東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第二十五話 残り二人

「やった! 騒霊を一人倒したわ!」

 

 ルナサの背後から降り注ぐ星の光、スターサファイアが突進してきた。彼女の相棒はガラルギャロップであり、ロトムの背中にクリーンヒットした。にとりの作戦でスターサファイアと組んでおり確実に一人は潰す算段を立てていた。卑怯かもしれないがルール上は何も問題はない。

 

「ロトム、大丈夫!?」

「……うん。ダメージは全くない」

 

 咲夜の声も聞こえないことから今の攻撃はもしや不発だったのだろうかと考えたロトムだった。しかし手ごたえはしっかりあった。不可解に思っていたが数秒後に謎は解けた。

 

「あれ? スター、今の攻撃って何だった?」

「つのドリルよ。普段から一撃必殺なんでしょ? 折角なら使いたいじゃない」

「それでか……いいか、今回はそれは禁止だぞ」

「えー、かっこいいのに……」

 

 にとりの作戦に誤算があったとすれば相手のタイプである。ロトムはでんき・ゴーストタイプであり、ノーマルタイプ技のつのドリルは効果はない。そのため当たった気がしたが判定は無しとなったわけである。

 

「妖精は一撃必殺が好きなのかしら……? まあいいわ。やりましょう」

 

 不意打ちは効かなかったが依然ルナサが不利なことには変わらない。相手は二人、しかも近距離が得意なギャロップと遠距離が得意なハスブレロ。一発当てたら終わりのこのルールではほぼほぼ詰んでいる。しかしここで逃げると残りのメンバーに被害が及ぶかもしれない。長女であるルナサに逃げの選択肢はなかった。

 

「へへ、後悔しないことだな」

「ギャロップ、サイコカッター!」

「シャドーボールで迎え撃て!」

 

 圧倒的に不利だが負けられない戦いが始まった。

 

 

 

「そのポケモンってなんていうポケモンなんだ?」

「パンプジンだ。タネばくだんが自慢だぞ」

「もしかしてくさタイプの技か? それならアタイの方が有利だな!」

「ほほう。氷精が相性を理解しているとは流石じゃの」

「ふふん! アタイは天才だからな!」

「大妖精さんが大変だったって言ってましたよ」

「大ちゃんはアタイの次に天才だからな!」

「そういう意味でしょうか……?」

 

 チルノは中々敵が現れなかったためすでに脱落していたこころたちと談笑していた。戦場のはずなのになぜかニコニコしている。ルナサたちの戦いが長引いているのかマミゾウが脱落してから長い時間が経過していた。周りが雪だらけで寒いので、チルノ以外はパンプジンのおにびで皆暖をとっていた。ライコウとオオタチは特に寒さに弱いらしくすでにおねむである。

 

「ふぅ、やっとたどり着いた。おい、チルノ! いるか?」

「ん? げっ、慧音!」

 

 そこに現れたるは歴史喰いの半獣、上白沢慧音であった。先ほどまでの和やかな雰囲気から一転、ピリッと引き締まった。寺子屋の教師という肩書きも相まってチルノの顔が引きつっていた。

 

「チルノ……今は試合中だぞ。油断しすぎは命取りになることを重々承知しておきなさい」

「はいはーい」

 

 敵にもかかわらずアドバイスを送るのが実に教師らしい。さっきもお喋りしている間に一発お見舞いするチャンスはいくらでもあったがしなかったのは正々堂々が好きだからだろう。にとりたちとは大違いである。

 

「それではミルタンク、頼むぞ」

「任せて慧音」

 

 ミルタンクは出会って初日に慧音とパートナーになった。本人はバトル好きというわけではないが戦闘経験値は高い。というのもジョウト地方のとあるジムリーダーはとんでもなく強いミルタンクを手持ちにしているのだがそれは何を隠そうこのミルタンクの妹である。様々なチャレンジャーにトラウマを植え付けるレベルの強さを誇るそのミルタンクの戦術は姉直伝である。

 

「よーし、いつもの頭突きのうらみを晴らすぞ! ラプラス」

「ただのやつあたりじゃないの。まあ戦うけどね」

 

 一言ツッコミを挟んでからラプラスは息を大きく吸い込んだ。空気を一か所に集約させて目の前の相手に向かってぜったいれいどを再び放った。

 

