東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第三十話 勝ち抜きバトル

「うむ。皆素晴らしい戦いだったな。残念ながら私たちのチームはここで敗退にはなるが」

 

 神霊廟での戦い終了後、神子が〆の挨拶に移っていた。威厳たっぷりなその姿、特に肩にはいつの間にやらふくろうポケモンヨルノズクがいた。ふくろうらしく首を縦方向に傾けており、小柄ながら神子の相棒よろしく重鎮して辺りを監視していた。するどいめを持つヨルノズクがもしも戦っていたならばでんこうせっかの働きを見せていただろう。

 

「それではそろそろ司会は咲夜に返そうとしよう。これ以上出しゃばるのは領域外だからな」

 

 神子は咲夜に目配せをしてヨルノズクとともに神霊廟の修繕に向かった。もちろん屠自古もお供していたが彼女のエレキブルは永遠亭送りになっているため彼女自身の手であちこち直すことになった。元々の腕力もあるが常時でんじふゆうしているような状態なので力仕事には事欠かなかった。

 

「それじゃあ別の場所に移動しますか。動ける? キリキザン」

「ああ……いや、休ませてもらおう」

「分かったわ」

 

 そう言うと咲夜はボールに戻してキリキザンを休ませた。いつ戦闘になるか分からない状況では自らの体力が重要である。ここで無駄に外に出るよりも傷ついた体を労わる方を優先させた。何かあっても咲夜が対処してくれるとキリキザンは信用していたのだった。

 

「あ、そう言えば時間大丈夫かしら」

 

 予定では三試合のつもりだったが屠自古と芳香の一試合目が引き分けに終わったので四試合になってしまった。そのため時間が伸びてしまい次の試合会場を待ちぼうけさせてしまっていた。咲夜は時間を止めて次の試合場所、命蓮寺へと向かった。

 

 

 

 ここは命蓮寺。人も妖怪も等しい世界を目指す聖白蓮が主導となって運営する宗教組織である。当然ここが舞台ということは、かの聖白蓮をリーダーとする命蓮寺チームが対戦相手の片翼を担っている。

 

「さて、対戦相手は確か……」

「おー、紅魔館のメイド長。ずいぶん遅かったじゃないか。もうすでに一杯やっているよ」

「天人の私だから大丈夫だけど下界の者ならとうにぶっ倒れているわよこれ」

 

 咲夜を出迎えたのは小さな百鬼夜行、伊吹萃香。そして非想非非想天の娘、比那名居天子だった。二人は同じ有頂天チームであり、待ち時間の間ずっとお酒を呑んでいた。

 

「お待たせしました。それでは対戦内容についてなのですが……」

「対戦相手はすでに決めているぞ」

「私と一輪。リリカさんとメルランさん。そして女苑とサグメさんです」

 

 咲夜の隣からそっと現れたのは命蓮寺チームの大黒柱、聖白蓮。そしてその傍らには彼女のパートナーポケモン、めいそうポケモンのチャーレムがいた。鍛え磨かれた精神と集中力は聖の性質とよくマッチしていた。話が円滑に進むように各自で決めてくれているのも流石というところだろう。

 

「ありがとうございます。ですが今回は少しルールが変わっておりまして……」

「ん? 何か違うことするの?」

 

 頭の上にこツバメポケモン、スバメを乗せて話したのは命蓮寺チームのミスティア・ローレライであった。今回は対戦しない、というよりも進化前で戦力にならないからと自ら辞退したのだった。つまり暇なのである。

 

「いえミスティア、それほど大きくは変わらないわ。ただ今までの形式ではなく勝ち抜き戦になるということよ」

「勝ち抜き戦ってどういうことですかー? あ、遅れました。こんにちはー!」

「こ”ん”に”ち”は”ー”!!!!!!」

 

 全員の鼓膜がだいばくはつしそうな音量で挨拶したのは命蓮寺チームかつ鳥獣戯楽が一人、幽谷響子だった。そしてその相棒は、そうおんポケモンの名にふさわしいバクオングである。響子の騒音に釣られて命蓮寺までやってきてそのままパートナーになったという経緯がある。彼自身の特性がぼうおんであるため相性はバッチリである。

 

「う、うるさいわね……」

「あ、悪い悪い。つい張り切っちゃったぜ。ガハハ」

 

 彼も試合には出ないため力が有り余っているのだろう。元気なのは良いことだが、初めてバクオングの声を聴いた咲夜は耳を押さえてクラクラしそうになっていた。

 

 

「……説明を続けますよ。勝ち抜き戦というのはその名の通り勝った者はどんどん戦いを続けていくシステムのことです」

 

 今までは三か所に分かれて白星の多い方が二回戦に進めるスタイルだった。しかし前回のように引き分けになる場合や実力差が大きすぎる場合には些かよろしくない。マンネリを防ぐためにもこの試合に限り試験的に導入するらしい。そう紙に記してあった。

 

「つまり皆様に決めて頂くのは誰を一番最初に持ってくるのかということです。もちろん今からでも変更することは可能です」

「あーなるほどね。もしかしたらいきなり3タテする可能性もあるってわけね」

 

 天子は要石のごとく自分の相棒のメテノの上に乗ってフワフワと話を聞いていた。聞いているだけで自分が戦う気はさらさらないようだ。

 

「ま、私たちは変更する気はないからさ。こっちは皆の戦いをアテにしながらよろしくやっているよ」

 

 この鬼はそれが目的だったのだろう。天子同様に萃香もこざかなポケモン、ヨワシ(むれたすがた)に乗って答えていた。地上よりも上空で見物するのが面白いのだろうか。

 

