東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第二十八話 柔の戦い

「まさかお前と戦うとはな」

 

 二チームの決着が付く数分前、神霊廟南西部ではここを根城とする二組が試合を開始しようとしていた。手のひらに電気を集めてバチバチと威嚇をしているのは神の末裔の亡霊、蘇我屠自古であった。彼女の傍らに位置するのはらいでんポケモンエレキブル。腕を高速回転させており、“やるき”に満ち満ちているようだ。

 

「おー、楽しみだな屠自古~!」

 

 気の抜けた返事をしているのは屠自古の古い仲間、宮古芳香。彼女はキョンシーであるため、普段は主人であるはずの青蛾が身の回りのお世話をしている。今回は青蛾と一緒ではないのでその係はパートナーポケモンであるコジョンドが務めていた。コジョンドの長い腕の肘辺りにぶら下がって遊んでいた。

 

「じゃあこっちもそろそろ始めるぞ」

「いいぞ~! ねこだましだー」

「えっ、ちょっ」

 

 緩い掛け声には似つかわしくないコジョンドの俊敏な動きでエレキブルの眼前に張り手が炸裂した。戦闘態勢が不完全だったため防御態勢を取れずにモロに受けてしまった。

 

「おい! 急すぎるじゃろ!」

「すでに戦いは始まっている。私の攻撃を避けられなかった方が悪い」

 

 コジョンドの正論は正論のため何も言い返せなかった。エレキブルは再び立ち上がり拳を構えた。

 

「今度はこっちの番だ! かわらわり!」

 

 エレキブルの手刀がコジョンドを襲った。当たれば脳天が一撃でカチ割れそうなほどの威力だったがひらりとした動きでかわされるた。

 

「まだまだ! 連続で打ち続けるんだ!」

 

 しかしコジョンドは汗一つかかずに優雅にかわし続ける。長いリーチと独特の体術がそれを可能にしている。次第にエレキブルの方が汗をかき始めてきたので技を仕掛けるとした。

 

「じゃあいわなだれよろしく~!」

「かみなりパンチで打ち落としてやんよ!」

 

 芳香の指示通り空から無数の岩が降り注いできた。スピード、重量どちらも大きく避けるのは至難の業であるためエレキブルは全て叩き落とした。猛烈なラッシュで石片が塵に変わっただけではなく、電撃が目眩ましになり前進していることに気付かせなかった。

 

「ワシの一撃を喰らえ!」

「聞かないよ、おじいさん」

「ワシはまだまだ若いわ!」

 

 まるで攻撃を読んでいたかのように二者の間には黄色の壁が隔たれていた。リフレクターが勢いを殺してコジョンドへの衝撃はほとんどなかった。エレキブル爺は反撃が来る前に一旦距離を取り、再び態勢を整えた。見た目と違い慎重に勝負を仕掛けるタイプである。

 

「さて、どうするか……」

「あらあら、頑張っているじゃない芳香」

「ん? おー、青蛾!」

 

 芳香の背後から声をかけたのはすでに勝負を終えた霍青蛾だった。飼い猫のように芳香の顎を撫でて甘やかしていた。従者の様子を確認しに来たのだろう。

 

「何しに来たんだ青蛾。まさか二対一というわけではあるまいな」

「そんな無粋なことしないわよ~ ただの見学」

「青蛾! 私頑張るぞー」

「うふふ、期待しているわ」

「芳香、やるよ」

 

 参観日のように後ろをチラチラ気にしているテンションの上がった芳香をコジョンドが制する。集中を切らさないようにしろというメッセージだった。一方屠自古たちはさっきから険しい表情を続けていた。ひらひらとかわされて攻撃が当たらずジリ貧になっていたからだ。使える技も相手に有効打のないものばかりであり、あのスピードに付いて行けるほどの素早く技を繰り出せない。

 

「スピードがあれば……ん、スピード? もしかして……」

 

 ふと屠自古にある考えが思い浮かんできた。しかしあからさまにそれを行うと鋭いコジョンドに悟られかねない。それを防ぐには……

 

「よし、これで行こう」

 

