東方携帯獣   作:海老の尻尾

22 / 38
第二十一話 醸し出るカリスマ

「お嬢様、大丈夫でしょうか?」

「私は問題ないわ。それよりもこの子ね。ゆっくりお休みなさい」

 

 レミリアはクロバットをボールに戻してじっくりと労わった。ボールの中でにっこりと笑っていたが軽く歯ぎしりをしているのが見えた。それはレミリアに対してであり、悲しい顔をさせないで良かったことと勝利をプレゼントしたかったことの両方が心の内に在った。

 

「あなたに勝たせてあげたかったわ。ごめんなさいね」

 

 レミリアも同様に考えておりお互いがお互いを尊敬し合っていた。レミリアがカリスマと呼ばれる原因その一である。

 

「レミリア! 反省する必要はないぞ! その証拠にこれを見ろ」

 

 クラピはボーマンダの上から声高らかに叫んでいた。地上に戻ってボーマンダから降りると口を指差していた。そこには先ほどまであったはずのキバが完全に砕けていた。

 

「この子のキバ、普通なら砕けるはずないのよ。まあすぐに生えてくるけどここまでの威力を与えたのは初めてだからアタイびっくり!」

 

 敵から褒められるのは対戦したものの特権である。クラピの差し伸べた手を掴みがっちり握手をした。悔しさはあるが後悔はなかった。

 

「皆。後は頼んだわよ」

 

 レミリアは後ろを振り向き勝敗を仲間たちに託した。託された仲間たちもレミリアの真意は感じ取れた。しかしそれを受け止められるかどうかは別問題である。エタニティラルバは渋い顔をしているしリグルも下を向いていてしまっている。あのレミリアがいきなり敗れると予想していなかったのでその後に続くのがどうしても躊躇ってしまう。だが誰かがその意志を継がなければならない。

 

「……分かったわ。私たちに任せて」

 

 レミリアとバトンタッチして前線に出てきたのは黒谷ヤマメである。つい先ほどまで尻込みしていたが触発されたのだろう。背筋をピンと伸ばして前を真っ直ぐ見据えていた。だが多少の恐怖で体は震えており何度も深呼吸を繰り返していた。

 

「私のパートナーはこの子よ! 出ておいで!」

 

 ヤマメは手から放出した蜘蛛の巣を頭上に出現させた。そこに向けてモンスターボールを投げると現れたのはアリアドスである。土蜘蛛の彼女にピッタリのポケモンであり通常のアリアドスよりもサイズが大きい。パワーに特化している個体のため攻撃力は高いようである。

 

「おー! 強そうだしクールじゃん!」

 

 クラピは巣に集まる虫のようにアリアドスに近づいていった。実際は松明を持っているので捕食される側だが。アリアドスの赤が気に入ったのだろう。本人はペタペタ触られて嫌そうである。

 

「アタイも戦いたかったけどできないからなー。ん~ じゃあ清蘭で!」

「えっ! 私!? ちょっと待って」

 

 急に振られて驚く清蘭。次に戦うのが自分だと思っていなかったので完全に油断していた。戦いたくないわけではないが準備はできていなかったので慌ててボールを取り出す。スーパーボールから出てきたのは紫色の体をしたヌメルゴンである。小柄な清蘭に似つかわしくない重量級である。

 

「あ、ボク? 楽しみだな~ 戦うの。清蘭ちゃんもよろしくね~」

 

 のほほんとした感じで心優しいポケモンである。波長が清蘭と合うようで仲のいい雰囲気である。ともにドラゴンタイプということもあり相性はよさそうである。しかしそれは迷いの森チームも同様である。アリアドスもヤマメもむし・どくタイプということもあり完全一致しているので拮抗した勝負が見られるかも知れない。

 

 

「両者とも準備はよろしいですか? それでは……バトルスタートです!」

 