「私たちも別に構わないわよ。でも最初を誰に行ってもらうかが大事よね……」

 

 最初の戦いで流れが決まると言っても過言ではない。強い者から先に行って速攻終わらせるも良し。はたまた実力が伯仲している者同士を戦わせるも手の一つだろう。順番というのはそれほど大事である。悩んでいると命蓮寺チームから声が上がった。

 

「聖最初行ってよ。私後で行くからさ」

 

 女苑は聖の肩を持ってそう言った。このチームダントツの実力者は聖であり、彼女たちに任せてくれれば無双できると女苑は確信していた。この後も戦いは控えており、皆が等しく体力を削られるよりも万全の状態の者が多くいる方がいいと女苑は考えていた。聖もその考えに同意して一番手を担うことになった。

 

「命蓮寺チームは決まりましたね。それでは有頂天チームの方ですが……」

「私が行くわ」

 

 先程まで悩んでいたが聖が出るとなってすぐさま名乗り出たのは雲居一輪であった。

 

「おや、一輪ですか」

「姐さんとは一度ガチで戦ってみたかったんですよね」

 

 一輪は腕を振り回してやる気を高めていた。同じ寺の仲間、聖の実力を一番近くで見ている仲間だからこそ挑みたくなっていた。被っていた頭巾を脱ぎ、金の輪を取り出した。聖に向けてそれを突き付けて対戦を申し出た。

 

「ええ。受けて立ちましょう。一輪」

「それでは聖さんと一輪さんの戦いで了承しました。他の皆さんはこの場から下がってください」

 

 咲夜の指示で他のギャラリーたちが遠くに散る。上に行く者も何名かいた。チーム関係なく談笑しながらワイワイとしていた。あまり緊張感は漂っていなかった。

 

「いやー、僧侶とその弟子の対決か。どっちが勝つと思う? 天人よ」

「チーム的には一輪に勝って欲しいけどやっぱり聖の方じゃない」

「じゃあ私は弟子の方で。当たった方が鯨呑亭の奢りな」

 

 上空では萃香たちが賭けをしていた。勝負ごとにはこういう賭けはつきものである。

 

「まあ私にとっちゃあアテに相応しい試合が見れたら文句はないんだがな」

「言えてるわね。また少し貰おうかしら」

 

 再び呑み始めた二人は置いておき、地上ではバトルが始まろうとしていた。聖の方はもちろんチャーレム。堂々とした佇まいはさっきまでの雰囲気をビシッと引き締めた。

 

「このチャーレムに対抗できるのはアンタよ! ゆけっ! チルタリス!」

 

 一輪のスーパーボールから出てきたのはハミングポケモンチルタリス。上空からふわりと舞い降りたその姿は雲山ほどではないが力強さを感じる。しかし相性はバッチリであり、そのコンビネーションは雲山並みと言えよう。羽を大きく広げて臨戦態勢をとる。しかし動じないチャーレムであった。

 

「それでは始めて下さい」

「まずはこっちから! りゅうのはどう!」

「かわしておんがえしです」

 

 咲夜の合図とともに一輪は即行動を起こした。しかし急な反応にも聖たちは柔軟に対応した。りゅうのはどうの軌道を予知して器用に体を動かしてそのまま攻撃モーションに移った。しかしそれは空を飛べる者の特権。宙に浮かんで楽々とチャーレムのパンチを避けた。チャーレムの特性ヨガパワーにより攻撃力はとんでもないことになっている。何発も喰らってはまともに戦うことはできないだろう。チルタリスたちはすぐさま次の一計を講じた。

 

「次はしねんのずつきをお願いします」

 

 聖の指示でチャーレムの頭にエネルギーが高まる。サイコパワーで全てを破壊するつもりだろう。身軽なその体で距離を詰め、そのモフモフな体に内部まで貫通する頭突きを叩き込んだ。

 

「……あれ? おかしいな」

 

 チャーレムは攻撃したにもかかわらず手ごたえが一切なかった。実は一輪は事前にとある指示を送っていた。

 

「コットンガード覚えさせていて良かった。さすがチルタリスね」

 

 物理防御をぐぐーんと上げるこの技。並大抵の攻撃ではビクともしない。得意の防御面を上げるために覚えさせた技が功を奏した。もちろん無傷ではないがあのチャーレムの攻撃を受けきれないほどではない。チャーレムの攻撃といえど勝負は分からなくなってきた。

 

「ここからですよ姐さん!」

 

 一輪は持っていた金の輪の一方を放り投げてチルタリスの首に入れた。すっぽりと収まり、目の色が変わった。ここからが本当の勝負といったところだろう。

 

「いいですね一輪。楽しくなってきました」

 

 聖の構えにシンクロするようにチャーレムも構える。攻撃型のチャーレムと防御型のチルタリス。この試合を制するのはどちらなのだろうか。




 読んでいただきありがとうございます。どれだけお待たせすれば気が済むのでしょうか私は。この2021年激動過ぎて手を付けられなかったと言い訳させてくださいませ。

No.25 比那名居天子 ひこう・いわタイプ 相棒ポケモン メテノ ひこう・いわタイプ

使える技 コスモパワー パワージェム アクロバット ステルスロック

 天子と萃香はかなりの壊れキャラなのであまり出したくなかったですね。なのでバトルするよりも見る方が好きという位置づけにしてもらいました。このメテノは天子がいつも通り要石に乗って天界に帰ろうとしたとき、間違ってメテノの上に乗って帰ってしまったという経緯があります。行くところもないので天子のところでお世話になりました。
 のんきな性格のメテノは自由奔放な天子と合わなさそうで意外と合ってたりします。
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