東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第三十一話 急所と高火力

 聖たちは攻めあぐねていた。序盤は高火力で押していけるものだと思っていたがそこは流石聖の門下生。彼女のパワーをよく理解しているからこそ防御面を固めてきた。コットンガードで限界まで防御を高められてしまった。

 

「どうです姐さん。これで自慢のパワーも聞きませんよ」

「あらあら困ったわね」

 

 見た目はモフモフだが触ってみるとカッチカチになっているチルタリスの羽毛。しねんのずつきも今や蚊に刺された程度の攻撃になっている。これではチルタリスの優勢一方である。

 

「姐さんを倒せばこっちの勝ちはほぼ確実! 悪いですけどここで終わらせてもらいますよ」

 

 チルタリスは羽を大きく広げて大きく息を吸った。声を使った技を繰り出すためである。一輪たちはずっと手合わせしたかった聖白蓮を目の前にしてテンションが大きく上がっていた。聖に指を差してビシッと決めた。

 

「うたう!」

 

 ハミングポケモンよろしくその喉からは美しい音色が響いた。寺中に駆け巡ったその音は眠りを誘発した。上空に浮かんでいたメテノやヨワシ、またそのパートナーたちもねむり状態になり地上に降りてきた。もちろんそれは対戦相手のチャーレムにも届き、瞼はゆっくりと下がっていった。

 

「そらをとぶでフィニッシュよ!」

 

 かくとうタイプのチャーレムにひこう技は効果抜群である。当たれば一撃でKO間違いないだろう。チルタリスはぐんぐん高く飛ぶ。全力をこの一撃に込めて。

 

 一輪は勝利を確信しており聖の方を見ていなかった。彼女が慌てた表情をしておらず冷静沈着な態度をとっていたことに気付いていなかった。

 

 チルタリスは急降下して痛恨の一撃を叩き込んだ。地面からは土煙が舞い、寺の中央には大きな穴が開いてしまった。

 

「……一輪。寺の修繕費だって決して安くはないんですよ」

 

 聖は呆れたような怒っているような声色で一輪をたしなめた。もう勝負が終わったとは微塵も思っていない様子だった。違和感を覚えた一輪はちゃんとチルタリスの状況を確認した。土煙が晴れてよく見えるようになるとなんとチルタリスの羽が地面にめり込んでいた。

 

「え、ちょっとどうしたの⁉」

 

 コットンガードで固くしすぎたせいか繊維と地面がこんがらがってしまい抜けなくなってしまった。しかもその隣には眠った状態に的確に攻撃を当てたはずのチャーレムが仁王立ちしていた。

 

「なんでチャーレムが……?」

「一輪。勝ちを確信したときや上手く行っているときにこそ慎重に動くべきですよ」

「な……?」

「チャーレム、狙いを定めてしねんのずつきです」

「あいよ」

 

 眠っていたはずのチャーレムの口から言葉が発せられた。聖の言う通りしねんのずつきを繰り出した。ヒヤリとしたがガチガチの体だから大丈夫。そう思った刹那、チルタリスの体が宙を舞った。自発的ではないその飛翔に一輪はただ見上げるしかできなかった。

 

「そこまで。まずは聖さんたちの勝利です」

 

 最初の勝負はチャーレムたちの勝ちで収めた。ゆっくりと目を開けたチャーレムは息の一つも切らしていなかった。後ろから聖はじっくりと労わっていた。一方一輪はチルタリスをボールに戻して悔しそうな顔をしていた。

 

「……さすが姐さんですね。敵いませんでした」

「いえいえ、一輪。あなたとチルタリスの強い絆はこの目でしっかりと見させて頂きました。私が言うのも何ですが勝敗よりも大事なものを既に持っていますね」

「姐さん……ありがとうございます!」

 

 一輪はスッキリした顔を浮かべていた。負けはしたものの悔いのない試合だったと胸を張って言えた。チルタリスを永遠亭に送り一輪はその場を後にした。

 

「あれ? でもどうしてあのとき負けたんだろう……」

 

