東方携帯獣   作:海老の尻尾

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第八話 最初の勝利チーム

 暗い。何も見えないし何も聞こえない真っ暗な空間。そこに私は今いる。

 どうしてこんなところにいるのだろう。何も覚えていない。

 感じるのは何かとてつもない誰かの怒りと悲しみの感情だけである。

 

「誰か……助けて」

 

 

 

 旧都の南東部ではかえんほうしゃが飛び交っていた。バクガメスはねむるで回復した後一歩も動かずにウツロイドに向かって攻撃し続けていた。回避能力に長けておりその攻撃を掠ることなくかわし続けるウツロイド。先ほどは接近戦に持ち込んで謎の状態異常に見舞われた。だから遠距離攻撃で対応していた。

 

「ぐぬぬ……やっぱり当たらないか。俺近接主体だからどうしてもこういうのは苦手なんだよな」

「近距離戦に持ち込みたいけど近づけない。どうしたら……」

 

 やはり根本的な原因を見つけないことには以前の二の徹を踏むことになってしまう。何か手がかりはないかと八千慧が考えたとき、ふとある違和感に気付いた。

 

(あれ? そういえばあのポケモンはどうして浮いたままなのかしら?)

 

 空中に浮いたままのポケモンは多くいる。ひこうタイプだったり特性ふゆうのポケモンは浮いたままでいることができる。しかし八千慧の頭の中にはその選択肢はなかった。なぜならウツロイドが低空飛行していたとき、バクガメスがじしんを打とうとしたとき地面から大袈裟に離れたように見えたからだ。そのときも地面スレスレだったので着陸したところは一度も見たことがなかった。なので地面技の効かないひこうタイプでもふゆうでもないと考えていた。

 

(もしかして……)

 

 八千慧は一つの仮説を立てた。それが真実だとすると今までの不自然な行動に辻褄が合う。確かめてみる価値はあった。

 

「バクガメス! ちょっといいかしら」

 

 バクガメスに今考えた案を耳元で囁く。身長は2mあるので頭を下げて聞いていた。

 

「なるほど、そういうことか」

「まだ分からないけどね。でも私はそうだと思っているわ」

「じゃあお前を信じてみよう」

「バクガメス……ありがとう」

 

 自分を信じて付いてきてくれる八千慧をバクガメスは前から信頼している。否定する理由はなかった。

 

「じゃあ行くわよ! かえんほうしゃ!」

 

 先ほどと同じようにかえんほうしゃを放つものの当然のようにウツロイドはこれをかわす。しかし違うところが二か所あった。一つは外れても連続で打ち続けていることであり、もう一つは相手の頭上目がけて打っていることである。それを回避するには下へ下へと移動する必要があり、気が付くと地面ギリギリまで誘導されていた。

 

「そうはいかない」

 

 思惑を感じ取ったのだろう。浮くことを禁じて地表に降りてきたときに渾身のじしんを炸裂させる気なのだということに。そう考えているうちにウツロイドは地面に降りていた。バクガメスが体に力を入れている。ここでじしんを決めるのだろう。喰らえば大惨事になると考えたウツロイドはかえんほうしゃに直撃することも厭わずに再び上空に浮かんだ。

 

「アチチッ!」

 

 ようやく一発かますことができた。だが効果はいまひとつなので大したダメージにはなっていない。万策尽きたかとウツロイドが思っている間、八千慧の予想は確信へと変わっていた。

 

「やっぱりね。私の予想通りだったわよ」

「流石俺の相棒だな。じゃあ手筈通りやるぞ」

 

 今度は二人が勝利を確信すると、バクガメスはありったけの力を込めてかえんほうしゃを放った。だがその方向は上ではなく下に向けてであった。旧都の道がメラメラ燃えると地面から何かが湧き出してきた。紫色の液体が可視化できて蒸発していった。またそれだけではなく黄色の波のようなもの、赤い炎、そしてトゲトゲした大きい石が続々と滲み出てきた。

