東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第二十七話 重量級

 神霊廟北西部、ここでは小さなスイートポイズン、メディスン・メランコリーと土着神の頂点、洩矢諏訪子が対峙していた。小さいもの同士ではあるがパートナーはお互いにゴリゴリのポケモン、かつ同種のポケモンたちだった。

 

「そのつるのムチを放さないでね」

「こっちも負けないで! フシギバナ!」

 

 メディスンのパートナーであるフシギバナの放ったつるのムチが、諏訪子の相棒のガマゲロゲによってガッチリと掴まれているのが今の状況である。みず・じめんタイプであるガマゲロゲにとってくさ技は効果抜群甚だしい。当たりそうだったところを間一髪でかわして逆に動きを封じたのである。

 

「これでそっちは手を出せないでしょ!」

 

 ガマゲロゲは両手が塞がっており思うように攻撃ができない。しかしフシギバナの方はこの状態からでも出せる技を持っている。体にエネルギーを貯めて花の部分が輝き始めた。一気に決着を決めるつもりだろう。

 

「そんな悠長にしていていいのかな? 自分のツルをよく見てごらん?」

「ん? !! 何だこれは!?」

 

 ガマゲロゲの掴んでいるツルの先端が緑色から紫色に変色し始めた。驚いたフシギバナは思わず力を緩めてしまった。

 

「お前、一体何を……」

 

 フシギバナはその紫色の箇所をはっぱカッターで切断して浸食を妨げた。痛覚はないために体に異変がないか確かめておりメディスンも心配そうに見ていた。

 

「大丈夫? 痛くない?」

「ああ。だが迂闊に触れるのは厄介かもしれん」

 

 フシギバナは相手から気持ち少しだけ距離を取った。こちらの手札の中で搦め手となりうる技は持ち合わせていない。遠距離での攻撃が主体になると思われた。

 

「来ないのか? それならこっちから行くぞ!」

「ガマゲロゲ、ハイドロポンプ」

 

 体を大きく膨らませて大量の水が放出された。無駄な方向に水流を分散させていないので貫通力が凄まじい。銃弾のように回転しながら突き進んでおり、当たればひとたまりもないだろう。こうかはいまひとつとはいえもちろんモロに受けるわけにはいかない。

 

「だいちのちからでガードよ!」

 

 フシギバナが下に向かってパワーを与えると地面が盛り上がり目の前に大きな壁が現れた。放たれたハイドロポンプは壁を破壊しながら前進してくる。本来は相手の真下から攻撃する技であるが、防御にも使えることを他の者のバトルから盗み取り、応用したのである。水流の勢いも段々と弱くなっていき、壁は全て決壊してしまったがフシギバナに当たったダメージはほんのわずかであった。

 

「ほぅ……中々やるじゃない」

「この子は強いからね! 次はこっちの番よ!」

 

 メディスンサイドの次なる攻撃ははっぱカッター。柔軟でしなやかなつるのムチを一刀両断したことから分かるように切れ味は抜群。だが多数の刃がガマゲロゲを襲うも全てマッドショットで打ち落とした。マシンガンのように発射される泥の弾にはカッターも意味を成さなかった。互いに有効打のある遠距離技がないと分かると次は接近戦に持ち込む。

 

「距離を詰めてね」

 

 ガマゲロゲはその巨体を揺らしながらフシギバナとの間合いを詰める。負けじとフシギバナもカエル跳びで近づくので地面がやや揺れた。重量級同士がぶつかり合うとこうも鈍い音がするのかと知ったメディスンたちだった。だがこの状態はメディスンサイドにとってはよろしくなかった。

 

「またかかったな。これでもくらえ!」

「ぐっ! この紫色はまた……?」

 

 最初のときと同じ状況になってしまった。ガマゲロゲの手からフシギバナの体へと紫色の色素が浸食していっている。先程のようにはっぱカッターで裁断するわけにもいかないのでどんどん蝕まれて緑色の体が変色してしまった。

 

「フシギバナーー!!」

 

 メディスンは困惑していた。何をすればいい? どんな指示を出せばいい? しかし頭の中ではまとまらなかった。こういう不測の事態に陥った時に上手く対処できるほど経験は深くなかった。あわあわするメディスンに振り向きフシギバナはこう言った。

 

「大丈夫だメディスン。これは……攻撃じゃない」

「え!? どういう……」

 

 あからさまに変化があるのに何を言っているんだと思った。攻撃じゃない? そんなわけがない。だがフシギバナが嘘、あるいは強がりを言っている風にも思えない。メディスンには無効化できるジャンルが一つだけあることを思い出した。

 

「もしかして……その技どくどく?」

 

 フシギバナはくさ・どくタイプ。どくタイプはどくどくを無効化できることを忘れていた。メディスンの質問に諏訪子は口角を少しだけ上げた。

 