「ほのおのパンチを……さっきの倍くらいの威力で放ってくれ」

 

 言われた通りにミルタンクは力を込めてほのおのパンチで弾いた。勢いが先ほどよりも上がっておりギリギリ相殺することができた。慧音はラプラスの動きだけで同じ技、それも強めのものが飛んでくると予想して的確な指示をミルタンクに送った。猛者である上に鋭いコーチが付いていることが難易度を遥かに上げているとラプラスは察した。チルノはそうでもないが。

 

「おー強いな! アタイのラプラスと同じくらいだな!」

「ありがとね。でもこのルールではあなたたちの方が有利よ。一発当てさえすればいいからね」

 

 ミルタンクの言う通り遠距離かつ広範囲技を持つチルノたちが断然有利であった。慧音サイドは全て接近技か回復技しか覚えていなかった。普通のバトルでは負けなしかもしれないが今回は勝てる保証はなかった。だから策を講じる必要があった。

 

「……! ミルタンク、戻れ!」

「どうしたの? 慧音」

 

 何か思いついた慧音に呼ばれてミルタンクは一旦身を引いた。何やらヒソヒソと話しているようである。

 

「どうしたんだ? アレ」

「さあ……でも何か考えがあるんじゃないかしら」

 

 今攻撃するのも面白くないと考えているチルノたちは一旦休憩に入った。ぜったいれいどは元々一撃必殺技。そうポンポンと連発できるものでもない。じっくりと力を抜いて次の攻撃に備えた。

 

「分かったわ。チャンスは一回だけね」

「ああ。タイミングは任せてくれ」

 

 話し合いが終わったようで二人はチルノたちの方を向いた。チルノも相手の本気をようやく察したようでラプラスの背中に乗った。全力の戦いのときはいつも背中に乗って指示を出すのである。

 

「まずはころがる攻撃だ!」

 

 ミルタンクの十八番、ころがる攻撃が炸裂した。だがミルタンクはラプラスの方向ではなく何故かスケートリンクになった湖の周辺に回るように転がり始めた。

 

「どこに向かって走っているんだ? まあいい。あそこにむかってじわれ!」

「え、ちょ……」

 

 ラプラスは湖の中心にいるため円の端までは最長距離にいる。じわれの攻撃が届くころにはもうその場にいないため楽に避けることができる。連発しているがことごとく外してしまっている。この被害を最も受けたのは湖の中にいるわかさぎ姫たちである。紙一重で当たってはいないようだが肝が氷よりも冷えていることだろう。そんなことお構いなしに狙いを定めるチルノたちだがふとあることに気付いた。

 

「何か速くなってないか?」

「よく気付いたなチルノ。このころがるという攻撃は徐々にスピードとパワーが上がる技なのだ! しばらくするとチルノたちでも防ぎきれない肉弾戦車が飛んでくるぞ」

 

 もともとミルタンクの居た世界ではこの攻撃に手の付けられないものがほとんどであった。毎ターン威力が倍増していく恐怖が広まったためそのトラウマが轟いたのである。しかしそんなトラウマなど知らないチルノはすぐに次の手を打ち始めた。

 

「じゃあその前に倒してやる! ラプラス、ぜったいれいど!」

 

 今度はぜったいれいどを自分を基準として同心円状に放った。直線上の攻撃ではなく平面での攻撃。しかもたとえジャンプされたとしても十分に引っかかるくらいには高さを持たせた。これで確実にヒットする、そう思っていた。

 

「いっけえーー!」

「まだ甘いぞ! ミルタンク、右手のみにほのおのパンチ!」

 

 すでにピンク色の球体にしかなっていなかった体が赤く燃え始めた。その火球はラプラスの冷気を軽く消し飛ばした。もしもぜったいれいどがミルタンクに当たっていたとしてもころがる状態なので決着は着かなかった。だが風圧によってスピードは落ちていたのは明らかだった。それを見越した上で炎の威力もかさましされた。いよいよ止める術はない。

 

「そろそろ行くぞ、チルノ! ころがる攻撃!」

「くっ、ここまでかしら……」

「……ハッ! そうだラプラス! 正面に向かってあの技よ!」

「えっ!? でも……」

「早く! アタイを信じて!」

 