 芳香たちが青蛾と談笑していたお陰で考えがまとまった。スムーズに行かねば次の手を講じられてしまう。この作戦で仕留める予定であった。エレキブルにその考えを伝える。

 

「……というわけなんだけどエレキブル、できる?」

「もちろん、ワシとお嬢の仲じゃないか」

 

 どちらも自分に厳しいタイプの電気使い。互いの心情を理解するのに時間はかからなかった。十分な信頼を構築していた二者にそんな心配は杞憂だった。

 

「おい、芳香。向こう何か仕掛けてくるぞ」

「おー、何だろう。楽しみだなー」

「気をつけてね」

 

 芳香たちも再び気を引き締める。リラックスしているが隙がない。コジョンドを落とすのは至難の業である。

 

「エレキブル! 地面に向かってかみなりパンチ!」

 

 エレキブルの足元がパンチのラッシュでどんどん抉れていった。擬似あなをほるで姿が見えなくなってしまいいつ攻撃されるか分からなかった。

 

「コジョンド~、大丈夫?」

「ああ、大丈夫。思い通りにはさせない」

 

 コジョンドはいわなだれを発動させ、縦に一列に積んでその頂点に立った。不安定な足場であるにも関わらず微動だにしていない。体幹とバランス感覚が成せる業である。しかもおまけと言わんばかりにリフレクターまで張っていた。

 

「私も伊達に鍛練していた訳ではない。当然地面という死角からの攻撃にも注意を払っている」

 

 確かにこうすれば攻撃がコジョンドに到達する前に岩がガードしてくれる。しかももし全ての岩が破壊されたとしてもカウンターで仕留めることもできる。まさに攻防ともに死角がない。だが……

 

「油断しないでねー。屠自古は強いから」

 

 蘇我屠自古はかの豊郷耳神子に仕える身。なんとしてでも任務を果たす忠義心は相当なものである。そんな屠自古を知っているからこそ芳香はコジョンドに警告することができた。

 

「……そうだな。心に留めておこう」

 

 相手の意見を意固地に聞かないほど聞き分けの悪くないコジョンドは素直に芳香の言うことを聞いた。そもそもコジョンドが芳香のバートナーになったのも自分の相棒にしてもいいと思ったからである。最初芳香と勝負を交わしたとき、たかがキョンシーに後れをとることはないと思っていたが一発KOされた。柔にこそ力が宿ると考えていたコジョンドだったが真反対の剛(関節的な意味)の相手に敗北した。興味を持ったコジョンドはそれ以来パートナーになったため命令を無視することはなかった。

 

「よし、今だ!」

「喰らえーー!」

 

 屠自古の掛け声と同時にコジョンドの足元から破壊音が響いてきた。ここまではコジョンドの予想通り。しかしここからが予想外だった。

 

「何!? う、ぐわぁああ!!」

 

 コジョンドの誤算は二つあった。一つはそのままかみなりパンチで突っ込んでくると思っていたこと。態々技を変えるのは非効率なので勢いそのまま拳を振りかざすと思っていた。そしてもう一つは繰り出したその技がかみなりパンチではなく“かみなり”だったことである。物理技のかみなりパンチとは違い特殊技のかみなりはリフレクターが意味を成さない。いわなだれを劈き電撃がコジョンドを貫いた。

 

「!? コジョンド、上空にちょっといわなだれ」

 

 しかしコジョンドは決して油断をしていなかった。そのおかげで芳香の声がはっきりと聞き取れた。聡明なコジョンドは芳香の言わんとすることが理解できた。なぜ真下ではなく上空なのか。

 

「流石だ芳香、こういうことだろう!」

「何!?」

 

 岩山を砕き切ったエレキブルの目の前には宙に浮いた無防備な相手の姿はなかった。浮いていたのは岩の方であり、コジョンドはその岩にしっかり足を着けて反撃体勢を取っていた。上空からでも反撃ができるように指示した芳香が瞬時に判断した。とっさの判断ができるほどの戦闘経験が芳香にもある証拠だった。

 

「そのままとびひざげりだよー!」

 

 コジョンドの足元の岩が粉々になる位勢いをつけてエレキブルに跳びかかる。格闘技の最高火力とびひざげり、重力に加えてしっかりと地面を蹴ったそのスピードはテッカニンレベルだろう。今からどんな技を繰り出そうともそもそも発動前に命中してしまう。芳香たちもこの一撃に全てを賭けた。

 

「ふっ、バレなくてよかった。まもるで終わりだ!」

 

 ガキィン!

