東方携帯獣   作:海老の尻尾

29 / 38
第二十六話 幕引き

 霧の湖チームと人里チームがお互い一人ずつになる少し前、人里チームは窮地に陥っていた。頼れる慧音がチルノに倒された上に二対一になっていたルナサまでも負けてしまったからである。

 

「ぐっ、しまった……」

 

 ハスブレロがあまごいをして雨雲を作り出したところをギャロップのとびはねるが炸裂してしまったのである。雲に姿を忍ばせることで動きを悟らせないようにしたのは見事な作戦勝ちであった。ルナサは自分が思った以上に足止めができなかったことを後悔していた。

 

「よし、それじゃあ早速チルノの加勢に……」

 

 木から降りてきたハスブレロとともににとりが湖の方向に行こうとした瞬間、背後からの突風を感じた。何かが自分たちに向かって近づいてきている。すぐさま構えようとしたが遅かった。その何者かは自分たちの間をすり抜けて立ち去って行った。ダメージを与えられた痕跡が無いと安堵したのも束の間、急激な眠気が二組を襲った。

 

「ふぁ……なんだか、ねむく……」

「ひゅ、ひゅい……zzz」

 

 四人はその場に倒れこみそのまま寝てしまった。気付いた時には紅魔館のそばのベンチに座らされていた。彼女らは“ねむりごな”を受けてしまったのだ。今回のルールではこの技のように状態異常を引き起こす場合も攻撃技とみなされる。攻撃を与えた側はふきとばしで自分の進行方向と逆の方向に噴射して加速していた。その目にも止まらぬ勢いのまま霧の湖に向かって行ったのだった。

 

 

 

「そうか……とうとうアタイたちだけになったんだな。大ちゃん!」

「ええ。こうしてチルノちゃんと一対一で戦うことになるなんて夢にも思わなかったよ」

 

 人里チームのキャプテン、大妖精がチルノと背中合わせで湖の上に浮かんでいた。その下にいるラプラスは一点だけを見つめておりその先に居たのは一匹のポケモンだった。大妖精に遅れて湖に現れたるはちょうちょポケモンバタフリー。大妖精のパートナーポケモンである。にとりたちを眠らせたのも突風を巻き起こしたのも全てバタフリーの仕業であった。

 

「アイツが大ちゃんの相棒ポケモンか? かっこいいな」

「スピードにはちょっと自信があるんだ」

 

 パワーのチルノとは対照的にスピード特化の大妖精。このルールではスピードが有利に働く上にチルノのラプラスは手負い。バタフリーサイドはほぼ無傷の状態である。大妖精に大いに分があるが果たしてチルノはどう戦うのか……

 

「じゃあチルノちゃん、そろそろ……」

「そうだな。ギブアップだ」

「ええ、これが最後の勝負に……え?」

「「「「えええええええええええええええええええ!!!!」」」」

 

 両チームの声が一致した瞬間だった。バチバチのバトルが始まるかと思いきやあっという間の幕引きだった。しかもそれをチルノが言うとはここにいる誰しも、ラプラスでさえ思わなかった。

 

「ど、どうしてなのチルノちゃん!?」

「だってアタイ大ちゃんと戦いたくないし。それにアタイの相棒のラプラスもしんどそうだしな。だからこれで終わりだ!」

 

 後半の理由はともかく、大妖精と敵チームならば戦うことも容易に考えられただろうが……そのあたりは流石⑨といったところである。皆呆気にとられているが咲夜は司会をせねばならなかった。

 

「そ、それではチルノとラプラスの降参ということでこの勝負人里チームの勝利です」

「やったー」

「よくやったなお前たち!」

 

 相手に一撃当てれば勝利の変則的なこのバトルを制したのは大妖精率いる人里チームだった。健闘した慧音はもちろん、尽力できなかったこころも大いに(お面で)喜んでいた。

 

「のう、お主はどうじゃった?」

「私ですか? そうですね……自分の未熟さを知れる良い機会でした。勝負は楽しめたので負けても後悔はありませんよ」

「なんじゃ、案外さっぱりとしておるの」

「素直に認めることから一歩は始まるので」

 

 マミゾウが合間見えた相手、寅丸星に感想を尋ねるも予想していた悔しげな返答はなかった。さすがは命蓮寺の連中といったところだろうか。

 

「でも楽しかったな! 大ちゃん!」

「……本当に良かったの? チルノちゃん」

 