 歩いている最中一輪の頭には疑問が浮かんだ。ガッチガチに固めたチルタリスの要塞を如何にして貫いたのか。そして眠り状態になぜならなかったのか。謎が残っていたのが気がかりではあったが後で聞けばいいかと思った。ボールを手に永遠亭にて治療してもらうことにした。

 

 

 続いて二回戦が始まった。連投して聖とチャーレムが戦うことになるがその相手は騒霊三姉妹が一人のメルラン・プリズムリバーであった。彼女の目は戦う前から暗くなっていた。ただでさえ強かった一輪を倒した聖にどうやったら太刀打ちできるのかと考えていた。

 

「これ……私たち無理じゃない? てっきりリリカと戦うと思っていたのに」

「ホントそうだよね。ボクたちじゃすぐやられそうなんだけど」

 

 長女ルナサ・プリズムリバーは普通のロトムをパートナーとしていたが次女の方はウォッシュロトムである。なおリリカはヒートロトムを相棒としておりロトム対決ができると予想していた。しかし現実は化け物並みに強いチャーレムとのマッチとなった。

 

「しょうがない、やれるだけやろうかしら。ハイドロポンプ!」

「ジャンプしてください。チャーレム」

 

 洗濯機の形状をしたウォッシュロトムの体の中央が開き、そこから勢いよく多量の水が放出される。水タイプの技の中でも高火力の部類に入り、当たれば中々のダメージが見込まれた。しかしチャーレムは聖の指示通りその場で跳躍した。軽い体でウォッシュロトムの上空までやって来た。

 

「そこからとびひざげりです!」

 

 格闘タイプトップクラスの技が今ウォッシュロトム目掛けてかまされようとしていた。先の戦いが尾を引いていないわけもなく、聖たちも短期で決着をつけるのが望ましかった。自身の最高火力であるとびひざげりを落下の加速度も加味して放った。

 

「まずい! 寝っ転がって頂戴!」

 

 メルランの声が間一髪届き、洗濯機が廃品回収に出される寸前にハイドロポンプの弾道は上空を向いた。水と膝の衝突は寸前で相殺されて、両者とも深手は負わなかった。

 

「一気に決着をつけるわよ。でんじは!」

 

 連戦で消耗しているはずのチャーレムに短期決戦を申し込んだ。真正面から広範囲に渡る電磁波を繰り出して麻痺状態にした。これで機動力を大幅に削ぐことができたので後は狙いを定めるだけである。

 

「よし! ちゃんと命中したわね。これで終わりよ、ハイドロ……」

「振り払えますよね、チャーレム?」

 

 メルランがトドメの一撃を決めようとした瞬間、痺れているチャーレムは聖の声に呼応して目つきを鋭くさせた。すると表情が和らぎ固くなっていた筋肉がしなやかに動くようになった。聖との特訓で状態異常を気合で無効化する技術を身に付けたため小手先の技など意味を成さなかった。先程のチルタリスのうたう攻撃を受けたにも関わらずすぐさま動けたのも同様の理由だった。

 

「マズイわ。ガードを……」

 

 動ければハイドロポンプをかわすことなど容易くそのまま距離を詰めてきた。大技を放った後はスキができやすく、対応がワンテンポ遅れてしまった。

 

「……チャーレム、そこです。おんがえしで決めてください」

 

 ウォッシュロトムの一部分を示した聖はそこを目掛けて攻撃を指示した。当然最大火力のおんがえしで相手は吹き飛び戦闘不能になった。示した箇所は開閉部分。ロトム当人にとっては急所にあたるところである。聖は相手の急所を見破る能力を有しており、どんなに耐久力に優れている相手や防御面を強固なものにしても一瞬で無に帰してしまう。

 

「そこまでです。チャーレムの勝利です」

 

 決着は一瞬で付き、聖たちは勝利に王手をかけた。全快の相手をいとも容易く打ちのめしたチャーレムはかなり疲弊していた。

 

