本来バトルの流れ的にはリーダーが先鋒を務めてはならない。試合の向きを変える中堅か、逆転勝利を収める大将戦に赴くべきなのである。紅魔館チームは鉄砲玉のクラピが先発向きであるが迷いの森チームはそうではない。
「それでは試合を始めさせて頂きます。両者準備はよろしいですか?」
「いつでもオーケーだよ!」
「こちらも構わないわ」
クラピもボーマンダの背中に乗っている。どちらも初っぱなから空中戦を望むつもりである。
「それでは……試合開始!」
「ボーマンダ! かえんほうしゃよ!」
「クロバット、避けて!」
クラピの先制攻撃は身軽なクロバットには掠りもしなかった。ボーマンダよりもパワーでは劣る代わりにスピードは遥かに速い。外されたかえんほうしゃは外壁に当たり焼きレンガとなってしまっている……と、思った瞬間何もなかったかのように元通りに復元されていた。
「流石咲夜さん。以前よりもレベルアップしてる」
かつて対峙したことのあるリグルは咲夜のそのさりげない挙動に感嘆していた。レミリアのサポートをすることに特化しているのでもしも咲夜とレミリアが同じチームだったらとてつもない脅威になっていただろう。そんなことをレンガを見ながら考えていた。
「今度はこっちよ。アクロバット!」
クロバットの素早い攻撃が見事にクリーンヒットした。その後も続けて何度もダメージを与えていき、確実に体力は削っている。削ってはいるが……
「そんなチマチマしたのじゃフォーエバー終わらないわ! パワーというものを見せてあげる。マンダは二手りゅうまいよ!」
ヘカーティアかどこかから聞いたのか知らないが変な言い回しでりゅうのまいを指示した。立ち込めていた暗雲がボーマンダの体を包み込み元々鋭い目つきがさらに険しくなった。舞うことで攻撃力と素早さが上昇し最強に相応しいほどのパワーを蓄えたことはレミリアも気付いていた。
「まずいわね……クロバット、いけそう?」
「半減技でも一発喰らったら終わりだろうな。とりあえずレミリア、危ないから降りてくれ」
ここからは洒落で済まない攻撃が飛んでくると予想された。パートナーに傷を付けたくないクロバットは自分の背中から降りるよう促した。クロバットと似たような翼を広げてレミリアは浮遊していた。クラピは不公平だと思ったのかボーマンダから同様に降りた。ガチンコで戦わせてやりたいということだろうか。
「ボーマンダ、後はあなたに任せるわ! フリーにやっちゃって!」
「任せろ。一撃で沈めてやるからよ」
巨大な牙を剥きいかくをするボーマンダ。ここまで通常通り振る舞っていたように見えたクロバット。だが恐怖していないわけがなかった。相手は最強のドラゴン、ボーマンダ。レミリアという盾があったからここまで気持ちを保ってやってこれた。だが今は背中に彼女はいない。
(……落ち着け、気持ちを静めろ)
動悸が止まらない。顔には出ないが体は正直だ。ついさっきまで動いていたはずの翼が鈍く感じる。レミリアという存在一つでここまで変わるのかとクロバットは思った。
「はああああああ!!」
ボーマンダの体周辺から空気が渦巻き大気が震える。拡がっていた暗雲がはじけ飛び快晴が見えた。しかしうららかな天気に似つかわしくない怪物が獲物を狙っていた。力を溜めに溜め一撃で決めるつもりである。
「終わらせてやる! ドラゴンダイブ!」
空高く急上昇して太陽と影が重なる。黒い脅威が猛スピードで突っ込んできた。
(う、動け!)