 ラプラスの覚えている技は三つだけでありどの技を指しているのかは分かっていた。チルノが一番のお気に入りの技であるが疲労の溜まっている今のラプラスの攻撃程度じゃミルタンクは止まらないことは分かっていた。しかし……

 

「しっかりつかまっててよ!」

 

 ラプラスは自分にない明るさ、無邪気さを備えているチルノのような人物に憧れがあった。そのような人物に友達になろうぜと言われた瞬間から信じてみたいと思った。チルノに何か考えがあるのならば応えてみせる。ラプラスは全身の力を振り絞って地面につのを突き刺した。

 

「何!?」

 

 ラプラス直下のリンクは粉々に砕け、水中に潜りこんだ。間一髪、紙一重でころがる攻撃をかわされた。次に浮かび上がってきたときに当てよう、そう思った瞬間大地が揺らいだ。氷のフィールドが一斉に崩壊してミルタンクが湖に落ちてしまった。

 

「今よ! つのドリル!!」

「ミルタンクー!」

 

 チルノお気に入りの技が水中からミルタンクめがけて炸裂した。ミルタンクは空へと放り出されて慧音に抱きかかえられた。まさに一撃必殺であった。

 

「チルノ、ラプラスたちの勝利です」

 

 咲夜の掛け声が強敵、慧音とミルタンクのバトルの終わりを告げた。申し訳なさそうな顔をするミルタンクをボールに戻してじっくりと労わった。慧音はチルノに近寄った。

 

「見事だったなお前たち」

「へへ、アタイたちったらサイキョーだからね!」

 

 満面の笑みでピースサインを決めるチルノ。それを保護者の面持ちで眺める慧音とラプラスであった。

 

「それにしてもつのドリルで地面を叩き割ったのはなぜだ?」

 

 あの状況ならば体全体を使うつのドリルよりもじわれで砕いた方が確実であった。それはラプラスも懸念していたところであった。

 

「ん~? なんとなく氷がなくなりそうだった気がしたから全部割っちゃえ! って。あとアタイドリル好きだし」

 

 慧音たちの誤算は二つあった。一つは相手が氷の妖精であるため氷の扱いに手馴れていること。どのくらいで氷が無くなるかの感覚が向こう側はばっちり把握できていた。もう一つはほのおのパンチの威力が強すぎて溶かすスピードを早めてしまったことであった。今までも氷のバトルフィールドで戦ったことはあったが地面を溶かすほどのパワーは持ち合わせていなかった。幻想郷に来てパワーアップしすぎてしまったことが敗因であった。

 

「そうか。とりあえず私たちはお前たちのバトルを最後まで見させてもらおう。まだ終わったわけではないからな」

 

 慧音は皆が待つ紅魔館前のベンチに座った。慧音の言うとおりまだ試合は終わっていない。はっとしたチルノはラプラスに尋ねた。

 

「あれ? 残っているのって誰だ?」

「えーっと、私たちとルナサさんたち。それににとりさんたちとスターサファイアさんたちと……」

「そこまで! ルナサとロトム、にとりとハスブレロ、そしてスターサファイアとギャロップが脱落です」

「え!?」

 

 遠くで咲夜の声が響いた。誰がアウトになったか把握できるように拡声機能がオーベムによって付けられている。

 

「ちょっと待って。アタイたち全員で⑨人であそこにいるのが八人だから……あれ? アタイの優勝?」

「違うでしょ。全員で十人。あと一人いるでしょ。あなたの大親友」

「それって……」

「そう、私だよ。チルノちゃん」

 

 黄緑の髪がチルノの背中を撫でた。いつの間にか背後を取られていた。




 読んでいただきありがとうございます。今回でついに残り二人になってしまいましたね。一発当てれば終わるのに何でこんなに執筆時間がかかるんでしょうね? 次でチルノ編ラストです。

No.20 上白沢慧音 ノーマル・かくとうタイプ 相棒ポケモン ミルタンク ノーマルタイプ 

使える技 ほのおのパンチ ころがる ミルクのみ まるくなる

 劇中に出てきたようにミルタンクにはトラウマエピソードを付けております。なお妹云々は完全にオリジナルです。このチートポケモンはこのまま放っておくのはもったいないのでまた後で出てくると思います。
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