バクガメスは片膝を着いていた。戦闘が始まってから相手のウツロイドからは一度も攻撃を喰らった覚えはなかった。しかし立っていられないほどの吐き気や眩暈、幻聴まで聞こえてきていた。一体いつの間に……八千慧はそう考えていた。何しろ原因が全く分からないのである。紫たちから渡されたタイプ相性などは自分と相棒ポケモンのタイプだけであり、対戦相手のポケモンのタイプまで教えてくれるわけではない。
「ちょっと! あなたのポケモンは何タイプなの!?」
「…………」
相変わらず無言を貫いていた。もちろん自身のタイプをばらしてしまうのは愚策極まりないのであるが。見た目クラゲのようだからみずタイプ? いやふよふよしているしゴーストタイプか? まとまらないまま八千慧たちは戦っていた。
「くっ、ねえバクガメス。何されたか分かる?」
「……正直分からん」
自分の体は自分が一番理解しているというのは間違いであった。正確には原因を一つに絞れないと言ったところであった。まひによる痺れ、どくによる体力低下、やけどによる燃えるような痛み。しかもそれだけではなくねむけや幻覚や幻聴など混乱に特有の症状に加え、徐々に体が凍り付いていくような感覚があった。ありとあらゆる状態異常が一度に襲っていた。喋るのも一苦労に見えた。
「許さない……」
「えっ!?」
か細い声で瓔花の声が聞こえてきた。許さない、一体何についてだろうか。八千慧は彼女とあまり面識はなく恨まれる筋合いはないはずである。しかし勝負するように喧嘩を売ってきたことから何かしら因縁があるかもしれないと八千慧は考えた。
「ねえ! 私が何やったの!? 教えて」
「……」
再びだんまりである。まるで機械に話しかけているみたいに反応がない。潤美に聞いた印象とは大きく違っていた。人見知りではあるが良い子で、戦うのがあまり好きではないと言っていた。賽の河原のアイドルであり人々を明るくするのが好きらしい。しかし今はそれらに該当しない行動を取っていた。
「う、ぐぅ……」
状態異常が体を蝕む。攻撃を繰り出すどころの話ではない。ここで降参すればすぐに回復してもらえる。スキマの向こうで聞いているだろう紫たちに申告すれば終わる。
「……私たち、こう」
「八千慧! まだ諦めるなよ」
「!!」
俯いていた八千慧ははっとした。戦ってくれているのは自分ではなくバクガメスだ。その本人が微塵も諦めていないのに自分が降参してどうするのだ、と。頬を叩き自身に喝を入れた。
「大丈夫よ! 私たちは負けないから!」
「ふっ。じゃあ行くぞ!」
「バクガメス! かえんほうしゃ!」
一歩も動けないなら動かなければいいとその場で遠距離技を放った。しかし直線上の技、くるりと体を回転させて華麗に回避されてしまった。先ほどまで動きながら攻撃をしていたにも関わらず全く当てられなかったので当たるはずもなかった。
「ぐぉ」
腹に力を入れて放つかえんほうしゃは、動くほどではないが体に障る。HPはいつの間にか赤ゲージまで削られていた。
「バクガメス!」
「……平気だ。俺に任せろ」
「……え? ちょっと!?」
そう言うとバクガメスは両膝を着いてしまった。八千慧は近寄り、顔を青くしたと思ったらすぐに安堵した。
「zzzzzz」
「もしかして……ねむる?」
この土壇場でバクガメスは新しい技を覚えた。ねむるは全ての状態異常とHPを全回復させる技であり謎の状態異常はきれいさっぱり無くなった。だがこの技の最大の欠点はしばらく無防備状態になるということである。八千慧はウツロイドと瓔花の方を見た。しかし意外なことに何も仕掛けて来なかった。
「あれ……?」
シャドーダイブのような溜め技を充電しているわけでもなく、ただただこちらが動くのを待っている様子に見える。奇妙な沈黙を二人と二匹がはげしく包んでいた。
「……よし! 再開だ。第二ラウンドの開始だウツロイド!」
「え、ええ! 行くわよ」
寝ていた間の違和感など知らないバクガメスは完全に健康になってピンピンしていた。バクガメスが八千慧を引っ張る形で続きが行われた。
所変わって旧都の北西。魔理沙とパルスィは他の二組とは違い、まだ戦わずに戦いの場所を品定めしていた。何やらパルスィたっての希望で橋の近くで戦いたいとのことであった。魔理沙は快く承諾していた。何しろ水辺を好むということはみずタイプである可能性が高い。くさタイプであるモロバレルにとっては相性のいい相手であるからだ。もちろんこれもプラフである可能性もあったが。
「よし。ここでいいわ。待たせたわね」
「別に構わないぜ! じゃあやろうか」
選んだ場所は旧都で一番大きな橋の上であった。他二組と十分距離は離れておりここなら暴れても問題ない。魔理沙はモロバレルをすでに出しておりパルスィがダークボールから出せばそこでバトルスタートである。
