東方携帯獣   作:海老の尻尾

35 / 38
第三十二話 無言の通じ合い

 ヒートロトムはどうすればよいか分からずオロオロしていた。それはパートナーのリリカ・プリズムリバーも同様であった。有効打がないというのもあるが向こうに佇むサグメの威圧感が凄まじい。手のひらで口元を抑えて鋭い目つきでこちらを見ていた。

 

「と、とにかくやるわよ! オーバーヒート」

 

 ヒートロトムの最高火力が放たれた。体の中央のレンジが開き、その中から炎の渦が巻き起こり一直線にカイリューへと向かった。

 

「…………」

 

 カイリューはサグメの方をチラリと見ると小さく頷いた。息を整えると口からみずでっぽうを繰り出した。細く貫通力のある水タイプの技は相性的にも良く、オーバーヒートの渦の中心を貫いた。相殺しきれずにみずでっぽうはヒートロトムまで届いた。ほのお・でんきタイプに水技は効果は抜群でありそのまま一発KOとなった。

 

「ロ、ロトムー!」

 

 決して低耐久とは言えないロトム。それだけ火力がすさまじいということである。あっさりと最終決戦に持ち込まれてしまった。

 

「へー、強いじゃないのあの月の民たち。何も言わずに指示するなんて悟り妖怪みたい。さぞかし通じ合ってるのね」

 

 上空から天子がカイリューたちの強さを讃えていた。サグメの考えを言葉を介せずに受け取ったように見え、深い絆が構築されていると感じた。

 

「うーん、そうかな?」

 

 だがそれに異議を唱えたのは相棒のメテノ。それにヨワシも首を傾げていた。二匹には絆というものが感じられていなかったようであった。

 

「あのカイリュー……」

 

 萃香は妙な違和感を覚えていた。バトルだというのに盛り上がらない感じがあり、実際酒が進まなかった。サグメとカイリューとの間に何があったというのか。

 疑問は多少残るものの試合は最終局面へと移った。命蓮寺チームのアンカーを務めるのは最凶最悪の双子の妹、依神女苑。くるりと巻いた縦ロールの髪に豪華な装飾品。彼女に似つかわしい大きな扇子を持って今試合の舞台へと舞い降りた。

 

「ふふっ! とうとう私の出番と言う訳ね。待ちくたびれたわ」

 

 女苑はセリフと共に空高くゴージャスボールを放り投げた。ボールの中から火花と纏って出てきたのはかみなりポケモンサンダース。静電気で辺りからバリバリという音が聞こえていた。

 

「さあ、オレのスピードについて来れるか!」

「でんこうせっか!」

 

 サンダースの姿が一瞬にして消えたように見えた。素早さに自信があるようで目にも止まらぬ速さである。カイリューは目をあちこちにやるが全く捉えきれず目を回していた。

 

「喰らえ!」

 

 カイリューのみぞおちにクリーンヒット、急所に当たった。技自体は低威力だが片膝をつかせることができた。その隙を逃すことなくサンダースは立て続けにミサイルばりを撃って攻撃を続けた。カイリューは抵抗するためにみずでっぽうを放ち続けた。何発も放たれる両者の攻撃は長く続いていた。その間カイリューはモヤモヤした思いにずっと駆られていた。

 

(このままじゃ勝てない……サグメさん、助けて)

 

 後ろにいるサグメにヘルプを求めるもののサグメは微動だにしていなかった。これまでまともに会話をしたことがなく意思疎通というものができていなかった。先程のみずでっぽうの攻撃もカイリュー自身で判断したものだった。何が悪かったのだろう。そんな迷いがカイリューの中に生じていた。迷いがあると集中はできずみずでっぽうの威力はミサイルばりに打ち負けてカイリューは吹き飛んでしまった。飛ばされながらサグメとの出会いを思い出していた。

 

 

 

「うーん、ここは……幻想郷ってところかな?」

 

