東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第十四話 青娥と青娥

「どうですか華扇様。見分けがつかないでしょう?」

「え、ええ……でも一体何のつもりで」

 

 華扇は自分が喋っている途中で気付いたのだろう。青娥が、ひいてはトレーナーが増えたことの真意について。すなわち今ここで逃げられてしまったら取り返しがつかなくなる可能性が高い。

 

「レックウザ! いますぐ右側の青娥にしんそくです!」

「遅いですわ。こちらもしんそくで逃げます」

 

 ワンテンポ遅れてしまったためこちらのしんそくは相手のしんそくに届くことができず、広い天狗のナワバリの中に逃げ込まれてしまった。

 

「まずいわね……」

「どうかしたのか?」

 

 事の重大さにイマイチピンと来ていないレックウザに華扇は静かに説明し始めた。

 

「多分青娥たちは今別行動をしているでしょう。その理由が分かるかしら?」

「いや? というか単独行動は危険じゃないのか」

 

 レックウザの言う通り人間とポケモンはともに行動することでその潜在能力を引き上げることができる。人と組むことをやたら拒んでいたレックウザだからこそその点はよく理解していた。一人のところを狙われたら太刀打ちはおそらくできないだろう。

 

「そうね。でもこのバトルのルール覚えているかしら?」

「ルール? そんなの一々把握してねえよ」

「小さなことでも頭に入れるのが肝要よ……ねえ、ちょっといいかしら紫」

 

 指パッチンをすると華扇の背後から紫が出現した。ここで呼ばれると思っていたのかポーズをばっちり決めてスキマの中で佇んでいた。

 

「何かしら~? 私に聞きたいことがあるのでしょう?」

「聞きたいというか確認なんだけど……確かポケモンが人間に、もしくはその逆が大きな攻撃受けたら反則負けでしたよね?」

「そうね。主に幻想郷の者たちが暴れないようにするためのルールね」

「それって今回みたいにどっちがポケモンか分からない状態で攻撃した場合はどうなるのかしら? 過失の場合は例外かしら?」

「……残念ながら適用範囲内よ。向こうの方が一枚上手だったということね」

 

 ここまで聞いてレックウザはようやく理解することができた。つまり、レックウザがメタモンだと思って攻撃してもそれが本当に青娥の可能性があるということである。50%の可能性で華扇側の反則負けになる。もちろん本物青娥が偽物青娥を庇うような真似をしたとしてもそれは反則にはならない。

 

「なるほどな。でもそれって俺たちが攻撃しなければ負けることはないんじゃないか」

「まあね。でもそんな余裕まであるのかしら?」

 

 紫がそう言うと後ろからエネルギーを感じた。ヒラリとかわして背後を確認するとそこに二人の姿はなかった。どうやらずいぶん遠距離から攻撃を仕掛けているようだ。

 

「何もしなければこっちが負けるってか。くっそ、どうすればいいんだ」

 

 下手に動いて攻撃を与えるのはリスクが高すぎる。一発アウトになってしまうのはもちろんだが戦いに夢中になってそのスキを突かれてはこちら側の体力がもたない。現にさっきも中々のかえんほうしゃをくらったのでそれほど耐久的に余裕もない。

 

「……ここで考えても仕方ないわ。被弾しないように注意しながら距離を詰めるわよ」

「了解した」

 

 華扇はレックウザに飛び乗り先ほど攻撃が飛んできた方向に向かって進んだ。こちらが近づいてきていることに気付いているのかいないのか、砲撃の手が休まることはなかった。華扇側にとっては好都合だったのでグレイズしながら攻撃主に近づいて行った。

 

「いたぞ! 喰らえメタモn……」

「待って! これは本物よ」

 

 レックウザが攻撃を放つ寸前に華扇が制止した。確かにこの方角から攻撃が飛んできた。間違えるはずがないのに止められたレックウザは華扇をじっと見ていた。

 

「でも華扇、どこからどう見ても……」

「うふふ。よく分かりましたわね。流石は華扇様」

 

 霍青娥は自分が本物であるかをアピールするかのように弾幕を体に纏ってきらびやかに浮かび上がった。ポケモンは弾幕を撃つことはできないので本当に目の前にいるのが青娥であることが証明された。青娥はそれ以上は何も言わず飛び去った。トレーナーに攻撃することはできないので華扇たちはただ見ていることしかできなかった。

