東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第二話 問答無用の楽園の素敵な巫女

「祭り……ですか?」

 

 アンノーンにはその言葉の真意が分からなかった。ニヤニヤした紫の顔を見てそんなにおぞましいことではないとは考えてはいた。

 

「ええ、この幻想郷には色々な者がいるからね。一人一匹ポケモンを持たせて近々ポケモンバトルを行わせようと思っているのよね~」

 

 おぞましいことだった。できるできない以前に町中大パニックになってしまうことが容易に想像できたからである。アンノーンはこの幻想郷の住人がどんなものか知らないがポケモンの世界のことは知っている。あの屈強な集団を野放しにして無事なわけがないからである。

 

「……大丈夫なんですか? 皆が皆大人しいわけじゃないですけど」

「大丈夫大丈夫。選ぶのはポケモンの方だから」

「え? ポケモンがパートナーを選ぶんですか?」

 

 普通トレーナーがポケモンを捕まえてパートナーにする。その逆なんて元の世界でも聞いたことがなかった。モンスターボールで捕まえることで相手の力量を認めたポケモンだけがその者の手持ちに加わる。その順序を逆にしては混乱を招くだけだ、アンノーンはそう考えていた。

 

「いきなり連れてきたからね。その上捕まえられるのもストレスが溜まるかと思ったしポケモンたちがパートナーを選ぶのもありじゃないかしら?」

 

 紫には紫なりの配慮があったらしい。ポケモンたちのことを鑑みてのことのようだが藍は別のことを考えていた。

 

「じゃあ今からポケモンたちを調べて各地にばら撒くわね。藍、詳しく教えてちょうだい」

「了解しました」

 

 それから藍は紫に全ポケモンのタイプ、レベル、特性、使える技、種族値等を詳細に伝えた。特に種族値は詳しい施設でしか分からないはずであるが一目見ただけで見抜いてしまうのが藍という九尾の狐である。

 

 

「……ふぅ、これで最後ですね。全890種類のポケモンでしたがいかがでしたか?」

「本当に沢山のポケモンがいるのね~ じゃあモンスターボールを……」

「そう言われると思ってとりあえず1000個、用意しております」

 

 後ろに隠していた大きな袋の中から大量のモンスターボールが出てきた。主人の考えを先読みするのが式の役目である。

 

「藍さん、紫さん。あの~ これからどうするんですか? いくらポケモンたちが選ぶ立場にあるとはいえ暴れる可能性もありますけど」

「ふふ、そういえばあなたにはまだ言っていなかったわね。あなたに使える技があるように私たち幻想郷の住人にも能力があるのよ」

「そうなんですか!?」

「私は境界を操る程度の能力。その気になればこの世界からドロップアウトさせることも可能だから大丈夫よ」

 

 さらりと流したがアンノーンの見立ては間違っていなかった。超人的な藍よりもおぞましい予感は的中していた。ひとまずポケモンたちを抑えることは問題ないらしい。

 

「よし、それじゃあ霊夢のところに行くわよ」

「そうですね。私たちだけで勝手に行うと異変扱いされて退治されてしまいますからね」

 

 いきなり街中に未知の生物たちが現れると異変扱いされて博霊が動く。そしてそんなことができる、かつしそうなのは誰かと言われると真っ先に出てくるのは紫である――実際正解なのであるが――。そうならないように先に話をつけてくる必要があった。

 

「ほら、アンノーン。あなたもこちらに来なさい」

「え、あ、はい」

 

 二人の背後には先ほど見たホールとは異なる穴が出現していた。無数の目のようなものが浮かんでおり、アンノーンにとっては親近感があった。ピョンよその穴の中に入ると一瞬で景色が変わった。

 

 

「あれ? ここは」

 

 目の前には大きな鳥居が構えており近くには境内の掃除をしている巫女がいた。こちらを不機嫌そうに見つめておりズカズカと近づいてきた。

 

「はあ、今日は何の用よ」

 

 箒の柄の先端を紫の寸前に突き出す霊夢。怯む様子もなくニコニコとした表情を崩さない。はた目から見ていただけのアンノーンの方がブルッとした。

 

「ふふふ。今日は面白い提案をしようかなってね~」

「アンタがそう言うときはろくでもないことって決まっているのよ。却下よ却下。それよりさっきから気になっていたんだけど……」

 

 霊夢がアンノーンを指差した。じっと見つめており思わず藍の後ろに隠れようとするアンノーンである。

 

「……何コレ。妖怪?」

「まあそんなところね。この子について話をしに来たの。上がってもいいかしら」

「全く。お茶菓子は出さないわよ」

 

 

 紫は霊夢にこれまでの経緯を説明した。ポケモンという存在がいること、それら全種類を捕獲してきたこと、そして幻想郷で祭りを開催しようとしていること全てを伝えた。

 

