牛崎潤美と吉弔八千慧は今現在地底に続く大穴を降下しているところであった。その目的はどこかに逃走したウツロイドを見つけ出すためであった。しかしスキマを使ってみても見つからないということなのであまり人の目が行き届きにくいところに絞って捜索していた。その一つが地獄へとつながるこの大穴であった。
「それにしてもこの穴は深いわね」
「地底に行くだけならただ真っ直ぐ降りたらいいだけだけど……」
今回は地底に行くことが目的ではなかった。この大穴は一本道ではなく様々に枝分かれをしており、その先にウツロイドが潜んでいるのではないかと踏んだのであった。ちなみに地底に行くには気にせずに真っ直ぐ進めば到着する。
「あ、左右に分かれてるわね。頼むわね潤美」
「私と言うよりもこの子だけど。出てきて」
潤美のサファリボールから出てきたのは立派な角を有したあばれうしポケモン、ケンタロスであった。ケンタロスはボールから出てくると真っ先に右の横穴に飛び移った。それを見て二人はケンタロスに追従して右の横穴に入り、そのままケンタロスの背中に乗った。二人乗りでも平気な顔をしていたケンタロスは真っ直ぐ走り抜けた。
「本当にこっちの道で合ってるの?」
「ああ、任せろ。俺の嗅覚からこっちにいわタイプ独特の匂いがする」
今一つケンタロスに任せていいのかどうか不安に思う八千慧。しかしケンタロスには鋭い嗅覚があり、それで各ポケモンのタイプの匂いをかぎ分けることができる。残念ながら具体的なポケモンの種類は分からないのだが一つの指針となる。幸運なことにウツロイドのタイプは対戦の最中にいわ・どくタイプとみやぶったので目印には十分なりうる。
「それにしてもここにはポケモンがいないわね……」
大穴を下っているときはちらほらとポケモンはいたのだが、どういうわけかこの横穴にはポケモンが今のところ一匹もいない。そのおかげで順調に進むことはできているのだが少し不安に思う潤美であった。
一匹もポケモンと出会わずについに横穴の突き当りまで到着してしまった。ケンタロスから降りると二人とボールから出てきたバクガメスは周辺を調べた。しかしあるのはただのだだっ広い空間であり、それ以上は何もなかった。
「何もないわね」
「おい、ケンタロス。本当にここで合っているのか?」
「ああ、むしろさっきよりも匂いがキツくなって……」
バクガメスが訝しんでいると地面が大きく揺れた。
「な、何だこれ!?」
地震とは少し違う音が辺り全体に響き渡った。それと同時に四人の正面で地下から何かが盛り上がってきた。
「バクガメス! 気を付けて」
「ケンタロスも!」
地鳴りに心配するパートナーたち。真っ先にポケモンたちを考えるのは優しさか、それとも自分たちの方が強いという自負からきているのか。おそらく両方だろう。地面から浮上してきたそれは、簡潔に言えば岩の塊だった。体の中央にはいくつかの点のようなものがあり、人型のように手足のようなものが生えていた。
「なんだコイツ!?」
バクガメスも大型の部類であるがそのバクガメスが見上げるほど大きなサイズだった。およそ3.4メートルほどだろうか。所々にあるオレンジの模様が反射して四人の不安な顔を映していた。
「バクガメス! これってポケモンなの?」
「俺が知るわけないだろ。というかケンタロス! こいつがもしかしてその匂いの正体か?」
「……ああ。間違いない。こいつから強烈な匂いがするからな」
かぎ分けられるということはこのいわやまみたいなのは見た目通りいわタイプのポケモンということだ。つまりここにウツロイドはいないということだ。
「そうなのね、それじゃあ帰りましょうか」
八千慧が踵を返して帰ろうとした。ウツロイドがいないのならばここに用はない。面倒事が起きる前に退散しようとしたかった。
「……マテ。キサマラ」
無機質な声帯を持つ者はこの場にいない。いやいるとしたら……八千慧たちは嫌な予感を感じながら振り向いた。そこにはHの形をした点が妖しく点滅していた。先ほどよりも大きく見えたのは気のせいではない。
「オレノナワバリニカッテニハイッテキテ。カクゴハイインダロウナ」
声の抑揚がないので分かりにくいが話している内容からして随分ご立腹のようだ。だが別に縄張りを荒らしに来たつもりはない。対話できるようなのでできれば穏便に済ませたいが……
「すみません。お邪魔する気はなかったんです。すぐ立ち去るので」
「ユルサン。コレデモクラエ」
潤美が深々とお辞儀をして謝意を見せた。しかし目の前のポケモンは話を聞いているのかいないのかその大腕を振り下ろしてきた。ばかぢからの狙いは潤美のようだ。
「危ない! 潤美!」
八千慧が声をかけたときにはすでに遅く、腕に加速度が乗ってしまっていた。腕の地点には砂煙が舞い潤美の姿は見えなかった。完全に潰されてしまった……そう皆考えていた。