 

 膝が命中した。まもるの障壁に。

 

「痛っ⁉ な、何故……」

 

 普段のエレキブルならば当然間に合わなかったはずの防御技。それが間に合ったのは彼の特性にあった。特性はでんきエンジンであり、電気技を浴びることで自身の素早さが上がることをすっかり忘れていた。途中で思い出した屠自古は素早さを上げようと画策していた。しかし素早さを上げようとしていることがコジョンドにバレてしまうのを防ぐために狙いを資格からの攻撃という風にカモフラージュした。穴を掘りながら自分に電気を纏ってコジョンド並みに素早くなっていた。これで隠し玉まもるのタイミングを図っており見事に成功させた。

 

「ぬ……ぬがぁああああああ!!」

「コジョンド⁉」

「ワ、ワシに何する⁉ 離れろ!」

 

 普段冷静なコジョンドの魂の叫びが霊廟に轟いた。高火力と引き換えにまもるで返されたダメージで体はボロボロのはずだった。だが勝利への執念はまもるが切れたエレキブルの両腕を掴んだ。ヒラヒラした長い腕は離れようとする腕をガッチリ捕らえて地面に急直下させた。

 

「エレキブルーー!!」

 

 土煙で屠自古の声がかき消された。度重なるバトルのせいで神霊廟は滅茶苦茶になっており誰が立っているか全く見えなかった。しばらくすると影が見えるようになってきたがその姿を見た瞬間結果が分かってしまった。

 

「……二人ともよくやった。それでこそ神霊廟のメンバーにふさわしいな」

 

 神子は二組どちらともをねぎらった。なぜならばエレキブル、コジョンドともに倒れてしまっていたからだ。

 

「紫、この場合は引き分けということでいいのか?」

「ええ……でもどうしましょう。これじゃあ決着が付かないわね」

 

 無縁塚チーム、神霊廟チームともに一勝一敗一分けであり二回戦にどちらが進むか決められない。ここまで来てじゃんけんというわけにもいかないし。

 

「それでは私が試合に出ましょうか」

 

 もう一度試合を行えば決着はつくと手を上げたのは紅魔館の瀟洒な従者十六夜咲夜であった。急に審判を任されたり任務を奪われたりと振り回されていたのでそろそろバトルに出たくなっていた。

 

「そうね……ルーミア、やらないかしら?」

「私かー? いいぞー」

 

 高い所から見物していたルーミアは降りてきて延長戦を始めた。次こそ本当にどちらが進むか決まる。ボロボロの神霊廟で勝利を手にするのは一体どちらのチームなのか……

 

 

 

「あー、引き分けかー。でも青蛾褒めてくれるかな? ……あれー? 青蛾どこー?」

 

 勝負が付いた後、芳香は後ろにいるはずの主人を探していた。しかしどこを探しても何故か見当たらない。

 

 

「……ゴメンね芳香ちゃん。本当はよしよししてあげたいけど忙しいのよね」

 

 穴抜けの能力で地霊殿近くまで移動していた青蛾。青蛾“一人”は顔に笑みを浮かべて次の企みを行うためとある館に侵入した。……これから起こる異変に向けての作戦会議のため。




 読んでいただきありがとうございます。何とか五月中に投稿することができました。長い五月病にかかっており筆が進みませんでしたすみませんでした。

No.23 蘇我屠自古 でんき・ゴーストタイプ 相棒ポケモン エレキブル でんきタイプ

使える技 かわらわり かみなりパンチ かみなり まもる

 このバトルはポケモンのアニメを大いに参考にさせて頂きました。まずこの技構成はダイパのサトシのライバルシンジのエレキブルの技構成です。あとサトシの得意技フィールド破壊を応用しました。ゴウカザルのあなをほるをエレキブルが使う展開をしたかったので楽しかったです。
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