 

「……本当に華扇の言った通りだったんだな。どうして見分けることができたんだ?」

「見分けてなんかないわよ。瓜二つで次からは分からないし。でも青娥だったらこっちがミスすることを誘いそうと思ったからあなたを止めただけよ」

 

 搦め手を多用する青娥ならばそういうことを警戒する必要がある。今回の読みは当たったが次出くわしたときに対応する手立てがないのもまた事実。振り出しに戻ってしまった。

 

「どうするかな。俺の使える技に補助技なんてないしな……ん? ちょっと待てよ」

「どうしたの?」

「……華扇。俺はお前ほど賢くはない。だからお前の力が必要だ」

 

 レックウザが思いついた方法はぶっとんだ方法であり一人ではほぼ不可能である。だが華扇でないとできない方法でもあった。レックウザは華扇にその作戦を話し、それを静かに聞いた。

 

「なるほどね。それは確かに私にしかできないことね」

「だが……お前への体への負担が大きいぞ。それでもいいのか?」

「仙人の肉体を甘く見ないで。あなたと同レベルの耐久力はあるつもりよ」

「流石だな。じゃあ俺に乗ってくれ」

 

 この作戦が青娥たちに通用するかどうかは分からない。しかし作戦を考えてくれたレックウザのためにも成し遂げたいという気持ちが強くなっていった。華扇はレックウザに飛び移り、作戦通りにしんそくを使った。

 

「しっかり捕まってろよ!」

 

 レックウザは自身の体を収縮させて速度を溜めてしんそくのスピードを極限まで高めた。そしてその力が解き放たれたとき、天狗の山は緑のとぐろで覆われた。目にも止まらぬスピードで山中をその巨体でかけずり回った。もちろんこのスピードでメタモンを倒そうというわけではない。これはあくまでも攻撃を当たらないようにするためである。現に飛んでくる攻撃もかすりもしていない。

 

「大丈夫か、華扇」

「平気よ。それよりちゃんと特攻するタイミングを教えてね」

 

 華扇にかかる力は非常に大きいはずだがものともせずレックウザの上で構えていた。マッハくらいでグラつくほど修行を怠ってはいない証拠である。そして華扇が特攻とは言ったものの本当にぶつかるわけではない。

 

「よし、じゃあ滝に近い方の青娥から行くぞ。5、4、3……」

 

 レックウザのカウントが始まった。今は山のあちこちを縦横無尽に駆け回っているが、実は向こうからこちらの姿は見えないように動き回っている。頭は良くないとは言ったもののレックウザは頭は良く回る方であった。華扇から青い髪は一切見えない。信頼できるのはパートナーのレックウザのみ。だからこそ一切の心配はなかった。

 

「1,0。今だ!」

 

 レックウザの合図で華扇が右手を伸ばすとその手の中には綺麗な簪は握りしめられていた。青娥は壁をすり抜けられる程度の能力をその簪を用いて行使する。幻想郷特有の能力を使うのはルール違反であるが取るのはその範囲外である。もちろんすり抜け能力は使えないがレックウザの狙いは簪そのものであった。そして華扇も握りしめたその瞬間で確信が持つことができた。

 

 

 

「何だったのかしら? 今の」

 

 簪を取られたこの青娥は本物であった。あまりにも速かったので動くスキすら与えてくれなかった。だが奇妙だったのは攻撃を当てようとする気が一切感じられなかったことである。不用意に攻撃できないのではあろうがその割には先ほどから山中グルグル暴れていたのが気になった。簪を取られたその意図も分からなかった。分かるのはこんなことを普段の華扇は思いつきすらしないだろうからレックウザが何かしら考えたのではないかということであった。

 

「あまり悠長とはしていられないかもしれないわね」

 

 普段はからかいがいのある華扇であるが勝負事などになると話は別である。なにしろ単純な戦闘能力では青娥は華扇の足元にも及ばない。向こう側に流れを持って行かれるとあっという間に決着がついてしまう。ここはメタモンと合流して一から作戦を練り直そうと考えた。

 

「聞こえる? メタモン。次華扇様がそっちに行ったら背後に気をつけるのよ」

 