「ナ、ナニ……?」
「ハァ、話聞いてもらいたかったんですけどね」
砂煙から潤美が現れた。その体には傷一つなく、片手で全力の攻撃を受け止めていた。ばかぢからの威力は120であり、並みの相手ならば骨も残らないだろう。潤美は難なくその手を上に押し上げるともう一方の手で相手の懐に飛び込み、その岩壁にひびを入れた。その音は砂煙が舞い落ちる轟音の何倍も大きく、3.4メートルの山が背中から崩れ落ちた。
「あ、あんたそんなに強かったの?」
唖然とした顔で八千慧が潤美を見た。普段は温厚な奴がキレると豹変するという例を目の当たりにしたからである。というか組長の自分よりも強いんじゃないかと思った。
「種族的に……これくらいはね。それに話の通じない相手にはこれが早いから」
牛鬼は友好的な種族ではあるがその怪力は他の妖怪、およびポケモンたちとは一線を画す。対等に渡り合えるのは幻想郷の鬼やレックウザやアルセウスくらいだろう。しかし本人自体が争いを好まないのでその本領を見られる機会はそうそうない。
「大丈夫か? 俺が戦う予定だったんだが」
「うん、あなたの力はできるだけとっておきたいからね」
ケンタロスが本来相手するはずだったがトレーナーが一発KOしてしまった。ケンタロスの体力は今後ウツロイド探しにとっておきたかった。さっきから全然立ち上がる気配が全くないあのポケモンは目をグルグル回していたが少し聞きたいことがあったので目を覚ますまで待つことにした。
「ウ、ウウーン。ココハ……」
「あ、起きましたか」
「ヒッ! オ、オマエハ!」
さっきとは打って変わって潤美にビビっている姿がそこにはあった。だが力量差を測ったのかもう一度暴れる気配はなかった。今度は落ち着いて話し合うことができた。
「そう、それじゃあ他のポケモンはあなたのプレッシャーで近寄らなかったのね」
このポケモンの名前はレジロックといい、元はホウエン地方で伝説扱いされてきたポケモンらしい。この地下の横穴はレジロックのすみかで他のポケモンが寄らなかったのもそのプレッシャーを感じ取っていたかららしい。
「ア、アア。ダカラオレハホカノポケモンハミテイナイ」
「そうでしたか。失礼しました」
レジロックにウツロイドのことを話したがそんなクラゲみたいなポケモンは見ていないという。本当に無駄骨であった。今度こそ帰ろうとした。
「マテソコノオンナ。オマエニワタスモノガアル」
「私、ですか?」
レジロックが潤美を引き留めた。潤美はそれに従いレジロックの目の前までやってきた。
「コノオレヲヤブッタソノチカラヲタタエテコレヲヤル」
潤美はレジロックから腕時計のようなものを貰った。真ん中に何かをはめる窪みのようなものがあった。
「オレガツクッタモノダガ……オマエナラツカエルダロウ」
潤美たちはレジロックからこの説明を聞いた。これはZリングというものらしく戦いの内ここぞというときに強力なZわざというものを放つことができるらしい。だがそのためには各タイプに応じたZクリスタルというものが必要らしい。
「いいんですか、貰っちゃて」
「カマワナイ。キョウテキトノタタカイニヤクダツダロウシナ」
「ありがとうございます!」
最初の邂逅が嘘のように打ち解けていた。拳での会話もコミュニケーションのひとつなのだろうか。
「ウツロイドトヤラハシラナイガ……オレノキョウダイナラシッテルカモナ」
「兄弟? その人はどこに?」
「ソウダナ……タシカチレイデン? トカイウトコロニイクトイッテイタナ」
地霊殿はこの大穴の真下にあるお屋敷である。今度はそこに行けば何か手がかりがあるかもしれない。
「分かりました。ありがとうございます、レジロックさん」
「……アア。キヲツケロヨ」
瓔花を助けるためこの場で立ち止まるわけにはいかない。何としてもウツロイドを捕まえて治してもらわなければならない。Zわざという未知の力を手に二組は大穴をグングン下って行った。
読んでいただきありがとうございます。さて、番外編として潤美と八千慧が主人公として活躍するウツロイド追跡隊シリーズが始まりました。本編とリンクするところもあるので是非見てください!
番外編1 レジロック いわタイプ
覚えているわざ ばかぢから ストーンエッジ でんじほう だいばくはつ
ここでは番外編として活躍したポケモンたちを紹介しようと思います。初回はレジロックです。ばかぢからしか使いませんでしたが他にも色々覚えています。縄張りを荒らされるとすごく怒る伝説っぽい性格です。ですが強い者は好きです。
さて番外編は本編がしばらく進んでからなのでしばらく期間は空きますがお楽しみに! 次回は誰でしょうね~ まあ大体察しは付いているでしょうか。