しかし体が完全に竦んでしまっている。自分は一体何をしていたんだ。巨大なカリスマの陰に隠れて強くなった気になっていた。本当は素早さしか取り柄がないのに……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あら、あなた速いのね」
クロバットが初めてレミリアに出会ったのは実は祭りの二日前という直近であった。レミリアはパートナーポケモンに対して自分が役不足と感じておりクロバットはそもそも興味がなかった。出会うのが遅れたのはそのせいだった。
「うん? まあそうだが……お前は誰だ?」
「私はレミリア・スカーレット。カリスマの権化と呼ばれているわ」
「自分で言うか、それ」
両手を体の中心に向けてポーズを決めている目の前の幼女。彼女に対しての第一印象は変な人であった。だがそのおかげで今までにスカウトに来た他の者よりインパクトは強かった。
「で、俺に何の用だ? 悪いがバトルなんざ興味はない。じゃあな」
翼を翻しその場を立ち去るクロバット。人里から遠く離れた無縁塚まで高速で逃げだした。撒いたと判断した後に翼を畳み休憩していると背後から声が聞こえた。
「よし、気に入ったわ。あなた私と一緒に来なさい」
「何!? いつの間に」
最速で逃げ切ったつもりだったがいつの間にか背後に立たれていた。すぐさま別の場所に移動しても移動してもまた付いてきた。永遠に逃げ切れないと悟りついにクロバットはその羽を止めた。
「はぁ……しつこいなお前。俺は参加しないって言ってんだろ。どうして俺なんかに付きまとうんだ?」
「あなたに興味があるからよ。明後日にバトルがあるんだけど私に合うポケモンがいなくてね。折角の祭りに不参加なんてつまらないじゃない?」
「そんなのお前の都合じゃねえか。俺には関係ない。それに俺は……」
「探しているポケモンがいる……でしょ?」
今まさに言おうとしていたことを言われて面喰らった顔をした。顔しかないが。レミリアはしたり顔をしてニヤニヤしていた。何も知らないクロバットは心を読む妖怪かと思った。
「ちなみに人の心を覗き見する悪趣味妖怪とは違うわ。あなたの運命を少し見ただけよ」
「運命? なんだそれ」
これまで微塵の興味もなかったレミリアに少しだけ興味が出てきた。
「私は運命を操る程度の能力で特定の相手の未来を少しだけ見ることができるのよ。いつのことなのか分からないから使い勝手は悪いけどね」
「……なるほどな。確かに俺はあるポケモンに追われて偶々来てしまったんだ」
クロバットはこの世界に不本意に連れてこられた。基本的にポケモンは一匹一匹ずつ藍が交渉してこの世界に来てもらう。ジャラランガに交渉してハイパーボールで捕まえようとした瞬間、何者かに追われたクロバットがボールのスイッチを押してしまった。そしてそのまま来たので戦いと言うものに嫌気がさしていた。ちなみになぜ襲われていたのかは当の本人にも不明だそうである。形がポケモンだったことくらいしか分からず急に襲われたらしい。
「ポケモン……信じても信じなくてもいいけどそのポケモンに会えるわよ」
「何!? 本当か?」
「能力で見ただけだから正確性は期待しないでね。それにもしも出会ったとしても気付けないと思うわよ」
レミリアはワガママなお嬢様であるが嘘は嫌いな性格である。吸血‘鬼’ということで鬼に通じるところがあるのかもしれない。
「……俺はそいつに会いたい。いや、会わなければならないんだ。今手がかりがないのなら、お前のパートナーになってやろうじゃねえか」
「いいのかしら? 私は厳しいわよ」
「構わないさ。時間がないからな」
クロバットはレミリアにハイパーボールを渡して技の特訓及び素早さを鍛えた。二日間丸々特訓し続けていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
突っ込んでくるボーマンダを見ながら走馬灯を見ていた。たった二日前の出来事だったが随分昔のように思えた。諦めの表情を浮かべて瞼を閉じる……
「クロバット!! しっかりしなさい! きゅうけつよ!」
よく聞こえるその耳にレミリアの声が響いた。ドラゴンダイブの轟音の中でもはっきりとその声が聞こえたのは何度も何度も聞いてきたからだろう。
(そうだ、俺は何を考えていたんだ。俺は俺の目的がある。そして俺のパートナーはレミリアなんだ!)
謎のポケモンにもレミリアにも素早さで敵わなかったという事実がクロバットを今まで苦しめていた。しかしそれも過去の話。鍛えに鍛えたということは嘘ではないし、そもそもそんなことは些末なことだった。今はただレミリアと共に高みを目指したい。その思いがピークにきたとき、いつの間にかクロバットの目はキリッと開いていた。
「負けるかぁ!」
真正面から立ち向かい逃げはしなかった。ボーマンダに負けない牙、それにレミリアのパワーも乗った虫タイプ技きゅうけつがドラゴンダイブと衝突した。爆風が紅魔館の城壁を全て破壊し尽くした。咲夜の顔が少し渋ったが何とかしてくれるだろう。それよりも土煙でしばらくの間何も見えていないがその中ではもうすでに勝敗は決していた。立っている者――この場合は浮いている者だが――こそが勝者であり敗者は地面に叩きつけられる。落下してきたのは……紫色の翼だった。
「そこまでです。勝者はボーマンダとクラウンピースです!」
クラピはボーマンダの背中に乗り楽しく踊っていた。
読んでいただきありがとうございます。この世界でのレミリアの能力は未来視的な感じと解釈してもらって結構です。こういうキャラも一人は入れたかったんです。改めて藍様化け物すぎますね。書いていて若干引きますもん。それでは今回はレミリアです。
No.15 レミリア・スカーレット あく・むしタイプ 相棒ポケモン クロバット どく・ひこうタイプ
使える技 アクロバット きゅうけつ エアカッター あくのはどう
結局二個しか技使わなかったですね。まあレミリアたちは今後も出てくると思うのでそのときに出せたらいいなーと思います。次はビビッている迷いの森チームがどう動くのかお楽しみにです!
あと例大祭行く方は楽しんで下さいね~