 カイリューが目を覚ますと見知らぬ場所に連れられていた。たしか藍から教えられて幻想郷という場所にやって来たことは覚えている。しかし聞いていた温和な雰囲気とは違い冷たい様相が醸し出されていた。それもそのはず、今現在カイリューの居る地点は月の都であった。穢れのない空気はかつて居た世界とは異次元も異次元であり全く慣れない。さらに辺りには誰も何もおらずもの悲しい雰囲気があった。

 

「……聞いていたのと違うけど本当に大丈夫かな?」

 

 見た目通り寂しがりなカイリューはポツンと佇みながら不安を感じていた。このまま誰とも会えなかったらどうしよう。折角新たな出会いを求めて新世界に飛び込んでみたというのにこのままでは何のために。そう考えていると背後から人の気配を感じた。振り返ってみるとそこには銀髪に片翼の女の人がいた。紫色の服に奇妙なスカートを履いておりこちらに向かって歩いてきた。こんな何もない空間にわざわざやって来たのは自分が目当てなのだろう。そう解釈したカイリューは近づいて事のあらましを話した後自分からゲットされにいった。そのくらいサグメは女神に見えたのだった。

 

「サグメさん明日ついにバトルだからちょっと練習しようよ」

 

 カイリューがそう申し出るもののサグメは全然喋らず無口だった。何も言わずカイリューが自主練習しているのをただじっと見ているだけであり、二人の間にコミュニケーションというものは無かった。だがそれを責めるほどカイリューは気が強くなかった。むしろ自分に何か至らぬところがあったのではないかと考えてしまうタイプだった。そうして満足に絆が繋げないと感じながら今日に至る。

 

 

 

「あら、勝負あったかしらね」

 

 カイリューの大きな体が宙を舞う。圧倒的なサンダースのスピード。それに何故か自信なさげなカイリューの力も弱りつつある中、天子たちには勝敗を喫したように見えた。

 

「いや、まだまだだな」

 

 しかし萃香だけは別の人物に着目しており勝負の行方はまだ分からないことを予感していた。

 

(サグメさん……ゴメンね)

 

 地面に叩きつけられて終わりと思ったカイリューだったが柔らかなものに包まれた感触があった。後ろを見るとパートナーであるサグメが両腕で体をがっちりと抱きかかえていた。そして耳元で何かが囁かれた。

 

「ゴメ、ンね……カイリュー」

 

 初めて聞いたサグメの声はか細く優しい声だった。しかしそれと同時に安心する声だった。初めて聞く声に驚きつつ、カイリューの体はゆっくりと地上に下ろされた。

 

「ど、どうし……!」

「ポケモンと……どう触れ合って、いいのか……」

 

 分からない。そう言いたかったのだろう。なぜ今まで話してくれなかったのかという疑問に答えてくれた。人間や妖怪、また神様にも色々な種類がいる。未知のポケモンという生物にグイグイいける者やいけない者もいる。カイリューはそれほど恐れられた経験がなかったため自身もどう接していいのか分からなかったのであった。しかしお互いがお互いを気にかけていたのは事実だった。

 

「私の能力が足を引っ張って、ゴメン」

「き、気にしなくていいよ! ボクも配慮が足りなかったし」

 

 サグメの“口に出すと事態を逆転させる程度の能力”についてカイリューは初耳だった。ただ無口なだけだと思っていた。しかしこうしてやむにやまれぬ状況があったため責める気は一切なかった。むしろこうしてようやく本音を出してくれたことに嬉しく思っていた。気付けばこの人のためにも勝負は負けられない気持ちが強くなっていた。

 

「あら! まだやる気? 早めにリタイアしてもいいのよ」

「おいおい、オレはまだまだ準備運動中だぞ。おりゃー!」

 

 起き上がったカイリューに女苑たちはけしかけた。まだ試合は中断されていないのでこの間にサンダースはふるいたてるを使い攻撃力を上げていた。

 

「……そうではない」

「ボクたちの渾身の力を見せてやる!」

 