 十分に納得していない者が一人いた。本人も本当に戦いたかったわけではないだろう。ましてや相手が大親友ならばなおのことである。こんな幕引きで本当にいいのか。いや、それよりもチルノを差し置いて自分が進んでいいのだろうかという疑問の方が強いのだろう。

 

「何も問題はないぞ! 大ちゃんはアタイの相棒だからな。アタイは大ちゃんみたいなものだ!」

「……? そっか、ありがとうチルノちゃん」

 

 よく分からないチルノ理論だがその言葉は大妖精に勇気を与えた。小さなことで悩んでいたのが阿保らしいなと思い、チルノの分まで頑張ろうと決意した大妖精だった。二人の固い絆を示す握手で戦いは幕を閉じた。

 

 

 

「さて、次の対戦相手は……」

 

 咲夜が次の対戦チームを確認した。無縁塚チームと神霊廟チームであり、無縁塚チームは咲夜がいるチームだった。自分のチームが出番なので公平を期すために審判をするわけにはいかない。

 

「あら、誰かに頼むしかないかしら……」

「問題ないわよ。助かったわ咲夜」

「うわ! なんだあなたですか」

 

 咲夜の背後から忍び寄ってきたのは自分の仕事を押し付けた八雲紫だった。急に現れるのは心臓に悪い。

 

「もうすぐあなたの番かと思ってね。今やっていることは藍に一旦任しているわ。じゃあすぐに神霊廟に飛ばすわね」

「え、ちょっと待っ……」

 

 問答無用でスキマの中に飛ばされた。人の話を聞かない奴ばかりの幻想郷とはいえ無茶苦茶であると思った。ポイッと放り出されたのは神霊廟であった。そこにはもうすでに自分以外の全てのメンバーが揃っていた。

 

「遅かったじゃないか紅魔館のメイドさん」

「もうすでに対戦相手は決まってますよ」

 

 同じ無縁塚チームの風見幽香、永江衣玖が咲夜に近づいてきた。対戦前だというのに相手の神霊廟チームのルーミアと宮古芳香がその辺で遊びまわっていたりと、のんびりとした雰囲気が漂っていた。

 

「そうですかお待たせしました……って、え? 私はいないんですか?」

「そうですね。屠自古さんと芳香さん。メディスンさんと諏訪子さん。そして幽香さんと里乃さんという組み合わせになりました。ついさっき決まったところです」

 

 咲夜がチルノたちの審判をしていた最中にもうすでに集結しており、じっくりと決めてしまった。間に割り込むこともできないのでこのまま試合は始まる。だったら審判を変わる必要なかったなと思う咲夜だった。

 

「うむ。それじゃあ全員来たことだし始めようか!」

「ちょっとそこの仙人さん。審判は私なんだけど?」

「おお、そうだったな。だが私がやった方がスムーズに進むと思うぞ?」

「まあそうかもしれないけど」

 

 紫に代わって試合を仕切り始めたのは幻想郷の聖人が一人、豊聡耳神子であった。彼女のホームであるここ神霊廟であるので道理ではあるのだが……ますます自分の立場がなくなる気がした咲夜であった。意外と広い廟内であるので各試合どこの範囲内でするかを決めて試合の準備を始めた。他の者はどの三試合も見れる位置に鎮座しており応援を送っている。

 

「頑張るのかー」

「気をつけてくださいね~」

 

 高い位置からルーミアと衣玖が見下ろしていた。試合のないものは暇なのである。なお今回は普通のルールで行うようである。先に二勝して勝ち越した方のチームの勝利である。

 

「皆準備はいいかしら? それじゃあ……」

「精一杯善処したまえ! 試合開始だ!」

 

 決め台詞を取られて不満な紫を尻目に三試合が一斉にスタートした。




 読んでいただきありがとうございました。何とか今月中に二本投稿できました。一つ前にバトルシーン盛りすぎたので今回はずいぶんと少なくなってしまいました。スミマセン……。バトルシーン皆無で面白かったかどうか不安でした。

No.21 チルノ こおり・フェアリータイプ 相棒ポケモン ラプラス みず・こおりタイプ 

使える技 ぜったいれいど じわれ つのドリル

 最初はタイプに合わせてアローラキュウコンにする予定でした。しかし一撃バトルをしようと決めたとき、『一撃必殺技で固めよう!』と思いついて三つの一撃技が使えるラプラスに決めました。チルノが勝つ展開も考えましたがそれよりも大ちゃんを活躍させたかったので人里チームの勝利にしました。チルノファンに恨まれるかもしれませんが……

 私事ですが今現在同時並行でしている小説があるので次回投稿は少し遅れるかもしれません
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。