東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第二十三話 二日目の夜明け

 幻想郷を巻き込んだバトルから一夜が明けた。多くの者は博霊神社に集まり興奮を引きずって宴会に催していた。まだ終わってはいないのに宴をするのに幻想郷住民らしさが出ていた。だが神社で雑魚寝をしている間、休みなく動いている者たちもいた。

 

「どうかしら藍、見つかったかしら?」

「いえ、あの地獄の妖精の回りそうなところを隈なく探しましたがありませんでした」

 

 昨日の紅魔館チームのバトルの後、紫たちはクラウンピースを呼びつけた。目的は彼女のパートナーのボーマンダについてであった。異常な強さを誇るその力に少々違和感を感じていたのであった。この世界に呼びつけたのは藍であり、管理者である以上どのポケモンがどのくらいの強さになるのかを把握していた。だがたった一週間でタツベイからボーマンダに急速に進化することはないのである。

 

「そう……でも信じられないわね。そのメガストーンとやらは持ってこなかったんでしょう?」

 

 聞くと道端で綺麗な石とバングルのようなものを拾った途端急激に強くなったという。絵を描いてもらうとそれがメガストーンとメガバングルということにすぐ気が付いた。カロス地方でそのような物を藍が見たことがあったのである。もちろんパワーバランスが崩れるから持ってこず、ここにはないはずであった。

 

「はい。考えられるのは……私たちの関与しないポケモンが侵入してきているということでしょう。あの戎瓔花のポケモンの類かと」

「そうよね~ この結界破るなんて大したものだけど……でもそれだけでこの広い幻想郷を把握できるのかしら?」

「どういうことですか?」

「訳の分からない人妖蠢く幻想郷よ? 自力で身を潜められる拠点を確保できるとは思えないけど」

「まさか……」

 

 ウツロイドの存在がある以上何者かが不法侵入していることは事実。だが一日たった今でも賢者と式の包囲網を潜り抜けていることを加味すると考えられることは一つ。そう、幻想郷の者による裏切りである。

 

「今まで一体何人が異変を仕掛けたと思っているの? あの暇人集団の中には不良天人みたいな軽い動機で呼び寄せてみようという考えの者がいてもおかしくないわ。悪気があろうとなかろうとね」

「危機ですね……試合は中断しますか?」

「いえ、このまま続行するわ。バトルのエネルギーに充てられてボロが出るかもしれないし」

 

 幸いウツロイドの行方を追っている者がいることを知っている紫はすぐに事が大きくなることはないだろうと考えていた。しかし昨日のように司会も進行しながらはさすがに大変なので咲夜にバトンタッチすることにした。瀟洒な従者だから何とかしてくれるだろう。紫からの無茶振りに多少藍は同情した。

 

「それじゃあ藍、あなたはメガストーンの探索と怪しいポケモンの捕獲を任命するわ。私はその間裏切り者を調べておくから」

「かしこまりました。お気をつけて」

 

 そう言うと紫はスキマで移動していった。ただ藍に与えられた任務は少し大きい。手助けが必要だった。

 

「橙! いるか?」

「ハーイ! 藍しゃま! お呼びですか?」

 

 藍が手を叩くとどこからともなく藍の式、橙が現れた。橙はにこにこと藍の方に笑顔を向けており藍はその頭をナデナデしてながら命じた。

 

「紫様の命令で怪しい石を探すことになった。手伝ってくれ、その子もな」

「もちろんです! よろしくね、チョロネコ!」

「うん! 私頑張るね~!」

 

 橙の肩に乗っていたのはチョロネコ。小柄な橙と比較するとより小さく見える。橙たちは藍に命じられるがままに目標の箇所に駆けていった。手分けして幻想郷中を探すのは長い時間がかかるだろう。張り切っている橙と対照的に藍は溜め息をついていた。

 

 

 

「さて、昨日から一晩経ちましたが皆様いかがでしょうか。本日は八雲紫が不在のため私が審判をすることになってしまいました」

 

 咲夜は数時間ほど前に紫から司会を続行するように命令された。反論する前にスキマを閉じられたのでするしかなかった。その代わり皆に伝えるオーベムを助手につけるということなので、細かいことはやってくれるらしい。

 

「本日最初の試合は霧の湖で行います。霧の湖チームと人里チームは集まって下さい」

 

 昨日までは紫が仕切っていたので出演者を強制送還できたがスキマはないので言葉で伝えるしかなかった。多少時間はかかるが急に呼ばれるときの不満に比べたらマシだろう。

 