「じゃあ行くわよ。私のポケモンは……こいつよ!」
パルスィはボールを川の方に投げた。ボールから出てきたのはモロバレルの7倍の大きさの紫色の巨体だった。
「うぉらーーーー!!」
ボールから出てきたときの発光とほぼ同時に攻撃が出てきた。巨大な鎌のような斬撃が橋全体を襲った。
「危ない!!」
結界で覆われているはずの橋が粉々に砕け散り川も二つに裂けた。間一髪直撃を免れたモロバレルと魔理沙は岸に跳び移り回避することができた。その斬撃は……専用技あくうせつだんだった。
「何しやがんだいきなり! 私まで死ぬところだったじゃないか!」
このバトルではもしもポケモンが人間サイドに致命傷を負わせた場合、またはその逆が起きた場合強制失格となる。件のポケモンはトレーナーには怪我を負わせないようポケモン側に攻撃をしていたので我を忘れているわけではないようだ。
「ちっ、かわされたか。このパルキア様の攻撃を避けるなんて妬ましい」
くうかんポケモンパルキア。シンオウ地方の伝説ポケモンであり、空間を司る最上級ポケモンである。最強候補の一角ではあるが元来嫉妬深い性質があるようだ。そんなポケモンが嫉妬の姫と結びつくのは必然だったのかもしれない。ちなみに口癖はどちらも“パルパル”である。
「早めに終わらせるつもりだったのにね。いくわよパルキア、ハイドロポンプよ!」
「こっちも行くぞモロバレル。エナジーボール!」
放射される大量の水と緑色のエネルギー弾がぶつかり合う。たとえタイプ相性は有利でも一般ポケモンと伝説ポケモンの技の威力。モロバレルごときなぞ敵うはずもなく地平の彼方まで流されていく、そうパルキアは思っていた。
「何!?」
「へっ、そう簡単にやられねえよ。ウチのモロバレルはな!」
拮抗しているどころか弾が水流を押しのけてどんどんパルキアの方に近づいて行っている。緑色の光球は伝説ポケモンの顔面に直撃し、背中から倒れた。
「私のモロバレルは特攻特化だぜ。もちろん伝説ポケモンにも負けないくらいにな」
「アンタ……どんだけ畜生な鍛え方したのよ」
一般ポケモンと伝説ポケモンの間には高すぎる壁がある。それを超えるのは並大抵な努力では不可能である。普通ならば。しかし魔理沙は人界を超えるほどの努力家であり、モロバレルとともに死ぬほどの特訓したらしい。それほどのモチベーションは一体どこから来るのかパルスィは疑問符を浮かべていた。
「クソが! この俺が尻餅着かれるとは屈辱だ。妬ましい!」
「パルキア。あれやるわよ」
「ああ、あれか。おい、モロバレル。今度は油断しねえからな」
「へっ、望むところだ! なあモロバレル?」
「お、おい。あんまり挑発するなよな……」
魔理沙は真っ向から喧嘩を売るスタイルだがモロバレルはそうではない。どちらかというと大人しい方なので喧嘩などはしたくないタイプである。しかも相手が最強クラスなのでさっきから顔が青くなりっぱなしである。
「いい度胸じゃねえか! 今度こそ仕留めてやるからな」
そう言うとパルキアは口を開けて光線を一点に収束し始めていた。その光量、爆音、どこを見てもあの技しか思いつかなかった。
「やばい! あの技が来るぞ。逃げろ」
魔理沙はそう言ったものの道は一直線上、橋も崩壊済みで建物内に逃げ込めば被害が甚大なことになる。つまりどこにも逃げ場がない状況が出来上がってしまっていたのである。先ほどのドロポンくらいなら何とか相殺できそうだが次に来る攻撃はそんな次元でないことは明白だった。
「無駄よ。どこに逃げても必ず射抜くわ。諦めなさい」
「ぐっ、ちくしょーー!」
「最期に教えてやる魔理沙よ。どうしてこうなったのかを」
「な、何!?」
口を開けたまま器用に話すパルキア。準備はもう完了したようでいつでも発射できそうである。
「それはな……俺を相棒ポケモンに選ばなかったことだーーーー!!」
「行きなさいパルキア、はかいこうせん!!」
旧都全てを滅ぼせられるレベルのはかいこうせんがモロバレルの背後を捕らえた。魔理沙はモロバレルの姿が雲散霧消するのを見ていることしかできなかった。
「モロバレルーー!!」
魔理沙の叫び声もはかいこうせんの轟音には敵わなかったのであった。
読んでいただきありがとうございます。コロナウイルスが終息して様々な活動自粛が解除されると投稿頻度が落ちるかもしれませんがご了承下さいませ。
No.3 吉弔八千慧 ドラゴンタイプ 旧都チーム 相棒ポケモン バクガメス
ほのお・ドラゴンタイプ
自分の中のイメージとしてはアニポケのカキのバクガメスです。真っ直ぐな感じ良いですよね。あとここの組長はそんなに不遜って感じでもないです。亀ポケモンではアバゴーラが一番好きです(聞いてない)。