 小さい声ながらサグメは口に出した。出した瞬間その運命は逆転する。まだまだ試合は続くという言葉を逆転させた。

 

「へぇー、見せてもらおうじゃないの! サンダース、10まんボルト!」

「……こっちも10まんボルト」

 

 ようやくサグメの指示のもとカイリューも10まんボルトを放った。激しい稲妻がぶつかり合い、威力は互角に見えたが若干カイリューの方が押していた。レベルが段違いのポケモンであることを自覚させられていた。

 

「そうだわ! サンダース、攻撃止め!」

「え?」

 

 いきなりの指示に戸惑ったサンダースに10まんボルトが直撃した。半減とはいえかなりのダメージになると思われ、カイリューはガッツポーズを取った。しかし煙の中から現れたサンダースは先程よりもスッキリした顔をして出てきた。

 

「こっちのサンダースの特性はちくでんなのよ! だから意味ないってわけ」

 

 電気技を受けると体力が回復する特性ちくでんを持っていたことを本人はすっかり忘れていた。完全回復したサンダースはさらに素早さに磨きがかかってしまった。

 

「カイリュー! オレはもう誰にも止められないぞ!」

 

 残像すら見えないほどの速さにでんこうせっかの加速度も合わせて飛び回った。ぶつかりながら着実にダメージを与えていた。長引けば長引くほど不利になった。カイリューは再びサグメの方を向いた。先程までは意図が分からなかった彼女だったが今度は何故かすぐさま理解できた。

 

「……分かった!」

 

 そう言うとカイリューは目を閉じた。観念したわけではなく狙いを定めていた。サグメの指示を聞き逃さないように。

 

「これで終わりだー-!」

 

 サンダースはありったけの力で10まんボルトを身に纏い懐に潜り込もうとした。

 

 パァン!

 

「今だ! はかいこうせん!!」

 

 サグメの手の叩く音を合図に目を見開き、はかいこうせんを叩き込んだ。正面には予想通りサンダースがおり、モロに攻撃が当たった。サンダースは遠く吹き飛ばされ決着はついてしまった。勝者は有頂天チーム。結果的にサグメたちが不戦勝もあったとはいえ3タテした。

 

「ああ……私のサンダースが」

 

 女苑は肩をガックリとさせてしまった。響子がポンポンと肩を叩き慰めていた。そして勝者側も肩の荷が下りたのかグテッとしていた。

 

「……ありがとう」

 

 サグメはボールにカイリューを戻した。まだまだ勝負は続くという事態を見事逆転させて勝利をつかみ取った。だが彼女にとってそれよりも嬉しかったのはカイリューとの絆をちゃんと繋げられたことであった。後で祝ってくれた萃香たちに上手く返せなかった不器用なサグメだったがその心は温かかった。

 




 読んでいただきありがとうございます。何とか今年中にこの試合を終わらせることができました! 来年のスタートはまた少し番外編から始めたいと思います。おそらく皆忘れているであろう消えたマフォクシーについてです。(参照十五話)

No.27 稀神サグメ ドラゴン・ひこうタイプ 相棒ポケモン カイリュー ドラゴン・ひこうタイプ 

使える技 みずでっぽう 10まんボルト はかいこうせん ぼうふう

 出会いは劇中で語ったので割愛させていただきます。さて、この物語はポケモンにパートナーが指示するのが基本となるのでサグメの取り扱いが難しかったです。上手くできたか分かりませんがこういう感じとなりました。最初は3タテするつもりはなかったんですが気付いたらキャラが勝手に動いてしまいました。ちなみに紺珠伝キャラは少しこだわってパートナーのタイプは全部ドラゴンが入ってます。相棒ポケモンはそうではないんですけどね。

 今年も一年ありがとうございました! 遅筆ではありますが楽しみにしてくれると幸いです。来年は物語の根幹にかかわる事件が出せればいいなと思っております。それではまた来年もよろしくお願いします~!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。