東方携帯獣   作:海老の尻尾

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番外編4 マフォクシーとカロス地方の師匠

 話は一日前に遡る。月の兎、鈴仙・優曇華院・イナバは相棒のエースバーンとともに山中を駆け回っていた。その目的はマフォクシーの捜索であった。マフォクシーは鈴仙と戦った相手である純狐のパートナーであり、今何故か行方不明となっている。仕方なく彼女を探す羽目になったのだがそれに着いてきた者がもう一組いた。

 

「でも全然手がかりがないのよね……とりあえず地獄にでも行きましょうか」

 

 動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジだった。彼女は暇だからという理由でお供することになり、歩くと喘息が悪化するためふよふよと浮いていた。同様に彼女の傍にいるのはムウマージである。魔女っぽいという理由でパチュリーは気に入ったらしい。灼熱地獄に向かっていたのはマフォクシーがほのおタイプという安直な理由のためであった。

 

「それにしてもあなたとマフォクシーに繋がりがあったのは驚きね」

「ああ、俺もまさかここで先輩と会えるとはな。先輩に勝てたのは嬉しいけど……どこ行ったんだろうな」

 

 誰にも告げずに消えてしまったのをパートナーである純狐はもとより、後輩であるエースバーンも気にかけていた。不安に思いながら歩いているとエースバーンは突如足を止めた。キョロキョロと辺りを見回し、彼の目は遠くにあった洞窟を捉えた。

 

「あそこ……何か変だな」

「変? もしかしてあそこにマフォクシーがいるの?」

「いや、多分いないかも、だけど……」

 

 歯切れの悪い返事だった。先輩の気配は感じなかったものの、エースバーンはどこか違和感を覚えていた。一行は怪しみながらもその洞窟に近づくと何もないはずなのに見えない何かにぶつかった。

 

「痛っ! 何だこれ?」

「ふむ……結界かしら。それも随分と高度な構造式でできているわね」

 

 魔法使いであるパチュリーには見ただけで容易に障壁の正体が分かった。触っただけでその複雑さを理解できる彼女はそのレベルに感心していた。この洞窟周辺には見たところ何もない。だがこんな辺鄙なところにおあつらえ向きに何かを隠そうとしている。それこそ中に重要なものがあるという証拠であった。早速パチュリーは日符”ロイヤルフレア”を放ち結界を破ろうとした。

 

「うわっ! ちょっとパチュリー、攻撃するなら先に言ってよ」

 

 隣にいたムウマージが驚いた顔をしていた。超高火力が顔の真横から放たれたら無理もない。白い炎が洞窟自体を焼き尽くしてしまわないかと心配していたがその心配は逆の結果になった。

 

「これで……あれ!?」

「……どうしましょ」

 

 消し炭の大地が現れるかと思いきや洞窟の周辺だけ全くの無傷だった。決して手加減したわけではないことからかなりの防御力があると理解できた。

 

「ねえエースバーン。本当にあそこにいるのよね?」

「……!? 先輩かどうか分からないけど誰かいるぞ!」

「えっ!? あぁ、本当ね。強い力を感じるわ……」

 

 間違いなく先程の高火力のせいだろう。エースバーンとムウマージは洞窟の奥からただならぬオーラを感じていた。住処をいきなり荒らされそうになって怒っているのかもしれない。これはやらかしたと二匹は冷や汗を流していた。

 

「鈴仙、ここは止めておこう。どんな目に遭うか分からないぞ」

「そうね。パチュリーもここから離れて……」

 

 二匹が強大な力を感じて逃げようとしたその瞬間、背後の洞窟から地響きが聞こえた。不安になる揺れの音とともに何かの声が聞こえた。

 

『こちらに来なさい。マフォクシーの弟子たちよ』

 

 その声は透明という言葉では言い表せないほど澄んだ声だった。何の混じりけもない純粋な声。だからこそ神々しすぎて恐怖心が逆に出てきた。なおのことあの場所に行きたくはなかったが聞き逃せない言葉を漏らしていた。

 

「マフォクシー、いるの!?」

 

 純狐は誰よりも速く振り向いた。大切な相棒の手掛かりがあるかもしれないと知り、すぐさま駆け出した。

 

「あ、危な……あれ?」

 

 見えない壁に激突するかと思いきや純狐は何の障害もなく駆け抜けていった。さっきは物凄いパワーをもってしても通れなかったはずなので不審に思ってその壁に触ってみた。するとそこにあったはずの障壁がいつの間にか消えていた。