「もー! 強すぎるよ聖さん~」

「残念だったね姉さん。戦いたかったけどね」

 

 理不尽な強さに文句の一つも言いたくなるメルランだった。ボロボロのロトムをボールに戻してトボトボと永遠亭に向かった。聖を倒してリリカと姉妹対決をしたかったところだろうがそれを実現できるほどの実力がなかったことを悔しく思っていた。

 

「それでは最後にサグメさんとの戦いですが……」

「あ、少しいいですか咲夜さん?」

 

 聖は咲夜に申し出ると既に満身創痍のチャーレムを自身のボールに戻した。今から最後の戦いということなのにどうしたのだろうか。

 

「私たちはここで辞退させていただきます」

「「ええっ⁉」」

 

 周りの仲間たちがザワついた。ここからというところなのに一体どういう風の吹き回しなのか。聖はボールを優しく労わりながらこう言った。

 

「チャーレムはもう十分に頑張りました。これ以上無理をさせるのは望む所ではありませんので」

 

 確かに二戦続けて勝利を収めたがその分ダメージは蓄積していた。まひ状態を打ち消したり急所に当てたりするのにも莫大なエネルギーを有する。普段からヨガパワーを溜めておりカロリーを取らない生活をしているチャーレムにとっては厳しいところがあった。それをよく理解している聖だからこそストップをかけておきたかった。

 

「でも聖がいないと不安だよ私たち」

 

 女苑は聖の裾を引っ張りながら不安そうに見つめていた。しかし聖は微笑んで優しく女苑の頭を撫でた。

 

「大丈夫です。皆さんならばきっと全力を尽くして良い結果をもたらしてくれるはずです。応援しています」

 

 戦いに出る者だけでなく出ない者もチーム一丸となって頑張ってほしいとエールを送った。実際に戦う女苑や戦わない響子も同じくらい士気が上がった。それを高くから眺める二人がいた。

 

「おー、相手チームは盛り上がってるねー」

「こっちは依然不利だけど大丈夫かしら。こっちは」

「大丈夫さ。月の賢人がいるからね」

 

 呑みも終盤に入ってきておりこっちはこっちで盛り上がっている萃香と天子。もう後がない有頂天チームだが余裕の雰囲気を萃香は出していた。わざわざ戦いをせずに観客側に回ったのはサグメの実力を買っているからである。

 

「それでは有頂天チームは最後になります。サグメさんお願いします」

「…………」

 

 咲夜の声を無視しているわけではない。彼女の“口に出すと事態を逆転させる程度の能力”という難儀な能力のために迂闊に喋ることができないのである。そんな彼女のモンスターボールから出てきたのは海の化身とも呼ばれるドラゴンポケモン、カイリューであった。

 

「バオオオオーー!!」

 

 威圧たっぷりの咆哮が響き渡り、風圧が周辺の瓦礫を吹き飛ばしていた。可愛らしい顔に似つかわしくないその強さは底の見えなさを表していた。一方相手のリリカは相棒のヒートロトム共々ビビり散らしていた。




 読んでいただきありがとうございます。忙しさにかまけて更新頻度の落ちていた海老の尻尾でございます。今見ると今年9本しか挙げてなかったんですね。今年中に何とか二桁行きたいですね。次回はカイリュー戦です。

No.26 聖白蓮 エスパータイプ 相棒ポケモン チャーレム かくとう・エスパータイプ

使える技 おんがえし しねんのずつき とびひざげり こころのめ

 状態異常を気合で治したり聖の指示で急所を的確に当てたりとやりたい放題させて頂きました。もちろん3タテにならないようにこの辺で離脱させましたが。最初はとびひざげりを外して自傷ダメージも考えましたがあまり似合わないなと思って変えました。
 二人の出会いは命蓮寺でした。聖が日課の瞑想を行っているとどこからともなくチャーレムがやってきて瞑想に加わりました。瞑想にも筋というかセンスというものがあり、見染められたチャーレムは行動をともにすることになりました。なお、聖の修行はチャーレムいわく厳しいようです。
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