「惜しいね。私たちの技はヘドロウェーブ。触れた相手を痺れさせて動けなくすることができるはずなんだけど……普通に動けてるね」

 

 同じカエルモチーフだがタイプ的に忘れがちなのが毒の存在。当然どく技の一つや二つ覚えられる。しかしいくらどくタイプだからといって変化技のどくどくとは違い普通の攻撃技である。未だピンピンしているのに違和感を感じていた。

 

「ふふ、私たちね。どくのエキスパートなのよ。特訓の末、ついに全てのどく技を無効化しただけじゃないの」

 

 フシギバナはまだガマゲロゲの腕を掴んでいた。決して逃さないように。

 

「相手のどく技を自分のエネルギーにできたのよ! フシギバナ、ソーラービーム!」

 

 フシギバナの背中の花が輝き始めた。メディスンがいつも見ているものよりもさらに明るい。しっかりと相手のヘドロウェーブのエネルギーを吸い取った証拠だろう。照準をガマゲロゲに向けて発射準備万端であった。当たれば一撃で飛ぶので勝利を確信していたメディスンたちだったが、どういうわけか諏訪子たちに焦る様子はどこにもなかった。

 

「油断した時点で負けなのよ、小さな人形さん。あまごいよ」

「えっ!?」

「からのハイドロポンプ」

 

 二匹の真上に大きな雨雲が立ち込め、局所的豪雨をもたらした。この状況下ではみずタイプのガマゲロゲのパワーは上がる。しかも超至近距離でのハイドロポンプは先程の比にならない。掴んでいた腕はするりとほどかれ、水の爆流がフシギバナを押し出した。そのまま神霊廟まで突っ込んでいき、建物は粉々になってしまった。

 

「ああー⁉ 神霊廟が‼」

 

 神子は目を丸くしていた。立派な霊廟が水と蛙の圧力で見るも無残になってしまった。しかしこれ以上はひどくなることはない。早くも決着がついたからだ。

 

「そこまで! 洩矢諏訪子とガマゲロゲの勝利よ」

「天候を操れるようになってから出直してきなさい」

 

 もしもあの場でにほんばれを使用していたら結果は変わっていたかもしれない。ソーラービームももっと素早く打てるようになるので覚えるべきであった。ことポケモンバトルにおいて天候の重要性を再確認できた試合であった。

 

「もっと強くなろうね、フシギバナ」

「ああ……そうだな」

 

 パワフルさに自信があったフシギバナだったが、そのパワーで押し切られてショックだろう。だが負けはしたが今後に向けていいものは得られたので後悔はしていなかった。

 

「まずはにほんばれを覚えないとだな」

「そうだね、こんな風に……って、あれ?」

 

 さっきまで雨雲が闊歩していたはずなのにいつの間にかサンサンと太陽が輝いていた。目指していた技を誰かが使用したということであった。諏訪子とメディスンはポケモンをボールに戻してギラギラの中心地に向かった。場所は神霊廟南東部、自分たちの真向かいの方角であった。そこでは四季のフラワーマスター、風見幽香と危険すぎるバックダンサーズの片割れ、爾子田里乃が戦っているはずだった。

 

「あなたはこれに耐えられるかしら? キマワリ、ソーラービーム!」

「ウッ、キャァアアアアアーー!!」

「ドレディアちゃーーん!!」

 

 こうなるはずだった未来の戦いが今この場で起きていた。幽香のパートナーキマワリがにほんばれからのソーラービームを放ち、それが里乃のドレディアに炸裂した。こうかはいまひとつであるにもかかわらずドレディアは大地に伏した。

 

「そこまで。幽香たちの勝ちよ」

 

 

 後から聞いた話だが幽香たちが使った技はあのコンボだけで他の技は一切使っていなかったという。ドレディアのはなふぶき、かふんだんご、はたまたはかいこうせんまでもすべて軽々とかわしていたらしい。幽香と仲のいいメディスンは早速にほんばれの習得を目標にして幽香たちに教えてほしいと頼んだ。




 読んでいただきありがとうございました。四月ということで新生活もスタートして慣れてきたので再開しました。こんな感じで月一ペースになるかと思いますが気長にお待ちいただけると嬉しい限りです。

No.22 メディスン・メランコリー くさ・どくタイプ 相棒ポケモン フシギバナ くさ・どくタイプ

使える技 つるのムチ はっぱカッター ソーラービーム だいちのちから

 最初はタイプ的にもっと可愛いポケモンにしようかと思っていました(ロゼリアとかラフレシアとか)。でもガマゲロゲと戦わせるならゴツいほうがいいと思い、フシギバナに決めました。サトシのフシギダネよろしくメディスンに非常に懐いています。今では毒無効化どころか吸収できるレベルまで成長したので今後出てくる大きな局面で活躍してくれると思います。今から書くのが楽しみです~

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