 

「どうするの?」

「どうするって……行くしかないでしょう。純狐さんを追いかけないとですし」

 

 皆恐怖心はある。しかし今回の目的であるマフォクシーを見つけるためにはこの洞窟に飛び込むしかない。深呼吸して気持ちを整え、いざ入っていくことにした。

 

 

「何かしらこれ。こんな景色見たことないわね」

「俺の地元みたいだな」

 

 洞窟内は鉱石の影響かキラキラと光っていた。エースバーンはガラル地方の第二鉱山の環境と似ていたことから馴染み深く感じていた。足音がカツンカツンと反響する静かな空間に誰かがいるとは思えない。しかし確かにあの受け取ったテレパシーは本物だった。皆何も言わずコツコツと歩き進んでいた。

 

「それにしても純狐さんはどこに行ったのでしょうか……? あ、あの姿は」

 

 金髪ロングにナイスバディのあの後ろ姿は間違いなく純狐であった。遠くから見えたその姿に皆早足になって近づいた。しかし三丁歩くとその歩みは止まった。純狐の目の前に大きな生物がいることが分かったからだ。

 

「じゅ、純狐さん! 大丈夫で……!」

 

 身の心配を案じた鈴仙が彼女の元に駆けつけようと声をかけた。その言葉に気付いたようで純狐は後ろを振り向いた。

 

「あらうどんちゃん。ごめんなさいね、ついつい先走っちゃって」

「い、いえ……それよりも大丈夫ですか?」

 

 目の前の生物の体長は軽く3mはあるだろう。おそらくポケモンだがそのオーラは桁違いだった。体中が青く、また鋭い目つきをしており、そんな謎のポケモンに何かされていないか心配だった。

 

「ん? ああこのゼルネアスのこと? 大丈夫よ。マフォクシーのこと聞いていただけだから」

 

 せいめいポケモン、ゼルネアス。フェアリータイプの伝説のポケモンであり、永遠の命を分け与えると言われている。そんなポケモンがどうしてこんな場所にいるのだろうか。またマフォクシーとの関係はどうなのかなど皆頭を悩ませているとそのポケモンは話し始めた。

 

「恐れないでよい。人間どもよ」

 

 たった二言発しただけだが辺りは一気に緊張感が増した。住処を荒らされたことを怒ってはいないようだが圧倒的なそのプレッシャーに鈴仙たちはつい後ずさりしてしまっていた。なお一歩も動じていなかったのは純狐。これが6ボスの威厳とでもいうのだろうか。

 

「私はゼルネアス。この地にたまたま流れ着いただけのただのポケモンである」

 

 ただのポケモンがこれほどまでの存在感を放つわけがない。今のところ敵対心はなさそうだがもしも戦うとなるならば、束になって戦っても歯が立たないほどの実力者なのは明白だった。

 

「そ、それでゼルネアスさん。マフォクシーのことを知っているみたいでしたけど……?」

「あ、それについては私から。聞いた限りだと大丈夫そうよ」

 

 ここに来る前に純狐はゼルネアスと喋っていたらしく、鈴仙たちの聞きたいことを既に聞いてくれていた。結論から言うと純狐たちが来る前にやはりマフォクシーも来ていたようだった。マフォクシーがいるかもしれないというエースバーンの予感は半分当たっていたのだった。

 

「じゃあどこに行ったか分かりますか?」

「さあ……私が居場所を尋ねる前に走り去ってしまったからな。だが方角はあちらだな」

 

 ゼルネアスは首を北東の方角に向けた。その方向は玄武の沢の方角であり、ほのおタイプのマフォクシーが向かうには不利な場所であった。しかし今は手掛かりがそれしかなかった。

 

「なるほど、ありがとうございます」

「礼には及ばん。私も行方が気になっていたところだったからな。お主たちが来てくれて助かった」

 

 情報を与えてくれたゼルネアスには感謝するところだが、それよりもどうしても気になるところがあった。

 

「ゼルネアス。アンタとマフォクシーの関係は? あとどうしてエースバーンが彼女の弟子というか後輩だと分かったのかしら?」

 

 一番聞きたかったことをパチュリーが聞いてくれた。なぜマフォクシーのことを知っていたのか。そしてなぜ洞窟の奥から自分たちのことを理解していたのか。その答えによって行動が変わってくる。もしも敵ならば腹を括らなければならないからだ。