 咲夜の合図とともに第二試合が始まった。この試合でカタをつけたい清蘭と一勝一敗に持ち込みたいヤマメ。その始まりはアリアドスのベノムショックとヌメルゴンのヘドロウェーブから幕を開けた。ベノムショック自体の威力は低いがタイプ一致のおかげでこの毒勝負は実力が伯仲していた。なお飛び散った毒飛沫は後でスタッフ(咲夜)が綺麗に片付けました。

 

「むしタイプにはこれよ! ヌメルゴン、かえんほうしゃ!」

「来たわね! ねばねばネットでかわすのよ!」

 

 むしタイプにとって天敵である炎。だがそれの対策をしていない程ヤマメは愚かなトレーナーではない。アリアドスは紅魔館の外壁に糸を吐き、迫りくるかえんほうしゃをかわした。糸を出し入れするスピードは相当なものであり狙いをしっかり定めるも全く当たらない。若干素早さの遅いアリアドスのスピード面をカバーする妙技を完成させていたのである。すでにフィールド上は蜘蛛の巣だらけになっており徐々にヌメルゴンの陣地が侵略されている。それは当人よりも客観的に見ている方が気付くものである。

 

「うーん、中々当たらないな~」

「ヌメルゴン、ひとまず状況を整えるわよ。蜘蛛の巣に向けてかえんほうしゃ!」

 

 蜘蛛の糸は火に弱い。世間一般の常識を踏襲して狙いを本人から蜘蛛の巣に変更した。だがそんな常識が通用しないのがこの幻想郷である。

 

「え!? ちょっ、ちょっと待って!」

「ヌメルゴン、大丈夫!?」

 

 溶けるはずの糸は炎に負けるどころか包み込み……しなやかに元の方向に弾き返した。自分の炎にカウンターを喰らったヌメルゴンの視界は覆われた。ドラゴンタイプであるためダメージは大したことはないが敵の姿が見えないのは厄介である。

 

「そうよ、あまごいで炎を消すのよ!」

 

 ヌメルゴンは特性うるおいボディを持っている。これは雨の時に状態異常を打ち消すことができる特性であり、対策としてあまごいを仕込んでいた。雨雲を頭上に浮かべて炎をかき消した。雨煙が辺り一帯を覆い結局相手の姿が見えない。

 

「……そこよ! メガホーン!」

 

 アリアドスが煙の中から突進してきた。両腕を前に突き出して堅いヌメルゴンの皮膚に渾身の一撃を打ち込んだ。低威力ではあるが不意打ちの角度から来た上に急所にも当たった。耐久力が自慢のヌメルゴンもこれには片膝を着いてしまった。

 

「ヌメルゴン!! 踏ん張って!」

 

 しかしヌメルゴンの顔色は良くなかった。さっきの一撃が余程堪えたのか息遣いが荒い。勝敗が決まるのも後僅かだろう。一見ノーダメージのアリアドスが有利に見えるがこちらの耐久は無いに等しいので一発被弾すればアウトだろう。

 

「そろそろ不味いわね……」

 

 清蘭が目配せをするとヌメルゴンはゆっくりと頷いた。この一ターンで終わらせようという合図であり、上空に向かってりゅうのはどうを打ち上げた。ヤマメたちは身構えたがこれを直接ぶつけるわけではない。真下に落ちてきたこの技は姿を変えて青紫色の剣になり、ヌメルゴンの右手に収まっていた。

 

「アリアドス君、この一撃に全てを込める! さあ、おいで!」

 

 元々ヌメルゴンは接近戦の方が得意であるがそれに該当する技を覚えられなかった。そのため使える遠距離技を無理矢理近距離技にすることで戦闘スタイルを広げた。近距離相手には遠距離技、またはその逆を行うことで相手の得意分野を封じることができるが今の状況はそんなに甘くない。一番得意な剣技で一撃でアリアドスを仕留める腹積もりであった。

 

「ああ! 行くぞ」

 

 ヌメルゴンの考えが汲み取れたわけではない。しかし接近戦は好都合だったのでその勝負に乗ることにした。いつ被弾するか分からなかったのでアリアドスもこれで終わらせたい。右脚を輝かせてメガホーンの準備をする一方相手は居合のポーズを取っており動く様子はなかった。こちらから攻めてきたところを返り討ちにするようだ。