 

「……!?」

「あなたたち、地面に罠をいつの間にか仕掛けていたのね」

 

 八千慧の考えは的中していた。ウツロイドは気づかれないように設置技であるどくびしに加えてでんじは、おにび、ステルスロックをばら撒いていた。目には見えないそれらを超火力のかえんほうしゃで消毒した。攻撃していないのにもかかわらずひどい苦しみを味わったのはこのような補助技に蝕まれていたからである。また攻撃技がないのでスキだらけのねむる状態で何も手出しができなかったのである。

 

「それがどうした。私が仕掛けたのがいつか分からないならまた設置するだけだ」

 

 ウツロイドの言う通り、目には見えないスピードで仕掛けていたのならば原因が分かっても対応はできない。だが八千慧の狙いはそれではなかった。

 

「ふふっ、気付いているかしら。あなたが降りたところの地面」

「? 何のこと……」

 

 地面はかえんほうしゃでプスプスと黒くなっているが、一か所とても黒くなっているところがあった。どくびし等があったところは熱消毒のためあまり焦げが浸透しなかったにもかかわらず、そこだけははっきりと焦げていた。その理由は簡単で、そこだけ毒が消えていたからである。

 

「あなたが降りたところだけ毒が消えてるわよね。あなたが消した、いえ消してしまったんじゃないかしらら?」

「……っく!」

 

 図星であったようである。どくタイプはどくびしのあるフィールドに足を踏み入れるとその効果を消してしまう。つまり目の前にいるウツロイドがどくタイプであることに自力で辿り着いたのである。タイプを特定することは戦いにおいて大きなメリットとして働く。八千慧たちは勝利に大きく近づいた。

 

「さらにかえんほうしゃがあんまり効かないってことはほのお・いわ・みず・ドラゴンのどれかじゃないかしら? 前者二つならじしんを嫌がるのも無理ないわね」

「なっ!? そ、そんなこと……」

 

 顔のないウツロイドだが顔に出やすいタイプのようである。実際に八千慧の読みは当たっており、いわ・どくタイプなのでじめん技は四倍弱点である。ポーカーフェイスに努めることが勝利の定石だがそれを疎かにしてはますます勝利から遠ざかるばかりだった。

 

「はっ! それが分かったとして攻撃を当てられなきゃ意味ないじゃない。長期戦に持ち込んだら私の勝ちよ」

「問題ないわ。すぐ終わらせるから。行くわよ、からをやぶる!」

「オラァ!」

 

 バクガメスの体のどこかからパリーンと割れる音がした。攻撃と素早さをぐーんと上げる代わりに防御が下がる諸刃の技。一気に勝負を付けるつもりだ。

 

「突っ込みなさい!」

 

 バクガメスの巨体が猛スピードで突進してきた。素早さも上がるのでさっきのスピードに慣れていたウツロイドはあっという間に背後を取られてしまった。

 

「ま、まずい! このままゼロ距離で喰らったら……くっ、離れなさい!」

「ぐがぁ!」

 

 羽交い絞めにされながらもウツロイドはでんじはを繰り出した。先ほどの状態異常の二倍の苦しみがバクガメスを襲った。普通のポケモンならば一瞬で気絶するほどの痺れにも何とか耐えていた。少しばかり耐性が付いたお蔭かもしれないがそれでも十分な力が入らない。緩みかけたその瞬間大声が劈いた。

 

「負けないで! 頑張れー!」

 

 諦めないことを教えてくれたのはバクガメスであった。ならば今度は自分が手を貸す番である。組長としての尊厳、今こそ取り戻すときである。

 

「へっ……」

 

 緩んでいた拳に握力が戻ってきた。このまま決められそうだが電磁波が緩まる様子はない。八千慧はもう一つ心に突っかかっていたことを叫び始めた。

 

「瓔花! いい加減戦いなさい!」

 

 それはトレーナーである瓔花に向けてであった。空気の存在であった瓔花に対して八千慧は憤りを感じていた。

 