「ふぅ、それにしてもあなたも大変ね」

「いえ紫様はお忙しいので。私が少しでも力になれたら何よりです」

「あら立派ね。紅魔館で雇いたいくらいだわ」

 

 礼儀正しいオーベムについついスカウトしてしまう咲夜。働いてくれたら立派な戦力になるだろうと妄想していた。

 

「あの~咲夜さん。私がいる意味あります?」

 

 咲夜の後ろで控えていたのはジャラランガのパートナー紅美鈴。美鈴にとっては朝早くに叩き起こされてややご立腹。あくびしながら咲夜に答えた。

 

「私だけ働くのが癪だからよ。それにあなたもう出番ないでしょ。そこの600族の恥と一緒に手伝いなさい」

「ちょっと待て、誰が600族の……」

 

 ジャラランガが勝手にボールから飛び出してきて一言文句を言いに咲夜に近づいた。それを制止しようとした美鈴であったが間に合わなそうだったのであちゃーという声を出した。

 

「はあ?」

「なっ、なんでもありません……」

 

 咲夜の鋭い眼にジャラランガは一目散にボールにとんぼがえりした。天下のドラゴンタイプを一瞥しただけで萎縮させるメイド長。この世界の人間は人間離れしているなと人間でない美鈴たちは思った。

 

 

「じゃあ行くわよ」

「はーい、分かりました」

 

 咲夜の号令とともに一行は紅魔館の扉を開けた。紅魔館と霧の湖は徒歩三分なので歩いてすぐ到着する。諸々の準備をしていたのでもうすでに対戦相手達は今か今かと待ち構えていた。

 

「うおーー!! ついにアタイの出番だーー!!」

「昨日ずっと遊んでたもんね。チルノちゃん」

「ああ、でも今日のアタイは普段の⑨倍強いからな。一緒に頑張ろうな、大ちゃん!」

「だから私たち別のチームだってば~」

 

 咲夜たちの耳に最初に入ってきた声は氷の妖精、チルノとその大の仲良しである大妖精であった。二人は今回は敵チーム同士であるがチルノは未だによく分かっていない様子であった。

 

「そうよね~ 大ちゃんもこっちチームだったら良かったのにね。頑張ってねリーダー」

「え? 私がリーダーなの!?」

 

 スターサファイアが大妖精に激励を送るも当の本人は自分がリーダーだとは思っていなかったようだ。大妖精サイドは人里チームということで一番所縁のある寺子屋の先生に目配せをした。

 

「慧音先生! 私なんかよりも先生の方が向いてますって。代わってもらえませんか?」

「ふむ……リーダーか。おい、チルノ。そっちはお前がリーダーなのか?」

「もちろんだ! アタイが一番強いからな」

 

 クラウンピース同様に一番強い者がリーダーだと勘違いしているようである。だがそれに異を唱える者はいなかった。霧の湖チームに引っ張りたい者がいなかったためである。

 

「チルノちゃんはこっちの要だからね」

「ああ、それに私はリーダーって柄じゃないし」

「私も皆さんをサポートする方がしたいです」

 

 順に淡水の人魚わかさぎ姫、超妖怪弾頭河城にとり、そして毘沙門天の弟子寅丸星がチルノたちの仲間である。スターを含めた比較的穏やかなグループに場違いともいえるチルノが存在している。だがそのおかげでまとまりは存外良いものとなっている。チルノがリーダーで文句はなかったが大妖精サイドはまだ決めていなかった。何しろ暗黙の了解で歴史喰いの半獣上白沢慧音が務めるものだと思っていたからだ。

 

「ならばこちらは大妖精がリーダーだ。よろしく頼むよ」

「ええ!? 無理ですって。私じゃ到底……」

「なあよく考えて見ろ。わかさぎ姫が言ったようにチルノは向こうの要だ。そこを崩せば勝利に近づくのは分かるだろう?」

「で、でも私も私のポケモンもチルノちゃんに勝てるとは思えませんけど」

「なに、チルノの考えを読んで私たちに指示をくれればいいだけだ! 何も難しくはない」

「それが難しいんですけど……」

 

 簡単に言うがチルノの考えを読み取るのは並大抵のことではない。馬鹿だから単純と思われるかも知れないが馬鹿と天才は紙一重。常人では思いつかないことを幾度となく起こしている。この前の四季異変が終わった後ももう一度日焼けしてみたいと思ったときがあり、なんとなく神社に向かった。するとそのときたまたまお空が一緒におり、焼いてくれと頼んだ。お空もアホなので爆符「ペタフレア」を境内でぶっ放して神社とチルノを消し炭にした。後に霊夢から半殺しにされたのは言うまでもない。

