした体に加えて小さなサイズであり、伝説のレックウザとタイマンを張るには少々力不足のように感じた。バトルと言うからには一方的なリンチにはしたくなかった。

 

「まさか! このままの状態ではプチッと潰されて終わりですわ。メタモン、へんしん!」

 

 青娥の掛け声とともにメタモンは体をクネクネと変形させた。紫色の体が徐々に緑色になり、点だった目が鋭い目つきになり見たことのあるフォルムになった。

 

「びっくりしましたか? この子はどんな姿にでも変身することができるんですよ」

 

 メタモンがレックウザと瓜二つの姿に変身した。バディを組んだ華扇は短い間だがレックウザと厳しい修行を共に行ってきた。だからこそ偽物が現れたとしても見分けられると思っていたがどっちがどっちか分からない。

 

「……すごいポケモンもいるのですね」

「驚いてもらえて光栄ですわ~ でももちろんそれだけではなく……」

 

 青娥が何か言い出そうとした瞬間、目付きが変わった。その些細な機微の変化に気付いた華扇は身構えた。すると向こうのレックウザが口を開き、その中から火球が見えた。華扇の意図をすぐさま汲み取ったこちらのレックウザも同様の攻撃を放った。

 

「きゃああーー!!」

 

 声の主は華扇であった。相手とこちらのかえんほうしゃが炸裂したのである。わずかに華扇側の反応が遅れたとは言え、伝説ポケモンと同等の火力を出せるとは思えない程であった。急所には当たらなかったので一撃でダウンということにはならなかったが中々のダメージを負ってしまった。

 

「いつもは気丈な振る舞いをする華扇様でもそんな可愛らしい声を出すのですね。私、興奮してきましたわ~」

 

 この邪仙、見た目通りのドSである。人が苦しむのを見るのが最高の娯楽という歪んだ思考の持ち主であり、快楽主義である。キョンシーなるものを作り出したのもそういう考えが根底にあるからかもしれない。

 

「そのポケモンはコピーした相手の能力までも真似るのですね」

「そうですわ。相手と力を互角にしておけば細かいスキを突くだけで勝利に近づくのですから」

 

 卑怯と一言で片づけるほど華扇は小物ではなかった。戦略は人の数だけありその中で自身に一番マッチしたものを見つけることが大事だからである。どちらかというと力押しするきらいがある華扇にとって青娥のようなトリッキーな相手はできるだけ対峙したくない相手であった。だが今更そんなことを言ってもしょうがない。華扇は心のハチマキを締め直した。

 

「確かに私はあなたのような妙案は思いつきませんでした。このレックウザとともに力とスピードを重点的に鍛えてきましたからね。ですがその成果は伊達じゃないんですよ!」

「舐めんじゃねえぞ!」

 

 レックウザが再びかえんほうしゃを放った。それと同時にメタモン側もかえんほうしゃを放ち、今度は同時にぶつかり合った。拮抗した力では勝負がつかないと思われた。

 

「まだいけますよね! レックウザ」

「当たり前だろ! 俺は……ホウエンの最後の砦だからなぁ!」

 

 かえんほうしゃの威力が突如ブーストした。炎の色が赤色から青色に変化し、オーバーヒート並みの威力になり偽物を吹っ飛ばした。レックウザの強い思いが威力を底上げしたのかもしれない。華扇の願いを叶えさせてあげたいという優しい思いがレックウザにはあった。

 

 元々ホウエン地方で様々な人間とポケモンを見てきたレックウザであったが自分が誰かの手持ちになるとはこれっぽっちも思っていなかった。何しろ人間のポケモンの扱いが下手すぎるからである。まるで道具か何かのように扱っている人間が大半だったからである。もちろん人間と組むことで得られる力については重々承知していたがそれよりもストレスというデメリットが大きすぎると考えていた。

 

「やっぱり……こいつと組んでよかったな」

 

 メタモンを弾き飛ばしてそんなことを呟いた。華扇の別荘に偶然入ったときに見たのは雷獣や大鷲や自分と同じ龍など様々な動物たちであり、そこでレックウザは茨木華扇という一人の仙人の中身を感じ取った。全ての動物たちから好かれているのはもちろん、一匹一匹に対する配慮があり、彼らの言葉が聞こえているようだった。道具扱いしないトレーナーならば組まない理由がなかったのですぐさま組むことを進言した。了承してくれたおかげで今までよりもおよそ1.5倍のパワーを与えてくれた華扇には感謝しかなかった。

 

「さすが華扇様のポケモンですね。ですがその耐久力もしっかりコピーさせてもらいましたからね」

 

 完全に決まったと思いきや向こうのレックウザはまだ立っていた。ドラゴンタイプにほのお技はこうかいまひとつであり、倒し切るには不十分であった。だがこのまま押していけば勝ちに近づくと確信していた。

 

「ふん、俺たちの絆を甘く見たのが敗因だな。さあ痛い目に遭う前に降参するんだな」

「うーん痛い目は合いたくないですね~ ということで」

「次の作戦だね、青娥」

 

 いかつい顔のレックウザ(偽物)から可愛い声が聞こえた。さっきから黙っていたメタモンの素の声が聞こえた後、再び別の姿に変身した。今度は緑色の姿ではなく別の色に変身していた。

 

「「えっ……?」」

 

 それは予想外の変身であった。もっと強いポケモンとかに変身すると思いきや、まさかの青色の髪を持つ女性の姿であった。

 

「これでいいかな?」

「ええ。ちゃんと私になっているわよ。偉いわね」

「えへへ。嬉しいな」

 

 青娥が青娥を褒めていた。変身したのはポケモンではなく、トレーナーの方だった。普通メタモンはポケモンにしか変身できないはずだが青娥が育てたということもあり特殊な能力を身に付けていた。見た目は完全に瓜二つであり立ち位置的に華扇から見て右側がメタモンということがかろうじて分かるくらいだ。

 

「さあ、第二ラウンドの始まりですよ!」

 

 これからが本番だということが嫌でもひしひしと伝わった。今まで味わったことのないバトルにレックウザは逆にわくわくしていた。




 読んでいただきありがとうございます。一か月くらい更新してなくて申し訳なかったです。最近、というか結構前から森羅万象という東方サークルにドハマリしております。知らなかったという方は是非見てください。感動しますので。

No.9 霍青娥 あくタイプ 相棒ポケモン メタモン ノーマルタイプ 

 青娥はイメージ的にあくタイプなのでゾロアークにしようかと思いましたが何となくかっこいいポケモンよりも変わったポケモンを使いそうなのでメタモンに代わってもらいました。そのおかげで話も広がりました。
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