「ずっとウツロイドに戦闘任せてばかりでつまらないわ! あなたも戦いなさい!」

 

 奇妙なことに今まで一度も指示を出さずに戦っていた。バトルは何もポケモンだけのものではないと考えていた八千慧は気に食わなかったようである。

 

「私ね、あなたに戦ってみたいって言われたとき嬉しかったのよ。歩み寄るチャンスだと思ったから」

 

 八千慧のその言葉に瓔花の頭が若干持ち上がったように見えた。

 

「前の異変で動物霊たちが賽の河原を滅茶苦茶にしたこともあったしその詫びも兼ねて色々話したかったのよ。あなたがそこでのリーダーだってことや明るい子だってことも聞いたわ」

「…………」

「あなたの全力、私は見てみたいわ! 負けないでよ!!」

「…………!」

 

 敵にエールを送っていた八千慧であったがその真心こもった思いは確実に届いた。だがその変化が如実に表れたのは瓔花ではなかった。

 

「な、何!? ち、力が抜けていく?」

「っ! 今だ!」

 

 ウツロイドのでんじはが急に弱体化してきた。このチャンスを逃すまいと全力を込めてウツロイドの体を掴み、高く跳んだ。

 

「これで終わりだウツロイド! じしん!」

 

 ウツロイドを持ち上げたまま地面にたたきつけると地面が大きくひび割れた。残っていたエネルギーの全てをぶつけたのでバクガメスは一歩も動けなかったが勝敗は決した。

 

 

 

 

 旧都の南東部で勝負が終わる数分前、ここでも勝負が終わろうとしていた。

 

「ふん、残念だったな魔理沙。俺様をパートナーにしておけばこんなにあっさり負けることもなかったのにな」

「どうかしら魔理沙。嫉妬の力は恐ろしいのよ」

 

 モロバレルが塵と消え圧勝したと考えていたパルキアたちは魔理沙に嫌味ったらしく話していた。これこそが自分の誘いを断った罰だと伝説ポケモンらしからぬ小物な考えであった。またパルスィも自身の嫉妬の力を十二分に発揮できて満足気であった。

 

「……へっ、じゃあそろそろ終わらせるか! モロバレル!」

「おう!」

「何!?」

 

 パルキアが背後から聞こえた声に振り向くも時すでに遅し。消したはずのモロバレルがそこにいた。

 

「な、なぜそこに……」

「行っけーー! ゼロ距離マスタースパーク!!」

 

 ついついいつものようにマスタースパークと叫んでしまったが技自体は先ほどのエナジーボール。だが威力は先ほどよりも遥かに大きいものを至近距離でパルキアに浴びせたのであった。爆風が辺りを覆い、パルキアの周りは煙だらけで無事かどうか分からない。

 

「パルキア!! 大丈夫!?」

 

 煙の中ではパルキアが直立していたがこれ以上戦うつもりはないだろう。目がぐるぐるしていたからだ。その佇まいはやっぱり伝説ポケモンであり、負けてなお堂々としていた。

 

 

 

 

『あら、同時に終わっちゃったわね。じゃあ第一試合は旧都チームの勝ちよ~ 手当ては後でするから今から言うところに集まってね~』

 

 紫の声が聞こえたところで第一試合は終了であり、魔理沙率いる旧都チームが勝利した。

 




読んでいただきありがとうございます。そしてすみませんパルキア、こんな扱いで。映画でもゲームでもここでも不憫に使われて。

No.4 水橋パルスィ みず・あくタイプ 三途の川チーム 相棒ポケモン パルキア みず・ドラゴンタイプ 

パルつながりで嫉妬キャラにしました。かなりパルスィと仲がいいです。伝説ポケモンなのにバカヤローと言われたりしていますが私は伝説の中でとても好きです。
ルギアの次に。

さて、冗談は置いといて次はどのチームが戦うのでしょうか? 予想してみるのも一興かもしれませんね!

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