 

「大ちゃんもリーダーか? これは楽しいな!」

「じゃあ、やってみます……勝てるかどうか分からないですけど」

 

 本当はやりたくはない。だがあんな燃えているチルノの曇った顔を見たくはなかった大妖精は引き受けることにした。

 

「じゃあ皆さんよろしくお願いします」

「うん……よろしく」

「何の何の! 儂らは仲間じゃ。手を取り合っていこうぞ」

「任せろ! シャキーン!」

 

 ローテンションのルナサ・プリズムリバー、優しく肩を叩く二ツ岩マミゾウ、そしてポーズを決めるも相変わらず無表情の秦こころが大妖精の味方である。

 

「それではよろしいでしょうか。まずルールの説明からさせていただきます」

「おや? 昨日と同じ様な形式ではないのかの?」

「ええ、マミゾウさん。八雲紫からの伝言でこのチームはこういう風にしてと頼まれております。そしてそのルールとは……一撃バトルというものです」

「一撃バトル? 何だそりゃ?」

「その名の通り相手に先に一撃当てた方の勝ちです。攻撃の威力は関係ありません。ですが技同士のぶつかり合いはノーカウントです」

「たとえばかみなりパンチとメガトンキックがぶつかり合ったときはOKということか?」

「そういうことです。今まで以上に守り、素早さが重要視されます」

「面白そうじゃない。でも色々考えないとだね」

 

 昨日も攻撃技を防御技に応用していた者は多くいた。それをルール化してバトルに幅を持たせようというのが紫の目的だろう。

 

「すぐ終わりそうで迷いますね。誰を選出すればよいのやら……」

「その点についてですが全員参加との旨です」

「……全員?」

 

 三対三のバトルがいきなり全員参加。しかもタイマンで五回戦うわけではないので混戦になることは間違いなく、どの戦いよりもスピーディーな戦いになると予想された。

 

「審判はどうなるの? 咲夜さんが全部頑張るの?」

「いえ、紅魔館のホフゴブリン、美鈴、およびチュパカブラの手を借りて判断を下します。範囲は霧の湖周辺の森とします」

「……え? 私もですか?」

 

 サラっと自分の名前が呼ばれて驚く美鈴。何も言われていなかったが大丈夫かという考えが過る。おそらくジャラランガも巻き添えだろう。ボールからため息が聞こえた気がした。

 

「それじゃあ十分後に合図送るから各々好きな位置について下さい」

 

 咲夜の説明が全て終わった後、皆ほとんど森の中に消えて行った。わかさぎ姫は湖の中で彼女のポケモンとともに潜んでいた。そしてその上空には姫のチームメイトがふよふよと浮いていた。

 

「そこでいいの? 目立っちゃうよ」

「ふふん! アタイはサイキョーだからな。目立ってしまうのも仕方ない!」

 

 森に潜んでいる他のメンバーから見てもすでにバレバレである。真下にすでにポケモンを配置させている。もうすぐ十分が過ぎてしまうので始まると同時にねらいうちされるだろう。分かっているのか分かっていないのか。

 

「……そろそろね。オーベム、準備はいいかしら?」

「もちろん、いつでも大丈夫です」

 

 オーベムが二チーム全員に聞こえるようにテレパシーを送れるように設定をし、全員がバトルモードに入った。大混戦になると予想されるので緊張が走る。

 

「それでは! 霧の湖チームと人里チームの一撃バトルの開始です!」

「早速行くよ! ラプラス! アタイたちのサイキョーのぜったいれいど!」

 

 チルノはぜったいれいどをパートナーのラプラスに命じた。その瞬間、湖とその木々が雪と氷で覆われてしまい四季異変時の魔法の森並みの冬の装いをもたらした。




 読んでいただきありがとうございます。何とか新年明けてから一週間以内に挙げられました。劇中では不穏なスタートですが今年もよろしくお願いします。目標はとりあえず一通り全チーム戦わせてあげることです。

No.18 橙 じめんタイプ 相棒ポケモン チョロネコ あくタイプ 

使える技 ひっかく みだれひっかき じゃれつく ねこだまし

 戦闘狂ばかりの幻想郷ですがこのチョロネコと橙は唯一戦わないコンビです。本当は橙は祭りに参加する予定でしたがチョロネコが戦う気がなかったので不参加となりました。いつの間にか橙に懐いていました。今後も藍のお手伝い役として出てくるかもしれませんがバトルシーンは一切ありません。ゴメンなさいね。
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