 

「まあ大方予想は付いているけどな」

 

 その返答をしたのはエースバーン。あのしっかり者のマフォクシーが用件も告げずにどこかへ行くなど考えられない。しかし現実こうなっているのは昔自分に話してくれたとある存在が関与していると考えるのが妥当だった。

 

「先輩の師匠なんでしょ。カロス地方で先輩に無茶苦茶な修行をつけたっていう」

 

 エースバーンの知る中で一番のポケモンはマフォクシーだった。しかしこうして直接出会うことで確信が持てた。この目の前にいるポケモンこそ昔マフォクシーが言っていた先輩の師匠だと。それならばマフォクシー経由でエースバーンのことを知られているのも道理だった。

 

「ああ、その通りだ。私はあの子がフォッコの頃からの知り合いでね。色々と特訓を付けたものだ」

「やっぱり……色々聞きたいところだがまずは先輩の行方が気になる。行くぞ皆」

 

 エースバーンはゼルネアスにこれ以上聞くことはなく、洞窟から出ようとした。皆はいきなりのことでびっくりしたがひとまず出ることにした。

 

 

「いいの? エースバーン。先輩の師匠なんでしょ?」

「ああ。関係も手掛かりも分かったし長居する必要もないからな」

「……それだけかしら?」

 

 皆巨大なオーラから抜け出せてホッとしているところだがそれに待ったをかけた人物がいた。パチュリーだった。パチュリーはエースバーンをじっと見つめていた。まるで心の内を見透かされているように。

 

「何が言いたい?」

「あの伝説のポケモンをどこまで信じられるかってことよ」

 

 確かに今の話のどこまでが本当かは分からない。マフォクシーが本当に玄武の沢に向かったのか。いやそもそも本当にマフォクシーの師匠なのか。鵜呑みにして判断するのは危険ということはパチュリーはよく分かっていた。もちろんそれはエースバーンも同様だった。

 

「俺も丸っきり信じているわけじゃないけどよ。でもあの場にいてもしも戦闘になったらまず間違いなくやられているだろうよ」

「……私たちが弱いってことかしら?」

「先輩以上の実力者なのは事実だ。ならば勝てないだろうよ」

 

 パチュリーも負けじと応戦する。両者のにらみ合いを傍で見ていた鈴仙は一人アワアワしていた。何とか諫めなければ……

 

「ま、まあまあ二人とも落ち着いて……」

「そうね。判断は賢明だったと思うわ」

「え?」

 

 喧嘩になるかと思いきや二人とも冷静だった。パチュリーも激昂せずに淡々と受け答えをした。

 

「それに俺の信じた先輩を信じてみたいってワガママもあるけどな」

「そんなところよね。さ、早速探しに行きましょう」

 

 一人でドキドキしていたのがバカみたいに鈴仙は思っていた。このメンバーは一癖も二癖もあってまとめるのが大変だと改めて感じた。

 

 

 

 

 

 

「……不思議な人間、いや妖怪たちだったな。エースバーン……弟子の弟子、か」

 

 何かを思い洞窟を見上げる。何も見えない空間に今後の流れを記してみる。戸惑い、躊躇い。無いと言えばウソにはなるがもはや止めることはできない。そんなことを考えているとテレパシーが飛んできた。

 

『もしもし、聞こえますか。準備は完了しました。いつでも大丈夫です』

「……分かった。すぐ、向かう」

 

 崩壊の鐘の音はすぐそこまで迫って来ていた……




 読んでいただきありがとうございます。別の小説も書いていて遅くなりました! というよりも番外編は物語の根幹に関わるので書くのが難しかったです。それにやたら文字量が長くなるのも困ったものです。次回からは本編に戻ります。少し変わったバトルをするのでお楽しみに。

No.28 パチュリー・ノーレッジ エスパータイプ 相棒ポケモン ムウマージ ゴーストタイプ 

使える技 マジカルフレイム さいみんじゅつ ゆめくい みちづれ

 パチュリーのチームは既に負けてしまったのでここで紹介します。技は正直適当ですね。マジカルフレイム以外は第二世代のマツバやカリンのゲンガーみたいにしてみました。魔女っぽい見た目のポケモンということで真っ先に決まりました。個人的にアリスよりもパチュリーの方が魔女っぽいので譲りました。エスパータイプじゃないのは悪しからずといったところですが。
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