 

「……はっ!!」

「ぐぅ!!」

「きゃあーー!!」

 

 アリアドスが一気に間合いを詰めて切りかかる。剣と拳がぶつかり合い辺りに衝撃波が伝わった。当然紅魔館の外壁にはヒビが入り周りのトレーナーたちは風圧に耐えていた。一進一退の攻撃のぶつかりあいは拮抗していたが……いずれ決着はつく。

 

「……強いな」

「君もね」

 

 お互いがたった一言交わした後、床に伏せたのは……

 

 

「そこまでです。勝者はアリアドス、ヤマメたちです」

「や、やったーー!」

「はぁ、はぁ。疲れた……」

 

 ヌメルゴンを撃破した後体力を使い果たしたのかその場でへたり込んでしまった。ヤマメはすかさずモンスターボールの中に戻して回復させた。しっかりとねぎらうとポケットに戻した。

 

「ヤマメ、ありがとうね」

「どうしたの? レミリア」

 

 背後から声をかけてきたのはレミリア。その顔には嬉しさと申し訳なさの混じった表情が浮かんでいた。

 

「私の分まで頑張ってくれてありがとう。本当はリーダーの私が勝っていたらもっと楽だっただろうけど……」

「レミリ…」

「そんなことないよ! レミリアちゃん!」

 

 余程勝つ自信があったのだろう。しおらしく感謝の意を述べていたレミリアに横槍を入れたのはヤマメではなくラルバだった。

 

「私、最初はすごく怖かったの。あんなに強い相手と戦わなくちゃっ、て。でも大将なのに颯爽と出るレミリアちゃんはすごくかっこよかった! だから勝てたのはレミリアちゃんのおかげだよ! ……って試合してない私が言っても仕方ないんだけどね……」

 

 何か口にしようとしていたヤマメだったがにっこりと口を閉じた。これ以上同じことを言う必要はないということだろう。

 

「ありがとうラルバ。あなたの本心が聞けて嬉しいわ」

 

 カリスマは本人の意図しないところで醸し出されるものである。ヤマメ、リグル、そしてラルバたちはもうすでに当てられていた。従者である咲夜はそれが見て取れたのであった。

 

「さすがですねお嬢様。今の紅魔館チームのリーダーの自分が恥ずかしくなるくらいですよ」

 

 相手チームから出てきたのは華人小娘、紅美鈴である。傍らにはうろこポケモンジャラランガが控えていた。つまり大将戦を務めるのが美鈴ということである。こちらのリーダーはすでに先発で出たのでラルバとリグルのどちらかがトリを務めなければならない。相手は弱いわけがなさそうなジャラランガ。だが二人の今の気持ちに恐れという言葉はなかった。二人で話し合って有利そうなラルバが出ることになった。

 

「おいで! アブリボン!」

 

 モンスターボールから勢いよく出てきたのはツリアブポケモンアブリボン。タイプはむし・フェアリーとジャラランガ相手には有利である。目をギラギラと輝かせて闘志は満ち溢れておりラルバ同様にやる気はばっちりのようだ。

 

「さあ、泣いても笑ってもこれで最終戦です。存分に全力をぶつけ合いましょう」

「うん! 負けないよ」

「それでは……はじめ!」




読んでいただきありがとうございます。中々モチベが上がらず一か月も遅れて申し訳ありませんでした。さて、残るはあと一試合! どちらが勝つのかお楽しみに~

No.16 清蘭 ドラゴンタイプ 相棒ポケモン ヌメルゴン ドラゴンタイプ 特性 うるおいボディ

使える技 りゅうのはどう ヘドロウェーブ あまごい かえんほうしゃ

種族値400が600族に勝つと言うジャイアントキリングは書いていて面白いです。ちなみに今回は対戦相手は全て600族というハードモードに揃えてみました。多分他のどのチームよりも苦労していると思います。大変だなー(他人事)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。