「なるほどね。事情は把握したわ。アンタ、えーっとアンノーンだっけ? 聞いているかもだけど一応説明しとくわね。私は博霊霊夢。この神社で巫女やっているわ。仕事は異変解決に妖怪退治よ」

「よ、よろしくお願いします」

 

 深々とお辞儀をするアンノーン。霊夢は目の前のポケモンと言われる存在にもいつも通りに対応していた。

 

「ねえ紫。気になったこと言っていい?」

「あら。何かしら」

「ポケモンの世界はよく分からないけどここにいる連中も相当我が強いわよ。そんな奴らが素直に応じるかしら? それにどうやって皆を巻き込むつもり?」

 

 幻想郷の連中はどいつもこいつも気まぐれに異変を起こそうとする者ばかりでありプライドが高い。得体の知れない相手といきなりタッグを組もうと思わない。それに祭りに参加させる動機もない。

 

「もちろん嫌なら断っていいし、報酬も出すわ」

 

 報酬の単語に霊夢はすかさず反応した。

 

「報酬? それってお金? それとも食べ物?」

「それは秘密よ。言ったら面白くないじゃない」

「ふーん。あ、そう。まあ最近はあまり大きな異変もなかったし暇つぶしくらいなら付き合ってあげてもいいわよ」

「素直な子ね。あなたは」

 

 唇に指を重ねウインクをする紫。妖艶な仕草だが中身がドス黒いことを理解している霊夢にとっては胡散臭さしかなかった。だが根が自信家の霊夢は負ける気がしなかったので断る理由はなかった。

 

「それでいつ始めるの? それに皆にルール説明とかどうやってやるの?」

「それについても問題ないわ。ルールが確立したら全員に私から伝えるから」

「あれ? あのブン屋は使わないの?」

「ええ。折角だし天狗も河童も裏方じゃなくて参加させたいしね」

 

 紫のことだから面倒事などはそのあたりに押し付けるかと思いきや自分自ら引き受けるらしい。その周到さにかなり違和感を感じた霊夢だった。

 

「でもどうやって? アンタと藍だけじゃ流石にできないでしょ?」

「それについても抜かりないわ。この子に手伝ってもらうから」

 

 紫は藍の持っていた袋からおもむろにモンスターボールを取り出した。上空に放り投げるとその中から光とともに何かが現れた。茶色い体に帽子のようなものをかぶっておりフワフワと浮いていた。

 

「紫。もしかしてこれもポケモン?」

「そうよ。オーベムっていうのよ。かわいいでしょ、私の相棒ポケモンなの」

「どうも。私はオーベムと申します。私の特性テレパシーでこの幻想郷の皆様に言葉をお伝えしますので問題ありません」

 

 丁寧な口調でオーベムは霊夢に挨拶した。傍で聞いていたアンノーンは目を丸くしていた。ともに行動していたはずなのに一体いつの間に話をつけていたのだろうか。もしかしたら来る前に事前に話していたのかもしれない。

 

「まあいいわ。それじゃあオーベム、だったっけ。紫をしっかり監視して頂戴ね」

「お任せください」

 

 初めて会ったものよりも信頼されていないことに軽く悲しくなった紫だったが霊夢は無視して話を続ける。

 

「じゃあ私も何かポケモンに選ばれないといけないわけ?」

「ええそうね。でもあなたを選ぶポケモンが果たしているかしら」

 

 世界が変わっても強者のオーラは不変であるらしい。モンスターボールの中から萎縮の感情が伝わってくる。世界を創造したとか時空を司るとかいったポケモンがビビッてしまっている。ポケモンが選ぶと言ってもあまりにも格が違うトレーナーを選ぶのはどうしても躊躇してしまうようだ。

 

「正直私は誰でもいいんだけどね…… じゃあアンタ」

 

 霊夢が指をさしたのはとあるモンスターボール、ではなくその外に出ていたアンノーンであった。

 

「ちょっと霊夢? あなたは選ぶ方の立場なのよ。あなたが選んでも仕方がないんだけど?」

「埒が明かないから仕方ないわ。どんなポケモンでも私がみっちり鍛えてご褒美は頂くわ」

 

 モンスターボールから安堵の声が聞こえた気がした。皆直感でしごかれることが分かっていたのだろう。だからこそ皆消極的だったのだ。いきなりルール違反だがこの問答無用の楽園の素敵な巫女には関係ない。アンノーンは霊夢に呼ばれて前に出てきた。

 

「じゃあこれからよろしくね。アンノーン」

「……はい、お願いします」

 

 ここで拒否したらどうなるかぐらいは“きけんよち”で察知することができていた。大人しく従うしか道はなかった。こうしてアンノーンは霊夢の手持ちになった。

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