 メタモンにテレパシーを送る青娥。一緒にいない可能性も考慮してテレパシーを使えるように特訓したのであったが返信がない。

 

「……あれ? どうしたの?」

 

 嫌な予感がよぎる。青娥によく懐いていたからこそ会得できたテレパシーに応答しないことがその証拠であった。青娥は華扇たちに位置がバレてしまうことも厭わずにメタモンの元に駆け寄った。

 

「メタモン! どうし……」

 

 小声でメタモンを呼ぶもそこにいたのは青娥メタモンではなくただのメタモンであった。つまり変身が解けて目をぐるぐる回していたのであった。

 

「ふぅ。やっぱりこっちが偽物であってたのね。中々の博打だったわ」

「でもそのおかげで勝てたからよかったじゃねえか」

「まあね。ありがとう」

 

 メタモンの前に居たのは華扇とレックウザ。しっかり偽物の青娥を見極めて倒したのであった。タイマン勝負になれば二対一では勝ち目がない。勝敗に異を唱えるつもりはなかったが青娥には腑に落ちないことがあった。

 

「すごいですわ華扇様。それにしてもどうして私が本物だと分かったのですか?」

 

 一回目及び二回目に出会った青娥はどちらも本物であった。一回目はともかく二回目に何かしらの策があったから勝利をもぎとったと思われた。

 

「青娥、あなたの簪って壁に穴を空けられるわよね」

「ええ。私の一番のお気に入りですわ」

「それに含まれるエネルギーはメタモンにもコピーできないんじゃないかなってレックウザが」

 

 つまりはこういうことである。メタモンがコピーできるのは外見、仕草、そしてその能力である。普通は所有物にまで模倣の意識を向けることはない。それに目を付けたのがレックウザであった。

 

「私とあなたは仙人同士。それなりにあなたのことも分かっているつもりよ」

 

 華扇にはすべてお見通しであった。自分のものは重すぎる位の思いを込めて愛でる人物であることや気に入った人物にはしつこいくらいのアプローチを仕掛ける人物であることも。

 

「思いにはエネルギーが宿るわ。簪を握った瞬間その大事にする気持ちが伝わって来たわ。それが今回の敗因ね」

「……ふふふ。流石は華扇様ですね。いえ、華扇様たちといったところですね。見事なコンビネーションでしたわ」

 

 青娥は言いようのない悔しさを抱えていた。負けたことではないと断言はできるがなんなのかは明言できなかった。それが苦笑いと言う形で顔に出ていた。普段の青娥からは出ることのない表情であった。

 

「……うう、ゴメンね青娥」

「メ、メタモン。気が付いたのね」

 

 目覚めたメタモンを抱き上げるとメタモンはニコッと笑っていた。青娥とは違い悔しさは露も見られなかった。ただ喜びの表情に満ち溢れていた。

 

「負けちゃったけど青娥と一緒に戦えて楽しかったよ。エヘヘ」

「メタモン……」

「俺たちをここまで苦しめたんだからな。見事だったな二人とも」

「青娥。いいパートナーを持ったわね」

 

 レックウザと華扇、そして当の本人のメタモンの声を聴いてモヤモヤは解消していた。青娥はただ自分たちのコンビがいいコンビであることを見て欲しかっただけなのであった。自分にも心を許せるパートナーはいると。

 

「世間じゃ邪仙なんて言われてるけど……本当はただ純粋なだけだってこと、分かっているつもりよ。私は」

 

 華扇はやっぱり知っていた。優しい声で茨華扇の勝利で第2ラウンドは終了した。どちらの陣営も一勝一敗となり、次の勝敗で全てが決まる。




 読んでいただきありがとうございます。本当にお待たせしました。夏バテでやる気が出なかったです。はい。夏休みもらえたんで近いうちに続きは出せそうです。

No.10 茨華扇 ドラゴン・かくとうタイプ 相棒ポケモン レックウザ ドラゴン・ひこうタイプ

 最強のドラゴンとも言われるレックウザの登場です。伝説らしくステータスも高く、それでいてコンビネーションも抜群と言う……なんやこの厨ポケェ! さてこんなインチキポケモンに勝てる相手はいるのでしょうか? 私にも分かりません。
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